第五話 一玻『世界が彼女を……』
十二歳になった司皇は様々なものを切り捨てました。
肉親も共に暮らした使用人も──香奈子に害あるもの全て、
最終的に敷地の中央に建てられていた彼らが暮らしていた屋敷を取り壊し、彼は歪みきってしまった『圓城寺』という存在と決別をしたのです。
……ですが、
「……香奈子の歌声はどれほど罪作りなのですかー」
香奈子の危機は未だに消えてはいません。
「仕方ねぇだろ? 香奈子は音楽と相思相愛なんだから」
西日本にある城生院学園分校の寮の自室で、私は電話の向こうの司皇が深いため息をつくのを同様の気分で聞きます。……彼の恋人、牧野香奈子という少女の歌声はこの私が今まで聴いたことが無いほど美しいものなのです。それ故に、
「学園の先輩からの誘拐未遂? 学びに行った教室での監禁未遂? ……あのアホで可哀相な煉がいて良かったと思うことがこう何度もあるなんて……」
魅了され中毒状態になった方々が暴走を……あの実力と顔しか良いところのない、ゲームでは『私』同様、司皇に抹消される男がいたので未遂に終わったそうですが。
「……あー、ほんとプラハに送り出したくねぇ」
そんな歌姫は現在、桜花院家の後見を受けながら学園の音楽学部に所属し、二年生の今秋から一年の留学をすることになっております。
「出さなければ良いじゃないですか」
「……俺の嫁になったらほぼ出歩けねぇんだ。せめて学生の時分ぐれぇ自由にさせてぇんだよ……不自由しか与えられねぇ俺としては」
あら、まあー、随分と殊勝な……ゲームとは大違いですよねー。
「だったら笑顔で送り出して会えない時間で愛を育成すれば良いのではー?」
遠距離恋愛は一般的には別れることの方が多いらしいですけれど、
「……他人事だと思いやがって……仕事送ってやる」
「うわあ、ちっちゃいですねー」
「……うっせぇ」
そして香奈子はプラハに行き、
「ふふ、可愛らしい兄弟でしょー?」
攻略対象者を攻略してきました。
why!?
香奈子が足を折りました。原因は老朽化していた踏み台です。それは自らの主への不毛な恋に狂ったある少女の未必の故意故におこった事故でした。彼女は身命をとして自らを庇った少年と遠いところに去りました。
「これで本当に良かったのかな?」
見舞いに行った病院で、一連のことで自分よりも傷ついた恋人を心配する友人を見ながら私は、
数千年ぶりに自らの『記憶』を語ることを決めました。
「……つまり香奈子は子供を産んだら死ぬと?」
「可能性は跳ね上がると思う」
いざという時の為に仕込んでいたあれこれを使い速やかに私の記憶を信じこませた私は、世界が『牧野香奈子』という女性の存在を拒絶する可能性が高いことを完全なる信頼を寄せる存在達──司皇、両親、臣さん、『七席』仲間の志郎、その姉で香奈子の親友である深子と同じく親友の仄──に伝えました。
「子供を作らないという選択をしたらどうだ?」
「あまりオススメはしませんね。世界存続の危機を招く可能性は高いのに香奈子の死亡率が下がる保障もありませんから」
「……でも止めねぇんだな」
「あなたが世界の緩やかな死を背負うことになっても香奈子を救いたいと思うのならば」
カミサマですら世界にとっての正解を知らないのだから。
けれど、
「どうしてそんな大事なことを当事者の私抜きで決めちゃうのかな?」
彼は世界を背負うことはありませんでした。親友から情報を聞いて、隣室に隠れていた。全てを知った女性が、
「私は産みたいわ。司皇、あなたの子供を」
そう決めましたので。
司皇は翻意させようとしましたが、
「だって司皇がいるじゃない」
と、当たり前のように言われれば沈黙せずにはいられず、せっせと『箱庭』を整えることで、恋人の信頼に応えることを選びました。
ちなみに、仕込んでいたあれこれ──日本に来た時に書いて封印をし、お父さんに託していた登場人物達の名前と生年月日と色彩一覧、まだ生まれていないエクストラの主要三人は開けてません──でプラハの友人達が将来学園に来ることを知った香奈子に色々聞かれ色々話してしまい、
安全の為に避難させていたプラハで彼女は色々予言めいたことをしてしまったのですが……、
ええと、大丈夫、ですよね?
三兄弟の恋人について一玻が語った情報は、
『可憐なピアニスト』
『運命的な出会いをするヒロイン』
そして、
『暁の如き絶世の美少女』です。
もちろん具体名は言ってません。




