第八話 一玻『え、ショタオネ?』
社会人になりました。
……大企業の総帥ってこんな感じでいいの?
なんて言いますか圓城寺グループ。かなりアットホームな会社です。基本下の名前やあだ名呼びだったり、変なところで仕事している社員がいたり……ええと、そんな会社のトップな司皇は現在社員の福利厚生に力を入れており、社員とその家族に対して様々な慰安旅行、商業施設やコンサートなどを貸し切りにして招待、といったことをしております。
有休、産休、育休、といったものは必ずとらせ、全社屋に保育ルームを設け、入って良かった会社ランキング一位をとったりしました。
だからなのか結構司皇は社員達からフレンドリーに話し掛けられることが多く。
「ああ? 無能を雇い続ける訳ねぇだろ。できねぇなら学べ。……その分の金と時間は持ってやる」
的な返答をし社員達から兄貴! なんて呼ばれています。……まあ、
「「「淳司様! おはようございます!」」」
なんてどこでも野太い声で最敬礼を受ける父もいるのですが、
「……なんでソフトウェアがメインの企業なのに体育会系なんでしょうか?」
「んー、俺達『七席』も体育会系だし仕方なくないかい? ハニー?」
自室のベッドでの独り言に返事がありました。
「……ええと緑君? 世の中にはノックというマナーがあるんですよ?」
私、ペラクなった着心地抜群のジャージ姿でネームをパチポチ制作中でした。職場の同士達と楽しむ冊子の、です。そんな色々と人に見られたくない状況の私の目前には実は柔らかい染めた赤毛に、クリックリの黒いお目目がチャームポイントな、最近色気と野生味が加味された美少年──四倉緑郎君中学三年生がいます。……はい、攻略対象者の、
「だって一玻さん三回に一回はヘッドフォンしてて返事無いじゃん? 別に一玻さんがどんなカッコでどんなコトしてても俺っち今更気にならんし?」
「私は気にしますー……」
……いや、まあ、確かに普通に数年前まで一緒にお風呂とかしてましたし私の趣味も今更かもですが……が!
「あのね、緑君。女性の部屋に勝手に入るとか……変態扱いされてもしょうがないですよ?」
「んー、知ってるー、一玻さん以外の部屋には入ん無いから安心ね?」
テキパキと部屋に散らばる洗濯物を回収しつつおざなりな返答をする緑君。……ええと、
「私の部屋だけ……あ、いや、そういう問題じゃ、」
「一玻さーん、シーツと布団カバーも洗濯出すから下りて?」
「え、あ、はい」
「んで洗濯出して来たら掃除するから作業はリビングでな?」
「あ、はい」
「美味しーい鉄観音とお茶菓子用意するからいい子でな?」
「はーい!」
って…………あれ?
「……何だろう。着々と緑君に囲い込まれている気が……気のせい?」
「んな訳あるか……一玻、現実を見ろ」
……ですよねー。ちなみにここは出張先のホテルのお部屋、司皇のスイートルーム、今は打ち合わせ終わりにルームサービスでの夕食中です。
「うう、お、おかしく無いですか? だって緑君は攻略対象者なんですよ? ヒロインにメロメロになるはずの!」
「俺もそうらしいんだがぜってぇならねぇし……後、明も史も覚も……多分仁の奴も」
……う、まあ、ですがそれは、
「みんな最愛の人がいるから……」
「だったら緑郎もそうなっておかしくねぇだろうが」
「だって私ですよ!? 『一戸一玻』ですよ!? ……愛妻家設定の隠しキャラや公式カップリングの史君や覚様、明文化こそされていなかったけど初恋の人が、な明君はともかく片思いをこじらせ刃傷沙汰な女ですよ!? ……そして中身の私は何千年もの間三十分以上話した相手には恋愛不可の烙印を押されてきた……うう、やっぱり気のせいですよね? ですね!」
自分で言うのも何ですが惚れられる要素皆無です!
「……現実逃避もいい加減に……ま、良い、っていうか公式カップリングってなんだ?」
あ、あー、司皇には2の話はしてませんでしたね。……香奈子には色々聞かれ、話しましたが。
「ああ、あのゲームには2がありまして」
何故か出ました。
「おお」
「それは同じ時間軸のギャルゲーで」
それも何故か男性向けに。
「ギャルゲー? ああ、女を落とすやつな」
「それにはヒロイン……ええと六人いました攻略対象者それぞれに当て馬キャラが設定されていまして」
六人ともエッジの効いた子達でした。
「ああ」
「それが乙女ゲーム版の攻略対象者なんですよ」
っていうかそのままくっついた方が良いよねっ!! と、ほぼ全員が思いました。
「……ふーん、つまり梅子や今璃が攻略されると……どこのどいつだ?」
あ、うわー、さすが兄馬鹿叔父馬鹿……ですが、
「……え、いや、あの、すでにその未来は無いですし……ええと、知らない方が……」
フラグはポキッと折れてますし……、
「誰だ?」
……う、その無駄に整った顔で……はいわかりましたよ。
「うう、その主人公その2が……」
とりあえず当たり障りの無い方を、
「が?」
「今年入学して入社した櫻庭洋平君ですっ!!」
ちょっと可愛い顔の庶民君です。他の普通の女の子達の方が君には合ってる! と、プレイヤー全員が思いました。
「で?」
はい、2がいるならば、ですよね。……はー、
「そ、その1が………………桐生元治君、です」
すっごい言いづらかった。……だって、
「………………何なんだあのカップル」
2でもあの二人は婚約中、でしたので。
その1同士のすれ違いについてあーだこーだ言い合い夕食を終えました。……お家のご飯が恋しいです。
「っていうかなんで緑君あの美少女なヒロイン達には目も向けないんでしょうね……」
緑君が入れたお茶もです。……司皇のも悪くは無いですが、
「ああ確か桜花院の末っ子、善彦さんのお嬢さん……後、崎坂の娘だったか?」
三者三様の美少女なのですが……、
「はい……優菜様とは幼なじみな感じで……はい、仲良しな友人、以上って感じです。で、ユリちゃんとはにこやかに会話をする友人、以上って感じです……ヒロインその3さんに期待ですかね?」
ヒロインその1こと優菜様は親友! だそうですしユリちゃん──ヒロインその2の彼女は……家のお父さんの幼なじみの娘ってことで家族ぐるみの付き合いが……ゲームには出てこない設定ですよ。
「その3? が、公式で緑郎のカップリング相手なのか?」
「……いえ、緑君には公式の相手はいませんでした。……その3さんにはいますが」
香奈子が攻略しちゃってキャラがちょっと変わったスポーツマンの彼が、
「じゃあ崎坂の娘もその公式と結ばれんじゃねぇ?」
「うう、やっぱりそう思いますか? ……でもそうなると……いえ、これはまあ、置いておきましょう」
実は司皇にはエクストラの情報も言っていない……と、言うより……紗々蘭関係を……まあ、内緒です。……暴走が怖いですし……天才大戦争とか……うん、内緒です。
「つーか、緑郎趣味悪いけど年上好みだろ?」
唐突に司皇が言います。
「……まあ、そう、ですかね」
私に懐いてますし、
「んでヒロイン? は、同年代」
「……はい」
同い年と年下ですから。
「……あ、つーか、そのヒロイン? ……どんな感じだ?」
ん? どんな?
「え、ええと綺麗系のモデル美少女。小動物系の可憐な美少女。華奢で儚げな美少女。ですよ?」
美少女揃いですよねー。
「……で、お前の評価は?」
私の評価?
「え、ええと、顔と胸だけは……あ」
そ、う、か……ヒロイン達はっ!
「わかりやすいなあのガキ」
全員スレンダー、な女の子です。
……緑君……つまり君はっ!
「巨乳好きかっ!?」
緑郎君の反論。
「いや俺っち巨乳好きじゃないからね? ただ単に一玻さん一筋だから! ……まあ、おっきいのは良いことだと思うけど……いやハニーのならちっぱいも愛せるからっ! マジでっ!」
……否定しきれないようです。




