第十四話 翔馬『初めての協力者』
五歳の誕生日、僕はこれまでの人生の記憶を取り戻した。
「……何だったんだ前回」
異常な姉が異常なことをして世界が異常なことになって今までで一番マトモに見えるところが異常な青年とビルの屋上で……、
「そしてブラックアウト……気付いたら死んでないのに生まれ直している……訳わかんない」
でも今回がこれまで通りかといえば違って……、
「……何でお父さんが圓城寺の社員?」
今までは毎回薄給のヤバいのを転々だったのに……、
「ま、悪くはない、かな?」
両親はちょっと変わってるけど何時も通り優しいし、
「今回の姉ちゃんは優しいし賢いもんね」
後は……、
「男を見る目があれば最高なんだけど」
んー、やっぱり理想はカズ兄さんかな? ま、とりあえず、
「学ぶぞー!」
まずは『僕が姫』の視界に入る僕にならないとね。
……どうしよう、前回以上に異常かも。
僕は春休みに家族旅行で訪れた関東の中華街で、合流した一家を見て頭を抱えたくなった。
整った容姿の夫婦と、二十代前半くらいの美女が連れている子供達、毎回距離感に注意している多面性のある美少女一戸今璃と、何度か姉ちゃんとイヤンな関係になったことがある少年二人四倉緑郎と六崎月史、の三人を見て。
……はじめまして、じゃないんだけどね。結構仲良しなんだけどね……うん、記憶が戻った直後はそれまでの記憶が少し遠くなっちゃうんだよね。
「あれ? 今日は明君は一緒じゃないんだ?」
「ええ、ヨシヒコ、明は仕事がありまして、夕食頃に直接家に来るそうです」
彼ら以外にも姉ちゃんとほのぼのとした関係になったことがある六崎月明さんとも仲良しだよ! っていうか!
「へー、大変だなぁ、あ、あっ君は仕事平気だった? 春休みとはいえ平日だし」
「ふふ、司皇……弟は兄思いですから、快く送り出してくれましたよ」
お父さんと気安い感じで会話してるこの人。今までの人生では会ったことが何故かなかったお父さんの幼なじみの一戸淳司さんは、姉ちゃんが何度か傷つけられた男圓城寺司皇の異母兄だし……、
……どうしよう、ツッコミどころが多過ぎて……ええと、まあ、とりあえず、
「いっちゃん? 疲れてない?」
「んー、まだ平気です史ちゃん」
「一玻さん一玻さん、これ、龍井茶、試飲してみて? 好みかい?」
「……あ、結構好きです」
何だよこのバカップルズ!!
……チクショーうらやましい。
その後は二家族で買い食いしたり、民芸品や楽器を見たり、姉ちゃんや今ちゃん、一玻さん──一戸家の長女さんです──のコスプレにはしゃいだり、飲茶を食べつつ休憩したり、地元では手に入らない食材をばあちゃん達へのお土産に買い込んだり、中華街を回りました。
そしてその夜は淳司おじさんの実家である、ものすごでかい白家で、淳司おじさんのご両親と弟さん夫婦とそのお嬢さんと合流した明君も含め、賑やかに夕食を食べ、いつも使わせてもらってる客間で家族全員で寝ました。
……実は、隣に父ちゃんの実家である神定家もあるんだけどね。馬鹿でかい有名建築家が設計した洋館なそこは、固定資産税やら維持費を払う為に映画やドラマの撮影なんかに貸してるんで寝泊まりしづらいんだよ。
そんで旅行二日目で最終日の今日は、姉ちゃんがどうしても来たかったという道具街にいます。お菓子作りの器具を買いたいんだとか、かなり田舎に住んでるからそういう物を売ってる店が近場にないのはわかるけど、
「……ネットで買えば良くない?」
「翔馬君? 私にそれを言う?」
僕のうっかりでた呟きに姉ちゃんがアイアンクローと共に答える。……姉ちゃん機械、特にパソコン音痴なんだよね……、
そんな電子機器には嫌われてる姉ちゃんは、毎度変わらずの美少女で、厄介な異性に好かれてる。庇護欲を掻き立てる感じと、隣に置いたら自慢出来る感じがまずいんか特に今回の姉ちゃんは、自信と自意識に溢れたいわゆるイケメンにばかりモテる。
……そして、
「──見つけた! ぼくのエンジェル!!」
こんなぶっとんだ変態にも!
その手に光るものを見た僕は、思わず姉ちゃんを突き飛ばして庇った。如何にも正気じゃない男が目の前に迫っている。
──あ、今回は姫様に会う前に終わるのか。
そう僕は思い衝撃に備えた。けれど痛みは訪れず、男は父ちゃんに殴り倒されていた。
その後、警察で事情を話した僕らは淳司おじさんが紹介してくれた弁護士さんに後を任し帰路についた。
そして空港で待ち構えていたじいちゃんとばあちゃんに抱きしめられ、家に帰った。そこまで僕はずっとぼーっとしていた。
死を覚悟した時に感情を凍らせたから。
──刺されるのは楽な方だけどそれでも痛いからね。
なのでもったいないことにあんまり食べられなかった夕飯を終え、父ちゃんに無茶するな。と叱られながら一緒に入ったお風呂から出た僕は──子供部屋で仁王立ちした姉ちゃんに迎えられた。
「……今日のあれは何?」
と、
「あれ? あ、暴漢に……」
「あの時のあんたおかしかった……自分の命に頓着してない感じがした」
姉ちゃんは大きくて綺麗なベッコウ飴みたいな目に涙を浮かべ、
「あんたがあのまま死んでたら私……心が死んでた……だから」
キッと僕を睨みつけながら怒鳴った。
「命を大事にしろっ!」
と、
その時僕は気づいたんだ。自らが死に慣れ過ぎていることに、
そして姉ちゃんの言葉にこれまでの『終わり』の中で彼女の目の前で迎えたものがいくつもあることを思い出しぞっとした。
──もしかして僕、姫様を傷つけてきてた?
腰に手を当て真摯に僕を叱り、過ちに気付かせてくれた『姉ちゃん』に僕は、
九十八回目にして初めて、自分に数十回の人生の記憶があることを話した。
……ビミョーな表情をされちゃったけど。




