彼女は悪役令嬢、又は、ツンデレ令嬢、でした。5終
元佳さん編ラスト、一万字超です。
【悪い子な眠り姫】
あの後直ぐに姉様達の接触禁止は何故か解かれ、桜花院家は約十年ぶりに全員で裏のお宅にご招待されたそう。で、
「ゆーなちゃんと一緒なら平気だろうし……遊びに行っても良いよー、もちろんあちらのご都合も考えてな?」
私の圓城寺家訪問許可も条件つきで出たわ……まだお邪魔していないけど。
ちなみに紗々蘭の外堀工事は着々と進んでいるのかあの子はイヴァンさんにヴァイオリンを習うという贅沢なことになったそうで……、
「……悔しいくらい音が艶やかになったわね」
放課後、中央塔のボールルームに響く、彼女の音色は美しくなったわ。……まあ、
「それとも恋の恩恵?」
こっちの可能性もあるけれど、ね。
「モカたん……あまりからかわないでくれ……からかうなら楪を」
「しゅ、主君!?」
「配下を売らない」
そして楪──友人になったの──は光三朗君に熱烈なアプローチを受けているらしいわ。
「っていうか……両思いじゃないって本当? あの方、あんたをかなり大切にしてるわよ」
実はあの後、二人っきりになる機会があって、
「……栄次君は紗々蘭の腹心になるの?」
って探りを入れたんだけど、
「んー、紗々蘭さんの話では隣に並ぶでも背後に控えるでもなく……違う立場と視点で社を見て欲しい、って感じだったかな?」
と、表情も声もびっくりするほど甘くおっしゃられて、
「というか腹心は元佳ちゃんじゃ? 何と無く驚きの種類が他の連中とは違うし」
と、探られ返されたわ。
「……ええ、まだ兄や姉様には内緒だけど将来はそうなるわ。……今は色んなことを話す親友、だけど」
将来的に私に望んでいるのは隣でしょうし。
「くくっ、じゃあ将来の俺の上司かな?」
「え? 上にはお行きにならないの?」
それなりに野心がおありになるのに、と、不思議に思い尋ねたら、
「んー、元佳ちゃんが隣なら、ね。……斜め下から見守るのが一番役立つかな? って、ある程度は上がる予定だけど」
と、慈愛すら感じるほど穏やかに答えたの。
──あの態度を見れば、
「相思相愛おめでとう」
若干胸焼けするほど深く理解するわよ。
「……え、あ、いや……え?」
けれど当の本人は理解していない……んー、楪?
「……主君は彼の君の他者に対する態度を知りませんし……実は、例のお方は主君の前では糖質控え目なんです」
アイコンタクトに答えてくれた楪が耳元で囁く……んー、
「何故に?」
「その、理由までは」
……今度聞いて見ようかしら……いえ、馬に蹴られるわね。
「まあ、それは良いとして……何であの子落ち込んでるの?」
昼食までは元気だったのに今は……見えないしっぽと耳が垂れてる気がするわ。
「……実は、明日のデートが流れまして」
「え……まさか逃げっ!」
「では無く生徒会のお仕事で……体育祭の準備に不備があったそうで」
……危険な本質に気付かれ逃げられたかと思ったわ、
「……そういえば大兄様と姉様もお疲れのご様子ね」
なんか実行委員が使えないとか、
「……適当な理由をこしらえて罷免……ああ、悪い子になってしまう……」
なるほど……落ち込んでる理由はデートのキャンセルももちろんだけど慣れない他者への悪感情、ね。
「……ほら、もう一曲弾きましょう。あんたの好きなバッハで良いから」
「……うん」
教会音楽を得意とする紗々蘭は、いい子でいることに強迫観念的にこだわっているのよ、それは自らが無償の愛を向けられることが無いという諦観、あまりにも優れているからそれ故に愛されていると思っているのよ。けど、私はいい子なところにたまにイラッとするし、
「悪い子になったあんたも見てみたいわ」
わがままを言ってほしいと思っている。
「あんた、容姿的には悪役がお似合いだもの」
そしたらもっと魅力的になると思うわ。
「……モカたんは悪役令嬢的言動で嫌われるの、怖く無いの?」
「は! どーでもいい有象無象に嫌われたところでこの私の価値は変わらないもの」
私が望むのはこのままの私を、
「姉様と……ついでにあんたに凄いって言われればそれで良いもの」
たった二人だけに認められること、
「で、あんたは私の評価だけじゃご不満?」
私と有象無象を天秤にかけるの?
「……うん、不満……私、家族にも評価されたい」
あら、まあ、
「強欲ね」
「……うん、私わがままだな」
「悪い子ね」
「それでもモカたんは私の親友だろ?」
ほんの少しの不安を込めて問うて来る親友を、
「当然でしょ?」
私が馬鹿なの? と、言外に込め、鼻で笑うと、
「……ああ」
彼女は息をのむほど美しく笑い頷いたわ。
……ほんと反則よね。
「……ええ、そういう内容をあちらの頭取に……頼んだわ……」
翌日、私は元祖父の側近、コンツェルンの銀行の頭取への電話を高飛車な態度を保ったまま切る。
「お疲れモカたん……そちらの交渉は?」
隣には私の少し前に電話を切った親友。
「成功したわ。……あの愚物は二度と子鞠にも学園にも関わらないでしょうね……そっちは?」
「ん、問題無い……学園担当の三席は初めての特待生生徒会長として改革の維持発展に尽力した男だからな。今回の事件は内心憤慨しているだろう」
……はあー、なら子鞠も学園も無傷で済むわね。
「……そう……ふう……ふふ、初めて授業をサボったわ」
ちらりと見た時計の針が授業中の位置にあることを確認し、中央塔のサロンで思わず笑ってしまう。
「ああ、どんどん私は悪い子になっていくな」
深い色のダージリンを入れながらおどけたように肩竦める親友の、懐に入れた者の為なら一切の躊躇無くルールを無視する潔さに、ね。
「ま、友人の為って免罪符が私達にはあるわ……高等部の悪い子には無い、ね?」
「ふふ、まあ、あっても破り捨てるがな」
今日の昼休み、昨日話題に出ていた実行委員が子鞠に危害を加えようとして返り討ちに遭ったわ。で、紗々蘭の護衛からの報告でそのことを知った私達は後始末をしている訳。
「しっかし、あんたのお気に入りに手ぇ出してただで済むと本気で信じてたのかしら?」
「ん、自分の信じたいことだけを信じる。思春期にはありがちだろ?」
「まあね……良い薬になって何時か幸せに……なれるのかしら?」
思春期前の私達がするのもおかしな会話だけど、
「さあ? こちらはもう関わらないんだ、これからは彼女がこれまで培ったものがものを言うだろうな」
……あー、さっき頭取の祖父の権力を使って好き放題してたって……ま、どうでもいいわね。
「で、このまま悪い子やってる?」
「いや、私は戻るよ……臆病者だからね。モカたんは?」
「戻るわ。優等生で売っているもの」
で、私達は授業中に堂々と戻った訳だけど……、
「……教師も注意しないとか……」
「……あー、日頃の行い、だろうな……きっと」
権力に屈した、訳じゃないわよ、ねぇ。
で、翌日、放課後のサロンに、
「二人への感謝の気持ちで筆が乗っちゃてー」
と、一晩で描き上げたというアクリル画を持って子鞠がやって来たわ。
「一晩でこの大作を……」
「……私達がモデル、ですか」
「うん、タイトルは『救い手を乞う眠り姫達』!」
それは手を取り合い眠る私達と糸車や茨、林檎と鏡のモチーフが描かれている作品、
「いやあ、モデルが良いからねー、最高傑作だよー!」
……照れ臭いけど確かに素晴らしい絵だわ。けれど、
「もちろん発表はしないよー!」
「……ごめんなさい」
「悪いわね」
日の目を見るのは数十年後、かしらね。
……もったいない。
【二人の瘡蓋】
──めんどくさいわね。
「姫様、膝掛けを……あ、次の授業は副本を使いますか?」
「自分でできるわ。クラスに戻りなさい。うっとうしい」
「そうですよショウ、元佳さんには私がついていますし」
「……国内トップクラスのご令嬢をあごで使えないわよ」
九月の始めのあの怪我は一週間で完治したわ。けれどそれが齎した波紋は未だ消えていない。
まあ、平たく言えば周囲の過保護達の過保護っぷりが悪化したわ。
特に私が怪我をしたことを翌日の昼休みまで知らなかった桃園翔馬の態度は異常なほどで、休み時間の度にやって来ては何くれと世話をやこうとする……ほんと、
「めんどくさい、うっとうしい」
「……きっと大切な方の危機に傍にいられなかったことが堪えたのでしょうね」
とはあの時心臓が止まるくらい驚いたという紗々蘭、
「……階段を踏み外しただけなのに」
約二段、
「彼は生きる意味も喜びも全て、元佳さんですもの」
「重いわ」
普段は心地好さを感じるそれも、昨今の暴走気味な献身っぷりでは疲れてしまう。
「……どうしたものかしら?」
……はあー。
仕方がないので二人っきりで話し合うことにしたわ。
で、紗々蘭に頼んでサロンを立入禁止にしてもらい……、
「あれ白姫達は?」
桃園翔馬を呼び出してもらったわ。
「……急用ができたそうよ」
「ふーん? あ、姫様、紅茶は何が飲みたいですか?」
呼び出した相手の不在を吐息一つで流した桃園翔馬は慣れた手つきで紅茶を入れる準備を始める。
「ダージリン……あんたほんとに私以外に興味が無いわよね」
「ええ、僕は幸せな姫様の隣にいれればそれだけで満足ですから」
無欲なのか強欲なのかわかり辛いことを、
「……それだけで本当に満足なの?」
「ん? はい、もちろんですよ」
確認した私に曇りない爽やかそのものの笑顔を向ける真っ当の仮面に浸蝕されている狂人に私は、
「……私があんた以外と愛しあっても?」
と、尋ねるわ。
「……は?」
あら、間抜け顔、
「だから私が幸せになる為にあんた以外の男を囲っても良いってことでしょ?」
「…………は?」
あら、怒っちゃった? ふふ、でも、
「あら、私何かおかしなことを言って?」
「………………んなもん認められる訳ねぇだろ」
何故?
「だって、私は愛玩物のように愛でられ愛されるのじゃ足りないもの。あんたが私をお人形のように真綿で包んで愛でたいなら面倒だけど別口で囲うしかないじゃない?」
私が幸せならそれで良いんでしょう? そう笑って続ければ、
「……許さない、姫様に僕以外が近づくなんて、触れるなんて許さない……あなたが僕以外を見たらそれを殺す、あなたに僕以外が触れたらそいつも殺す……いや、それ以前に姫様が僕以外選べないように閉じ込めるのが良いか……あなたが大好きな物を詰め込んだ部屋で」
桃園翔馬は彼らしい狂気を滲ませ私に詰め寄るわ。ふふふ、
「……で?」
ああ! やっぱりこっちの方が良いわ! 忠犬よりも狂犬が!
「……一生二人で過ごしましょう?」
彼は私の足元にひざまずき、邪気も狂気も隠す笑顔を向けるわ。……隠せてないけどね。
「い、や、私はあんたと違って家族も友人も必要なの、二人っきりでぐずぐずと腐って行くなんて不健全な生活はゴメンよ」
私、わがままですもの。
「じゃあどうすればあなたは僕だけを見てくれる……」
え? 瞳が潤んで……怯えている、の? 何故?
……あ、そういえば私、こいつに何も与えてなかったわね……ちょっと罪悪感が、
……仕方がないわね。与えてあげるわ。未来を、
「は、簡単なことよ。あんたが私を他がいらないほど強く熱く愛し続ければ良い」
そう、『あの子』が望んだ通り、狂わんばかりの情熱で、
「私が退屈を感じないくらいに」
共に生涯を、
「そして、私が老衰で死んだ二ヶ月後にあんたは死んで」
私を『また』置いて行くのは許さない。
……い?
「ひ、姫様?」
『あの子』って誰? 『また』って何?
「姫様!?」
何で私はこいつのこんな悲しそうな辛そうな顔に既視感があるの?
何で私はこいつが『私の』だってわかっているの?
「……ねぇ、私あんたと今年初めて会ったのよね?」
「……ええ、そうですよ」
「私何も忘れてないわよね?」
「ええ、そうですよ」
「なのに何でこんなにも苦しいの? 悲しいの?」
『あの子』が……そして『彼』が……、
「何でこんな赤い記憶があるの?」
赤に染まる姿が!!
「……良いんですよ……覚えていないことは覚えていない方が良い記憶なんですから……姫様は真っさらに生まれて幸せになるべきなんです……覚えてなくて……思い出さなくて良いんです」
「でもっ!」
忘れてちゃダメなのに! 私の為に『彼』は! 何度も!
あまりにも残酷な記憶と強すぎる感情が蘇り、混乱する私を宥めたのは、
「平気です……もう僕は姫様を置いて行きません……あなたと共に百歳まで生きて死にます……ずっと一緒です」
温かな体温と力強い拘束と汗の匂い。そして誓うような言葉。
「……ほんとに? 置いてかない?」
もう、消えたり奪われたりしない?
「はい、姫様がいらないって言っても纏わり付いて行きます」
彼は吐息がかかるほどの距離で私の目を見つめ頷いて見せる。
そして気付いたわ。
──あ、こんな約束をしたのは『初めて』だわ。
って、
……ああ、そうね。覚えていないままでいいわ。……だって、
「……じゃあ私を満たして愛情で、物質で」
それで約束を、彼を、家族を、信じられなくなったらいやだもの。
「……あー、あまり贅沢過ぎるのは無理ですよ?」
「広い庭のある一軒家で毎日美味しい食事と着心地の良い服、それくらいで勘弁してあげる」
だからいらないのこんな記憶は、
「……充分贅沢じゃ……ああ、いえ、すみません姫様が1Kとかありませんもんね……うん、家はじいちゃんに頼めば……問題はこの辺の地価の高さだよな」
大人になった『彼』の思い出がどこにも無いなんて記憶は。
【彼の決意と私の悪戯】
初等部の友人達と中高等部の体育祭を眺めていて思う。
──恋する女の子って十割増しで可愛いのね。って、
恋する君を見つめる親友の姿は慣れている私でさえクラッと来てしまうほど愛らしいんだもの。
……まあ、
「……うわー、姫様のお兄さん達運動神経良いんすねー」
当然、桃園翔馬の琴線には触れていない。
「……たまにあんたの美意識が不安になるわ」
「は? ……あ、もうすぐ姉ちゃんの順番だ」
その言葉にグラウンドに目をやると高等部一年女子による100m走が始まろうとしている。
「あら、見事なクラウチングスタート……って、速っ!」
「姉ちゃんは運動神経も良いんですよー!」
見事一位でゴールをした姉を自慢する桃園翔馬……なんていうか、
「あんたにも家族愛があったのねぇ」
「……あの、姫様? 僕、両親も姉も大好きだし尊敬してますよ? っていうか結構家族仲良いですからね!」
「……いや、だって君、モカたんの為なら家族売る! くらいの態度だから」
「さすがに売りませんよっ! 捨てれはしますけどっ!」
「……あんたが持つものの中で家族以上に価値があるものは無いのに捨てるの?」
相場がだだ下がりねぇ。
「ふわ!? 姫様の中で意外と僕の家族の株が高い!」
「と、言うより……あんたのお父さんと家の父、仲良くなってるわよ?」
なんか仕事関係で何度か会ってるらしく、食事をしたとか、
「ふへ!?」
「で、お姉さんは家の長兄と姉様と親しい友人」
これは二人から好意的に語られてるから間違いないわ。
「あっ!?」
「って訳で家族を捨てたらあんたが生涯私に付き纏うことを認められる可能性は一気に消える」
現状かなりあるのにねー。
「……か、家族を大事にします!」
「当然でしょ?」
「当然だな」
「……なんかすみませんお二人……そして父さん母さん姉ちゃん」
ちなみに話題の桃園父は借り物競走で色々と……、
「……あんたのお父さんタラシなの?」
「……無意識人タラシです」
「で、御母堂がなかなかの女傑らしく……見習いたいお方だ」
「逃げてーっ! そこの眼鏡のお兄さーんっ!」
「……濃い家族ねぇ」
……まあ、家の家族も色々と、なんだけど。
「ハロウィン?」
中高等部の振替休日の翌翌日の昼食中、私は児童会メンバーに呼び出されたわ。
「はい、中高等部の方々が行う予定だそうで」
「で、学園長に話を持って行ったら「あれは子供達が主役のイベントでしょう?」っておっしゃられたらしく児童会に話が」
「……で、なんで私に持って来るのよ?」
「ほぼ、権力の無い児童会より、初等部女子の九割が所属する『双姫会』のオヒメサマの許可が重要だろ?」
癖のある猛禽のような顔立ちの、五年生ながら副会長を務める再従兄弟が我が家特有の爽やかさと威圧感が共存する笑みを浮かべ答えるわ。
「……なんで紗々蘭のいないところで?」
理由はわかってるけど、
「は、いくらオレでもあの聖女様に直撃は出来ねぇよ」
でしょうね……でも、
「……とりあえず席に戻りましょう。『双姫会』は私だけのものじゃないもの」
紗々蘭だけのものでもないように、ね。
「ハロウィン、で、ございますか?」
児童会メンバーから先程私が受けたのと変わらない説明をされた紗々蘭は僅かに首を傾げ、続きを促す。
「ええ中高等部から共に行いませんか? と」
「でしたら大学部にもお声を?」
あ、確かに大学だけのけ者はまずいわね。
「……いえ、それは聞いておりませんが……直ぐに確認をいたします」
同じことに思い至ったらしい六年生の会長──彼女も『双姫会』──が断りを入れ、電話をかけるわ。そして直ぐに、
「……はい、既に大学部へは話がいっているようです」
と、答えたわ。通話を切った様子が無いのはきっと概要くらいしか聞いていなかったからでしょうね。
「そうですか……ハロウィン、家では毎年行っていますが……あの、低学年の子達が泣いてしまいませんか?」
……は、泣く?
「あんたん家どんだけ本気でやってんのよ?」
……そういえばイベント大好きファミリーだとか、
「ああ、その……幾人か特殊メイクを習得するくらいでしょうかね?」
好き過ぎるでしょ!?
「……はあー、とりあえず中高等部はどんな企画を考えているの?」
さすがに一般学生はそこまでしないはず、と、紗々蘭を宥め詳細を確認するわ。
「……あー、それなんですが……なんか体育祭のコスプレ企画が尽くボツになったからだとかで……ぶっちゃけコスプレして菓子食うレベルっぽいですねー」
再従兄弟は爽やかに嘲笑しながら答えるわ。……感想、
「……つまらない」
「そうですね。それでしたら仲が良い方々だけで楽しめば宜しいかと」
盛り上がりに欠けるわ。
「多分あの顔が良い生徒会執行部員や風紀委員を仮装させたいんでしょうねー」
わからなくは無いけど、
「……で?」
って感じ、
「……あの、お二人はおやりになりたくありませんの?」
すると会員ちゃんがすがるように尋ねるわ。……ああ、彼女達もコスプレが見たいのね……んー、まあ、
「そうね、グダグダにならないならやってもいいわ」
「皆様が楽しめるならば行う意義がありますかと」
ファンには甘いのよねー、私達って、
「でしたら! 高等部の会員を責っ付きますわ!」
立ち上げメンバーにも会員ちゃんがいるのね……、
「……あー、でもこの時期は中高等部の有能な人達はほぼ学園祭にかかり切りですよ? 出来るの?」
あ、
「大学部の学園祭もその一週間前だものねぇ……」
秋は色々とお兄さんお姉さん方は忙しいのよねー、だから今までハロウィンをやってなかったのかも知れないわね。
皆で考え込むわ。中途半端は一番痛いし……と、すると、
「……あの……宜しいでしょうか?」
親友が遠慮がちに声を上げたわ。
あら、紗々蘭の脳内では正解が出たのね。
「は、はい、なんでしょうか白姫様!?」
会員ちゃんも気付いたのでしょう、期待の声を上げるわ。そんな彼女ににこりと笑い紗々蘭は、
「でしたら……わたくし共初等部の……好き放題に出来ませんか?」
と、悪戯っぽく告げたわ。……好き放題、
「まあ、遊びのほとんど無い運動会と舞台発表会しかないこの初等部で思う存分遊べるのは……良いわね」
基本、外部の方々との接触がアウトだから全体的に地味なのよね。
「……良いですねぇ」
すかさず再従兄弟も賛同を、
「はい! さすが白姫様でございます!」
当然会員ちゃんも頷くわ。けれど、
「ではこちらからあちらに提出する、素晴らしい企画をお作り下さいませ」
との紗々蘭の一気に突き放す発言に固まるわ。
「……あの、白姫様のご協力は?」
怖ず怖ずと再従兄弟がおねだりをするけど、
「ふふ、わたくし、この校舎を出ることは禁じられておりますの。自らで説明出来無いのに企画を立ち上げるなど……」
紗々蘭はピシャリと拒絶……ま、そうなのよね。
「……ええと、ですが……その、自治会には中高等部の怪物達と渡り合える人材は」
再従兄弟は大兄様の子飼いの部下ですしね……あ、なるほどねー、紗々蘭にそこの優秀な配下を貸して、って言ってるのねー、紗々蘭も理解したのか、
「ふふ、では……」
と、ニッコリと笑い、
「このクロエと松太をお貸ししますわ」
配下を貸し出したわ。……馬鹿な方を、
「……ええと、出来れば、拓君と伸喜君が……」
再従兄弟は引き攣った笑みでチェンジと要請、けれど、
「この二人をお貸ししますわ」
「……はい」
紗々蘭の聖女スマイルの前に引き下がったわ。すると、
「……あの、それ僕も協力したいんですが」
今まで一言も喋らず情勢を見ていた桃園翔馬が立候補を……、
「え! 翔馬君が?」
再従兄弟は驚愕と喜びと心配をクルクルと顔に乗せる……あら、結構良い奴なのね、こいつ……で、
「ええ、ちょうど良い機会ですし」
これは何を考えてるのか……、
「……ふふ、そうですか……では御武運を」
む、紗々蘭はわかったのね……はあー、もう!
私は桃園翔馬を食堂の隅に連れて行き、
「……行く前に説明」
安心して送り出せるように、と、説明を求めたわ。
「はい……実は僕、九月の姫様のお怪我の際、お守り出来なかったことも悔しいのですがお見舞いも出来なかったことが悔しくって……ですので姫様の兄君と義姉君に姫様の求婚者として認めていただこうと思い、今回志願した訳です」
彼は揺るがせそうにない笑顔を浮かべて宣戦布告して来ます! と、告げるわ。
………………はあー、
「勝算は?」
特攻が効くほど容易くないわよ、私の家族、
「んー、姉ちゃんと史君達友人の協力があれば行けるかなー? と」
……まあ、こいつの最大の強味はバラエティー豊かな交遊関係だし、
「で、今回のイベントで僕の有能さを存分にアピールして来ますよ!」
能力を遺憾無く披露すれば多分候補程度には認められるでしょうね。……ふう、
「ま、死なない程度に頑張ってきなさい」
私はそう言って右手を差し出すわ、そんな私の意図を桃園翔馬は理解し、
「……行ってきます姫様」
ひざまずきそっと手を取り額に当てる。そして笑顔で立ち上がり待っていた児童会メンバーの元に向かい連絡先を交換して別れたわ。
…………さて、
「……帰宅後までに英気を養いましょうか」
きっと、大兄様と姉様から根掘り葉掘り聞かれるでしょうしね。
気もそぞろで午後の授業を受け終えた私は、直行したサロンでお気に入りのソファーに沈み込むわ。
「ふふ、多分優菜様には認められるぞ?」
側のオットマンに腰掛け、私の腕を宥めるように撫でながら紗々蘭が予想を言うわ。
「…………どういう経緯で?」
その結論に?
「んー、ショウも優菜様も兄弟思い、だから?」
……つまり何時もの、
「なんちゃって予知ね……はあー、あんたの明確な理由の無い予想が尽く当たるのはどうかと思うけど……今回は……安心、かしら?」
紗々蘭は異常に勘が当たるのよ。
「圓城寺はそういう家系だから」
の、一言で当人は流しているそれは、古くは戦の趨勢を左右したとかしないとか……わあ、オカルト、
「ふふ、信じてるんだろ?」
ノブに入れさせたリラックス効果のあるハーブティーを差し出しながら、変わり者の親友はフワリと微笑んだわ。
「……でも心配なのよ」
顔が熱くなるのを感じながら私は愚痴るわ。すると、
「うん、ショウは苦労すべきだ。反対されろ」
突然親友は言を反す、
「…………は?」
「モカたんの一番隣を手に入れるんだ。二三度死にかけるくらいしなければ帳尻が合わん」
帳尻? すると、ノブが、
「……我が君、そういうヤキモチの焼き方はいかがかと」
と、呆れたように諌言を……って!? ヤ、ヤキモチ!? つ、つまり拗ねて…………っ!
「も、もう! ……そ、そんなこと……言わないの! ほんとになったら困るでしょ!?」
可愛いじゃないのっ!
「……まあ、モカたんの幸せの為ならば……はあー、お姉ちゃん達にお願いしとく」
……もう、ほんとこの子ったら、
「? モカたん?」
思わず抱きしめた私をキョトンと見上げる親友に、
「一番隣はあいつになるけど一番何でも言えるのはあんただから」
私はあなたを愛してる、って伝えるわ。
「!? う、うん! 私も………………ええと、世界で一番モカたんが可愛い!」
途中の沈黙は何かしら? ま、仕方がないわね。
「……その立ち位置でいいわ」
この子の暗部は私の手には余るもの。
で、
「元佳ちゃん! 桃園君と付き合うの!?」
「あー、排除すべきか?」
「二人共、二極過ぎ~、とりあえず好き? 嫌い? 普通? どーでも良いのどれ~?」
と、夕食後の私の部屋は賑やかになったわ。リビングやダイニングで聞かないくらいには皆さん理性的よね……うん、安心、じゃあ、
「付き合う予定は今のところ無いわ。けれど排除はしないで下さいな。で、好きか嫌いかはわからないわ」
質問に順番に答えましょう。
「……ええと? 元佳ちゃん?」
あら、不思議そうね姉様……でもね、
「彼に対する感情は色んなものが入り混じっていて、名前が付けられないの」
けれど、
「好きなのか嫌いなのかはわからないけど隣にいないのは嫌なの」
これだけはわかるの。あれがいない人生はつまらない、って、
「……つまり好悪ではなく不必か」
若干呆れたご様子なのは長兄、大兄様は姉様と両思いになってから私への過保護さが薄れているのよねぇ、
……妹を餌にしてたとか……どうかと思うわ。
「で、皆さんはどうしたいのですか?」
まあ、この場の皆さんは穏健派だから、
「ん~、お兄さんは見守るよ~?」
「私は……まあ、見定め続けますわね」
「……とりあえず……鍛えながら考える」
って、ことになるわね。
「あー、ちなみに元樹の耳には……」
「なんか入らないようになってるらしいわ」
今璃が情報封鎖をするとか、
「んー、ミナモさんにもしばらく内緒ですねぇ」
よろしくお願いします、姉様。
「だな、で、父さん達には俺が話すか?」
「んー、一緒に、お願い」
捩曲げられた噂の前にきちんと自分の気持ちを伝えたいし、
「……はあ、まあ、桃園両親は善良でちゃんとした方々だから良いか」
「ふふ、百合恵さんもね」
やっぱり、
「……最大のセールスポイントは家族」
当人も結構スペック高いんだけどね。
ちなみに両親の反応は、
「元佳が私や義母上に似てしまうなんて……」
「ふはは、興味深いなその少年、良し! 今度会ってみよう!」
対照的だったわ。……うん、
「私、大兄様や母様みたいな人が好みだったのー」
棒読みで言っとくわ。
で、迎えたハロウィン、桃園翔馬も再従兄弟も馬鹿二匹も、持ち前の有能さを遺憾無く発揮し、引退間際の高三の方や中等部の方々と協力し、学園をあげてのイベントは賑やかに恙無く終わったわ。
「……ううう、何故、何故! 姫様は……っ!」
まあ、最大の功労者は現在足元で床を叩いてるけど、……理由は私の仮装がまあ、有り体にいえば、
「男装なんですかっ!」
可愛い系でもセクシー系でも無いストイックなカッコイイ系の男装だから、
「しょうがないでしょ? ファンクラブのリクエストなんだから」
「そんな姫様を見る為に頑張った訳じゃ……くっ、でもそれはそれでイケる自分がっ!」
「変な扉開くな」
ちなみに桃園翔馬はワイルドなカッコイイ系……ふふ、ファンクラブにお願いした甲斐があったわ。……ふふ、じゃあ、
「トリック・オア・トリート?」
やっとかないと、
「……ふわっ!?」
桃園翔馬は衣装に合わせて作られた鞄を漁るわ。けれどそれは空っぽなのよねー、ふふ、知ってて言ったのよ?
「さて、いかなる悪戯がお望みですか?」
衣装に合わせ恭しく尋ねると、桃園翔馬の顔は真っ赤に……ほんと変な扉開かないでよ?
「……っ! お、お任せしますっ!」
あら、無欲……じゃあ、
「目を閉じて……そのまま……動かないで……」
さて、と、
「!? ひ、姫、様?」
うーん、やっぱりこの顔好みよねぇ……目を閉じてるから一番好きなほの暗い情熱が見え隠れする瞳が見えないのは寂しいけど、
「ひ、姫様……」
あら、結構鍛えてるのね。小学生にしては筋肉が、
「ひ、姫様!」
んー、髪柔らかーい、ちょっとイラッ、そして実はくせっ毛なのねー。
「ひ、姫様……あのっ!」
まあ、堪え性が無い、じゃあ最後に、
「目を開けて」
うん、やっぱりこの瞳が堪らないわ。……良し、
「終わりです」
確認出来たわ。私こいつと付き合える。
「……な、生殺しだ……」
はいはい、
「で?」
あんたはしないの? ちなみに、
「で?」
私の鞄も空っぽだけど、ね。
「……ト、トリック・オア・トリート?」
ふふ、じゃあ、今あげられる一番のご馳走をあげる。
「!? ひ、姫様!?」
「ご馳走、でしょ?」
桃園翔馬は頬を抑え呆然としながら、
「はい……」
と、頷いたわ。
やっぱり可愛いわ。こいつ。
【それから二人は幸せに……ってちょっと待て!?】
あの後、私の家族が桃園翔馬を認めた──二名ほどぐずってるけど──ことと、ハロウィンのあれこれで私の気持ちに自信が持てたのか桃園翔馬は、
「実は僕、数十回分の『僕』の記憶があるんです」
と、中二はまだ早いでしょう、と、言いたくなるような発言をしたり、
「姫様! いい加減付き合って下さい!」
と、定期的に告白をして来たりするようになったわ。
ちなみに告白の答えは当然毎回、
「いや」
よ。
「何で!?」
「逆に何で付き合わなきゃいけないの?」
「え!? いやあの思い合う男女なんですから……その」
……思い合う?
「は? 私あんたのこと思ってるなんて言ったことないけど?」
「な、なんだってーっ!?」
天を仰ぎそして崩れ落ちる桃園翔馬……うーん、良いリアクションだこと、
「はい、じゃあ付き合う理由が無いってことで」
立ち去ろうとすると足首をガシッと捕まれる。
「……何?」
「……僕と生涯を誓ってくれましたよね?」
………………?
「記憶に無いわ」
「はっ!? あの姫様の二ヶ月後にって……」
……あ、ああ、あれ、
「……まあ、一生付き纏うのは認めてあげるってことよ」
「……な、なんだそれーっ!?」
さらにぺしゃんこになる桃園翔馬……うーん、可愛いわねー。
「じゃ、帰るわ……今日は姉様から大事なお話があるんですって」
そして私は潰れている生涯のパートナーとクスクス笑っている生涯の親友に暇を告げる。
で、帰宅し、三家族での夕食後姉様と覚君に前世の記憶があるとの報告を受けた訳だけど……、
……うん、流行ってるの? 『私の』も前世のいや前前(略)前世の記憶があるらしいんだけど……あ、姉様達はこの世界以外から? ……え、それってちょっと前に聞いた一代前の『桃園百合恵』と同じ世界よね? は? 他に約三名確認している?
……ねぇ神様、
……あんたこの世界をどうしたいのよっ!?
……はあー、まだまだ私達の人生は波乱含みみたい、ね。
【彼について】
彼の名前は桃園翔馬、千年前から私を愛している男。
明朗闊達な狂人。
私だけの王子様。
……まだまだ言うつもりは無いけどね。
──ツンデレ令嬢ルート消滅しました。
──他のルートに進みますか?
YES NO
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これで元佳さん編は終わりです。
お読みいただきありがとうございます。
翔馬君視点は四章になります。
そこではラブがメインに……、
次回はラストのメイン攻略対象者とハニーさんです。
……一月中には多分、
ではまた、お会い出来れば幸いです。




