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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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78/121

彼らは優しい学園長と厳格な理事長 、でした。~父,S飲み会

お久しぶりです。


今回はパパさん方の愛妻との馴れ初め話、三人称です。


……後書きが長いです。






 三月末の土曜日、桜花院おうかいん家の食堂で桜花院(しのぶ)さん。桐生創介きりゅうそうすけさん。イヴァン=エルンスト=岸元きしもとさん。圓城寺司皇えんじょうじしおうさん。の四人がまだ日が高いのに酒瓶を転がしていました。ただし中身を消費しているのはほとんど仁さんとイヴァンさんの二人であり創介さんと司皇さんはお酒は舐める程度で、食器を片付けたりツマミを作ったりしています。すると、


「……むせぇ」


 この場で唯一賞味に堪える料理を作れる人間、顔立ちも口調もきつめの美男子、司皇さんがそう吐き捨てました。彼が作った山菜の天ぷらに野太い歓声が上がったからでしょう。


「うん、うん、そうだね、気持ちはわかるね、でも司皇君が帰っちゃたら僕達缶詰と乾き物だけで飲まなきゃならなくなっちゃうからね、うん、司皇君がさとり君を借りたからだからね、うん、我慢してね?」


 とは、上機嫌であまりアルコールを飲まない桐生家と圓城寺家に届いた貢ぎ物──高級だったりレアなお酒──を空にし続けている上品で可愛らしい中年男性の仁さんです。


「……はあ、ま、しゃあねぇ、か……つーかなんでこんなむさ苦しい飲み会してんだ?」


 ため息一つで諸々を諦めた司皇さんが若干今さら感のある質問をします。彼は常通りに勝手口から勝手に入った食堂でこの男臭い飲み会に出くわし、当初の参加者であった覚さんにエプロンと菜箸をバトンのように受け取って流されるまま料理をし、お酒を飲んでいたのです。


「ああ、家のが新たにエステサロンを開いたらしく、そのモニターを近所の女性陣に頼んだんだ」


 司皇さんの質問に答えたのは極めて薄い水割りをグラス半分ほど飲んだだけなのに武道家のような厳つい顔を真っ赤に染めた創介さんです。彼の奥さんは職業──ウエディングプランナー──関係のお店をいくつか経営しています。


「ふふふ、僕のシズルがより魅力的になって帰って来るのを美味しいお酒とお料理をいただきながら待つ、幸せだよねー」


 醸造酒も蒸留酒も水のように飲みながらフワフワと笑うのは甘い顔立ちのイヴァンさん。妻を女神のように讃え愛する男性です。彼のその性質は完璧に息子さん達に遺伝しています。


「……ふーん、じゃあ伊薙いなぎ殿と伊織いおりは?」


 司皇さんが追加の質問をします。桜花院家に仕える家令さんと執事さんに料理担当を投げたいようです。


「伊薙はお仕事だよー。伊織は朋子ともこさんについておっきい病院に」


 ですがお二人ともお出かけでした。


「……ああ、伊織がやっと観念したんだったな……おめでとう」


 司皇さんが幼なじみの同級生を軽く笑った後、仁さんに初孫の誕生を祝います。


「ふふ、ありがとう。……本当ねー、六年もねー、結婚もしたのにねー……子供が出来たら朋子さんが新たな人生を送れないとかねー……困った婿だよ。まったく」


 仁さんは祝福に感謝を返し、少し頭の固い婿について愚痴をこぼし、グラスの芋焼酎をクイッと空けます。既に十杯ほどを空けているのに顔色にも発言にも酒精の影響は一切ありません。


「まあまあ、婿を愚痴れるのも娘持ちだけの幸せじゃないですか……あー、本当にうらやましい」


 イヴァンさんが空いたグラスを満たしながらボソリと愚痴ります。


「……婿」


 婿という単語に表情を険しくするのは司皇さん。つい先頃、彼の溺愛する娘さんが婚約した為でしょう。


「あ、そういえば、紗々蘭(ささら)さん婚約したんだったな? 一般人って話だが、どんな相手なんだ?」


 創介さんが同じ娘持ちの立場から祝いの言葉は言わず、代わりに質問をしました。


「……ケチの付け所がどんどん無くなってるところがムカつくクソガキ」


 司皇さんは心底忌ま忌ましそうに答えます。彼のお嬢さんの婚約者さんは能力、容姿、交遊関係、婚約者への愛情、全てが極上レベルだったりします。


「……紗々蘭が選んだんだからまあ、一級品なのは仕方ねぇし、相思相愛になったのは喜ばしい……が」


「が?」


「気に食わねぇ!」


 男親の魂の叫びです。


「……気持ちはわかる司皇。……私も同じ気分だ。……元佳もとかが私と義母と同じ性質であることは理解していても、な」


 深ーく、同意するのは創介さん。彼のお嬢さんの求愛者の少年も、能力、容姿、交遊関係、愛情、全てが極上レベルなのです。そして、彼の言う彼や姑さんから遺伝した性質とは、


「あー、愛を視覚化して捧げられなきゃ不安になる性質? それとも狂気に近いほどの執着じゃなきゃ愛を実感出来ない性質?」


 付き合いの長い仁さんが言うような、


「……どっちもです」


 ウサギじみた愛されたがりです。


「……いや、でも私の場合、あおいに会うまでは普通の子供だったから、多分あいつの影響だと……」


「えー? 元々の性質が出会ったきっかけで表面化したんじゃ無いのー?」


 クスクスと笑いながら仁さんがツッコミます。彼らは歳の離れた兄弟のように仲が良いのです。


「……子供、ってことは出会ったのは小さな頃なのかな?」


 不思議そうに尋ねるのはイヴァンさん。彼ははす向かいの夫婦の馴れ初めを知りません。


「……小さな、ってほどじゃないな……私とあいつが小学五年生の時だから」


「男の子達に囲まれている葵ちゃんを創介君が助けたんだよー」


「へえ、ロマンチックだね。詳しく聞きたいなあ?」


 仁さんが暴露したきっかけに少し垂れ気味の灰色の目をキラキラさせてイヴァンさんが創介さんにねだります。そんな子供のような彼の視線に、創介さんはしばらく逃げようと無駄な努力をした後、観念し語り出しました。


「……まだ、私が単純に生きていた頃、鉄鋼業の社長の家でのガーデンパーティーでの話だ」


 と、






 ──あの日、私は少し機嫌が悪かった。


 その日は我が家と叔父一家でゴールデンウィークを使った旅行で東京に来ていて、予定では動物園に行くはずだったからだ。


 だが、前日に父が付き合いのある鉄鋼業の社長と会って、自宅に恩着せがましく誘われたことで私と両親は堅苦しいスーツで愛想笑いと婉曲表現の世界に参加することになり、そこで私は子供達が集まっているところに向かうことになった。


 そこは大人達の雛型のような空間で、私のような地方の零細企業の美形でも無い子供には立場が無くてな。子供の頃から厳つい顔立ちだったから直接的な嫌がらせは無かったが……まあ、遠巻きにされていたんだ。


 そこに葵がやって来た。主演女優のように。


 その容姿と家の財力で異性同性関わらず、その場の視線を独占したあいつは、ひどくつまらなそうに取り巻き達をいなしていて……それを見た私は思った。


 ──外見は心優しいお姫様みたいなのに……がっかりだ。って、


 今思えば勝手に期待しといてって話だが……まあ、興味が失せたんだ、それに企業規模も違い過ぎるし、その頃の私は地元の同業者の娘と婚約していたからな。だからすぐに彼女から視線を外し、しばらくしてその場からも離れたんだ。


 ……ん、ああ、いたんだ婚約者。経営統合の為の政略結婚の相手の……気立ての良い普通に可愛い一つ上の子が、


 で、しばらくぶらぶらと自慢らしい庭を歩いていると奥の人気の無いところで少し年長な男達に囲まれている葵を見つけてな……どう見ても葵は嫌がってるし、男達はなんか気持ち悪い笑顔だし、ってことで、


「よかった桐生さん。屋敷の近くでお父さんが探してましたよっ!」


 と、大根な芝居をし、救出した訳だ。そして人の多いところまで連れて行き、


「じゃあ、本当にお父さんの側に行った方が良いぞ」


 って言い捨て私自身も両親の側に行き、その日は何事も無く終わった。


 で、数ヶ月後、私と婚約者の実家が桐生に買収されそうになるまで忘れていた。







「これが私と葵の出会いの顛末だ」


 創介さんは淡々と語り終えました。


「………………ええと、なんで結婚したの?」


 色々と衝撃的な馴れ初めを聞いたイヴァンさんが誰もが抱くであろう疑問を尋ねます。


「ん、当初はふざけるな、と、思っていたが……葵、馬鹿みたいに私が好きだし、婚約者は実は私の従兄弟が好きだったし、従兄弟も婚約者が好きだし、実は私、家業にそれ程愛着無かったし…………なんだかんだと葵に惚れてしまったから、だな」


 ちなみに現在、創介さんの実家の調理器具メーカーは従兄弟さんと元婚約者さんが手を携え発展させていっています。


「…………え、あー、うん? ……まあ、今、みんな幸せなら良いよね」


 イヴァンさんがまだ完全には飲み込めていないけど良かったねー、と笑います。そんな彼に、


「そういうイヴァンと静留さんの馴れ初めはどうなんだ?」


 創介さんが君も惚気て見ないか? と、水を向けます。当然愛妻家なイヴァンさんは嬉しそうに語り出します。


「ふふ、それはねー、僕が十六歳の時、通っていたプラハの音楽院に彼女が入学してきたんだ」


 と、






 ──ある日どうにも心が騒ぐ演奏が聴こえ見に行ったサロンに彼女はいたんだ。


 超絶技巧曲を顔色ひとつ変えず弾き熟す彼女は女神のように美しく……僕は一目で信奉者になった。けれどその日はそれだけ、それからも僕はただ遠くから彼女を見つめるだけだったんだよね。美しく堂々とした彼女に比べ、僕は貧乏でダサい貧相な子供だったからね。はは、アプローチなんて夢の又夢だよ。


 ……そんな一方的な関係が変わったのは一年くらい後のこと、日銭を稼ごうと路上でヴァイオリンを弾いていた僕を……彼女が見つけてくれたんだ。


 その頃の僕は困窮していてね。田舎を出る時に祖母から貰ったお金が底をついたんだ。両親は僕が演奏家になるのに反対していたから仕送りなんて期待出来ないし、年齢的にもなかなか仕事にありつけなかった。僕に才能があれば学院の先生が下宿させてくれたかも知れないけど、そんな誘いはなかったしね。


 だからせめてパン代を、と、演奏していたんだけれど……誰一人足さえ止めてくれ無くてね。諦めかけてた時に──彼女が目の前に現れたんだ。


 ……恥ずかしいことにその瞬間空腹と疲労で倒れかけてしまってね。そしたらシズルは心も美しいからそんな情けない僕を部屋に入れてくれてご飯をくれたんだ。






「それから彼女に演奏家は見た目から観客を魅了しなきゃダメ! って叱られて……で、彼女のプロデュース通りの格好をしたらコンクールに優勝出来るようになって……シズルの演奏もより良くなって……で結婚したんだ」


 イヴァンさんはさらに顔を甘くしながら語り終えました。


「……静留しずるさんはイヴァン君のどこに惚れたんでしょうか?」


 若干失礼な感想を漏らしたのは仁さん。けれどそんな彼の発言も気にせずイヴァンさんは、


「なんかねー、演奏と顔がすごく好みだったらしくてね。あ、それから優勝するようになって結構モテ始めたのに一途にシズルを口説き続けたことが決め手かな?」


 と、惚気続けます。そんな彼の発言を使い、


「……へー、一途さか……仁とは縁遠い言葉だな」


 と、最年少が最年長を揶揄します。


「えー、失礼だよ司皇君。僕もリコがいた頃は彼女に一途だったよ」


 揶揄にも動じずクスクスと笑って反論する仁さんは、司皇さんのことを実は息子のように思っていたりします。そして、


「いい機会だから教えてあげよう。僕がどれほどリコを愛しているかを!」


 と、これから惚気ることを高らかに宣言し、こう始めました。


「僕が彼女を見つけたのはある政治家の資金集めパーティーで、新人秘書の彼女は吊しのスーツ姿なのに着飾った女性達よりも誰よりも──輝いていたんだ」


 と、






 ──リコ──坂町有子さかまちありこは素材も美しい女性だ。すらりとした長身も優美な顔立ちも、けれど彼女の素晴らしさはそのセルフプロデュース能力だと僕は思う。


 自分を一番魅力的に見せるメイクと着こなし、表情、角度、全てを計算しつくした美しさがリコなんだ。


 そんな彼女は聡明で野心家でけれど孤独な女性で、その危うさが……堪らなかった。


 だから直ぐに連絡先を聞いて何度もデートを繰り返して、言動と違いとても身持ちが固い彼女にどんどん夢中になって……、





「で、彼女が先輩秘書である政治家のどら息子に物陰に連れ込まれそうなところを助けてプロポーズしたんだ「もの凄い贅沢はさせてあげられないけど容姿と家柄には自信があるから僕を選んで」ってそしたらリコ、はにかみながら頷いて……可愛かったなあ」


 うっとりと在りし日の元妻を思い出し頬を染め、仁さんは語り終えました。


「……いつ聞いても思うが、そんなに熱烈に口説いた嫁なんだからもっと大事にしろよ」


 頭痛を堪えるような表情で司皇さんが結婚前後の態度の違いを詰ります。


「えー、だって僕、不安定なリコに欲情するんだもん。子煩悩なママのリコも愛しいけどそういう姿には欲情しないんだもん」


 それに対して仁さんは夫としても父親としてもかなりあれな言い訳をします。


「それに耐え切れなくてあの女子供置いて逃げちまったんだろうがっ! 子供達に申し訳なく思え! つーか……もんもん言うな! いい年こいて!」


 司皇さんのツッコミはいつでもとても真っ当です。



「……本当、司皇君は圓城寺にしては普通の感性だよね」


 それから一刻ほどお説教が続きました。けれど反省の色も、二回り下の青年に小言を言われたのに堪えた様子もなく仁さんがしみじみと言います。彼は子供達により、お説教耐性が出来ているのです。


「………………はあ、香奈子かなこと……会うのが早かったからな」


 深いため息をつきブランデーを一舐めし、司皇さんが答えます。そんな彼の発言に引っ掛かりを感じたのはイヴァンさん。彼は、


「早かったから? ってどういう意味?」


 と、尋ねました。そんな疑問に答えたのは司皇さん以上に圓城寺の人間に詳しい仁さんでした。


「圓城寺の血筋の人間はね。電撃的に一目惚れする相手が精神安定剤なんだよー」


 そして続けます。


「圓城寺はねー、優れた能力と引き換えにか大抵ちょっと心が欠けてるんだー、まあ大抵はそれを埋める存在がいて。で、その人と出会うのが早ければ早いほど屈折せずに育つんだよー」


 と、そんな解説に司皇さんも補足します。


「らしいな……その理屈でいえば生まれる前から側にいた今璃いまりが屈折率ゼロで、俺、梅子うめこ、紗々蘭、一玻かずは、兄上の順番で屈折してるってことになってる。……それで、会った後は精神状態が落ち着くんだが……」


「それまでが災厄なんだよねー……出会ってからは恋人一人に集中するから安全だけど……いけにえになった恋人以外は」


 唯一の存在に会うまでの圓城寺さんは暴君な方が多いのです。そして出会った後は感情と能力の大半をその方に注ぎます。ですが……、


「……失踪者、いますよね?」


「僕が知る限りでも二人の男性が、ね」


 受け入れられなかった場合は……、


「圓城寺の血統の女は裏切られたら激昂するんだ……で、二度と無いようにする……で、男の場合はっていうと……受け入れてもらえるまでとにかく縋る、尽くす、付き纏う……相手が壊れようと」


 たとえ憎まれても失わないようにします。


「過激だよねー……あっ、そうだ婚約者君にそれ教えて忠告した?」


 仁さんが軽いのは圓城寺さんが不貞以外では恋人にはとにかく甘いことを知っているからです。そして長い付き合いの桜花院家の人間はその破滅を食い止める義務感をもっています。ですので、言ったよね? と、確認します、が……、


「……………………」


 司皇さんは無言で目をそらします。


「は!? ちゃんと教えないと! 可愛い娘を犯罪者にする気!? ……ああ、もうっ! とりあえず一度会わせてっ! 実例も交えて説明するからっ!」


 仁さんが焦っているのは少年時代の後悔が関係しています。……昔、色々あったのです。


「必要ねぇよ……ムカつくけど……あのガキぜってぇ紗々蘭だけは裏切らねぇし……ムカつくけど……ちょっとトラブったけどそれでも変わらず大切にしてるし……すっげえムカつくけどっ!」


 実は婚約者君は身をもって知っていたりしますが焼きもちやきって可愛いよね! と、喜びました。


「……なんだ、結構買っているんじゃ無いか? だったら認めれば良いのに……僕は娘の彼達も息子のように可愛いよ?」


 司皇さんの言葉に仁さんは安心し、そして不思議がります。彼は娘婿達ととても仲良しです。


「……兄上もそういうがそれは赤ん坊から知ってる相手だからだろう? ……俺の場合は子供とは言えねぇサイズに育った奴がポッと出て来て掻っ攫いやがったって、感覚なんだよっ!」


 実は最近、娘の婚約者に身長を抜かされ、そのことが殊の外ショックだった司皇さんです。


「……そりゃ、な……俺の香奈子に会うまでを考えれば早く会えたのは喜ばしいことだとはわかってる……」


 本当は彼も理解しています。最愛の最愛になれる幸せを、けれど、


「でも、頭では納得しても感情は納得してねぇ! まだ紗々蘭子供だしっ! つーか育っても……あーもーっ! 多分一生しねぇ!」


 父一人子一人の男親(イコール)親バカ、でした。



「うん、じゃあ司皇君も惚気よう! 香奈子ちゃんとはどこで出会ったんだっけ?」


 つーかなんで仁は納得してんだよ、とか、あかり元治もとはるはわかるけど伊織は可愛くねぇだろ、とかと、グチグチと絡み酒の様相を見せはじめた司皇さんの気分を変えようと最愛の奥さんについて語っちゃいなよ! と、仁さんが促します。すると、司皇さんはたちまちご機嫌になり語り出しました。


「香奈子が育った教会の前っ! ……あの時の香奈子の笑顔は一生忘れねぇ……」


 と、






 ──あの日、俺は家出の真っ最中だった。


 両親は無関心だし、姉は敵意丸出しだし、妹は執着して来るし、『妹』には関われないし、使用人は片手ほどの相手以外は俺の人格を無視するし、入った学園にも面白い奴はいなかった、ってことでやさぐれてたんだ。


 そんで、色々面倒になって殺されるかさらわれるかするよな、ってわかっていながら護衛をまいて家出した。


 でもその家出は直ぐに終わった。『外』に通じるトンネルを抜けて一時間もしないところで香奈子に──俺の太陽に出会ったから。


 ただただ歩いていた俺があの場所に差し掛かった時、香奈子は楽しそうに道路を掃除していた。すると突風が吹いて香奈子のあのサラサラとしたチョコレート色の髪がなびいて……俺の足元にそれを留めていた髪留めが落ちた。


 白いレースが付いたそれを何の気なしに拾ったところで香奈子が振り向いて……そして笑いかけてくれたんだ。


「ありがとう。拾ってくれて」


 って、その時俺は知った。


 『君と出会った瞬間世界が色付いた』なんて、くだらねぇラブソングの歌詞が真実だったことを、






「で、俺が家出中だって知った香奈子や教会の連中に説教されたり、香奈子が作ったおやつを一緒に食べたり、香奈子の歌声に衝撃を受けたり、してたらおみが迎えに来て、香奈子を安全に側に置くには家を掌握するしかねぇ、って唆されて……で、俺一人じゃ無理だから仁や雄三ゆうぞうに頭下げて……兄上を見つけて頭下げて……で、幸せになった訳だ」


 司皇さんはそう締め、とても複雑でとても美しい笑顔を浮かべました。


「……本当に香奈子ちゃんは得難い女性だったよね……僕も雄三さんも司皇君以上に香奈子ちゃんの人柄に賭けて君の味方に付いたんだし」


 仁さんは友人であり教え子であった女性にグラスを捧げ飲み干します。創介さんとイヴァンさんも無言で続きます。


 そんな彼らをみながら司皇さんは思い返します。穏やかとは言い難い自分の側が一等安らぐと笑う、最愛の最期の言葉を、


 彼女は言いました。


「五十年後に、たくさんの土産話を持って来てね。待ってるから」


 と、


 彼は何時か語るでしょう。友人達と過ごした時間を、その時感じた温かさを、


 彼女に。


 


 




















 ──優しい学園長ルート消滅しました。











 ──厳格な理事長ルート消滅しました。











 ──他のルートに進みますか?


   YES NO

      ▲





 

 

 

 ここまでお読みいただきありがとうございます。


 この先は蛇足、もしくは、前フリのお話です。



 【瓢箪から駒】



「そういえば、紗々蘭さんの婚約に、桐生のジジイ共が騒いでた」


 司皇さんが作ったスープチャーハンを食べている創介さんが珍しく柄の悪い発言をします。彼は婚家の親類と二十年以上険悪な関係なのです。


「ああ……あいつら、昔っから家と縁組したがってるもんな」


 と顔をしかめるのは、独身時代から引っ切り無しに彼らからの縁談を持ち込まれている司皇さんです。


「んー? なんでそこまで? 現状でも充分仲良しじゃないか?」


 わざわざ政略結婚なんてしなくていいよね? と、聞くのは泡盛をロックで飲んでいるイヴァンさんです。


「将来を不安視してかねー、共同子会社を足掛かりに併合されるのでは無いかとびくびくしているんでしょ? 身内にだけ甘い圓城寺の身の内に入りたいのはわからないでは無いかなー」


 テキーラの瓶を空けながら仁さんが答えます。


「……いらねぇのに桐生」


「それはそれでちょっと嫌かな?」


 社長達は苦笑しつつ、お茶をすすります。そして、


「つーか、しても良いぞ。『圓城寺』と『桐生』の婚約なら」


 司皇さんは酔っているのか突拍子も無い発言をします。


「え? それはどういう?」


 創介さんは思わず聞き返します。


「だから圓城寺の血統と桐生の婚約。……まあ、創介の血統ならだけど……分家はたいしたのいねぇし」


 司皇さんは詳しい条件をあげ提案します。ですが、


「……いや、そもそも圓城寺にフリーの子供いないじゃないか」


 創介さんはツッコミます。何故なら司皇さんの家には未婚女性は四人いますが全員売約済みなのです。けれど、


「一玻にそろそろ産ませるから問題無い」


 と、司皇さんはサラっと答えます。どうやら彼はその最年長の女性の子供を予定しているようです。……ですが、


「……ええと、一玻さんの相手はまだ学生だよね?」


 その相手は仁さんの末娘の同級生、つまり高校生です。


「えー、良いだろ別にー、家、学生結婚、学生出産、珍しくねぇし、仄とか紀香とか」


 ですが司皇さんは具体例をあげて問題無いと言います。……圓城寺には高校生で母親になった女性が二人います。


「……いや、っていうかそもそも年の差ありすぎでしょう。速やかに結婚出産して、娘が生まれたとして十四歳差だぞ?」


 いやいや、と、創介さんが根本的な問題点を指摘します。が、


「無くは無くねぇだろ? ……っつーか『圓城寺』と『桐生』だから、元樹と生まれて来る子供限定じゃねぇから……数十年くらい、俺が死ぬまで継続させとけば……ま、外野は安心するだろう」


 と、彼は笑って答えます。実は婚約を成就させる気は無い司皇さんでした。


「……あー、なるほど……でも元樹が……」


 司皇さんの思惑は理解した創介さんです。が、次男さんを気遣い断ろうとして……気付きました。


「あ、喜ぶな」


 と、その理由とは、


「元樹は変な女性にばかりモテてるから」


 次男さんの女難体質です。なので、


「……うん、一応元樹に確認するけれど多分よろしく頼むことになるな」


 ニッコリ笑い頭を下げました。


「ああ、任せとけ」


 司皇さんも笑って請け負います。



 と、いう訳で酒席のノリで、圓城寺と桐生の婚約は結ばれました。



 そんな婚約が成就したのは、


 十七年後のことでした。





 の、お話を多分今日中に投稿いたします。


 よろしければお読み下さい。


 

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