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この時まではまだ僕はまともな人生をおくれていたのかもしれない。

6月にもなって少しずつ熱くなってきた。


研究会に入った日に顔あわせをしようということでその日に研究会に参加した。

畑田さんという人に初めて会ったがたしかに顔が怖く身長も高く、何回見ても年齢は30くらいでいけない職業をしていそうな見た目だった。何故かTシャツがプリ○ュアだったが。

「これは罰ゲームの結果で俺の趣味じゃないから」

赤くなりながら畑田さんは答えた。

「たぶん性格的には私たちより合うと思うよ。大人しい人だから」

町田さんは言った。大体被害者だしなと生徒会長はつけたした。




「さて……特訓よ!」

町田さんは突然言い出した。

「相沢君。いや勇気君!。どもるのも良い。でも声が小さい!そんなんじゃあこの部活の中だとキャラが埋まってしまうわ」

大真面目に何か言い出した。生徒会長が真面目な顔をした。

「それはまずい。期待の新人のキャラが埋もれるなんて……そんなもったいない許されるのだろうか!いや許されない」

生徒会長も真顔で話す。この人は本気なのか冗談なのかよくわからない。

「というわけで特訓デース。内容は演劇部の基礎練習に参加させてもらうです。明日からなので各自送れないようにしてくだい。特にそこのコワ顔司郎。あんたも上級生の癖に声小さいんだからこの機会に腹に力入れて話す練習しておけ」

結局幽霊部員で良いと言われながらも僕は毎日参加するハメになった。

最初はただの発声練習で僕は力尽きた。みんなが頑張ったねと言ってくれたのがとても悔しかった。まったく話してなかったからか腹筋も声帯も衰えきっていた。

そうして一月ほど発声練習や基礎トレランニングなどを演劇部と一緒に行った。演劇部の人達も僕らを邪険に扱わずに一緒に練習してくれた。


「まさか完治するとは」

僕は言った。ドモり癖が完治して、しかもそのせいか普通にみんなと話しても緊張しなくなったのだ。普通にクラスメイトと友達にもなれた。

「吃音は腹式呼吸が効果的よ。幼年のころは無理に治すと悪化するけど高校生以上はそうでもないわ。そして吃音なんて気にしないのが一番よ。吃音でも映画俳優になった人は沢山いるわ」

町田さんが言った。

「あー今日で終わりか。あー疲れた疲れた」

そういって生徒会長は体をぐでーと部室で伸ばした。

なんとなく僕は生徒会長のことがわかった気がした。

生徒会長の仕事をしながら演劇部への参加を一度も休んでなかった。いつも忙しそうに駆け回ってそれでも笑顔を絶やしていない。

しかも生徒会長と町田さんは発声練習やトレーニングを行っても何も変わらなかった。途中演劇部の人に聞いたら元から時々参加していたようだ。


「だがあれは俺達にも想定外だったな」

「そうね。こんなことになるなんて」

そう言いながら僕らは畑田さんのほうを見た。

「やれと言ったの部長でしょうに……」

発声練習をしていたら畑田さんの声が尋常じゃく大きくなり、最大音量体育館を端から端まで振るわせることが出来た。

あまりに凄すぎてそのまま演劇からスカウトされ、断ることも出来ずに演劇部との兼用となってしまった。

正直僕の変化より大きすぎて僕は全く注目されなかっただろう。

「これで兼用じゃないのは私と勇気君だけか。忙しくなったとき大変ね。がんばろうね勇気君」

「最初に幽霊部員でも言いと言ってましたような」

「そんな昔のことは忘れたわ」

「前から思ってましたけど町田さん映画好きでしょ?」

「わかった?実は少し昔の映画が好きでね」

僕はあーあーめんどくさいなーと軽口を叩いた。

気軽に話が出来るようになっただけで僕はこの人達に一生分の恩が出来た。冗談なしで困ったら僕も何か返したいと思うくらいには。

僕は1つ思い出した。


「そういえば僕に才能があるって最初言ってましたがどんな才能ですか?裁縫とかしたことほとんどないのであまり自信ないですが」

衣装を製作とかどんなのだろうか。体力も自信ない。学力は遠くの高校にいくためそれなりに出来る。僕が出来ることが思い浮かばなかった。

「え?ああそういえば言ってなかったね。」

町田さんは僕の前髪を上に上げて僕の顔を見た。僕は恥ずかしかった。

「うんやっぱり。君地顔が良いし手足が長いからモデル向けなの。身長がもう少し欲しいけどそれはあと2年に期待ってことで」

「そんなことないですよ。僕モテたことないですよ。チョコレートとか親以外からもらったことないですし」

僕は答えた。残念ながら自分を良く知っている。そもそもかっこよければいじめに合うことなかっただろう。

だがそんな僕を町田さんはにっこり笑ってみた。

「じゃあ明日昼休みここに来て。二人っきりで合いましょう」

にこにことした笑顔でこちらを見ていた。一月前はこの笑顔に僕はドキドキしたが今はジャイ○ンが何かをたくらんでいる顔に見えてしまう。それでもドキドキしてしまう自分が悔しいが。

「他のやつは明日昼来るなよ。ネタバレは面白くないからな!」

「なるほど。ネタバレだけは絶対許されないからな。じゃあ後で何したか教えろよ?」

「もっちろん。私の力見せてやるわ」



そうして次の日に僕は部室にいった。

町田さんは1人で待っていた。

「さて良く来てくれたね。まずはこの鏡を見て」

いつもの僕だった。

そのまま僕は座らされ、体にビニールのようなものをかけられた。

ん?

「勇気君は髪型に拘りとかある?ないよね?」

有無を言わさない迫力があった。僕は頷くことしか出来なかった。

そのまま町田さんは鋏を取り出し僕の髪をなんの躊躇いも無く切り出した。

「安心して。それなりに経験あるから。アホ生徒会長も畑田さんも私が毎月切ってるの。勇気君も毎月切ってあげてもいいのよ?」

町田さんはそういった。ちなみに畑田さんは上級生からも下級生からも同級生からも畑田さんと呼ばれている。そういう扱いなのもしょうがない気がする。

そのままチョキチョキと切り進み。なんかよくわからない感じでネジネジと切られ。15分ほど経過した。

「こんなもんでどうでっしゃろ?」

そうして彼女は僕に鏡を見せた。

「うわっ」

僕は言葉を失った。自分で言うのはなんだが確かに格好がよかった。ただし顔はそうでもなく髪型が主に格好良いのでなんとも言えない感じだが。

「んで次はメイクね。といっても対していじる気ないけど。目元にクマが酷いからそれだけ軽くするね」

町田さんが僕の顔の傍でメイクを始める。よくわからない粉のようなものをつけたりとったり液体をつけたり僕には良くわからなかった。

というかそばで町田さんがいるからいい匂いがするわ胸元が近いわで僕はそれどころではなかった。

「よっし終わり。はい鏡を見て」

そこにいたのは僕だった。確かに格好いいが情けない顔をした。

「んで最後。背筋伸ばせ!」

町田さんは僕の背中を思いっきり叩いた。そういえばずっと目立たないように猫背をしていて。癖になっていた。

「発声練習までして猫背のままだったの見て私はびっくりしたわ。どんだけ猫が好きなんだよ」

「癖になってたんだ。猫背で歩くの」

僕は手をポケットにいれて冗談めいて話した。

「はっ。せめて雷手から出せるようになってから言え」

二人は笑いあった。

「はいダッシュ!」

「えっ?」

「今12:58。1年教室遠い。OK?」

「うっわ。やっば!」

そして僕は走り出した。一回忘れ物をしたので止まった。

「町田さんありがとうございます!」

僕は笑顔で大声で町田さんにお礼を言った。

「バーカ!これで勇気君遅刻確定だわー!」

彼女の顔が少し赤くなっていた。理由はわからないが。



「すいません遅れました!」

僕は教室に走って入っていった。

「相沢か。ギリギリだぞ気をつけ……」

そう言って先生がこちらを見て出席簿をぽろっと落とした。

ポカーンとしていてそのままざわざわという周りの声が聞こえる。

なぜか思い出していたらそういえば僕は町田さんに全身改造されていた。いや実際は髪切ってメイクしただけだが。

先生はこちらを睨むように見つめた。

「んー。違反はないな。凄いな。イメチェンか。それともモデル志望か。ああそういえばあそこモデル兼用の部活だったな。いいから席につけー」

先生は厳しい顔を止めて優しい顔で僕に言った。野次でユウキクンカッコイーとか聞こえて僕は真っ赤になってからかわれた。

「気持ちはわかるが授業を始めるぞー」

先生は場を戻し授業を始めた。



そして授業が終わると僕の周りに人の波が出来た。

「どうしたよそのイメチェンかっこよすぎじゃね?」

「本当にモデルになったの?」

と最初はちやほやされたがすぐに

「わかった好きな人が出来たからがんばったんだね!キャー」

という女性の声から僕は女性からの興味本位の目。男から嫉妬の目で見られた。

「ぐぬぬ。相沢がこんなにカッコいいとは。俺らモテナイーズだと思ったのに」

「あ僕もてたことないから間違ってないよ」

「はっほざけ。そりゃそいつらの目が悪かったんだよ」

そういって仲良くしてくれていたモテナイーズは僕をちくちく攻撃してきた。祝福してるん……だよなぁ・・・たまに攻撃が普通に痛いが。


「おいーっすネタバレ見に来たぞー」

そういってまた生徒会長がここに来た。これ知らない人が見たら暇な人に見えるだろう。実際は分単位のスケジュールをわざわざ僕のために割いてるのを僕は知っているが。

「なんだそりゃ!」

生徒会長は僕を見て叫んだ。

「なんだよその格好。俺と一緒に女装道極めるって約束はどこ言ったんだよ!」

生徒会長あんた黙ってたらかっこいいのに何言ってるんだよ

「そんな約束した覚えはない」

「かーっクールになったねー。可愛かった頃のお前はどこ行ったんだか」

「星になったんじゃないかな」

「せっかくだし一人称【俺】にしたらどうだい?その見た目ならもっとキャーキャー言われるぜ」

「【僕】は【僕】だからいいよ。僕のままでも生徒会長は僕を仲間にいれてくれるでしょ」

「……よくがんばったな」

生徒会長は僕の頭を乱暴に撫でてくれた。

何故かわからないけど涙が出てきた。そしてそれは止まることなく。僕はクラスみんなの前で泣き出した。





「「どうしてこうなった」」

僕と生徒会長は声をハモらせて言った。

あの後僕はなかなか泣き止まず、それどころか生徒会長も泣き出してクラスが騒ぎになり、結局休憩中に泣き止めず、授業の進行を妨げることとなった。

「俺初めてだわ。悪いことしてないのに進路指導室にいるの」

「ワシも初めてだわ。お前が悪いことしてないのに進路指導室にいるの」

授業妨害になってしまい、何かのペナルティになることになったが、クラスメイト全員で僕達をかばった為、次の授業の間は指導室で自主勉強ということになった。

どちらかと言うと泣き止むまで避難させてくれたが正解だろう。一番近い特別教室がここだったのだから。

「まあ何があったかわからんが困ったことがあったら先生に言えよ。助けられなくても助ける準備くらいは俺達でも出来る」

先生が心配してくれていた。

「ごめんなさい。恥ずかしい話なのですが嬉しくて泣いてしまって」

「以下同文」

僕の言葉に生徒会長も乗った。

「だってよ。まともに話すことが出来ないこいつが、がんばって俺達についてきてくてくれて、一人前になったんだぞ!そしたらなんか……あやべまた泣きそう」

生徒会長が妙に荒ぶっていた。今まで基本冗談しか言わない。なんでも軽く成し遂げる。ヒーローみたいな人だと思っていたが。意外と熱い人なんだと思った。

「まあ気持ちはわかるな。最初は授業で当てることすら出来なかったんだよな怖くて。授業で当てたら飛び降りるんじゃないかと思ったわ」

だから僕だけ妙に授業中当たる回数少なかったのか。

「まあ立派になったよ確かに。よくがんばったな」

先生が言ってくれた。

「学校と先生と先輩とクラスメイトがよかったからですよ。あとついでに生徒会長も」

「俺はついでかい」

会長がツッコミをいれる。照れ隠しっぽいのがわかって自分でちょっとほほえましい気持ちになった。

「んーお前演劇部にこないか?兼用でもいいぞ」

先生は言ってくれた。そういえば演劇部の顧問だったな。

「だーめーですー衣装研究会のホープ権未来の生徒会長を引き抜くのは駄目ですー」

「生徒会長はしません」

僕はきっぱりそう言った。



放課後になって畑田さんとも会った。畑田さんは僕のほうを見て

「お前だけは仲間だと思ったのに……」

とつーっと涙を流していた。

「なんの仲間ですか一体」

「モテナイーズ……」

上級生でも結成されているのかモテナイーズ。

「だから僕はモテたことありませんよ。今日だってものめずらしくて僕が注目されただけで結局いつも通りですって」

「そうか。そうだよな。急にそんなに変わることもないよな」

ほっとした畑田さん。

「でもこいつ合コンに誘われてましたぜ畑田のアニキ」

生徒会長が酷いタイミングで援護射撃をする。誰に対する援護かわからないが。

畑田さんはつーっ涙を流しながら

「世界は俺に厳しい」

と呟いた。いやあんた演劇部で微妙にモテてるぞ。気づいて無いだけで。


そして僕は大したこともなく変われた。

いじめに合っておどおどしていた僕で無く、やりたいことをやれる僕のまま僕になれた。


僕を支えて近くで支えてくれた生徒会長。

僕を嘲笑せず笑顔で僕を励ましてくれた部長。

練習のときも研究会の中でも僕をずっと気にかけてくれていた畑田さん。


ずっと僕は守られていたのだと気づいた。僕がこの人達の助けになれるのはまだまだ遠そうだ。



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