畏怖を撒き散らす男
あれから数日家でゴロゴロしたり、中心街でブラブラする日々を送っている。
そんなある日、いつも街に行商に来る商人のホールに聞いたのだが、例のバジリスク随分弱ってきたらしいがまだ生きてるらしい。
そんな強健な体が俺も欲しいわ、と思っていると劇毒持ってたら売ってくれと言われた。
「何に使う・・・とは聞かないほうがいいのか」
「いや何ちょっとした頼まれ物なんだよ
どうやら商人から商人そしてまた商人と言う感じに、信頼できる商人の伝手を頼りに探しているらしい。
有るけどどれくらいの量が欲しいか、聞くと小瓶くらいで欲しいと言う。
「じゃあ家に上がって飯でも食ってけよ」
お言葉に甘えて、など言いつつ豹の様な顔で虎模様のホールが、嬉しそうな顔をする。
ニヤリとするとマジで食われるんじゃないかと思うくらいだが、目が笑ってるからそこまで怖くない。
仕草や手や足は人に近いが見た目は完全に獣である。面と向かって言える訳なじゃ無いですか。
以前にも言っただろうが虎豹族・獅子族・熊猛族
この勇猛果敢で知られる三種族はこのタイプなのだ。
味方とするなら非常に心強く、敵とするなら一目散に逃げたくなるが、虎豹族は足も早く中々逃げられないそうだ。
そんな足の話が一つ有る。
一度商談時の交渉での事だがやや高く吹っ掛けると、ホール曰く態と戦闘状態の牽制の様な気配を出したらしいが、その気配を感じ取った俺が"脱兎"を使い、正しく其れが如く逃げ出し気配を消したら、大声で冗談だから戻って来いと叫んだ話がある。
今でこそ笑い話だが、あまりの逃げの速さに虎豹族である俺ですら、あれは追えないと言わしめた俺の逃げ足の速さ。
腕っ節に自信が無いなら、この逃げ足は役に立つらしい。
最早エレニアやノーム達から街中に広まりつつ有る、甘水漬けと甘水エール割りに使う細い橙の実に遂に名前を付けた。
あいつらの名前を拝借した。
すると甘水漬けも名前が変わり、"エレオの甘水漬け"となりエール割はエレオールという新しい名前の酒になった。
最近エレオの甘水漬け一人前・エレオール一杯を銅貨50枚販売してるらしい。
家で暇な時にリッケンが売り子をしてるという。
何処で売っているかというと、畑横の休憩所を利用しているらしい。御蔭で酒場の常連クルーラホーン種達を良く見掛ける様になった。
あと暇があると度々来るムキムキ大工のジョーことジョゼフが、あの見た目で甘い物が好きだったらしい。
金が入ったからほぼ毎日食べに来てるとか、仕事しろよ増築任せただろうが。
話が逸れたがそんな噂を聞いていたエレオの甘水漬けを食べながら、エレオールを喉を鳴らしながらグビグビと飲み干すホール。この男は実に美味しそうに食べる。
「これドズのあの店でも販売しないのか?」
そんなスペースが何処にあるというのだ、店の規模を知っている筈なのにそんな事を言う。
しかし其れはそれでいいし値段を銀貨1枚上乗せして売ればいいか、値上げは人件費だ。
思い立ったら即行動、外で飲んでるジョーにドズの店の外側に飲める場所を作ってくれ、と頼み下見しに行くから付いて来いと言う。
今は呑んでいたいのだろう、後日やっとくというが店はレイチェルがやってるのだ。
こんなムキムキがいきなり来たら驚くじゃねえか、と言う事でドズ迄行きコイツが作業するから気にしないでくれと伝え、中心街に戻り店の中も少し綺麗にしてやって欲しいといって金貨20枚を渡す。
「ホント旦那は気前がいい、俺も遣り甲斐がある。んでどっち先にやばいい?」
増築より先にドズをやってくれと頼むと明日からさっそく取り掛かるそうだ。
そしてリッケンにこの事を話し、出来上がったらこっちの手伝いはいいから、ドズのレイチェルを手伝ってやって欲しいとお願いした。
家の方は結構リッケンが役に立っていたらしく、どうしようかと思い悩んでいると。
「俺 トモダチ 連れてクル」
と言った。
最近のリッケンは人間とよく話す様になったから、言葉も少しずつ上手くなっている。
そしてリッケンの連れてきた友達はと言うとですね、小粋な帽子を被り粋な格好をしたちょい悪オヤジな風貌の妖精種のレプラコーン。体は小さめだが服装に気を遣っているのか渋格好良い。
「俺 ノ トモダチ 連れてキタ」
言葉は普通に上手く、名前はロッテンダールと言うらしい。
リッケンもこのロッテンダールも、愛称は無いらしくそのまま呼んでくれと言っていた。
種族によりあったりなかったりする様だ。
給金は一日銀貨3枚+飯という低コストさ。
後日分かったのだが、このちょい悪オヤジもかなり優秀だったらしい。
リッケンの周りは優秀な者が多かったりするのか?
今まででで一番のポンコツなのは、群を抜いて断トツでエレニアである。
何もせずタダ飯食らいで、手伝おうとすると失敗しか実績がない。
いつ本気を出すんだエレニア。
まあ雇ってるわけではないから良いんだが。
こんな感じで日々が過ぎていった。
ある日リッケンが戻ってくるとレイチェルの店は繁盛しるのだが、荒っぽい冒険者が強引に値下げを許可もしてないのに、少ない金だけおいてレイチェルを脅迫し薬をごっそり持って行ったと言う事件が起きた。
レイチェルもリッケンも戦いは無理なので大人しくしていたらしい。
それはそれで良いんだ、無理せず怪我もなく良かった。
俺はすぐさまホールに連絡を取り、ヒルリア・エンシー・シュツーで手配書を回してくれと頼んだ。
そして畑の休憩所で熊猛族ジョーとノームのダイーカンとエチゴールに、誰か店を護衛しつつ手伝いしてくれる知り合いが居ないか聞いていた。
するとエチゴールが面白い事を言う。
「人サイズのゴーレム置けばいいじゃないか、命令しておけばちゃんと役に立つぞ。」
「それが良いかも知れんなー」
とダイーカンも言う。
「ゴーレムなんて誰が連れてくるんだ?というか何処に居るんだ。」
なんとゴーレムはノームの能力で作れると言い、ノームなら有る程度造れる人が居るという。
そしてエチゴールはゴーレムの能力保持者だと言う。
「ゴーレム造りは二種類の能力が必要で、複合能力と言うのだよ。片方だけだとあまり意味のない能力だが二つ有ることで真価を発揮する。アールの"雑草"と"銘"も複合だが、片方でも優秀な珍しい複合能力だぞ。」
なんて事を言う。
「能力は"石"と"魔核"と言う二つが必要なんだ、石は単体だと何も役に立たないと聞いた。」
魔核は生まれた時から魔力の核が出来ていると言う事と、核を複数操作を生まれ持って知っていると言う程度らしい。
その程度というが俺が魔力の核を習得するのに、どれ程苦労したと思ってるんだ。
殆どはノームがもつ能力らしいが、偶に他種族でこの二種類を持って生まれてくるらしい。だが使い方が分からず宝の持ち腐れになる。
それとノームならこれらを含めても四・五種類の能力が一般的らしいが、他種族だと負担が大きいのかその二種類以外の能力が無くなると言う。
「俺そこに今から行くから、案内してくれよ」
とエチゴールが言う。
両手で持つくらいの石があれば直ぐに人型が造れるらしいが、それは能力が結構上がってるらしいからだと言っていた。
一人一つの大きめの石を持ってドズの店に到着すると、何か口論になっている。例の冒険者か?
「(エチゴール、今のうちにゴーレム二体造っておいてくれないか)」
分かったと頷き、視界から逸れる場所で作業をしている。
「どうしました?お客さーん」
「あ”あ”ーん?」
いきなり凄んできたよこの如何にも単細胞そうな顔で。
「何かあったんですか?」
「テメエにゃ関係ねーだろ、引っ込んでろ」
「関係ないとか言われても、そこ俺の店ですし。で、どうしましたか?」
顔はニコニコしながらいつでも"脱力"を仕掛けれる様に、俺はコイツ等三人を魔力でロックオンしていつでも開放出来る準備はしてある。
俺の"脱力"は今はもう紫色にまで上がっている。誰も居ない時常時開放して自分に掛けながら、能力増強に勤しんでお蔭である。
魔法書で魔力の放出以降、最大射程距離が40mくらいにまで伸びていて、遠距離+自分範囲という二種類同時まで仕えるようになった。ついでなのでコイツラを実験台にしてしまおうという魂胆である。
「おう、ここテメエの店か。何で薬が1個が金貨1枚とかすんだ高すぎんだろ。って事でこんあボッヤクリ店悪徳店は通報せずに俺達が纏めて貰ってやるから全部よこしな!!」
冒険者なんて言って他の冒険者さんごめんなさい。こいつらタダの強盗ですわ。
「お前ら誰の店で調子こいて略奪行為しようとしてるのか・・・分かってんだろうな!!!」
そして俺はこう言いながら徐々に"脱力"を開放し、最後に自分範囲とともに一気に開放する。
するとこの馬鹿三人組は急激な脱力でまともに立って居られなくなった様で、一人は尻餅をつき、一人は片膝を付き"はぁはぁ"言っている。
最後の一人はブルブル震えている。どうやら成功した様だと思ったらそれ以外の人達もプルプルしている。
やりすぎた様だ。
レイチェルなんて完全に怯えている。
エチゴールも視線が痛い。
なので自分中心範囲の方は、さっさと解除した。
そして徐ろに短い小型バルディッシュの斧を右手に持ってゆっくり近付いて行く。
そして完成したゴーレムが、俺に付き従うように動いている。
「や、やめてくれ、もうこの店に手は出さねえ。だから殺さないでくれ。」
三人のリーダーらしき男がそう言った。
「なら前にも奪ったもの全て持って来い!!そしてら許してやる!!!!」
三人は分かりましたー!と言うと物凄い勢いで走って逃げていった。
そんなこんなでこの一件は終わった。
「旦那の"脱力"エグいですな、脱力だと分かってても逃げたくなったよ。」
エチゴールとそうやって笑っていると、レイチェルが完全に俺に対して怯えている。
「えーとだなぁ、今のは俺の能力を開放しただけだかか、怖くないよー。」
って戯けてみせたが、効果は薄い様だ。畏怖状態に陥っている。
「すまん今日の所は俺は居ない方が良さそうだから帰るわ、エチゴールはゴーレムの説明とか色々教えてやって欲しい。」
そうしてレイチェルの怯えが抜けぬまま、店を後にし家に帰った。
街に戻るとホールが居たのでこの一件が片付いたとだけ告げ、店にゴーレムを置く様にしたと伝えた。
今日は疲れた。良い事?したのに悪者の親玉みたいに見られてしまったのが、余計に疲れを水増しさせた。
暫くしてドズの薬屋は畏怖を撒き散らす男が経営する店と、変な噂が立ったのは言うまでもなかった。




