バジリスクのお陰です
「親方さーん、いるかーい?」
「親方って呼ぶなと言ってんだろ!!!・・・って坊主か」
自分で売るが義理もあるから、劇毒解毒剤を細い小瓶で50本売りに来た事を伝える。
勿論一般薬師の作った劇毒解毒ポーションの、昨日までの相場を聞くことも忘れず。
「1回分のポーションが金貨11枚まで上がったっていうのか」
「まだまだ上がると思うぜ」
しかしあまり値段が上がりすぎて冒険者の資金が心許無くなると、バジリスク討伐を投げ出すのでは無いかとも思うが、今までに掛かった資金を取り戻すために金を更につぎ込むのかもしれないな。最早ギャンブルと変わらないと思い苦笑してしまう。
俺は細い小瓶と小瓶で売るから、極小瓶で売ると良いとだけ伝え店を後にする。
ホールに傭兵と荷物持ちを雇えるかと聞くと、商人ギルドで身元のハッキリし持ち逃げの心配が無い荷物持ちと、実績のある傭兵もそこでを雇える話を聞いた。
「じゃあ俺ギルドで雇ってくるから、少し待っててくれるか?」
「お得意様になりそうですし、待っておきますよ」
俺は商人ギルドへ行き荷物持ち及び馬車を扱える元冒険者と、虎豹族二人を雇った。荷物持ちは獅子族であった。戻る間に獅子族ならもっと稼げる事有るだろうと言うと、冒険者時代に致命的なダメージを負いその怪我が元で戦う事が出来なくなったそうだ。
そう言った訳ありがギルドの簡単な仕事を熟すようだ。
給金は荷物持ちが一日銀貨50枚、傭兵が一人あたり一日金貨2枚+戦闘発生による後払いの追加報酬で15日雇ったでの金貨67枚と銀貨50枚を前払いした。
何故15日かというと、シュツーから現地まで片道4日掛かるからである。
経費が掛かるので殆どの商人は街で売り捌くが、この数になると街だけでは捌き切れないとホールが言ったのだ。
ホールに待たせた事を詫び、荷物を受け取る。このまま街に残って売買をするという。
俺はバジリスク討伐の後方の出来つつ有る、即席の宿場の様な所に行き薬を売る事にする。
売り専用の赤い腕章を付け、馬車を貸し出す商売をしてる人の所へ行き15日契約で金貨15枚を払う。腕章を付けることで行商人だと分かるので身元確認が早い。馬車は期限より早く返却すると1日あたり銀貨50枚帰ってくるそうだ。逆に契約期間が過ぎても一日あたり銀貨50枚の延長料を払うだけで良いらしい。
料金の半分は保険料らしい。
因みにこの貸し馬車は街から街なら片道移動だけ借りる事も出来、着いた街で返却すればいいと言う事だ。
あと販売もやってるから稼げたら、買って下さいとも言ってたな。
荷物を載せ元冒険者の獅子族に御者をして貰い、むさ苦しい男4人の道中だったが、特に何もなく目的地の宿場へ着いた。
現地へ着いたがバジリスクを倒せない事や仲間や同僚の死で、気の立っている冒険者や軍関係者が多く傭兵を雇っておいておいて正解だったと気付いた。でないと余計なトラブルが増えるかもしれなかったからだ。
俺は自作の看板立てを組み立て、紙にこう書いていく。
即効性劇毒解毒剤あります。細い小瓶・小瓶。
体力二倍、集中・命中増加強化剤に魔力回復。
一時間半眠れる睡眠薬、六時間効果の鎮痛剤
毒緩和と一日中喉が渇かない薬 "あります!!"と書く。
前線が入れ替わることもあり、一日で全部売る気は無いので解毒は100本他は半分だけ売る。
露店を開くと半信半疑の軍関係者や冒険者が寄ってくるが、偽物だろうと冷やかしていくだけである。
なので俺は大きな声でこう言った。
「"判別"持ちの人を連れて来て、判別してもらって構いませんよ」と。
暫くすると軍の人が"判別"持ちであろう人を連れてくると、俺に忠告をした。
「もし偽物なら今すぐ帰れ見逃してやる、もし判別した後偽物なら詐欺罪で捕縛する。」
構わないから判別しろと、顔を顰めて俺を睨みながら判別しろと命令している。
その騒ぎで他の冒険者も集まってくるのであった。
判別を持った人が全ての商品を判別し終わると溜息交じりに口を開く。
「聞いた事も無い薬ですが、全部本物です。しかも黒字の優良品です。」
そうなるとこの先は早かった。軍に全部売ってくれと軍人が言うと、冒険者から激しく苦情が出た。苦情が多かった為
「数百人いる討伐隊なので細い小瓶は一人2本まで、小瓶は一人1個まで」
と言い放ち売り始めた。
数が数なので売り捌くまで時間は掛かったが、夕方までには完売した。
途中で安くしてくれと言う者もいたが、この忙しいのに値交渉なんかするわけがない。
買う気がないなら他所に行ってくれと軽くあしらう。
初日の売上はこうなった、ボロい商売である。
劇毒解毒剤2000
毒緩和100
鎮痛200
体力二倍750
集中命中475
魔力回復500
喉乾き25
全て金貨の枚数だ。合計金貨4050枚これでまだ総数の半分以下である。
一般的な劇毒解毒剤は即効性ではない為、使用後は一旦下がらなければならないがこれは即効性で、1回あたり金貨10枚と言う事もありすぐに売れた。
荷物持ちの元冒険者や傭兵は、売る間あまりの事に隣で呆然していた。
夕飯時に終わったら3人に追加報酬をはずむと言い、これはこの前約束だと伝え一人に金貨3枚ずつ渡しておく。何故なら途中で変な気を起こされても困るからだ。
あのアールという行商人は気前がいいと、後で広めてくれるなら良いかと思った宣伝料でもある。
こうやってでも名前を売っていかないとこの先厳しいとホールに教わったのだ。
何とかして初めに名前を売らないと、今後良い物があっても売れなく結局買い叩かれるぞと。
次の日になると昨日前線に居た人達らしいが、俺達にも売ってくれと開店前なのに殺到していた。予想通りの展開だ。
「そうだろうと思い昨日は半数しか売ってません。今日も細い小瓶は一人2本まで、小瓶は一人1個ですよ」
そういって露店を開く。
朝一番だというのに俺の前には行列が出来ていた。
そしてこの時に思ったことが有る。
(今回の討伐に参加出来る冒険者は、相当お金持ってるんだな。)
値引きは出来ないと聞いていたようで今日は誰も値引きを要求してこなかった。
昨日に引き続き今日も金貨4050枚の売上である。
そして三日目は露店を開かずに、残りの解毒剤100本を背嚢に入れ、何か面白いものが売ってないか探すことにする。俺が大金を持っているとバレている為、勿論護衛の傭兵と一緒にである。傭兵には別途料金を支払った。傭兵もあまりに金払いが良いのでやる気満々である。
面白い魔法書を見付けた。しかし今ココで修練する人は居ないだろうと。
"魔力の放出"と書かれた魔法書である。
この魔法書という物は購入して魔導ギルドに持って行くと、魔法書と自分の関連付けを行ってくれる。
稀に魔道士が行商もしていて、その魔道士自身が関連付けをしてくれるが滅多に居ないそうだ。そしてこの行商人は魔道士ではない。
そして本を開くと関連付けを行った本人に、その魔法書にある魔法の概念が意識下に付与される。
そして中の文字も本人にしか読めないという代物だ。
簡単に或る程度の魔法なら使えるようになりますよ、と言う便利アイテムなのだが何故今まで買わなかったかというと非常に高額なのだ。しかも関連付けも結構お金がかかる。
そして今回見つけた"魔力の放出"は決まった魔法が使えるわけではないが、魔力そのものの放出を上手く扱えるようになる魔法書だと言われた。
何もこんな場所で売らなくてもと思ったが、やはり冒険者はお金を持ってるイメージが高かったのだろう。
俺はこの魔法書を金貨600枚で買った。何に使うかと言えばズバリ"脱力"と"気配"で放出が役立つかも知れないと直感的に感じたからである。関連付けは金貨100枚掛かる。これはどの魔法書でも一律らしい。
シュツーの魔導ギルドに行く楽しみが出来た。
そして4日目。
初日の薬を使い切ってる人もいるだろうと思い、価格を1本金貨30枚に上げ残りの劇毒解毒剤を売ろうと思う。
露店を開く準備をしているとすでに人が並んでいるので
「今日はもう劇毒解毒剤しかありません」
とだけ声を掛けておいた。
少し人が減ったがやはり目的は解毒剤か。
そして開店前に看板に大きな文字で"これで最後の劇毒解毒剤・金貨30枚"と書き店を開ける。
そしてそれを見た冒険者は決まって同じことを言う。
「なんで金貨10枚も値上げしてんだよ」
「金貨20枚で売れよ」
まるで何も理解していない。
「これがどれだけ貴重で手間が掛かる薬か分かってないようだな。しかも1・2日目は俺の良心で速攻性解毒剤を一般の物と同じ価格で売っただけだ。残りは俺の思う価格で売って何か文句あるのか?」
今まで即効性劇毒解毒剤なんて出回ってなかったのだ。それをサービスで同じ価格で売っていたのに文句を言われる始末。
「先頭に付近に並んでる人達は買わないそうだぞ、金貨30枚で買う人だけ並んでくれ」
俺がそういうと結局それでも買うと言って、渋々金を払っていた。
中には追加で作って持ってきてくれないか、金は倍額払うというツワモノもいたが、スグに作れる薬じゃないと伝えると残念そうにしていた。
そして三日目の売上金は金貨3000枚になった。もとは雑草と水と俺の魔力しか使って無く元手は瓶代だけだ。その瓶代も今後はホールに負担させるので手間賃だけしか掛かっていない。買っていった奴等がそれを知ったら俺は斬り殺されそうだな。
そしてこの4日での稼ぎは、金貨11,100枚という荒稼ぎを実現したのである。
目を付けられる前に手早く片付けをし、3人と共にシュツーへの帰路に就く。
話が変わるが、この世界の荷馬車はドワーフが少し手を加え、板バネと呼ばれる物を馬車に付け衝撃を吸収し乗り心地を少し向上させたという。
それに伴い商品が少し傷みにくくなったが少し物足らないということで、荷台に厚手の絨毯の様な物を敷き、更に衝撃を吸収している。
この厚手の絨毯ぽいものは、馬車を売っている店や織物店で購入出来るらしい。
やはり獅子族の傭兵は勇猛で強いと言われている為か、何事も無くシュツーにつくことになる。
商人ギルドまで行き、入り口を入って横のテーブルまで行き椅子に座ると、3人に特別追加報酬を渡すことになる。
荷物持ち兼御者の元冒険者へは金貨10枚。傭兵の二人へは各金貨15枚を渡す。
「こんなに貰っていいのかい?」
「今後も何かあったら頼むよ」
「こんな美味しい仕事滅多にねえ、いつでも言ってくれ」
「今度ドズで店を開くことにしたんだ、俺と同じくらいの女の子が店番してるからからよ。今回売った商品と同じだがランクが下がるだけだから宜しく頼むよ。」
「宣伝費も込の報酬って事か。」
「そういう事だね」
そう言って3人と別れ商人ギルドの受付へ行く。
「口座を新設したいのですが」
紙を渡され行商の割り振られた番号と名前を書く、他にも色々書いたが割愛しよう。
「今日はお幾ら入金されますか」
取り敢えず金貨10,000枚を預けておく事にする。商人ギルドに口座を持っている商人であれば、口座間の決済が可能になるのだが、開設するには最低金貨1,000枚を預けなければいけないという規約が存在する為、今まで開設が出来なかった。
「それと金貨1,000枚を白貨10枚への、両替もお願いします」
「では手数料が金貨1枚となります」
両替は黒貨⇔白貨⇔金貨⇔銀貨が可能であり、黒貨⇔白貨で白貨1枚・白貨⇔金貨で金貨1枚・金貨⇔銀貨で銀貨1枚の手数料を取られる。
例えば金貨1枚を銀貨100枚にしても、金貨10枚を銀貨1,000枚にしても、手数料は銀貨一枚である。
今回俺は金貨を白貨に両替するので、金貨1枚の手数料になる。
これで手持ちのお金は白貨10枚と金貨400枚と、今までに持っていた端数となった。
そして例の露店で購入した魔法書を持って、魔導ギルドへワクワクしながら足早に歩いて行く。
魔導ギルドは魔見士が出来る事を、一通りここでも出来る。
そして魔法書の関連付け、一部の高位魔道士によって作成された魔法書の登録、魔法の訓練などもやってくれている。他に魔道士を雇いたい場合や紹介してもらう時もここに来なければいけない。
魔見士以外の基本的な料金が、軒並み高いのが玉に瑕である。
「魔法書の関連付けをお願いします。」
「金貨100枚じゃがお前さん払えるのかえ?」
馬鹿にされているのだろうが気にせず、白貨と金貨どちらの支払いが良いか聞くと金貨にしてくれという。
「"魔力の放出"とはまた珍しい物を持ち込んだね、お前さん特殊な魔法でも使えるのかえ?」
「これが有効化分からないから、試してみたいんだよ」
「効果も分からず試すだけに、これだけ金を使うのかえ」
「俺は特殊な能力だから、前例が見つからないだけなんだよ」
「そうかそうか、お前さん名前は?」
アールだと告げると、またおいでと言いいい魔法書が有ったら取り置きしとくと言われた。
誰も買うとは言ってないのに。
早速関連付けされた本を開くと頭の中に[魔力を遠くに放出する方法]・[その数を制御する方法]・[扇状に放出する方法]・[自分を中心に周囲に放出する方法]・[それらを瞬時に止める方法]が、今まで知っていた知識の様にやり方が分かる様になった。それらの力の伸ばし方は魔法書に書いてあると言うが、帰ってからゆっくり見るとする。
そして今回シュツーでの最後の用事は貸し馬車屋で馬車を購入することだ。
ここでは口座間取引が可能となる。
最初はそんな高級な荷馬車でなくていいので、御者台に二人くらい座れ荷台の前方に荷物以外のスペースが少しある物を選ぶ。濡れて困るものが出て来る事も考えられるので幌も付ける。
開閉式の幌も有るというが、今回はそこまでいらないので固定型にした。
馬と諸々合計で金貨750枚となった。
この世界の馬車は魔法で色々と便利に強化されている。高い理由もそれがあるからである。
まず荷台等木製部分の耐久度が大幅に上がり耐火魔法が施され、幌等の脆そうな部分にも耐久魔法が掛けられている。更に季節に関係なく荷馬車の中は、温度が一定に保たれる機能も魔法で施されている。
それに馬車を購入すると標準装備で前後に掲げる魔力ランプと言う物が二つ付いている。
これは暗くなる時に魔力を注いでやると、明かりを灯す事が出来る便利道具。
手持ちや家の中のランプにもコレが使われている。発明した人は天才で有るとともに救世主かもしれない。
そうは言っても数時間に一回は、魔力の補充しなければならないが。
初回取引ということで中に敷く厚手の絨毯っぽい物は、オマケしてくれた様だ。
「もっといいものが欲しけりゃ専門の店に行くといい」
店主はそう言って教えてくれたが、今のままでも十分に気持ちがいい。
しかも御者台にも敷物が敷いてあり、馬の餌も数日分付けておいてくれたようだ。
俺は次もあの店で買うと心に決めた。
街を出ようとしているとホールが声を掛けてきた。
「いい荷馬車買ったな結構儲かったんだな」
なんて事をいうので耳を貸せというジェスチャーをし、サバを読み6,000枚だと伝えるとニヤニヤしてやがった。そしてホールは俺にこっちは2,500枚だと告げた。
「おいおい、ボロ儲けじゃねえかホール」
「すまんな俺は名も知れてるし売り方も分かってるから、多少高くても売り捌けるんだよ。」
ホールはカカカカと笑っていた。手練の商人は凄いものだ。
「ああそうだアール、例のドズの家はもうお前のもんだ。こいつが鍵だ。」
なんて仕事の早い商人だろうか。
「助かった、んじゃ俺はその件で用事があるから、準備終わったらシュツー出るよ」
そういってホールと別れた。
このまま中心街に戻っても日数を1/3すると、まだ畑も小屋も出来てないだろうしそろそろアウルに向かう頃だろうから、アウルまでの往復の食料とレイチェルの片道分の食料を買い揃え、そしてさっき覚えたての"魔力の放出"にあった自分中心の魔力放出の要領で、魔力と気配を融合させ馬車と自分の気配を出来るだけ消すことに成功する。
(やはり思った通り"気配"で使えるな)
そしてアールは周りを気にすること無く、アウルまでの気ままな小さな一人旅が出来るのであった。




