アウル~エンシーへ向かって
愕然とした。
何がかって?
エンシーに行くまでの持ち物や装備にですよ。
本当に要らないらしい父のお古の装備品一覧
ボロい布の背嚢|(綻びがみられる)
元テントであったであろう破れた大きめの革きれ数枚|(何に使えというのだろう)
5mくらいのロープのみ
刃渡り5cmくらいの片刃のナイフ|(どうやって戦えというのか)
替えの服|(防具ですらない)
ボロい皮の靴|(雨降ったら大変だな)
一人用であろう取っ手付きの小鍋
手書きであろう紙に書かれた近隣の村・町への分かり辛い地図
地図と同質の十枚程の紙と雑貨屋で売っている魔力の込められたペン|(ボールペン感覚で一家に数本あるような物)
そして旅費が全くない、無一文である。
ロープと鍋と紙とペンは役立ちそうであるが、今から旅立つ者としては素晴らしく貧弱であり見すぼらしい姿である。
こんな能力を授かった俺にも問題はあるのだろうが、こんなにもあっさり親に切り捨てられるとは思ってもいなかった。
だが一応今まで育ててもらった恩がありそれを忘れるほど落ちぶれていないので挨拶はする。
「父さん、母さん、行ってきます」
実にあっさりした別れである。この村にもう居場所は無いのでおそらく戻って来る事は無いだろう。
なのでガーゼル村長にもちゃんと挨拶をしに行く事にする。
コン、コン、コン
「ガーゼル村長アールです、エンシーに向かうので挨拶に来ました」
「ちょっと待ってなさい」
挨拶に来た。その一言でアールが別れの挨拶に来たのであると村長には分かった。
四・五分すると村長が右手に何かを持って出てきた。
「旅立つのだなアール、予想通り碌な物を貰えなかった様だな。
こんな世の中だ仕方ないのかもしれんが流石にそれでは忍びない。
息子の使い古しですまないが、この”革の胸当て”と武器はどっちが良い?」
とダガーとダークの何方かをくれるらしい。
両刃のダガーは使ったことがないので片刃のダークを選ぶ事にする。
「・・・ダークが欲しいです」
「良かろう、鞘と身に着ける革紐を持って行け。あとこれも役に立つだろう。」
そういって革紐2mと水筒を持たせてくれた。
「そうだアールよ金は・・・あるのか」
「・・・全くありません」
「あいつ等・・・ちょっと待っておれ」
数分後
「少しで悪いがこれも持っていけ」
そういって受け取った小袋には銀貨が62枚もが入っていた。
こんなに貰えると思ってなく驚いた。
「遅くなったが儂からの誕生日の贈り物じゃよ」
あの日以来悔しくても寂しくても情けなくても我慢していたモノが目から溢れていた。
「ありがとうございますガーゼル村長」
「気を付けて行くのじゃよ、そしていつでもいいまた元気な姿を見せに来てくれ」
「行ってきます」
俺はガーゼル村長が居なければ人間全てを嫌いになっていたとそう思う。
*****
村を出て手書きの地図を見ながらエンシーに向かい北東へ進む
北東をまっすぐ進むのが一番近いと思ったからである。
ここでこの先の事を考えておこう。
アウルはモンザリオ国の最北端に位置する村
目的地のエンシーはアウルから北東に位置し
モンザリオ国の北にあるミセリア国との3国の国境が交わるところより
少し東に行ったところにエンシーはある。
エンシーはエル商国の最西端の町であり大きくはないが商人達により近隣では一番栄えている町である。
よって行きかう人も多い為、魔見士もアウルより情報を持っていると思われる。
エンシーで手掛かりが無ければ次に向かうのはエル商国の首都である"シュッツー"が良いだろう。
エル商国が良いと思うのには、売るものがあるか金さえ持ってれば能力は二の次でいいというところか。
それでも多少は能力は関係してくるが他の国よりはよっぽどマシだろうと考える。
後は街道は商人達が引っ切り無しに行きかうので比較的安心であるという事。
なので当面の問題はほぼ未整備のモンザリオ国からエル商国へ抜ける事だ。
この辺りは田舎過ぎて盗賊や野盗を見たという話を聞いたことがない。
理由は他にもある、エルの商人達はある程度自衛出来るので盗賊のメリットが少ないからである。
色々考えてるうちに日も高くなり腹が空いてきた。
村から持ってきたパンを頬張りながら食料は絶対足りないよなと考えていると、
近くの茂みでガサッっと音がした。
何故何も考えずに気配を薄くして移動していなかったのだろう。
これが平和ボケというものかと今更になって気が付いた。
盾も持たずダークしかないこの状況で戦闘系能力も持たないこの俺が勝てる見込みもないので
一目散に走った、兎にも角にも走った。
非力だったが昔から足だけは速かったのだ。
脇目も振らず走った、だが後ろからまだ足音が聞こえる。
走れなくなるまで走った、そして諦めて後ろを見たときはもう何者も着いてきて無かった。
どうやら助かった様だった。
この道はモンスターなのか盗賊なのか出るようだ。
そして走るだけ走ったので非常に腹が減ったから残りのパンを食べた。
気配を殺しながら何事もなく進み続ける間に自分の能力について考えてみる。
「雑草」「銘」「脱兎」「脱力」「気配」
判っていることは気配があると常人に比べ相当気配を消せるという事。
まずこれをどんどん使っていき能力強化をすべきだろう。
そしてさっき逃げれたのは脱兎の能力かもしれないと仮定してみる。
脱兎の如く逃げるというヤツだろうか
そんな名前のまんまの能力なのだろうか
逃げに関する能力かもしれないと仮定だけして保留
脱力・・・昔から他の人に比べるとかなり非力だった。
これが関係しているのか判らないがそれだとマイナスな能力になる。
自分にマイナスになる能力なんて聞いた事がないのでこれも保留。
銘は制作や加工が無いといけないというのを聞いた気がする。
さて問題はこれだ"雑草"何だこれは。
雑草をどうにかするのか?雑草を食べれるのか?それとも雑草根性なのか?
さっぱり判らないそうこうしてるうちにもうじき日が落ちそうだ。
今日の寝床を見付けなくてはいけない。
この細い街道を横に少し入ったところに小さな岩場があり周りを背丈の高い草が生い茂ってる所を見付けた。
今日はここで夜を過ごすとしよう、朝まで魔物に襲われなければ運がいい。
そう思うくらいしか出来ない自分の非力さに少々うんざりした。
寝るにはまだ早いので周りに有るかもしれないポーションの材料になる草花を探してみようと思う。
小さい頃から父の採集に付いて行く事があったため僅かながら知識がある。
気配を殺しながらなので出来るだけ声も音も出さないように気を付けながら草花を探した。
幸いな事に傷を癒すポーションの材料となるコイル草とレイノール草を見付ける事が出来た。
知識って大事だね。そう思った瞬間である。
他にコイル草の横に生えていた名前は分からないがとても魅力的に見えた草があったのでそれも採集してきた。
岩場に戻ってポーションを作ってみる、能力が無いため良いものは出来なくとも作れるはずだ。
昔父に教わった簡易的な方法で作ってみる。
方法は実に簡単だ。まず岩場にある石を大小三つずつ持ってくる。
大きい方にそれぞれの草を置き小さい石ですり潰していく。
そして搾り汁を鍋に入れる。割合はコイル草:レイノール草=1:2だった筈だ。
そこに搾り汁1に対して10の水を加えて魔力を入れ込んでやる。
魔力を使うのはこんな俺でも出来る、というか誰でも出来る。
魔力の最低限の使用に能力は関係無い。
そして色が変わるまで魔力を込めてやると簡易的なポーションが出来る筈だ。
アイテムの性能の判別には"判別"の能力が必要だが例外はある。
自分で作ったもの即ち自分の魔力が使われたものに関しては自分の魔力で判別出来る為
判別の能力は特に必要ではない。
なので出来たポーションを判別してみる。
「ぁぁ・・・」
頭の中に赤字でこう文字が浮かぶ。
"微弱の癒しのポーション"
擦り傷くらいなら治るかもしれない
微弱な上に赤字であるとか最下級アイテムの中の最下級だった。
そして説明も酷かった、店にはまず並ぶことがない失敗作である。
気を取り直して名前も知らぬ魅力的な草を試してみようと思う。
同じ工程で作ると一応ポーション(?)になっている。
一つの材料で作れるとは優秀な草だと思いつつ判別を行使する。
色が見えた時点で少し驚いた、なんと緑である。
名前は・・・
「えっ・・・何だこれ」
思わず声が出てしまった。
"アールの雑草薬"
雑草薬ってなんだ?そして何故自分の名前がついている?
少し考えて思い出したかのように"銘"か、と思った。
この名は銘品とかにつく名前ではなく製作者の名前付けの方の銘なのだと感じた。
効果を確認してみる。
"アールの雑草薬" 一時間程体力が二倍になる。
何かとんでもない効果が出てきた。
普通の緑の増強ポーションの効果は持続時間十分から十五分
効果内容は20%から良くて30%
それなのにこの効果は何だ、これが"雑草"の能力か。
しかし問題がある、雑草だけに名前がわからない上に何が作れてどうやって作るのか。
今回はこの方法で偶然作れたが今後ほかのものも作れるか分からないが
一歩前進したことだけは確かだ。
運よく明日の朝まで生き延びれたら紙に雑草の絵を描いて自分なりに名前を付けておこう。