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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼は癒しの執行部員、でした。

 

 と、いう訳で前フリからの……、


 三章ラストは桐生元樹君です。


 ブラコンでシスコン、そして……、


 彼が根を下ろすまでのお話です。

 

 





 【純粋培養な彼女と嘘つきな僕】



元樹もとき様は本当にお優しいのですね」


 彼女は口癖のようにそう言う。そして、


「貴方様が悪いお人に騙されないか、わたくしとても心配です」


 と、眉を下げ、続ける。


 だから僕は苦笑しながらこう応じる。


「大丈夫だよ、これでも君より長く生きているんだ。悪人の見分け方ぐらい知っているよ」


 そして、からかうように頬を撫でつつこう続ける。


「それより僕は君が心配だよ? 箱入り娘さん?」


 彼女が生まれる前に定められた。純粋無垢な許嫁に、


「君は疑うことを知らないからね、藍香らんかさん」


 この僕を優しいと信じ切っている少女──圓城寺えんじょうじ藍香に。



 【殺伐としている一族の隅っこの僕】



 『新興企業の創業者一族の直系』それが僕の肩書。


 その新興企業である桐生きりゅうコンツェルンは、今時どうかと思うが同族経営企業なので、波乱さえ無ければ将来はどこかの重役程度になる予定。個人的にはグリーンインフラストラクチャーに興味があるのでそこに従事したいと思ってる。


 僕は一族内で暴君なんて呼ばれていた祖父や、奸婦と呼ばれている母、そんな母の番犬と呼ばれている父、そして狂王と恐れられている兄に守られているので、まず間違いなくその希望は叶えられるだろう。


 ちなみに一族内で我が家が悪し様に言われているのは桐生の当主が弱肉強食のサバイバルゲームの末に、コンツェルンの重役や大株主達から選ばれるからだ。故に親族の集まりは常にギスギスとしているし、たまに脱落者も出る。


 そんな兄弟だろうが親であろうが蹴落とす対象だという人間がほとんどな桐生としては珍しく、我が家はとても仲が良い。自分が当主に向いていないことに早くに気付いた僕が、早々に兄のサポートに回ることを決めたことと、一族で一番当主に向いてると思われる妹が、その座に毛ほどの興味も持たなかったことも理由の一部だけど、大部分は向かいの桜花院おうかいん家の、特にユーナ姉さんが施した情操教育のおかげだろう。


 父母を敬い兄弟を慈しみ隣人を尊び、礼節を重んじる。そんな当たり前だけど大切なことを彼女は子供にもわかりやすく教えてくれた。……主にサブカルチャーを中心に、


 なので僕達兄弟はいわゆるリア充風の外見ながら十冊ほどの漫画雑誌を定期購読してたり、リビングのハードディスクの中身の大部分はアニメと言う人間だ。


 そんな僕らを見て、たまに姉さんが遠い目をするのは何故だろう?



 【華やかな兄弟と僕】



 たまに遠い目をするユーナ姉さん。彼女を姉と呼ぶようになったのは僕が初等部に入学してしばらく後、兄様と姉さんが十歳の時に婚約を交わしたからだ。


 周囲同様、二人が互い以外を選ぶなんて可能性すら見出だしてなかった僕は素直に受け入れた。けれど、


 ──いきなり姉さんって呼ぶのはおかしいかな?


 と、考え少しためらった。が、


「姉様姉様!」


「ゆーなちゃん、母様新しいドレスメーカーと契約しようと思ってるんだが……」


優菜ゆうな、博物館の特別展示の王家の秘宝展に行きたいんだったっか? 父様が車で送るよ」


 僕以外の家族は婚約以前からこんな感じだったので、


「……これからもよろしくね。ユーナ姉さん」


 と、彼らに習って若干の気恥ずかしさを堪えながら呼んだんだ。そんな僕に、彼女は笑顔で、


「はい、元樹君は可愛い弟ですもの」


 と、応えてくれた。


 彼女以上に素敵な姉はまずいないだろう。


 そんな素晴らしい女性に選ばれた兄を、僕は世界で一番尊敬している。


 持って生まれた才にあぐらをかかず、妥協せずに努力し。驕ることも、卑屈になることもなく。自然体で弱者を気遣い、強者を讃え、多様性も普遍性も受け入れ、それでいて決して自分を曲げない。


 兄様は僕がこうありたいと思う理想なのだ。


 ……まあ、


「ん、優菜はこちらのシルバーのラップトップの方が俺に似合うと? ……うむ、ではこちらを買おう」


 兄様の絶対に曲げないことの筆頭は姉さんの望みを叶えることなんだけど。


 そんな一見曲がりそうに見えて曲がらないのが兄様なら、鋼鉄のように見えて、柔軟に物事に寄り添えるのが元佳もとかだ。


 誰もが視線を奪われる華やかな美貌と溢れんばかりの才能を持つ僕の可愛い妹は一月ほど早く生まれていれば、もしくは別の街に生まれていれば有り得なかったこと……自分より優れた存在との遭遇を、たった七つで静かに、前向きに受け入れた。


 そして友誼を結び自らも相手もおとしめることなく対等の存在になった。


 ……まあ、


「はあ!? フェレット? レトリバーの方が可愛いでしょう!」


 あの女に対する態度が僕達家族以上に気安いところには幾許か寂しさを感じるけど。


 

 【見る目がない彼らと僕】



 そんな華やかな兄妹に挟まれた僕は『癒しの王子』なんて呼ばれている。


 確かに母譲りの柔和な顔は人に緊張を強いるものでは無いし、自己主張しない言動は我が強い人間が多い上流社会においては好感を持たれやすいのだろう。


 つまり癖の無い紅茶や、触り心地の良いラグに対するのと同じ評価。無いと少し困るが中毒性は無い。


 ……と、思うのだが……、


「元樹様! お席へ!」


「元樹様! タオルを!」


「元樹様! 強炭酸水です!」


 どういう訳か学園の僕の周囲は『信者』としか呼びようが無い連中が固めている。


 彼らは常に触れることが無い程度の距離に控え、先回りして何くれと僕の世話をやく。……自主的に、


 正直何が楽しいんだ? と、思うが、


「元樹様のお役に立つことが我等の幸せです!」


 なんてことをキラキラとした目で言われたら笑顔で、


「ありがとうございます」


 と、答えるしか無い。


 実際面倒な事柄や人物を遠ざけてくれる彼らには感謝してる。



 【性悪な親友と僕】



 とはいうものの……、


「……百人とは言わないが、両手で数えなきゃならないくらいの友人が欲しい」


 悪意ある人間はともかく好意を持ってくれている人間も遠ざけられている現状には思うところがある。……なぜなら僕の友人は、


「君みたいな自分も他人も信用して無い人間が、まともな信頼関係を構築出来るとも思わないけどねー」


 学園の昼休みの屋上で、経済誌とファッション誌をパラパラと流し読みながらおざなりな相づちを打つ女──一戸今璃いちのへいまりただ一人だからだ。


「……そういうお前も友人はいないだろ?」


 物事のほとんどを損得で見ているお前に、まともな信頼関係が構築出来る訳が無い。と、問い返した。が、


「んー、まあ、少ないのは否定しないけど君を入れれば片手は埋まる」


 友人は雑誌から目を上げ自慢げに答えた。


「……誰?」


「元佳様と優菜先輩とお嬢の友人と家族ぐるみの付き合いの子」


 ……………………驚いた。


「えーと、損得で考えたらまずい人間か……」


 後、ちょっと気になったのは、


「お前、友人を様付けするのはどうなんだ?」


 それも年少の、


「お嬢の親友を呼び捨てには出来ないよ。元佳様は元佳様だし」


 そして今璃は自分の発言に深く頷き、


「うん、そうだ。元佳様は元佳様ってあだ名だね。ボクの中では」


 という結論を出し、再び雑誌をめくり初めた。


 ……うん……なるほどあだ名……。


 まあ、それはそれとして……先程は流れでいないと決めつけたが、こいつは僕と違い、明るく人懐っこい人間に思わせている為知人は多い。なので驚いたのは、


「……お前のことだからてっきりクラスメイトのだれそれの名前を出すかと思った」


 真摯に答えてくれたことだ。


「んー、一応ボクは君の親友ってことになってるからねー。正直に答えるよ」


 ……さらに驚いた。と、いうか、


「……お前なんかたくらんでるな」


 こんな素直な言動……厄介事を押し付けられる気配がひしひしとする。


「はは、酷いよ元樹。ボクはとても傷ついた。なのでこれを」


 今璃はわざとらしく泣きそうな表情を作り、そして読んでいた雑誌を二冊とも開いて差し出す。


「……ああ、この読者モデルか」


 そこにはちょっとした『遊び相手』の女性の笑顔と、彼女が婚約している男の会社の記事。


「うん、ちょっとこの会社が圓城寺にそよ風を吹かせそうなんだよねー」


「わかった。今度のパーティーでちょっと彼女と……彼の前で遊んでくる……代わりに」


「元佳様に一目惚れしたっていうヨーロッパ貴族の対処は任せて」


 そして僕達は屋上を後にする。


 これが利と理と共感とほんの少しの信頼で結ばれた僕と彼女の友情の在り方だ。



 【聖女と呼ばれる女と僕】



 親友と僕は『本物オリジナル』に信奉する『予備スペア』という共通点を互いに感じとり友誼を結んだ。


 僕にとっての『本物』はもちろん兄様だ。


 そして親友の『本物』の名は圓城寺紗々蘭(ささら)


 元佳の親友でもあるこの年下の少女は、目と目があった瞬間からずっと、


 僕の天敵だ。


 父に連れられ、正式ではない見合いとして訪れた圓城寺邸で彼女を見た時、何故か懐かしさと申し訳なさを感じた。そしてその感情のまま謝罪の言葉がこぼれそうになった時、神が作り上げたかのような容姿の幼女は言った。


「あなた、この世のすべての不幸に責任を感じているような辛気臭い顔をしていますね」


 と、その言葉に、


「君こそ! この世のすべてが自分とは関係ないっていうすかした顔をしてるじゃないか!」


 多分生まれて初めて声を荒げられたのは、


 未だに謎である。


 まあ、そんな感じで顔を合わせる度に嫌みの応酬をする極めて非生産的な関係の僕と女は……多分、世界で一番互いを理解している。


 故に決して相容れることはない。



 【彼女を得る前の僕について】



 僕の名前は桐生元樹。


 桐生コンツェルンの創業者の直系で華やかな兄妹と、見る目がない信者と。性悪な親友と、聖女と呼ばれる天敵を持つ中学生。


 甘いものが苦手で新鮮なサラダと刺激的な料理や飲み物が好き、趣味は散歩、部活は弓道部、悩みは皮膚が弱いことと相手がいるはずの年上女性にばかりモテること。


 人と競うことと規範から逸脱することが苦手。親切であること、品行方正でいることに違和感を感じる。本当の自分をさらけ出せないくせに、飾っている自分に好意を持たれることを嫌悪する。


 虚実の中を漂い溺れそうになる自分を家族に依存することで保つ卑怯で臆病な偽善者。


 これが藍香さんを世界にプレゼントされるまでの僕。


 安息の地を得る前の僕だ。



 【小さな許嫁と僕】



「婚約?」


 中等部に上がり初めての春休み、朝から市営の弓道場で練習をし、バスと自転車を使い帰宅した僕に、珍しく酒気をおびたお父さんがニコニコと笑いながら告げた。


「ああ、司皇しおうから圓城寺と桐生の婚約を結ぼうか、と、言われて……もちろん元樹が嫌なら流してもらうが」


 お父さんの説明によると、昼間、ご近所さん達と飲み会をしていた際、僕とあの女の婚約が流れたことに未だに親戚達がグチグチ言っていることを聞いた司皇さんが提案したらしい、


「ええと……でも相手は?」


 一戸姉妹には恋人がいるし、あの女は婚約したばかりだし、


梅子うめこちゃんはさとり君のだし……」


 七席家の誰かを養子に? ……いや、それじゃ老人共は納得しないな。


「んー、とりあえず相手は一戸さん家のお姉さんのいつか生むだろう娘、だ……まあ、元樹とその生まれるかもわからない子との婚約じゃなく、我が家と圓城寺の婚約だから……元治もとはるの子供と紗々蘭さんの子供にスライドされることを見越して気楽にのんびりと構えていて良い」


 ……それはずいぶんと気長な話、でもまあ、それなら、


「おじさん達を安心させる為に……うん、お受けするってお伝えして?」


 どうせあの恋愛体質な圓城寺家だ。生まれて来た子供が僕に運命を感じなければすっぱりと断られるだろう。


 と、思い期待など欠片もなく頷いた。


 すると驚くほど早く、その翌年に僕の許嫁は誕生した。


 浮かれる周囲につられ、彼女が胎児の頃から圓城寺家に訪れ見守っていた為、生まれた時からかなりの情愛を抱いた女の子。折々にプレゼントを渡し絵本を読み聞かせた女の子。将来、好きな人が出来たの、と、伝えられたら泣く、そう兄のように思っていた女の子。


 そんな彼女と高等部最後の学園祭のダンスパーティーで踊りながら思った。


 ──僕、この手を離せるのかな? と、


 全幅の信頼と純粋な愛情を向けてくれる女の子がいつの間にか僕の支柱になっていた。



 【魅惑的な許嫁と僕】



「もときさまだいすきです」


 あの日、しっとりとした熱く柔らかな手で僕の指を握り締めていた女の子は、


「元樹様大好きです」


 十二年を経て、誰もが見とれるほど美しく魅惑的に育っても変わらず僕に信頼と愛情を向け続けてくれている。


「僕も藍香さんが大好きだよ」


 離さねばならないとずっと思い続けながらも僕は、ほっそりと長く少し冷たい指に変わった彼女の手を変わらず握り反していた。


 ほとんど下を向いていた十二年前と違いあごを上げ、許嫁をエスコートをしながら僕は決めた。


 刷り込みのように僕を慕う少女の未来を奪うことを、


「春、君が十六歳になったら籍を入れよう」


 ひざまずき許しを乞うた僕を、彼女は泣きながら抱きしめてくれた。



 【幼妻と僕】



 三つ目の名字である桐生藍香になった彼女は、学業で忙しいだろうに毎日楽しそうに僕にお弁当を作ってくれている。そんないじましい彼女を見ていると、色々思うところはあるが義姉になった女に感謝せずにいられない。彼女に良妻賢母教育を施し、汚い言葉や下品な事柄、一切の危険から徹底的に遠ざけた女には。


 僕の自慢の妻は完全無欠の大和撫子である。


 彼女がくっきりとした二重の瞳をキラキラと輝かせ、豊かな黒い巻き毛と白いエプロンを翻し、玄関に出迎えに来る度に、彼女をもう女性としか見えなくなった僕は何年もの間、理性の限界を試すことになるが、


 僕は生涯彼女の優しい夫であれた。


 何時しか嘘は真になっていた。





















 ──癒しの執行部員ルート消滅しました。











 ──他のルートに進みますか?


   YES NO

      ▲











   YES NO

    ▲



 ──…………………………、



 ──………………………………、



 ──……………………………………、



 ──…………………………………………、



 ──ERROR ERROR、



 ──他のルートが存在しません、



 ──他のルートが存在…………、










 

 

 お読みいただきありがとうございます。


 三章はこれで終了です。


 幕間を挟んで最終章『転生者の望んだ閉幕』を初めます。


 ではまた……、


 の、前におまけを、


 藍香さん視点の小話です。


 ……ええと、彼女は性悪ではありません。




 【補遺編 貴方様の為のわたくし】



 よのなかには親切な方がたくさんおられます。


「お可哀相に、一回り以上年上との政略結婚などと……どうか私に貴女をお慰めするご許可を」


 とは、学園の先輩、


「ご存知ですか? 課長はコーヒーがお嫌いなのを」


 とは、旦那様の部下の女性、


「昔元樹君にはとても親しくしてもらったの……また仲良くしても良いかしら?」


 とは、パーティーでお会いしたご婦人、


 わたくしは、挨拶を交わす程度の関係であるわたくしを気遣かってくださるみなさまの優しさに感激しながらも、


「いいえ、わたくしには慰めなど必要ありませんわ。だって旦那様は大好きな初恋の方ですもの」


 先輩にはお断りの言葉を、


「まあ、おうちではおいしそうにコーヒーをお飲みになっておりますのに……ありがとうございます。教えてくださいまして」


「まあ、妻であるわたくしを気遣かってくださるなんてありがとうございます……ですが断りは不要でございますわ、旦那様がお付き合いなさる方は旦那様が決めることでございますもの」


 部下の方やご婦人には感謝の言葉をおかえしします。


 それでね。わたくしはお外での出来事は、必ず旦那様にご報告いたしますの。そのたびに旦那様は、


「ま、高校生にして見れば三十男はオッサンだろうね」


「ふふ、僕はコーヒーが嫌いなんじゃ無くて、藍香さんが入れたコーヒー以外が嫌いなんだよ」


「……ああ、あの人か……んー、仲良く、ね……彼女のご主人はヤキモチ焼きだからなぁ」


 と、呟きながらわたくしの髪を撫でてくださいます。そしてこう続けるのです。


「藍香さんの周りに親切な方が多いのは藍香さんがいい子だからだよ」


 とてもお幸せそうに。


 ほんとうはわたくしもわかっていますの。慰めの意味も、彼女達の本心も、けれど元樹様が、


「君は本当に疑うことを知らないね、藍香さん」


 純粋無垢なわたくしをお望みになります限り、


「そうでございましょうか?」


 ずっと嘘をつき続けますわ。だって、


「愛していますわ。わたくしのお優しい旦那様」


 愛しい貴方様の幸福以上に大切なものなど存在しませんもの。


 ね?











 ……もう一度言います。彼女は性悪ではありません。


 ……圓城寺の女の子ってだけです。



 では今度こそ本当に、


 またお会い出来る日まで。


 

 

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