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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第一章 彼らは冷酷副会長と黒幕令嬢、又は、鳥籃の幸福の姫君と凶悪過ぎた当て馬、でした。

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圓城寺家の家族会議

三人称です。

 



 これは少し時間を遡って九月某日、紗々蘭(ささら)さんが栄次えいじ君を呼び出す三日前の夜の出来事です。


「えー、では、第一回岸元栄次攻略会議~、司会はわたくし、紗々蘭七席(ささらsセブン)の頼れるお兄ちゃん、四倉緑郎よつくらろくろうが務めさせていただきます、では、姫さん! 開会の言葉をどうぞ!!」


 赤髪の男、緑郎君がハイテンションで会議の開始を告げます、その手には電源は入っていませんが本物のマイク、彼は面白い事には全力で取り組みます。


「えー、本日はお忙しい中わたくしの私的な事情の為の会議にお集まりいただき誠にありがとうございます……では早速ですが本日の議題を『岸元さんがハイスペック過ぎて口説き墜とせるビジョンが見え無い件』、どうぞ忌憚の無いご意見とご提案をお待ちしています」


 紗々蘭さんもわざわざ立ち上がって発言し、頭を下げます、ノリノリです、ちなみにここは圓城寺家本邸内にある二十畳の座敷です、つい先程までここで紗々蘭さんと使用人さん達で秋刀魚パーティーを行っていた会場でもあります、会議参加者は後片付けを免除された人達です、


「普通にマスターなら色仕掛けで墜とせんじゃね?」


 紗々蘭七席(ささら,sセブン)の一人、諜報担当のクロエがバリバリと煎餅をかじりながら意見を言います、ミニスカメイド服姿なのに立て膝をついていて下着が見えそうです、


「クロエさん、意見は挙手をして、指名されてから言って下さい」


 緑郎君が注意をします、本当にノリノリです、


「ハイっ」


 紗々蘭七席(ささら,sセブン)の紅一点──クロエさんは入れ物はとにかく中身が紅とは言い難い──ミニスカメイド服を艶っぽく着こなしている美少女、今璃いまりさんが手を挙げます、とにかくみんなノリノリです、


「はい、今璃さんどうぞ」


 緑郎君が今璃さんを指します、


「まあ、確かにお嬢のビジュアルなら大抵の男──心に決めた女性ヒトがいるか、同性しか愛せないか、あと一切小児性愛の気が無い男、彼ら以外なら微笑み一つで墜とせます……ですが。ボクの見立てでは岸元栄次は少数派の墜ち無い男だと判断します」


 そう言って今璃さんはクロエさんの意見を却下しました、彼女は現在、中高共同の生徒会で執行部員をしている関係で同じ執行部員の岸元さんとは面識があり、女の勘も含めたその見立てには、なかなかの信憑性があります。


「ハイ」


 次に手を挙げたのは圓城寺グループ本社の秘書室長の淳司あつしさんです、四十六歳既婚、二人の娘を持つマイホームパパでもあります、緑郎君が手の平を上にして無言で発言を促します、


「ここは一つ圓城寺家の総資産を提示するのはいかがでしょう」


 ……マイホームパパがいきなり下司い事を言いました、淳司さんは少しあれなぐらいの現実主義者リアリストでもあります。


「……できればそれは最終手段にしたいと……」


 紗々蘭さんが手を挙げて発言します、指名制は既に消えました、挙手制はいつまで残るでしょうか?


「では、弱みを握り、頷くしか無い状況に追い込んでみるのはいかがでしょう?」


 手を挙げながら圓城寺家の家令、ロマンスグレーのいい男、月臣つきおみさんが発言をします……どうやら圓城寺家の大人は少々過激な人が多い模様です、


「いえ、岸元さんは簡単に弱みを掴ませる様な人ではありません、それどころか、それを逆手にとってこちらを牽制するぐらいの行為、楽しみながらやってのけます」


 月臣さんの提案に対し、紗々蘭さんが手を挙げながら不可能だと断言します、会議参加者から驚きの声が漏れました、彼らはようやく、紗々蘭さんがこの会議を開いた、その理由を理解したのです。


「……つまり議題そのままという訳か……」


 紗々蘭さんの父、司皇しおうさんの護衛の月明つきあきらさんが首を捻りながらぼやきます、ここで挙手制も消えました。


「結局、中身で墜とすしか無いと言う事か……ちなみに期間はどのくらいを設ける予定?」


 楽しそうに紗々蘭さんの髪を櫛削りながら、紗々蘭さんの専属運転手の深子みこさんが尋ねます、彼女は会議開始当初から紗々蘭さんの手をマッサージしたり、爪を磨いたりと、嬉々として紗々蘭さんを愛でていました。


「……できれば、反対派の父と一玻かずはが揃って出張中の今週中に墜としたいのだけれど……」


 そうです、そうなのです、この圓城寺家家族会議には、紗々蘭さんの婚約者候補を集めていた一玻さんも、家長を務める紗々蘭さんの父司皇さんも、共に参加していないのです、ちなみに一玻さんは栄次君との婚約に、司皇さんは紗々蘭さんが婚約する事自体反対なのです。


「……二人が帰って来たら、ありとあらゆる手を使って潰しにかかってくるよ……」


 紗々蘭さんは机に突っ伏します、実は現在進行形で邪魔されています、紗々蘭さんは必死で圓城寺グループ総帥とその筆(強大過ぎる敵)頭秘書と戦っています。


「……紗々蘭、ここは基本に忠実に攻めよう」


 これまでじっと会議を見守っていた、凛々し過ぎる美人──紗々蘭さんの専属護衛筆頭兼乳母のほのかさんが重々しく口を開きます、仄さんは紗々蘭さん担当の使用人達のリーダー的存在です、その発言には重みがあります。


「……敵を知り己を知れば百戦危からず……紗々蘭の持ち味は? 彼の弱点は? その二つがピッタリとはまれば、一週間の短期決戦でも勝てるはずだ」


 流石、筆頭護衛官です、兵法を引用し、勝利をもぎ取ろうとしています、……やはり彼女の圓城寺家の大人、発言が少々過激です。


「……私の持ち味……岸元さんの弱点……、いえ、そもそも簡単に突ける弱点が無い事が最大の悩みなのですが……」


 そうです、結局そこに戻るのです、つまり議題の『岸元さんがハイスペック過ぎて口説き墜とせるビジョンが見え無い件』ここに帰って来るのです。


 重苦しい沈黙が議場を包みます、その沈黙を、


「ハイ」


 と、挙手と共に破った男、その名は六崎月史むざきつきひと、彼は紗々蘭七席(ささら,sセブン)のリーダー、そして、攻略対象者、岸元栄次君のクラスメイトで友人、つまりは真打ち登場です、ちなみに既に破られ続け、原型を留めていないぼろ切れ同然のルール『挙手後、指名を待つ』をいまだに守り、緑郎君の指名を手をピンと伸ばしたまま待っています。


「んあ? あー、そうだった、はい、月史君」


 自分で言い出したルールをすっかり忘れていた緑郎君が周囲に責っ付かれ、ようやく月史君を指名しました。


「シュークリームを作れば良いと思う」


 指名を受けた月史君は簡潔に意見を述べます、……簡潔過ぎて議場に疑問符が飛び交います。


「えーと、シュークリーム?」


 司会の意地で緑郎君が尋ねます。


「ああ、それもカスタードオンリーで柔らかい生地のやつだ、それからたしか充填式だったか? 切れ目を入れ無いタイプ、あと、粉砂糖はマストだそうだ」


 月史君は重々しく頷き、作るべきシュークリームの詳しい内容を語ります。


「……つまり、それが岸元さんの好物なのね?」


 紗々蘭さんが真剣に確認をします、兄がわりでもある護衛の、洒落た冗談など言え無い、真面目過ぎる性格を知り尽くしている紗々蘭さんは、既に、作るべきシュークリームのレシピを頭の中で組み立て初めています。


「えーと、月史? それは信憑性の高い情報だよな?」


 長い付き合いで月史君の真面目さを熟知している緑郎君が、念の為、尋ねます。


「今日の二時限目、教師が所用で遅れていて、その待っている時間内に生徒会の仲間内で出た話題だ。当人が熱弁を奮っていたんだ、確実かつ間違いの無い情報だ」


 ……もの凄く新鮮で確実な情報でした、……ですが、熱弁を奮っていたとは……栄次君のシュークリームへの愛はどれ程のものでしょう……けれど、指針は決まりました、そう、それはつまり、


「やはり基本に忠実に、……男性の心を掴む前に、まずその胃袋を掴めと、そう言う事ですね……」


 そう言って会議を締め括ったのは、会議中ずっと出席者の間をお茶を入れ直したり、お茶菓子を補充したりと、忙しく行き来していた──クラシカルメイド服が良く似合う、紗々蘭さんの護衛見習いの──美少女、ゆずり嬢でした。




 ──さて、会議は踊り、そして進んで出た結論。




 ──果してそれは通用したのか? それとも否か?




 ──その答は、三日後の午後、たっぷりの試作シュークリームと共に紗々蘭さんから齎され、圓城寺家の使用人達に軽い胸焼けを与えたのでした。


 



 


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