過去回想
桜咲き新たな出会いに心躍らせる四月。
緊張の色を全面に出して廊下を歩いたのがまるで昨日のように感じる。
いつの間にか僕は中学校三年生、すなわち最高学年になったのだ。
しかし今年は春一番の風のせいで桜はほぼ散っている。なんとも無残である。ドンマイ、一年生。
三年生になるとオマケのようについてくる肩書きの『受験生』。いらない。もうちょっと中二心をくすぐられるようなのがいい。
「君たちも立派な三年生だ。まあ、三年生の後半になったら君らはもう『受験生』だがな」
さっき思ったばかりですが。
教員はこの頃、生徒に過度な期待を寄せる。
あの、僕今年は塾の夏期講習のコマが増えるのに、自由研究とか読書感想文とかいらないんだよね。
でも文句言うと皆さん口をそろえて「君たちならできるよ☆」。
…………多分殺す気だ。
「学校の顔になることも多いだろうが……」
嫌です。
できれば学校という壁に隠れてこそこそと生きていきたい。
「そんな君たちに心強い仲間が増えた!!」
いったいどうやったらその話になるんですか、先生。
話の流れが理解できないのはみんなも同じようだ。ぽかんとだらしなく開けられた口から、ハテナマークが空へと上っていく幻覚が見えた。
先生は出てきなさい、と僕らの男子列の隣の列…………すなわち同じクラスの女子列に向かって手招きした。
前列の男子の肩がびくりと揺れる。それもそのはず、転校生とはいわゆる新学期早々に送られてくるびっくり箱なのだ。それもただのびっくり箱ではない。『転校生』というだけでわくわくするのに、『自分のクラス』ましてや『女子』だ。それだけで男子の興奮と妄想は最高潮になるのだ。可愛い女の子かな、美人さんかもよ、優しい女神系女子がいいなあ、ツンデレもたまらねぇ、すでにひそひそと男子の話し声が漂い始めている。そして数名の女子からの冷ややかな視線も刺さり始めている。
刹那、空気が揺れた。
ピンク色が明らかに少ない校庭に、鮮やかな桃色の柔らかい春風が吹いたのだ。
全員の目が彼女に釘付けになる。
一面の花畑を華麗に飛び回る蝶のような美しさだった。前を向く彼女――――荒木さんは、その薄い唇から小鳥のさえずりを連想させるような可愛らしい声を発した。
「荒木明日香と申します。神戸の中学校から東京にやってきました。みなさんと早く仲良くなりたいです。一年間よろしくお願いします」
ばたん。
前の男子が体育座りのまま、真横に倒れた。女子が小さく悲鳴を上げ、先生が慌てて駆けつける。おそらくだが…………やられたのだろう、彼女の満面の笑みに。
僕も結構ぐらっときた。正直言うと、この学年には好みの女子はいない。性格はいいが顔がいまいちだったり、顔はいいが性格がクソだったりして、両極端すぎるのだ。そんな悩める僕の前に現れた天使or女神。最高だ。
集会後、クラスは彼女の話題でもちきりだった。そして第一印象だけで荒木さんの株はぐんぐん上昇していった。
ドアの前まで彼女が来るまでは。




