彼女は悪役令嬢、又は、ツンデレ令嬢、でした。2
【欲しいもの】
私は多分幸せなのだと思う。
家族に恵まれ、友人にも恵まれ、才能にも恵まれている。
それでも飢餓感や寂寥感は消えない。
私はずっと待っていた。
狂おしいまでの執着を向けられることを。
【十度目の誕生日。初めての願い】
今日は四月二十五日、私の十度目の誕生日。朝から出会う人出会う人におめでとうございます、と声をかけられていた私は、放課後友人達とファンクラブが開いてくれたバースデーパーティーで大量のプレゼントをもらい帰宅し、
「お帰りなさい元佳ちゃん、あら、大荷物ね。ふふ、人気者は大変ね?」
インターホンで開けてもらった玄関で姉様に迎えられたわ。
「ただいま姉様、人気者……では無いでしょうけど、まあ祝っていただけるのは幸せね。そしてプレゼントは花束が嵩張ってるだけよ」
ファンクラブからは豪華な花束をいただいたの。
「まあ、でしたら花瓶を用意しなければ……いえその前にバケツで水切りね……では私がお花をバケツに入れておきますから元佳ちゃんは着替えていらして? あ、後、生ものはいただいてませんよね?」
「ありがとうございます姉様……生もの、ではありませんが焼き菓子とチョコレートをいただいたので……こちらは台所に持って行って下さいます?」
こちらはクラスメイト有志からのプレゼント。百貨店の経営者のお孫さんが用意してくれたらしいわ。
「ええ、ふふ、おいしそうね……預かっておくわ。ではお着替えに……ふふ、ドアの前に私からのプレゼントが置いてありますわ? 是非着て見せて?」
「まあ! ありがとうございます姉様! 直ぐ着てみますわ!」
姉様の一番の趣味はお裁縫で、なかでも私のお洋服を作るのが一等お好きだそうなの。多分その理由は、
「フリルリボンベビーピンク!!」
な、甘ロリが大好きな私の服にやり甲斐があるからでしょうね。
「白のフリルブラウスにベビーピンクの小花柄のボディスと膝上スカート! 白のパニエ! ニーハイソックス! ああもう可愛いわ!」
キャラと違う? 笑いたくば笑いなさい、可愛いは正義! ですもの。
「あの、姉様、似合いますか?」
いそいそと着替えた私は台所に向かい制作者様にご確認をする。
「……姉様?」
けれど長身美人からは返答が無い。困って一緒に料理中の母とミナモさんに視線を向けるけれど小柄美人達──母は150超ミナモさんは150未満──も無言……ええと、
「似合っていませんか?」
クルリと回りもう一度伺う、姿見で確認した感じではさすが姉様! って感じで似合ってると思ったんだけど……、
「い、いいえ! 最高にお似合いです元佳さん!」
「そうだな、さすがゆーなちゃんって感じで似合ってるぞ元佳!」
少し私が顔を曇らせたところ慌ててミナモさんと母が褒めてくれる。そして姉様は、
「か、可愛いー! 元佳ちゃん最強! ホントに三次元なのか!? リアルでこんなに可愛くて良いのか!? というか私でかした!」
と、大興奮で私の周囲を回りながら携帯で撮影を初めたわ。……ええとつまり、
「似合ってますの?」
「「「スッゴく! 可愛すぎるくらい!」」」
その後帰宅した兄達も数分固まった後に大絶賛。父は無言で一眼レフカメラで連写……うーんつまりまた、
「家だけのお洋服決定ねぇ……」
姉様の作って下さった服は結構な確率で部屋着化するの。理由はまあ、
「その姿で出歩いたら確実にさらわれるな」
似合いすぎるから、なのよね。
裏庭に場所を移して父と姉様に未だに撮られています。姉様はビデオカメラに持ち替えました。
「元佳ちゃんそこでターン……ああスカートフワリで絶対領域が……ホントでかした私」
「元佳視線こっち……そして首を傾げて……ああ家の娘世界一」
ちなみに今履いている靴は小兄様からの、手に持っているバッグは大兄様からの、そしてツインテールにした髪を飾るリボンとミニハットはミナモさんからのプレゼント。話し合ったのかトータルコーディネートになっているわ。すると、
「……うわー、元佳ちゃん美少女すぎー」
「……天使?」
「……いや、妖精じゃないかな?」
「……なんで家には男しか……」
「……良いなー、創介君」
裏庭に来客が、
「おや、いらっしゃい岸元さん」
それは華やかなはす向かいのご一家。
「お邪魔してるわ創介君。元佳ちゃんに直接プレゼントを渡したくて来ちゃったわ……おめでとう元佳ちゃん」
「「「「おめでとう!」」」」
「ありがとうございます皆さん」
わざわざ裏庭まで……本当にありがたいわ。
「ふふ、で、私とイヴァンからはこれ、万年筆よ」
「ありがとうございます静留さんイヴァンさん」
「で、俺達兄弟からはこれ、紅茶セット」
「ありがとうございます一宏君、栄次君、光三朗君」
ちなみに私は、皆さんのお誕生日にリクエストされたお菓子を作って贈っているわ。甘党一家なのよ岸元さん家は。
私は若干グッタリとしながらリビングのソファに座っているわ。あの後ご一家に褒め殺しを受けたのよ……、
「……あちらのお宅は何時もながら凄い褒めっぷりねぇ」
反応に困ってしまうわ。
「ふふ『美しいものは褒めたたえる』が、あちらの家訓らしいですから」
とは撮影を終えニコニコ笑顔の姉様、ちなみに桜花院家は『美しいものを守ること』が家の指針だそうよ。
「……混ぜるな危険よねぇ」
口の中だけで呟くわ。……はあ、
「お疲れ~元佳ちゃん」
とは戻った時にはすでにリビングでくつろいでた桜花院家のご長男、
「あら、良い練習じゃない? 社交の場に出たら褒め殺しなんてざらよ?」
とは桂瀬家の若奥様、
「ふふふ、元佳スッゴく可愛いねー」
とは桜花院家の次女、
「ええ、元佳さんは世界一可愛いですね」
とは桜花院家のご当主、
「……後で創介君から写真を焼き増ししてもらいましょう」
「……ですね父さん」
とは桂瀬家のご当主とご長男、
「……皆さん、私をからかっていらっしゃる?」
「本心からですよ元佳さん」
とはダイニングからいらした桂瀬家の奥様、そして、
「ディナーの準備ができましたよ。冷めないうちにいただきましょう?」
と、優しく微笑んで告げたわ。
母と菜摘さんが作った美味しいお料理を満腹ぎりぎりまでいただき現在、姉様とミナモさんが作った目にも美味なフルーツタルトを先程いただいた紅茶とともにいただいてるわ。
「美味しいわ! 姉様、ミナモさんありがとう」
サクサクタルトとジューシーなフルーツが絶妙なのよねぇ。
「ふふ、お口にあってよかったわ。……それよりその素敵なショールは?」
ああこれは、
「少し肌寒く感じたので……紗々蘭に貰ったプレゼントですの」
紗々蘭からはクロッシェのマゼンタ色のショールを貰ったの。縁をクリーム色のフリルで飾り、パステルカラーの花と葉のモチーフを幾つも付けた実に可愛らしいものを、
「で、留めているブローチは今璃からのプレゼントですって」
生徒会の顔合わせで誕生日会に出られないからって紗々蘭に託したコーラルピンクの薔薇のカメオのブローチを、綺麗な字で書かれたカードとともにいただいたわ。
「……ええと、ではそのショールは紗々蘭さんの……」
「手編みですわ」
手芸全般はあの子の趣味の一つですもの。
「……器用ですのね」
「ふふ、あの子なんでもできますもの」
……それも完璧に、ね。
賑やかな夕食を終え菜摘さん夫婦からのプレゼントのバスボムを入れての入浴を楽しみ、朋子姉様夫婦からいただいたネグリジェを着て自室に入った私は貰ったプレゼントたちを眺め呟く、
「本当に愛されているわね私」
と、床には父から貰ったチェロケース、机には母から貰ったメイクボックスと仁おじ様からの扇子に梨絵からのオイルタイプの万華鏡と覚君からの空と海の写真集、チェストの上にもファンクラブからの花束が活けてあり、壁には子鞠が描いた幻想的な森の絵が、彼女いわく私は、
「元佳ちゃんはドラゴンにさらわれるお姫様のイメージなのー」
らしく監禁に適した感じの塔や茨の垣根がモチーフとして描かれているわ。
「……つまり勇者の救出を待つ感じな印象なのね」
……確かに私は積極的に物語を進めるタイプじゃないわ。良くわかってるわね。
「……それで勇者、もしくはドラゴンは何時になったら接触して来るのかしら?」
ため息混じりに取り出したのは差出人不明のカード、
──お誕生日おめでとうございます。僕が愛する姫様。あなたが生まれた奇跡に感謝を。
と、少し右上がりの力強い文字で書かれているそれはきっと、
「……あの視線の主、転校生なんでしょ?」
私が待っている存在だわ。
四年生に上がってから私は、時折強い視線を感じるようになったの。
それは高い温度と湿度を感じさせるもので普通なら不快に感じそうなものなのに私は、
歓喜したわ。それで気付いたの。
──『彼』が待ち人だと。
その視線がクラスのある廊下で一番多く感じることと、これまではなかったことを合わせれば視線の主は簡単に推測出来たわ。
学園では稀有な存在、今年度から学園に通い初めた隣のクラスの転校生だと。
「……また見ているな。注意するか、モカたん?」
「別に良いわ。不躾にならない程度だもの」
誕生日の翌日、運動会の練習中の今、彼は何時通りこちらからは見えない位置からマナーに反しないレベルで見て来ているわ。
「……モカたんが不快で無いなら構わないが」
ほとんど一緒にいる紗々蘭は私が気付いたのと変わらない時期に視線に気付き色々と気を使ってくれているの。理由は、
「……彼は家の庇護下にあるから少しでも不快や危機を感じたら言ってくれ」
彼が転校して来れた理由と同じ、彼が圓城寺の庇護下にあるから、お父様が圓城寺の社員らしいわ。
「平気よ。彼は私を傷つけないから」
これは希望でも予測でもなく確信。
「あれは私の為にならない行動はしないわ」
何故か私はそれを知っているの。
彼はとても優れた少年らしい。聞く気はないけど漏れ聞こえる噂話からそれを知ったわ。
顔良し頭良しスポーツも万能、その上明るく朗らかで親切で人見知りもせず、それでいてずかずかと踏み込んだりはしない平衡感覚の持ち主で、紗々蘭の従者達で審美眼が厳しくなっている学園の女子達が認めるほどの男らしいわ。
「でも告白はされて無いらしいな」
「……異性的には残念なの?」
給食の時間、またしても感じた視線にちらりと目をやった私に紗々蘭が告げた、男女入り乱れる賑やかなテーブルに彼はいるみたいなのに。
「では無く……そういう風に好かれないよう上手く立ち回っているらしい……なかなかに有能でくせ者のようだな」
紗々蘭は聖女スマイルを浮かべながらも口調は素、という器用なことをしながらアサリご飯を嬉しそうに食べているわ。その様子を見る度に給食が和食中心なのは彼女の好み故じゃないか、との疑惑が沸くけど……まあ、私も和食の方が好きだし良いか、と思って毎度流してる。で、くせ者ねぇ……、
「……策士はあまり好みじゃないわね、焦らされるのは不快よ」
「て、言うよりヘタレてるのでは無いか? モカたんのあまりの華やかさと可憐さに」
「……あんたに比べたら話し掛けやすいと思うけど」
基本的に私と親友は日常話し掛けられることが無い。大抵用がある人は従者に言伝を頼むわ。
「……我が君は神罰が下りそうで話し掛け辛い。元佳様は私刑を加えられそうで話し掛け辛い。どちらも話し掛け辛いで良いのではありませんか?」
「ノブ、私はどちらかといえば神様に放置されている方なのだが」
「……さすがに話し掛けるくらいは許容するわよ兄達も」
真面目な顔で失礼な発言をするのは同じクラスの紗々蘭の従者の五藤伸喜、聡明そうな眼鏡男子で実際聡明、同年代の従者では珍しく紗々蘭に意見をする存在。
「まあ、話し掛け辛いのは仕方がないとはいえ、もうすぐ一月ですからそろそろ接触して来ても良いものですが……どうなのですかタク?」
さらりと私達の反論を流したノブはこのテーブルで唯一転校生と同じクラスの二条拓に水を向ける。
「んー、なんかクラスでは元佳様に興味がある素振りは見せてないんだよねー、聞こうにも微妙に立ち入らせない感じだし……ごめんねー元佳様」
けれどタクはあまり役に立てないと謝る。……良い奴よねぇ、少し直情径行の気があるけれど親切だし……従者達の中で一番モテるのも頷けるわ。
「……つーか、マスターじゃなくて元佳様って」
「ふふ、主様に近寄らないのならどうでもいいじゃないですかー」
これは同じクラスの生物学的には女子の七瀬クロエと一学年下の三澤松太、能力はともかく人格があれで主人以外はゴミって思考の色々な意味での馬鹿……だから、
「……ええ、お前達は気にしないで、関わらないで、っていうか一生黙ってなさい」
興味は持たないままが良いわ。
数日後、日が落ちかけている中庭を図書館で借りた鉱物学の本を抱え、私は進むわ。
「こんなに遅くなるなら荷物を持っていけばよかったわね」
ため息混じりに呟きながらね。うっかり展示に夢中になってしまったのよ。予定ではサロンで紗々蘭の紅茶を飲みながらゆっくりと読むつもりだったけど……、
「……サロンに置いて今日は帰りましょう」
そして早足で進み学生証で初等部スペースへの門を開くと、
見慣れない少年が四人の少年に囲まれていたわ。
「も、元佳様!? ええと、これはその……」
囲んでいる少年の一人が焦ったように何やら発している。けれどそれは意味を為さず耳を流れて行く。だって私は心身全てを一人に囚われてしまったから。
四人に囲まれ、制服を土で汚している少年に。
夕日だけでは無く赤い清潔感のある短めの髪、多分私とそう変わらない身長、甘やかに整った顔立ち。けれど、何よりも印象的なのは大きく鋭くケモノのように金に光る──補食者の瞳。
──ああ、凄いわ。この私を所有する気なんて!
口角が上がって行く、周囲の少年達が怯える気配を感じる。多分凶悪な顔になっているのでしょう、けれど、
彼は、私の彼はとても満足そうな笑みを浮かべる。
そうでなくちゃ。と、でも言わんばかりに。
戦うような視線の交わし合いは囁くような声で終わりを告げたわ。
「……何を、なさっておいでですの?」
横を向くとそこには聖女のような笑みを浮かべながら氷のような視線で少年達を見やる美し過ぎる私の親友がいた。
「助かりました。何やらよくわからないことを言われながらこちらに連れて来られたもので」
先程までの補食者じみた笑みを少し困ったような笑みに変え、少年は紗々蘭と向き合っているわ。囲んでいた少年達はノブとクロエが校舎に連れて行き氏名等を確認中だそう、そして中庭に残った転校生は紗々蘭の質問に答えているわ。タクと紗々蘭の護衛兼乳母の仄さんも一緒よ。
「……あのようなことはこれまでもございましたの?」
「いえ……転校して来てから何度か他愛ない嫌がらせはありましたが暴力的なことは今回が初めてで……さすがに明日あたりに拓君に相談しようと考えていましたが……」
嫌がらせ……まあ出る杭は……ってことね。
「いや、嫌がらせの時点で相談してよ」
「だって……実害の無い陰口や悪戯だし……」
「あのね翔馬君、君が圓城寺庇護下にあることは学園中に周知してるんだからそれを無視して嫌がらせとか家が馬鹿にされてるってことだから……すぐ報告欲しかったよ」
つまり圓城寺の看板にも関わる訳ね。
「……ああ、なるほど……すみませんそちらの矜持を損なうことをしてしまって……」
少年もそこに思い至ったのか紗々蘭に申し訳なさそうな表情を向けるわ。
「いえ、あなたにも男児としての矜持がありましょう。理解出来ますわ」
けれど当然紗々蘭は鷹揚と気にしていないと笑って見せる……ていうかこいつ、紗々蘭の笑みを至近距離で見てるとは思えない落ち着きっぷりよね。
「お許しいただきありがとうございます……ええとそれで……拓君その、長々話してるけど……紹介してくれないかな? お三方のことは一方的に知っているけど」
その上紹介を促す!? ……何こいつ、図太過ぎない!? そして促されたタクは当然驚き、焦りながら紹介を始めるわ。
「あ、ごめん! ええと、このカッコイイ美人がオレの上司の……」
「はじめまして、六崎仄です。息子達からお話はかねがね」
? 息子達? どういうこと? けれど私の疑問はおいてきぼりで紹介は進むわ。
「そしてオレの主人の……」
「はじめまして圓城寺紗々蘭と申します」
紗々蘭に……って!? な、何なの紗々蘭その極上笑顔は!? ってこれも無反応!?
「ええと……そして……主人の友人の……」
「……はじめまして私は桐生元佳よ」
何こいつって思っていることを全身で表現しつつ一応挨拶してあげるわ。……な、何なのその嬉しそうな笑みは!?
「で、彼は転校生の……」
「はじめまして桃園翔馬と申します。それで……」
少年──桃園翔馬は嬉しそうな笑みのまま恭しく礼を取り、
私の足元にひざまずき、
「桐生元佳様。僕をあなたのものにして下さい」
と、乞い願ったわ。
とても挑戦的な瞳で。
【犬、の皮を被った……】
色々あった昨日、ひざまずいた彼に返答をする前に私は、ちょうどかかってきた長兄からの連絡を言い訳に帰宅したわ。……ええ、色んなことを一旦棚上げにしたの。
で、その上げといたものを授業後の現在、中央塔のサロンで確かめているんだけど……まあとりあえず、
「で、仄さんの息子さん達、からお話ってどういうことなの?」
昨日からの疑問の解消をはかるわ。結構良く会う明さんとたまに会う史君と知り合いなの? このキラキラとした目で見てくる生物は?
「……元佳さん、まずそこですの……はあ、彼、桃園翔馬さんのお父君はおじ様、一戸淳司様と幼なじみで……まあ一戸家と家族ぐるみのお付き合いがあるそうですの」
「はい、ですから淳司おじさんの息子でもある明君と史君とそれから緑郎君とも親しくしてもらってるんです。姫様!」
……へえー、だからお父君が圓城寺の社員に? ……あー、他に聞くこと……あった、
「……そういえば昨日の愚か者共は?」
「ああ、彼らは五年生で目立つ翔馬君に嫉妬で愚行を、だそうであの後担任教師に任せました」
「翔馬君が大事を望みませんでしたので厳重注意で済ましましたわ」
……厳重注意、教師だけじゃないわよね。……お気の毒、で他には……無いわね……はあー、
「……それで……どういう意味なの私のものにして欲しいって」
凄まじくめんどくさいけれど仕方がないから何故かソファーに腰掛ける私の足元に正座している明るい場所で見ても随分とキラキラしい少年に問うわ。
「言葉通り姫様のものにしていただきたいのですが?」
桃園翔馬は首を傾げるわ。……絶対自分の可愛い角度わかってやってるわよこいつ!!
「そもそも姫様って何よ?」
昨日名乗ったんだから名前呼びでも問題無いのに……いや、呼ばれたい訳じゃないわよ!?
「貴女様をお呼びするのにそれ以上に適切な呼称が思いつきませんので……」
……な、何よそれ? それを言うなら私より紗々蘭が……あ、もしかして、
「…………私、嗜虐趣味は無いのだけど」
罵られたい趣味が!?
「ああ、それは何より……僕はどちらかというと嗜虐的な嗜好ですので」
しぎゃくてき?
「!? な、何を言い出すのお前は!?」
私被虐趣味も無いわよ!?
「ああ、ご安心下さい縛ったりといった物理的な嗜虐は好みませんので」
物理的じゃないってことは精神的……つまり言葉ぜ、いや、いや!?
「安心出来るか! 何!? 奴隷希望じゃないの!?」
私のものってことはそうじゃないの!?
「え? もちろん違いますよ。僕は姫様の夫希望です」
…………………………!?
「夫!?」
初対面で小学生がプロポーズ!?
「はい、ですので結婚を前提にお付き合いを……」
「しないわよ!?」
いきなり過ぎるわよ!?
あまりの衝撃発言の連続にツッコミが追い付かず、私が酸欠を起こしかけていたところ、それまで穏やかに静観していた親友が動いたわ。
「……ならば私の出番だな」
と、そして手を上げ従者達に合図を送る。
「え? ちょ、ちょっと!? 拓君!? それにええと伸喜君!? な、何で別室に!? あ、ちょっと待って!?」
桃園翔馬はタクとノブ連行されて行ったわ。……はあー。
静かになったサロンでクスクス笑いながら紅茶を入れてくれた紗々蘭は計算不要の美しさで首を傾げながら問うわ。
「……で、モカたん的にあれは有りか?」
と、……有り無しで言うと、
「……とりあえず無し、では無いわ。何故か」
彼じゃなければ完全に無しなのに……だって彼は私の彼、なんだもの。
「……なるほど……じゃあ面談して来るよ、モカたんは読書を楽しんでいてくれ」
紗々蘭は愉快そうに頷き艶やかな黒髪を翻す。
「……任せたわ」
私は頼りがいのあるその背にそっと呟き祈る。
──彼が女帝のお眼鏡に適いますように、と。




