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欺く心と不器用な善人  作者: 沙竹莢
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始まりはいつも欺きのツケ

――ああ、面倒な1日だな。


暑苦しい太陽が、今日も元気よく働いて光を届けている。

はた迷惑だ。

そんなに光を届けたいのならスラムの方にもっと注いでやれよ、と思う。あそこは昼間ですら暗い場所だ。

こんな日射し、少なくとも俺は望んじゃいない。

曇りにでもなってくれた方がうれしいもんだ。

暑くないし。涼しいし。汗かかないし。

……全部一緒だな。


「おい!!話聞いてんのか!?」


なら外を出歩かなければいいだろって?

それができるならそうしている。今日はどうしても外出する必要があったんだよ。


「てめぇだんまり決め込んでんじゃねぇぞ!」


目の前で文句垂れてる人相の悪いと商売しないといけなかったんだから。

仕方ない。仕事だから。世知辛い世の中だ。辛いなぁ。


「なんかしゃべれやコラ!!」

「商談があるって言って呼びつけたのはてめぇだろっ!とっと話せやっ!!」


そうだった。俺が呼びつけたんだった。

面倒になってきたからすっかり忘れていた。

こんな強面の人たちが来るとか思わないし、暑苦しいし、うざいし、やっぱり暑苦しい。こいつらの顔が。

でも文句ばっかり言っても始まらないからそろそろ話しを進めようか。


よし、じゃあ気を取り直して、


――商売を始めよう。



■□■



「やっと話す気になったか……」


顔に大きな傷のある男がぐったりしながら、心底疲れたようにぼやく。

喚き始めてからそれほど時間がたっていないのに貧弱だなぁ。


「うるせぇぞ!!だいたい俺らが切れてんのはてめぇがしゃべらねぇのが原因だろうが!!舐めてんのか!!」


しまった。心の中でつぶやいたつもりが口に出していたようだ。

というか意外とこいつら元気だな。疲れたフリでもしていたのだろうか。


「っ!!だからっ、てめぇがふざけたこというからっ……!!」

「……いや、もうよしときましょうよアニキ。それ以上真に受けるとこっちがしんどいだけですぜ……。」


うっかりしていた。また口に出ていたようだ。

もう一人の背の高い男は冷静だなぁ、と感心する。

まあ、そんなどうでもいいことはほっておいて、商談を始めないと。


「では商談を始めましょうか。」


疲れを感じさせる目の前の男二人がこちらに振り向く。


「本日お呼びしたのは他でもありません。あなた方お二人様だけに是非とも紹介したい儲け話があったからです。」


「ああ?おはなしだぁ?」


「はい、そのとおりです。なんでも、お二人は事業に失敗してお金に困っていらっしゃるとか。」


「……そのとおりだが、どっから嗅ぎつけてきやがった。借金作りかけたのは昨日のことだぞ……。」


背の高い男が訝しげにこちらを睨む。


「んなこたぁどうでもいい。そんな話を俺らに吹っ掛けるってことは、何かあるんだろうなぁ?えぇ?」


「はい。もちろんですとも。まだ誰も知らない儲け話がございます。そのアイデアを買っていただけないかと思いまして。」


「……アイデアを買え、と?」


背の高い男がやはり疑り深い視線を向けてくる。

だが事業に失敗したというのは本当らしく、まだ話を切ろうとはしない。

これは釣れそうだな。


「はい。隣町ニヘルで起きた最近の異変について、お二人はご存じですか?」


「ニヘルっていやぁ……あの農村地帯か。それがどうしたっつーんだよ。」

「アニキ、ニヘルっていうと最近怪物に襲われたっていう噂がありますぜ。昨日酒場で話してるのを聞いたんでさ。」


おお、知っていたのか。話が進めやすくて助かる。


「はいそのとおりですとも。ニヘルでは3日ほど前にイノシシのような巨大な化け物が現れて、作物を食い散らかしたそうです。そのせいで出荷の予定をしていた作物がなくなったのはもちろんですが、それ以上に深刻なのは日々の食糧です。貯蓄していた作物までもが荒らされて、今はイノシシが食い残した物で凌いでいると聞きます。」


「ほう。つまりあれか。ここらの店で食料を買って、ニヘルに行けば、高値で吹っ掛けられるってか?」


傷ありのこの男、一応話の要点は理解できているようだ。

沸点が低いもんだから、頭の足りない奴だと思っていたのだが。

まあいいか。話を進めよう。


「ええ、そういうことですとも」


ここまでが準備、ここからが本題だ。


「前情報がここまでです。私の売るアイデアはニヘルの者が必要としている物についてです。イノシシによって食い散らかされたと言っても、明日明後日には飢えて死ぬというわけではございません。より必要とされる物を売ることにより、儲けが得られるのです。この程度の噂であれば耳の早い者は既に知っておりますでしょうから、ただ生活物資を届けるだけでは競合者で溢れてしまいます。だからこそ、より需要のあるもので商売をいたしませんか?」


「…………」


男二人が考え込んでいる。おそらく需要の高いものとは何かを考えているのだろう。

あとは話の信用性だろうか。

服装を見ればわかるが、こいつらは他の町から流れてきた奴らだ。

加えてニヘルの情報について詳しく知らない。であるならば、ニヘルからここアーカイムを挿んで東、ブランの町の者だろう。

アーカイムはそれなりに大きな街ということあって、一儲けしようと出てきたのかもしれない。

だが、商売をしようとして借金を抱えそうになるようなやつらだ。情報を適当にしか集めなかった結果失敗したのだろう。

そこまで頭の回るやつではないと見える。

失敗した焦りと、目の前に転がり込んできた儲け話。加えて頭はそこまでよくないときた。

なら行動は予想しやすい。そういうやつはもう一度失敗する。


「っち……いいぜ。買ってやる。いくらだ、そのアイデア。」

「アニキっ!?」


まあ、ここまでは予想通りだな。話が進めやすくて本当に助かる。


「では、話しをまとめていきましょう。」


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