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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼は陽気な書記、でした。

お久しぶりです。今年もよろしくお願いします。


で、今回はラストメイン攻略対象者の緑郎君です。


微妙にシリアスでRな結婚式の夜のお話です。

 


 





 晴天の五月に小さな教会で、どこまでも混じり気の無い白のウエディングドレスに身を包み、絶望と書かれた顔で彼女は父親に引きずられ、俺──四倉緑郎よつくらろくろうに手渡された。


 誓いの言葉をなかなか言わなかったり、逃走を図ったりと、色々と往生際が悪い彼女を脅したり宥めすかしたりして婚姻届を書かせたり、提出したりした俺は、準備していた新居に彼女を抱えて入り──そのままベッドに横たえた。


「待って!! 話し合いましょうよ! というか色々どういうことなのかしら!?」


 ……うーん、とことん往生際悪いなー、まあ、でも、


「話し合うのは大賛成よ? 俺がどんだけハニー──一玻かずはさんを愛してるか……心身に教えこんであげるからな?」


 俺の可愛い姉さん女房は珍妙な悲鳴を上げて本日二度目の逃走を図った。



 【一目惚れ】



 ……ん? そもそも私のどこに惚れたんだ、って? 


 あー、一言で言うと一目惚れ。


 今日俺らが挙げた教会での、ご当主と香奈子かなこ様の結婚式での、な。


 ──何でこの人こんなに泣いてるんだ?


 それが俺があんたに抱いた初めての感想。


 だって花嫁の父でも無いのに結婚式で大号泣だぜ? 不思議過ぎじゃん?


 で、お父さんに紳士たれ、って育てられた俺としては慰めなければ、って使命感を感じる訳じゃん?


 ……そ、今日は花嫁の父だったのに終始娘に良い笑顔を向けていたお父さんの訓蒙よ。


 で、ハンカチ片手に声をかけた俺にあんたは、


「くっ、さすが未来のドンファン、年齢一桁からフェミニストとはっ!」


 って叫んだんだけど覚えてるよね? あんた忘れる能力ねぇし。


 ……はは、で、今の俺のどこがドンファン? こんなにハニー一筋なのに、予言外れてるよな?


 くくっ、で、騒いでるあんたに呆れながらやって来たご当主の紹介で俺はあんたがお父さんの上の娘でご当主の『七席』だって知ったんだ。


 ……ん? その流れのどこに一目惚れ要素が、って?


 あー、とっても幸せそうなのに不安そうなあんたの泣き顔。


 ヒャヒャ、俺あんたの泣き顔、すっげーツボなんよ。


 あ、こら、逃げようとすな、ベッドから落ちるぞ。


 ……大丈夫、痛いのはまだまだ先だから、ふふ、しばらく気持ちイイことしかせんよ? 安心してな?


 ああ、そんな怯えんで……わかったよ、しばらくお話だけで我慢するさ。


 十年以上待てたんだもん、もう……一時間くらい……平気、と、虚勢を張るさ。


 だって俺はあんたが大切で大好きで大事だからな?






 ──そう、十年以上俺は彼女に片思いをしてきた。


 十一年前の早春、黒いドレスに身を包み、ハラハラと泣いていた彼女に。


 思えば俺は初めから彼女に魅入られていた。


 長身を自慢するようにシャンと伸ばされた背筋、起伏に富んだ肢体、キッチリと纏められた豊かな黒髪、どこまでも女性的な容姿にも関わらず、どこまでも性を感じさせない雰囲気の彼女に。


「お姉さん大丈夫?」


 号泣の後は珍妙発言をし、主人から叱られた彼女に、色々と含んで尋ねると、一玻は女子高生とは思えないほど落ち着いた声音で言った。


「ええ、平気よ。十年近く見守っていた二人のこの良き日に、ちょっと感極まっただけだから」


 そしてふんわりと微笑んだ。けれど俺はその笑みに微妙な違和感を感じた。


 ──作り物みてぇ。と、


「……もしかしてお姉さん、ご当主に惚れてたの?」


 だからそれらしい予想を伝えてみせた。ら、


「気色が悪いことを言わないで貰おうかっ!」


 と、鳥肌を立てながら渋面を作った。


 ──ああ、やっぱり。


「お姉さん、そっちの方が可愛いよ。ニセモノの笑顔よりも」


 笑いかけ率直な感想を伝えると一玻は、


「まさかの主人公発言!? 君はどこを目指しているのよ!?」


 と、又しても珍妙発言をした。


 ……まあ、彼女の趣味に付き合った今ならわかるけどな。



 【縛られる】



 ……ん? それから一年くらい会わなかったけどほんとに惚れてたかって?


 はは、もちろんさ、ハニー?


 ……ま、気付いたんは再会した時だったけどな。


 ……そうあの日に、な。






 ──冬晴れのあの日、ご当主は信じていた存在に裏切られた。


 彼の『七席』は、恋情に囚われ狂った二条にじょうと、そんな女を見捨てられなかった五藤ごとうが既になく、五人に減っていた彼らはさらに今日、名誉欲に駆られた三澤みさわが離反し、ある男が六崎むざきであることを放棄したことで三人になった。


 ──そして彼は最愛の女性と過ごす日々に期限を付けられた。


 病院で座り込む俺達は、誰もが傷つき悲しみに暮れていた。そこに分校──桜実城生院学園に通いその寮で暮らしていた彼女が息を切らしやって来た。


 そんな彼女を認めた主は、憔悴した顔ながらきっぱりと、


「一言でも謝罪を口にしてみろ、ぶん殴るからな」


 と、睨みつけた。


 すると彼女は口を開け閉めし、ただ静かに彼の隣に立った。


「香奈子は来年を迎えられないそうだ」


 ご当主は酷く平坦な声でそう告げた。


とうは既に出奔した。れんは傷が癒え次第放逐する」


 そして淡々と続け、


「……先は?」


「……わかりません。けれど私達は生きるしかありません」


「……そうか……ここは俺一人で良い、いや、一人にしてくれ」


「……はい、皆をつれ帰宅いたします」


 俺には理解し難い会話を交わし、別れた。



 彼女と共に帰宅した俺は家にいた長兄と末兄に抱きしめられた。


 その瞬間涙がボロボロと出、そして気付いた。


 ──あ、俺怯えてたんだ。と、


 そのまま長兄に抱き着きながら泣き続け、末兄にからかい混じりで慰められた俺は、翌日、検査入院をしている姉の見舞いと、主を見えないところで見守っている次兄への差し入れを約束し、眠りについた。



 ──その夜、目覚めたのは運命だと思う。


 喉の渇きを感じ下りた、暗い食堂で俺は、制服のまま床に膝を抱えて座り込み、


「ごめんなさい……ごめんなさい」


 嗚咽混じりで謝り続ける一玻を見つけられたから、


「……お姉さん風邪を引くよ?」


 声をかけ、肩に触れた俺を見上げる彼女の顔は涙で汚れ、


 ──どこか迷子のようだった。


 その時悟った。


 ──俺は彼女を守る為に生まれたんだ。って、


「ねぇお姉さん、お姉さんはこれから大変なんだからちゃんとしなきゃ」


 だからそんな尤もらしいことを言い彼女と入浴し、


「お姉さん……俺一人で寝るの怖い」


 と、甘えてみせ、翌日以降もくっついて離れなかった。


 そんなあざとい俺にお父さんは彼女のいない時に、


「……ありがとう緑郎……一玻を頼むよ」


 優しい笑みを浮かべて肩を叩き、見舞った病室では、


「……悪いな緑郎……そのまま一玻についててやってくれ」


「ええ、お願いね緑君、一玻ちゃんを守ってね……彼女自身からも」


 と若すぎるほど若い当主夫妻に頼まれた。


 だから俺はそれからずっと一玻の側にいて彼女を守っている訳だ。


 でもどういう訳かお父さんとご当主にはこの時のことを謝られるんだよなー、


 俺は本当にすっげえ幸せなのに。



 【変わらない関係】



 ……ん? あんなに可愛い子がいっぱいの学園で他に目が行かなかったか、って?


 ……酷いなー、一玻さん、俺の純愛を疑うなんて、俺は本当にあんた一筋よ?






 確かに城生院学園には魅力的な女子が多い、その筆頭はもちろん学園長の娘である俺の親友──桜花院優菜おうかいんゆうなちゃんであろう。


 品の良い顔立ちに優美な物腰、落ち着いた言動、うん、当然男女問わずモテる。特に初等部入学後直ぐはあの彼女関係にだけは暴君な少年がいなかった為、よく男子に囲まれてた。が、


「緑郎君……男の子達少なくなりました?」


 彼女は生まれついての男性恐怖症である。……結構重症な、


「大丈夫よ? 優菜ちゃん、俺がついてるからな?」


 ってな訳で幼なじみっぽい関係で慣れてる俺が同じクラスで守っていた訳だ。


 ちなみに初等部のクラス分けは理事や大口寄付者の意向が優先されているから、俺と優菜ちゃんはずっと同じクラスだった。つまり学力分けの中高等部も合わせ十二年連続で同じクラス、それは、


「君達、女の子を取り囲むのはやめなさい。怯えているでしょう」


 正義感は強く、表情筋は怠惰な腐れ縁──春日井柊耶かすがいしゅうやも一緒だ。


 この頃の奴には今のような圧迫感が欠片も無く、育ちの良さが全開で、優菜ちゃんが懐いたからです。


 ……まあ、小舅のように口うるさいのは変わらんので俺達の関係は、


「緑郎! 制服を着崩し過ぎです!」


「イイじゃん、これぐらいー」


「……二人共静かにしましょう?」


「「はい……すみません」」


 今と変わらん訳ですが。



 【紗々蘭『七席』(ささらsセブン)】 



 ……ん? 俺よりご当主を優先するけど良いのか、って?


 んー、当然俺も姫さん優先だし……え、まさかあんた嫌なの?


 ……あー、よかった平気で、たまに余所から来た嫁婿が嫌がって離婚騒ぎになるじゃん? ビビったさー。


 ……ああ、うん、姫さんがニッコリすれば即解決のな。






 俺は世界一一玻を愛してる。だが彼女と主人──圓城寺紗々蘭(えんじょうじささら)、どちらを優先するかと言えば当然主人である。


 主人>>恋人>家族(同僚)>>>友人。は、『七席』の基本姿勢、だから一玻が俺よりご当主を優先しようが焼かない。っていうか当然だよな。って感じだ。


 そんな『七席』に俺が選ばれたのは姫さんが初等部に入る少し前、梅が香る頃のこと。


「『七席』は今璃いまりたく松太しょうた、緑郎、伸喜のぶよし月史つきひと、クロエにする……異論は無いですね?」


 その日、屋敷の全住人を集め姫さんが宣言した。


 ……まあ、順当、だよな……一人を除いてだけど、


「なんで楡晶にれあじゃなく松太なんだ?」


 ご当主の質問は全住人の疑問、何故真面目で実直で男前な兄じゃなくて、


「ひ、ひどいですよー! ごとうしゅさまー!」


 甘ったれでマイペースで馬鹿な弟なのか? は、


 で、それに対する姫さんの返答は、


「んー、楡兄にれにぃと話し合って……松太は私の言うことぐらいしか聞かないし……料理長も一緒に育った家族が安心だし……松太を野放しにするのは心配だし……ってことでこうなりました」


 だった。その言葉に全員があー、と頷いた。で、俺は思った。


 ……これ俺が常識人ポジじゃね? と、


 学園ではアナーキストポジな俺の、家での世話焼き兄さん生活が始まったのである。


 ……自由人多過ぎだろ、うち。



 【依存させる】



 ……え? 何? 未だに逃げれる気なん?


 はは、ハニーは甘いなぁ、これまでの十年俺が何もせずに側にいたかい?


 ……ふふ、そう、あんたは俺に慣れ過ぎてるんよ。






 俺は一玻を守る為、彼女の隣に居続ける権利を求め気付いた。


 ──あ、結婚すれば良いんだ。と、


 てな訳で彼女を口説こうと思ったんだが……、


「……大学生が小学生の告白を本気にする訳ねぇよなー」


 十一歳差は厳しいものである。


「んー、どうしたんですか緑郎君?」


 登校したクラスで机に打っ伏してると優菜ちゃんが優しい声をかけてくれた。なんで率直に答える。


「……年上の女性に相手にされずへこんでるー」


 と、好き好き言っても流されんすよー、半年間変わらず。


「……え、緑郎君お好きな女性が?」


 すると優菜ちゃんは固まった。……なんで? ……は、まさか俺に気が…………は、ありえんな……んー、


「まあねー」


 ま、なんでもいいか。


「……なるほど……お相手は?」


「ヒャヒャ、内緒ー」


 予測出来るだろうけどな。


「……まあ頑張って下さいませ」


「……生温い応援ありがとう」


 優菜ちゃんは昔っから薄情、である。逆に、


「それは緑郎に真剣さが足りないのでは?」


 この頃はそこそこ柊耶は優しかった。


「……真剣に言ってるんだけど、信じてもらえんのよ」


 やっぱり、


「……長期戦かなー」


 どうせ結婚は十年後だし、


「うっし、俺がいなきゃ生きれんようにしよう!」


 囲い込みは圓城寺のオハコだからな。


「……まあ頑張って下さい?」


「……いや、駄目でしょう、頑張っては」


 周囲の雑音は聞かんことにした。



 で、それから俺は……、


「んー、料理長、こんな感じでよろしいですか?」


 家事を習い始めた訳っす。


「……もう卵を入れて良いですか?」


 それは数年後には明兄も含めた圓城寺の美少年達で、になった。


 姫さんが、


「家事能力の無い女性と結婚するかもだし習うべきだな」


 と、不吉な予言──約二名には事実──を言った為全員真剣だ。


 まあそんな姫さんは、


「私は家事が好きだから出来ない人の方が良いかなー」


 らしい。で、俺の嫁──一戸一玻は、


「部屋汚っ! 洗濯物山っ!」


 壊滅的に家事能力0である。……うん、好都合。


 てな訳で一玻の部屋の掃除と洗濯物の回収は俺の担当になり、俺は一戸家の合い鍵を手に入れた訳さ。


 ……だから逃げられないだろ? ハニー?



 【秘密は駄目】



 ……ふふ、ハニー? 俺っちがこんだけ色々話したんだ。あんたも話そうぜ?


 ……はは、何って?


 『城生院さん』、ヒロイン、俺が未来のドンファン、


 ……あんたが一戸一玻になる『前』の話さ。






「緑郎、ちょっと一玻を尋問……いえ、質問攻めにしてくれ」


 ウエディングドレスの最終確認をしている姫さんから『お願い』されたのは昨夜のこと、


「ん? 何を聞けばイイんです?」


 もちろん俺に否は無い。


「んー、一玻の前世の記憶」


「………………へ?」


 ……主が真面目な顔でファンタジーな発言をした。


「ショウにあるって言ったよな? で、私の勘では90%以上の確率で一玻にもある」


 …………それは、


「……基幹の情報は?」


 主の『勘』は基本的に情報からの予測……まあ、それだけにしては超常現象的な的中率なんすが。


「んー、一玻とショウが同じく忘れる能力を持たない人間だってことと……ショウが言うには『城生院さん』は毎回あること、で、アプリに『城生院さん』って名前をつけるよう言ったのが一玻だってこと、かな?」


 ……あー、つまりかー君との相似かー、うーん、確かにかー君に前世の記憶があることは信じたけど、


「でも、『城生院さん』をお助けアプリの名前、は学園の人間としてはおかしく無くないかい?」


 助けてくれる=『城生院さん』は学園生ならおかしく……、


「あ」


 でも一玻さんは、


「分校出身なのに?」


「……あー、うん、あっちにゃ七不思議の『城生院さん』はねぇっすね」


 そもそも中央塔がねえもん。


「それプラスママの……岸元兄弟への予言だな」


「あー、『暁の姫(姫さん)』『運命の音の乙女(百合恵ちゃん)』『運命のヒロイン(ゆずっち)』?」


 実際、出会ったし直ぐに惚れたもんなー。


「うん、ショウが言うにはこれはくっついたパーセンテージが多い組み合わせらしい」


 ……つまり、


「多分パパや……おじ様に深子みこも知ってる……だからな? 夫になる緑郎も知っておくべきだろう? ……ふふ、夫婦間に隠し事はまずいもんな?」


 ……うん、ダメよな、秘密は、


「ヒャヒャお任せを姫さん、俺がじっくりと尋問……じゃなくて質問して吐かせるな?」


 ってな訳でした尋問は……とーっても楽しかったです。



 【初めてって……嬉しいよな】



「んー、つまり一玻さんは神様? に命じられてこの世界に来たんか?」


 綺麗に洗わせてもらった恋女房を抱きしめながら湯舟に浸かる俺は教えてくれた情報を確認する。


「……ええ、そう……この九百九十九回も失敗している時代を成功される為に私はこの世界に生まれて来たのよ」


 色々とグッタリとしながら答える奥さん。彼女が言うには、


 ──世界には分水嶺ターニングポイントたる時代、場所がある。


 ──バタフライエフェクトや風桶の始点たるそれが、ここ数年間の城生院学園。


 ──だが九百九十九回も繰り返している。


 それは、


「んー、主に姫さんとかー君が早死にしてるのが原因っぽいって?」


「うん……人の死はその血統の断絶だもん」


 『のぞき見(かんなぎ)』と呼ばれる存在が見たこの世界を元に作ったのが乙女ゲームやギャルゲーなのも、


「多分……ゲームでの攻略対象者の血統に世界に影響力がある存在が生まれるんでしょうね」


 色恋の結果の妊娠出産だそう……即物的だなー。


「で、主に紗々蘭の死亡フラグを折る為に毎回開始時に死んでる私と香奈子……と煉を生き残らせるのを最初は目的にしていたの」


 失敗しちゃったけどね。そう彼女は呟いた。


 ……あの日の会話の意味が漸くわかった。


「で、そういうのを私達は『定命化』って呼んでるの。……パターン化した死って意味で」


 どうしても確率の高い終わりには抗えなかったらしい。


「……はー、だからね……今回も既に失敗しているかも知れないのよねー」


 ……でも、


「生きるしか無い。んだろ?」


 もうやり直しは出来ないそうだ。


「……ええ」


 彼女は俺を見上げなんとも言えない顔で頷いた。……そして、


「……っていうか……数千年間守り通した純潔がーっ!!」


 と、いきなり叫んだ。


 ………………え、


「数千年間? ……え、つまりあんた……これまでの人生ずっと……処女?」


 数百回の人生を覚えているとか言ってたよな?


「処女で童貞だったわよ!!」


 ………………は?


「童貞……って、え」


「私、男女どちらででも生まれれる柔軟な魂なの」


 どこか自慢げに彼女は豊かな胸を張る。


 ………………、


「……で、これまで一度も?」


「結婚はもちろん恋人もいなかった……っていうか私は二次元にしか興味がなかったのに……なんで結婚……いや、緑君が嫌な訳じゃないわよ? ただ色々と……って!? え、ろ、緑君!?」


 んー、道理で反応が初々しいと……はは、


 すっげえ嬉しい!! だからな?


「ねぇ一玻さん、イイこと教えてあげるな? ……男はな? ……こんなの初めて、に……すっげえキュンとするもんなんだよっ!」


 まあ、盛っちゃうのは仕方がないよな? ね?



 【あ、負けるな】



「対策は学園内の記憶持ち転生者の出方を確認してからじゃないと難しいと思いますねー……」


 姫さん達と情報を共有して対策に当たりゃあ、ここしばらくの騒ぎも収まるか、と、言った俺に入浴前以上にグッタリとした一玻さんはちょっと顔をしかめそう告げた。………………ん?


「え、他にも記憶持ちがいるのか?」


 思わず驚きの声を上げた俺に、前夜に骨付き肉から出汁をとって準備をしておいたチキンフォー──パクチー増し増し──を幸せそうな表情で食べる伴侶は頷き続けた。


「ええ、確証はありませんが可能性は高いかと……誰かわかりませんでしたのでこれまで司皇しおうにも伝えていませんが」


「可能性が高いのに誰かはわからんの?」


 どういうこと?


「……いや、何て言うか……テンプレ化してるキャラが崩壊してるんだけどどうしてかが……多分記憶持ちが色々やったと思うんですけど……それがキャラ崩壊した本人か周りかが……ええと、緑君……その……桜花院優菜さんとさとりさん、桐生元治きりゅうもとはる君、なら誰が転生者だと思います?」


 ………………え、


「その三人の誰かが?」


 全員と結構仲良いんすけど!?


「うん、そのねー、桐生兄弟がキャラ崩壊してるの。で、年齢的なことを考えるとその三人かなーって」


 ………………、


「見分け方とかあんの?」


「うーん、まあ、その、あの……間違いなくオタク! ぐらい?」


 ……あー、同人ゲームをやってたからかー……うーん、でも、


「三人共普通にゲームやアニメ漫画を楽しんでるし……あー、とりあえず姫さん達と話し合うかー」


 俺にゃBLGL大好きな俺の奥さんレベルのオタクじゃないことしかわからないですよ。






 食後、ちょいイチャし、パッパとリネンを取り替えたベッドで泥のように眠る愛妻の、癖の無い長い黒髪を撫でながら俺は昨日──いや、一昨日の放課後のことを思い返す、


 結婚式の招待状を渡した俺に呆れた表情を向けた親友と、面白そうな笑顔を向けた先生と、なんだか心配そうな視線を向けた後輩を……多分後輩が一番常識的だろうけど……、


「……正直誰が転生者だろうとあの三人は団結するんよなー」


 で、


「覚先生のカリスマと元治ちゃんの権力と財力、そして優菜ちゃんの……策略」


 ……うーん、


「多分一玻さんじゃ勝てんよなー」


 ま、


「ヤバくなったら俺や姫さん、ご当主が入りゃイイか」


 全員悪人、では無いし……多分。



 【あー、良かった、な?】



 翌々日の放課後、夕飯前に姫さん達学園生とご当主達大人組、合わせて十五人で話し合うことになった。


 多分優菜ちゃんに付くだろう元佳もとか様はいない、で、


「……うわー、あちらからコンタクトとってくれてたー」


 とりあえず騒動の犯人らしき、確定転生者の映像を確認していたところ、三人から多分一玻さん宛てのメッセージがあった訳だ。


 そんで、チャットで話し合いの日時を決めてたら、あちらと一玻さんが勝負することにいつの間にかなり、予想通り一玻さんが負け、なんだかんだで一玻さんは優菜ちゃんにひざまづいたんだけど……、


 それはまあ、またってことで、


 ……あー、うん、まあ、とりあえず……一玻さん、


 …………良かったな。



 【あ、なるほど】



 翌年、俺達夫婦の間に玉のような女の子が生まれた。


 で、彼女の生んだ子供が画期的なバッテリーを生み出した。


 で、世界のエネルギー危機と環境汚染は少なくなっていった。


 だから俺は妻子孫ひ孫に看取られながらこう思った訳さ。


 ──あ、なるほど、ってな。



 【終わりと始まりの賭け】



 ──前代未聞『図書館ライブラリー』に懸想する存在とは、


 ──また同じ世界? 記憶を保って?


 ──受諾。確実に会えるようにする。


 ──けれど、その前に一度、試させてもらう。


 ──記憶の封印を厳重にし、


 ──君もあの子も今世とは全く違った器に入れるという試験。


 ──それでも君はあの子を見つけ愛せるか? という賭けを。


 ──承諾。では送る。


 ──ああ、最後に一言。


 ──我は負けることを願っている。











 私は賭けに勝利した。



















 ──陽気な書記ルート消滅しました。











 ──他のルートに進みますか?


   YES NO

      ▲





 





 







ですが、続きます。


次話補遺編、


緑郎君の微コメな十年のお話です。

 

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