終わらないバジリスク討伐
──少し時間を遡り、アデスラン王国のカミーザにて。
この国は魔法に力を入れている。
そしてカミーザという巨大都市は、首都をも凌ぐ人口と賑わいがある。
そんな街ある噂が囁かれ始めていた。
「脱毛症に悩まされていた商人が、とある薬を飲んだら一発で脱毛が治ったらしいぞ。」
「そんな薬あったらとっくに皆飲んでるわ」
「いや新しく開発されたのかも知れんぞ」
「魔法薬か何かか?」
「だが魔法薬ならどっちにしろ、高くて俺らには買えん」
「だよなー、ヅラも高くて手が出せんし」
「ヅラは貴族様専用みたいなもんだろ」
「安くてこの脱毛病が治る薬はないのか」
「もう少し待ってたら、この街にも薬が入ってくるかも知れんぞ」
「そうなると良いなあ」
そんな話をする数名の若者達。
アデスランの東部は風土病がある、通称脱毛病。
子供の頃は問題ないのだが、十六の成人を超えると個人差はあるが
徐々に毛が抜けていく。二十歳頃になると大半の人がそれに悩まされる。
それが嫌で西部に住むようになった者もいるが、収入が大幅に減ってしまう。
カミーザは物価も高いが、収入が段違いに高いのだ。
結局髪より金をとる人が多く、カミーザに住み続けることになるのだ。
一応カミーザを含む東部には、ヅラ職人と言うのが居るのだが
高すぎて平民には、買えない物となっている。
そんな折に巨大な黒/緑のバジリスクが出てきて、
エル商国シュツー~カミーザ間の、中央街道が封鎖されてしまった。
討伐隊が結成され、一般人の通行が禁止されてしまった。
モンザリオ国のマウラス~カミーザ
ミセリア国ヒルリア~首都ロク経由~カミーザ
この二経路は封鎖されていないが、マウラス~カミーザはエルの商人は使わない。
売れない経路に、薬を流す商人なんて聞かない。
ロクを経由すると便利なものは、ロクで全て買い占められる。
こちらに治す薬が流れてきても、ロクで買い占められる。
カミーザの平民たちの希望は、バジリスクによって失われたのである。
何故ならばこのバジリスク討伐、いつ終わるか先の見えない膠着状態になってしまったからだ。
強過ぎる攻撃き・ちょっとした冒険者では攻撃が通らない硬さ
魔法に対する異常なまでの耐性性・そして全ての攻撃に付きまとう毒攻撃。
しかし今回はこれだけでは無かった。
普通の紫のバジリスクでは、特殊な毒攻撃には猛毒はあったが
所詮猛毒止まりなのであったが、今回のバジリスクはすべての攻撃が猛毒で
即効性では無い物の特殊攻撃が劇毒であった。
殆どの者が劇毒の解毒剤なんて用意してなかった。
劇毒を解毒出来る魔導士も来ていたが、圧倒的に数が足らない。
そして土壌汚染による常時通常毒。
何をするにしても毒・毒・毒と、一般的な解毒剤も不足していく始末であった。
──そして時は戻り、エル商国シュツーにて。
バジリスク討伐で解毒剤の数が、明らかに足らないと言う話が駆け巡る。
一般的な薬師はどんどん解毒薬を作り、さらに優秀な者は猛毒の解毒剤を作る。
そしてここでも人材不足が発生していた。
そう劇毒の解毒剤なんて作れるものは、指折り数えるくらいしか居ないのである。
そして劇毒解毒剤の高騰が始まる。
平時には極小瓶で金貨2枚のものが、今は金貨10枚まで高騰している。
そしてまだまだ上がり続けていると言う。
そんな話はもうどの商人にも回っている話で、中心街に来る商人を介してアールの耳にも入る事となる。
アウル村から戻った、アールは中心街に来る商人を介し、
ドズの町で目星を付けていた、小さな元商家を買う算段をしていた。
この商人こそ巷で噂になっていた商人である。
名前はホール=ズィン=クーオンズと言う虎豹族の商人で、実はミセリア国の上流階級の三男である。
三男の為家を継ぐ事は無く、武装商人になった剛の者でもある。
脱毛症で悩んでいたがアールの薬を飲むと一発で治ったので、その事を他の商人に話したのだ。
誰から買ったかまでは言っては居ない。それは情報料が発生するからだ。
だがこの話を流す事で、噂は東へ広がるだろうと考えていた。
思惑通りカミーザまで噂は広がって行ったのだが、そこに来てこのバジリスクである。
ホールの思惑は、このバジリスクによって潰されたようである。
そしてバジリスクの話を聞いた後に、商談をする。
「例のドズの商家、買うことにするよホール。値段は前言ってた値段でいいか?」
「前貰った薬で、悩みの脱毛症が治ったから安くするよ。」
以前金貨80枚と言っていたのに今は60枚でいいと言う。
「その代わりに、あの薬を売ってくれと?」
「話が早くて助かりますよ」
「俺もあれで稼ごうとしてるんだよ、だから今出回るのは不味い。
代わりと言っちゃなんだが猛毒解毒剤買わないか?」
ホールとしては思わぬ所で、儲け話が転がり込んで来た。
しかもこの男の薬の腕は、自分で飲み理解している。
「どれくらいの数あるんで?」
「小瓶で50個、極小瓶に分ければ150から200になるんじゃないか」
極小瓶の猛毒解毒剤で今は金貨3枚、そして計算中なのか少し会話が止まる。
「それをお幾らで・・・?」
「おいホール普通の猛毒解毒剤じゃないぞ、黒字で即効性、内服後7分間の猛毒耐性が付く優れ物だ。値段の計算間違えるんじゃないぞ。」
「こんな良い解毒剤、自分で売らないので?」
「実績も何もない俺が、こんな追加効果のある物を上手く売り捌けると思うか?」
「厳しいですな」
上手くいくと金貨10枚を超えそうな代物であるが、だが高く見積もり過ぎると失敗した時が怖い。
金貨8枚で考えたホール、極小150瓶で金貨1200枚であり、僅かに口角が上がったのだがアールにバレた。
「予想額出たようだな」
「あまりに高額で、つい顔に出てしまいましたね。そしてこれをお幾らで売って貰えるのでしょうか?」
「シュツーだともっと吹っ掛けるんだが、ホールには世話になりっぱなしな上に、
今後も仲良くしていからな。今回に限り50瓶で金貨300枚で売る。但し条件を付けたい。
空になった50瓶を返してくれる事と今後各種瓶を投資して欲しい。」
「これを断ったら商人失格ですな」
「商談成立かな?」
「いえ、例の元商家金貨50枚で、即使えるように修理もしておきましょう」
「それは有難い」
そして差額の金貨250枚を貰い、小瓶50瓶を渡していく。
「今回だけだからな、次は倍は貰うぞ」
「分かってますよ、毎回こんな美味しい話があるわけないですよ」
結果この一件でホールは、予想もしていなかった莫大な利益を生む。
***
ドズの家は確保した。そこにレイチェルを薬の販売員として住ませる。
ここで売る薬は、在庫の溜まってきたエリオ作の薬である。
練習で作ったエリオの薬は黄字・黄緑字・緑字とある。
分かると思うがかなりのペースで作っている為、能力の上がり方も早い。
タノールBを作りそれを服用し、自分の魔力を回復しながら作っている。
ごり押しも良いところだ。
最近は瓶が足らなくなるから、纏めて買っている。
エリオ作が既に400瓶くらいある。
すべてに固有名称がついているが、"銘"のないエリオでも名称ありで作れる。
まず俺が名前を付け、それをエリオに判別させる。
エリオは"判別"能力はないので、名称だけは確認できる。
名称の分かった雑草で、俺と同じ方法で薬を作る。
すると出来上がった雑草薬は、固有名称が付いている。
"銘"は個人だけでは無い様で、かなり影響力の大きいスキルと言える。
しかし材料の名前を知らぬ雑草を使い、同じ方法で作らせると名称はただの雑草薬になる。
流石にこの世界の能力の仕組みなんて分からないから、特に考えないようにして放置している。
レイチェルを迎えに行くまで、まだまだ余裕がある。ならばシュツーへ稼ぎに行くしかない。
冒険者はパーティを組んで行動しているはずだから、数回使える小瓶や細い小瓶でも売れるはずだと信じて。
今回は対バジリスク用の薬に絞った方が良いだろう。
エラギは予備の数瓶を残し、ホールに売ってしまったので今回は無し。
劇毒解毒剤のエクラグは、大瓶5個分生産してある物を細い小瓶に分ける。
大瓶1個で細い小瓶60個に分けられるので、300個出来上がる。
次にツメリAだ。これは黒字になり一時間半ぐっすり眠れるようになった睡眠薬だ。
何故バジリスク討伐に売りに行くかは簡単な事だ。
討伐隊に参加する者達なら、ちょっとした怪我なら回復薬を温存する。
だがその反作用で寝付きにくく、体力の回復が遅くなる。小瓶30瓶。
そしてチベラギBは毒の効果を和らげる。細い小瓶100本。
通常毒・猛毒・劇毒の全てにに効果はあるが、劇毒に対しては気休め程度である。
タノールAは、二十五分の集中力・命中力増加。魔導士や弓を使う者が欲しがる筈である。
バジリスクには遠距離攻撃の方が、リスクが少ないのは誰の目にも明白である。細い小瓶50瓶・小瓶30瓶。
タノールBは、魔力の回復を助ける。魔導士は勿論の事、能力を使い戦う者は、
少しずつ魔力を使いながら戦うので、魔力切れは死に値する。小瓶50瓶。
アンシーBは、体力二倍の優秀薬。今まであまり売らずに溜めておいた一つだ。細い小瓶100瓶。
ケングスBは、完全なる鎮痛剤ではないが、六時間痛みを軽減してくれる。小瓶50瓶。
シズーBは、丸一日喉の渇かなくなる。細い小瓶50瓶。
今更だが瓶の容量は
極小瓶:細い小瓶:小瓶:中瓶:大瓶で
1:2:3:30:120である。大瓶で3リットル位入る事から
25ml:50ml:75ml:750ml:3Lとなる。
入れるときに、多少の誤差は出るのは仕方ない。
合計細い小瓶550小瓶160瓶で約便の重さも入れると約60kgである。
他の装備品も入れると、一人で持って行く事が出来ない。
そこでだホールがあと二日街にいるはずである。
──その日の夜、酒場にて。
「やっと見つけたわホール」
「どうしたアール」
「頼みごとが出来た、金も払う。シュツーに売りに行く、薬の運搬を手伝って欲しい。ドズに馬車置いて来てるだろ?」
「持ちきれないって、どれだけあるんだ?」
「細い小瓶550本に小瓶160個ある」
「この騒ぎに乗るつもりか、ちょっと分けてくれよ」
「ハハハ・・・まだ俺の稼ぎを奪うつもりか」
俺の目は笑って無かった。
「やはり止めておくよ」
「だが何がそんなにあるんだ、こっそり教えてくれよ」
「金払うなら教えてやるよ」
「良いものだと言う事だけは、分かった」
「あまり欲張ると取引相手を無くすぞ」
「・・・・・・」
「今回のバジリスク討伐の必需品だよ。今回は特需だから、これを機に稼がないとな」
「なら金貨10枚だ」
「高くないか?」
「どうせ稼ぐだろうと、足元を見ておる」
「教えなかった分上乗せか。まあいい払うさ。二回に分けて乗り遅れる方が不味い。」
「毎度ありっ」
俺もこんな所でホールとの縁を、良くない物にしたくないから快く払っておく。これも先行投資の一環だ。
「出発は明後日の朝8時だ」
「わかった、それまでに準備を済ませておく」
そして出発までの間に減ってしまった薬の増産をすることになる。
主に殆ど無くなった、エラギの作成とエクラグの下準備になったが。
翌朝裏庭に出てみると、ノーム達が声を掛けてきた。
「いつも貰ってる飲み物美味しいんだが、エールで割ったら駄目か?」
仕事の前に酒を飲飲みたいと言う事らしい。
「酒が入ってもしっかりと仕事が出来るなら構わんぞ」
「ノームはエール一杯じゃ全く酔えんよ」
「最低十杯は欲しいわい」
「そう言えば、ノームやドワーフは酒豪だったな」
そしてエリオを呼び水で薄めるのを、エールを使うように指示した。
「エールはこっちで用意しないから、毎朝エリオに渡せばやってくれる様に言っておいたぞ」
有難てぇと言いながら、一気に飲み干すノーム四人衆。
これでやる気を出して、頑張ってくれるなら良いだろう。
昼の休憩になると他の提案をしてきた。
「畑の横に、農具小屋と休憩場所を作らいないのか?」
言われてみると確かに畑の事だけ考えて予定してなかった。
「お金を追加すれば作ってくれるのか?」
「俺らノームは物を建てるのは向いてないが、知ってるから呼んで来れる」
「幾らくらいだ?」
「最近仕事が無いと言いたから、少し安い筈だ」
ひとっ走り行って呼んで来てくれるそうだ。
・・・またか、またこの種族なのか。筋肉ムキムキの熊猛族がノームに連れられて来た。
「あんたかい、仕事くれるって人は。何を作りたいかはもう聞いてる。」
「話が早くていいな。材料代と工賃で幾らで建てて貰える?」
「簡単な小屋でいいなら、材料込で金貨3枚。しっかりした倉庫付きが欲しいなら、材料込で金貨10枚だ。」
「金はあるから倉庫付きで、金貨10枚の方を作って貰いたい。」
「値交渉はしないんだな。」
「ここでケチってもノーム達の顔を潰すし、良い仕事して貰えるようになるか分からんしな。」
グハハハと笑ってやがる。前金で10枚と言おうとしたが、どうやら半金ずつで良いらしい。
「材料代があるから、半分は前金貰って行くぞ。」
「残り半分とそれ以外は出来高だ」
仕上がり次第では、報酬の追加もしてやると言うと俺の本気を見ておくがいい、とやる気が出た様だ。
今日は材料仕入れて明日から取り掛かるようだ。場所は南向きで、畑の北側にするらしい。
暫くシュツーに行ってるから、その間に出来上がったならば、こっちから金を持っていくと言い家の場所を聞く。
そして翌日。
荷物の半分をホールに持ってもらい、森を出てドズに向かう。
流石は虎豹族、軽々と荷物を持つ。
ドズから荷馬車でシュツーへは、大凡半日で着くという。
シュツーに着いたらまず[闇の通用門]に寄って欲しいと伝えると、
あそこに全部売るのかと聞かれたが、義理で少し売るだけだと言っておいた。
そうして俺達の乗った荷馬車はシュツーへ着いた。




