結界と脅し
ゼリアルに戻ってひと月半経った頃、ウーバンが執政のゴルゼウス侯爵の使者としてやってきた。
「トルーザディーに関しましてあの地で暴れないなら、此の儘放置します。東側のビルアージは青ランク以上の冒険者に定期的に討伐して貰い、南側に関しては、藍ランク冒険者を派遣して偵察・倒せるなら討伐して頂きます。」
一番危険なトルーザディーには一切手出しをせず、他の回りを処理していく方針になったみたいだ。
危険を始まる前に回避と言うやり方は、個人的には好きだ。
「しかしいざと言う時に戦える者が居ないと言うのは怖い事ですから、この密状と共にルメシアンのルコンに居られるユデイア=ファズシアン様にお渡しいただけないでしょうか。」
「ちょっと待て、そういった事は国に仕える者がやるべきじゃないのか。」
「本来はそうなのですが、ユデイア=ファズシアン様と言うのは、魔族以外は強い者にしか会わない事で有名でして、そちらのアーバインさんが一度お逢い出来たと聞き及んでおります。ですからお願いしたいのです。」
「領主になると、こんな事まで引き受けなきゃ駄目なのか。それならこんな領主なんぞ要らん。
既に密状持って来てると言う事は、お願いじゃなく命令だよな。巫山戯るな。
しかも普段は半獣人族を見下すような奴等が、都合の良い時だけ利用しに来るとはな。俺は甘く見られてると言う事か。
領地はアデスラン王国が買い取れ。こっちで建てた分と浄化及び開拓費用を上乗せして、値段は金貨10万枚、黒貨10枚だ。
そしてこの事を今直ぐ帰ってゴルゼウス侯爵に伝えろ。」
ウーバンが青い顔をしているが、そんな事は俺の知った事ではない。
こうしてゴルゼウス侯爵の使者であるウーバンを追い返し、ひと月と少しが過ぎた頃
ウーバンがアデスラン王国軍百人と共にリーシュにやってきた。
そして領主館の前で俺を呼びつけて来たので、ジルとウェルはゼリアルへ行かせ他のものを森へ退避させろと伝える。
俺はアービィを護衛に従えて表に出る。
「何事だウーバン。」
「アール=リア=ガウリーシュ、貴方を捕縛しに来た。」
「罪状は何だ言ってみろ。」
「王国を脅かすトルーザディーの事に対し、王国からの願いを無下にし尚且つ冒涜した。
それだけではなく金を要求するとは何事か。よってガウリーシュ領は没収し領主は捕縛せよとの通告だ。」
「国の依頼を断っただけでこれか、これがこの国のやり方か。街を造らせ言うことを聞かない様になったら"はい、さようなら"と言うわけか。アデスラン王国は俺の敵に回ると言う事で良いな。」
「歯向かうならアデスラン王国を敵に回すと言う事だ。」
そうウーバンが言うと、アービィは武器を抜いて構え俺の前に出る。
「私はアール様の護衛として役目を果たす。」
「いくらアーバインとは言え相手は二人だ。この為に兵士百人連れて来たのだ。アール=リア=ガウリーシュは捕縛、アーバインの生死は問わぬ!」
そう言い俺達を囲む兵士達。
予想通りの展開だ。
予めアービィには撤退の意思を伝えてある。
そして長老にも、もしもの時にはアービィごとそっちへ行く事に対する許可も得ている。
そして俺はアービィの腕を掴み、刻の呪いの種の力で長老の元へ転移した。
「どこへ行った。アール=リア=ガウリーシュとアーバインはどこへ消えた!探せ、見つけ次第捕縛しろ!」
リーシュ領主館前ではウーバンの声と兵士の雑踏の音が響いた。
長老の元へ俺とアービィが転移すると、早速長老が待っていた。
「取り敢えずここへアーバインを連れてきた経緯と、何があったか説明して貰うぞ。」
トルーザディーの事、
魔王に会いに行けと言う事、
それを断り領主を辞め土地を買い取らせる事、
それを冒涜だと金をせびっただの言われた事、
俺を力づくで捕縛しに来た事を説明した。
「ふむ、何故アールがユデイアに会いに行かねばならぬ。それは是が非でも国がやるべきじゃの。
断った事は悪く無い、金を出し買った物をより良くしたのじゃ。価値が上がっておる分高くなるのは当たり前じゃのう。ただ元商人に頭を下げたくなかっただけじゃろうな。仕置が必要かのう。」
長老は何かをするようだ。
「暫く待つが良い。グレアとゼリアを呼ぶ。」
グレアが誰かは分からないが俺達は長老の元で二日過ごした。
先にガルが到着し、数時間後もう一人来た、これがグレアと言う者だろうか。
「グレアムバイン様、お久しゅうございます。」
ガルが様を付け長老がグレアと呼ぶと言う事は、この人が噂に聞いた聖域の森の第二位で、長老の右腕と呼ばれる人だろうか。
「久し振りだなガルゼリア。息災であったか。」
「まだまだ元気にしております。」
このグレアムバインと言う人もドルイドで、かなり長命らしい。
「ユデイアはどうであった。」
「丁度ルメシアンに居りましたので、ファズシアン様にこの件は話しておきました。長老様の手を煩わせるアデスランからの頼みなら断るそうです。
それからそこの者がアーバインか、ファズシアン様がいつでも遊びに来いと言っていたぞ。」
「ゼリアの方の手筈は整ったか。」
「アデスラン王都ロクに居る者から王宮に、これから行くので連れも含め手出しを禁ずると言う手紙を届けさせました。」
「ならばグレアとゼリアとアールに護衛でアーバインを連れて、アデスランの王に会い結界の話をして参れ。
それとアールは聖域の森の住人の一人だと言い手出しは許さぬと伝えるのじゃ。」
そう言うと長老は俺を含めた四人を、ロクの王城の正門前へ転移させた。
もう慣れたがいつもの如くグワっと視界が歪み、元に戻ると見覚えのある王都ロクの王城前へ到着していた。
「なっ、何者だ!」
門番の兵士が叫んでいる。
「昨日森からの使者という者が此方に来ておると思うが、話は聞いておらぬのか。」
「失礼致しました、聞き及んでおります。直ぐご案内致します。」
上からの命令だろうか、随分丁寧な扱いをされた。
そしてアデスラン国王のモフサーデ16世の前へ通された。
そこには執政であるワインズ=フィル=ゴルゼウス侯爵もいた。
かなり俺を敵視して睨んいる。
基本的には森のことに関して人間は知らされていないが、各国王は知っている事だと長老が言っていた。
そして森の第二位・三位が揃ってやって来たので、モフサーデ16世は何事かと即座に会う事を決めた様だ。
何故なら服装が正装ではないからだ。
「私は聖域の森のグレアムバイン、こちらはガルゼリア、名前で我らが如何なるものかお分かり頂けますかな。」
「勿論である。余がアデスラン国王のモフサーデ16世である。して今回はどの様な要件で来られたのだ。」
今回こちらに居るアール・・・ガウリーシュ領主のアール=リア=ガウリーシュが、そちらにおられる執政のワインズ=フィル=ゴルゼウス侯爵に一方的に罪人扱いされた件です。」
「余はガウリーシュ領は召し上げと聞いておるぞ、何か仕出かしたのだろう。」
「その話ですがご説明しましょう。」
そしてグレアムバインが説明し終わると、ゴルゼウス侯爵が喚き出す。
「陛下、私の話よりこんな何処の誰かも分からぬ者の話を信じる御積りですか。」
「グレアムバイン殿が、誰かも分からぬならお前が黙っておれ。」
「ですが・・・。」
そう言われたゴルゼウス侯爵は、まだ何か言いたそうだが一応黙った様だ。
「それと話をする前に先に言っておきます。こちらのアール=リア=ガウリーシュですが、長老様お墨付きの聖域の森の住人です。お忘れなき様お願いします。」
「何と言う事だ。・・・ゴルゼウス侯爵、お前の処分は後で言い渡す。自分の部屋に戻っておれ。」
そう言われゴルゼウス侯爵は、怖ず怖ずと出て行った。
「此度の件で長老様は結界の話をしろと仰りましたが、それではアデスラン王国の今後が不憫です。なのでこちらのお願いを聞いて頂ければ結構です。
先ずアール=リア=ガウリーシュに一切の手出しをせぬ事。
捕縛は以ての外、他に無理強いを要求せぬ事。
ゴルゼウス侯爵をアール=リア=ガウリーシュに関わらせない事。
これだけで結構です。」
「分かったモフサーデの名の下に約束しよう。」
「それは助かりました。アールの件はこれで良いでしょう。」
「さて次は森の住人の力を借りて領地を浄化したに拘らず、森の住人に対して弓を引くと言う行為は、森に対して敵対の意思と見て良いのでしょうか。ならば敵対者に対して我らがロクに結界を張り続ける意味は無いので、即座にこれを止めます。如何なお考えでしょうか。」
「ままま待ってくれ、頼む。それをされては、王都は魔物に侵略されてしまう。」
取り敢えず何の話か分からないが、長老はどうやら王都に結界を張っている様だ。
それは魔物を防ぐ結界と言う事なのだろう。
王都ロクは魔物棲息地域が近い。
戦える者は良いがそうでない者は、魔物の餌食となるだろう。
「結界があるからこの王都は、近くに魔物棲息地域があっても魔物が来ないのだ。結界がなくなれば我が住民はどうすれば良いというのだ。それに森に感謝こそすれ、敵対の意思は無い。」
「では今回は、ゴルゼウス侯爵の独断と言う事でしょうか。」
「そう言う事だ。ゴルゼウス侯爵の対処は後日こちらでやる。だから結界の事は。」
「分かりました、結界はこの儘と言う事で長老様にお話します。」
そう言われ身を乗り出して話していたモフサーデ16世は、肩の力が抜けたのかドスっと王座に背中を預けた。
「ああ、それと。」
「まだあるのか。」
「アール、あの領地の事はどうしますか。」
「もうこんな面倒に巻き込まれたくないから、買い取って頂けないかと。しかしガウリーシュ領の規則はそのままでお願いしたいですね。」
「どうでしょうモフサーデ陛下。」
「分かった、黒貨10枚だったかな。」
「よくご存知ですね、本当に関わってないのですか。」
「ああ、あとで聞いた話だったからだ。」
「では今回我らへの迷惑料も込で、黒貨15枚で買い取って下さい。」
「半分も増え・・・。」
「では結界はよろ・・・。」
「分かった、分かった。もうそれで良い。余の負けじゃ。」
最後は言葉の被せ合いになり、強引に了承させていた。
そして俺は黒貨15枚を手に入れ領主を辞め、ガウリーシュ領はモフサーデ16世の直轄領となった。
そして長老の元へ帰った俺は、今回の詫びとして美味い食べ物・美味い甘味・美味い酒の新作を要求された。
これらを新たに作る事には成功したが、一年の歳月が掛かった。
「長老様はのご機嫌取りは美味しい物で取れると言う事ですか。」
「強ち間違ってはおらぬの。ほほほほ。」
そう言いながら甘味を頬張り、酒を流し込んでいっていた。
第三章終話




