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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼女は悪役令嬢、又は、ツンデレ令嬢、でした。1

お久しぶりです。


今回は女性攻略対象者ラスト、桐生元佳さんです。

全五話、約五万字。


……一話目にはヒーローが出ません。

そして恋愛よりも友情がメインな気が……。


美少女は多いです。


 

 





 愛なんて綺麗なモノはいらないの。


 恋なんて移ろうモノもいらないの。


 欲しいのは執着。


 私さえいれば良いと言う盲目的な狂気。



 【家族について】



 私の名前は桐生元佳きりゅうもとか。現在城生院学園初等部の四年生。そして国内最大手の銀行業を主幹とする大企業『桐生コンツェルン』の創業者の直系。まあ、簡単に言うとお金持ちのお嬢様ね。


 そんな私は両親と二人の兄と暮らしているわ。


 父、創介そうすけはコンツェルンの工業機器部門の社長を、母、あおいはウエディングプランナーをしながら一族の取り纏めを、長兄、元治もとはるは高校生をしながらコンツェルンの電化製品部門を掌握しようと奮闘中、次兄の元樹もときは学園や社交界でせっせと人をたらし込む。


 で、私はと言うと……桐生の掌中の珠、高嶺の花、国一番の花嫁等々と言われるのが役目。つまり何処でも何時でも偉そうにしていれば良いだけの簡単なお仕事ね。


 ちなみに祖父母は四人全員生きてるわ。父方の祖父は調理器具メーカーの社長を未だ勤めているし祖母もそんな祖父を公私に渡り支えてる。そして母方の祖母は登山家、職業と言うより生き方として山に挑んでいる人。で、祖父は……まあ、五十半ばで色々なしがらみを捨て海外を転々とする祖母の元に向かいそのサポートをしているの。


 で、そんな祖父の行動のあおりを食って家の両親は常に忙しく私達兄妹は放置気味で育ったわ。あ、それでも愛情はいっぱい貰ってるのよ? 睡眠時間削ってまで毎日帰宅してくれてるし、私達の趣味も交遊関係も素行も把握しているもの。


 でも、やっぱり家事や躾、教育が出来るかと言ったらそこまでの時間は無い訳で……当然使用人や家庭教師を雇ってた訳だけど……まあ色々あって全員クビ、私が物心つく頃には家事はお隣りの桂瀬かつらせの長女であるミナモさんをメインに二軒向こうの非常勤の方々が手伝い、躾と教育はお向かいの桜花院おうかいん家にお願いすることになっていて、マナー等は長女の朋子ともこ姉様とその執事の伊織いおりさん、勉強やスポーツは長男のさとり君に教わったの。


 けれど一番大事な生きる術や倫理観を教えてくれたのは姉様──桜花院優菜(ゆうな)。大切なことは全て彼女に教わった、そう言っても過言じゃないわ。


 だから彼女に大兄様──長兄の婚約者になっていただけた時はとても嬉しかったのだけど……、


「……ミナモさん、姉様が婚約を破棄したらどうしよう……」


 なんて言うか……大兄様の片思いっぽいのよね……、


「ふふ、それでも元佳さんが優菜様の妹であることは変わりませんわ」


 だけど一緒に料理中のミナモさんは気にすること無いって言ってくれるし……、


「元佳ちゃん! 新しいお洋服が出来たの! ご飯が終わったら着て見せて?」


 こんな風に私を愛でる姉様の愛情を疑うのは失礼ですものね。



 【親友について】



 彼女の名前は圓城寺紗々蘭(えんじょうじささら)。国内に並ぶものの無い大企業『圓城寺グループ』の総帥令嬢。まあ簡単に言うと未来の女帝ね。


 そんな彼女と私が親友になったのは初等部一年の初夏。


 彼女が完璧で無いと知った、そんな日のこと。


 私はずっと無敗だったわ。勉強もスポーツも、ダンスやヴァイオリンと言った習い事でも。そんな私が敗北を知ったのは初等部に入学してすぐのスポーツテスト、私は敗北したわ、圓城寺紗々蘭に全てで、そして勉強でもヴァイオリンでも負けて、思ったの──彼女と対等になりたいと、


 だってあの子は何時も聖女のような笑みを浮かべ、違う世界で生きてるみたいだったから、あの澄ました人間の位階から外れかけた顔を崩してやりたかったから……そう圓城寺紗々蘭は能力も人外じみているけど容姿も人外じみたものなの。


 特に真っ直ぐな黒髪は私のコンプレックスを刺激するわ。……面白みの無い茶髪っていうのもそうだけど、癖がつきやすいのよ、私の髪、だから開き直って縦ロールになるようパーマをかけてるんだけど……あ、この髪型は姉様に奨められたのよ、ふふ、一番私の魅力が引き立つって。実際凄く似合ってるって近所でも評判で……あ、


 コホン……話を戻すわ。で、私は努力を重ねたわ。勉強とスポーツで、ヴァイオリンは辞めたわ、音楽は競い合うより響き合わせたかったから。だから代わりにチェロを始めたの。祖父が使っていたのがあったし……で、はまったわ、ふふ、この出会いだけはあの子に真っ直ぐに感謝出来るわ。……機会が無いからしてないけれどね。


 そんなことを二月程続けた訳だけど……勝てなかったわ。むしろどこに死角があるのあんた、って感じなあの子とは張り合うだけで大変なのよ。当人の能力はともかく天に愛されてるとしか思えない強運っぷりとか……どう勝てと?


 だから挑むのは辞めたわ。そして別のアプローチで彼女の仮面じみた微笑みを崩してやろうと練っていたら……、


 倒れたわ。あの子。


 しばらく表情には出ないけれどその頃ちょっと暗くなってて、どうしたのかしら? と、思ってたら月曜のお昼の移動時──学園では給食を食堂で摂るの──にぶっ倒れたの、で、動揺する従者や教師共を叱り飛ばし運ばせた保健室でただ二日ほどまともな食事を摂ってなかっただけだと聞いて……お説教したわ。そしたらあの子、またしても表情には出てないけど泣きそうな雰囲気で、


「だって元佳様が最近避けているから……淋しくて悲しくて……」


 距離を置いてた私が悪いと、拗ねたことを言い出して……だから、


「……ねぇ、あんた私とどうなりたいの?」


 私は呆れを隠そうともせずに問い掛けたわ。すると紗々蘭は、


「友人になって下さいませ」


 なんて図々しいことを張り付けたような微笑みのまま言うから、


「嫌よ。……友人にたいして仮面を被って接するような失礼な女とは」


 馬鹿にしてる? と、断ったわ。そしたら紗々蘭は微笑みを掻き消し、一見無表情なのに焦ってるのがまるわかりな顔で、


「ごめんなさい! ……あの、私、ちゃんとしたお嬢様じゃないんだ。ええと、めんどくさがりだし、口調も男の子っぽいし、いい加減だし……だから元佳様にがっかりされちゃうんじゃないかと……」


 ペラペラと話し出し、そして、


「だけど、元佳様と親友になりたいんだ。努力家で誇り高く、優しい元佳様と」


 手を取りまるで捨て猫のように──無表情だけど──懇願してきたの。だから、


「し、仕方ないわね! そこまで言うならなってあげるわ! 喜びなさい!」


 って、何様な発言で了承したわ。そしたら紗々蘭は、


「ありがとう」


 って、初めて本当の笑顔を見せたわ。


 ……正直反則だと思う。



 【趣味について】



 私の趣味はと聞かれたらまずはダンスと答えるわ、これは大兄様と姉様の影響。二人は初等部入学前からずっとボールルームダンスを習っているの。けれど私が習っているのはジャズダンス。家族が私と男の子と触れ合うことを良く思わないことと、私が家族以外とベッタリとするのが苦手だってことが合わさったの。


 次は読書、これも姉様の影響。姉様は軽度の活字中毒で、硬軟取り混ぜた本の山を、寛いでいる時はつねに傍らに築いてる方だから。


 それからお菓子作り。これは紗々蘭の影響、っていうか……まあ、あの子へのプレゼントには手作り以外ダメ、だからなんだけど。


 紗々蘭は過保護な家族に箱入りで育てられてる私以上の箱入り。っていうより『箱庭』育ち。彼女の家である圓城寺家が古くは領主として治め、今も隅々に耳目があるここ桜花市以外を知らない子。


 そんな大切に大切に一切の危険も憂いも排除されて育った紗々蘭は口にする物まで危険を排除されているの。平たく言うと食材は全て完全無農薬、化学調味料はもちろん人工香料、着色料、保存料等々……全て排除されているのよ。で、そんなことは知らなかった私は親友になって初めてのあの子の誕生日に市販のお菓子をあげて、あの子がアレルギーを起こして……正直あの時は焦ったわ。それ以上に従者達が焦ってたけど、当人も回復後、


「いや、まさか私に科学物資アレルギーがあったとはな」


 って驚いてたし、原因は抗体が無いからだとか、紗々蘭は少しづつ馴らして行くつもりだったらしいけど家族の猛反対を受けて断念したわ。


 なので、手作りすることにしたの。良い先生がいるしね、ふふ、姉様とミナモさんはお菓子作りも得意なの。で、はまった訳。


 余談だけど紗々蘭は私が各種プレゼントのほとんどを手作りお菓子で済ませてることから友人へのプレゼントイコールお菓子、になったらしく私以上にお菓子作りにはまったわ。……悔しいくらい美味しい、ね。


 そしてもう一つ紗々蘭の影響で始めたのがプリザーブドフラワー。理由は単純にあの子が謝罪する度に花をくれるから。……なんて言うかあの子はほんと常識に疎くて、で、変わらず常識に疎い家族からのアドバイスに従うから……多分女性への謝罪には花でも贈っとけ、とでも言われたんでしょうね。


 それで親友になってしばらくは、友人との、っていうか他人との距離感に疎い紗々蘭の暴走で私の部屋は花まみれになって、捨てるのもなんだから母に相談したら仕事仲間の講師さんを紹介されて習うことになって、で、はまって今に至るわ。


 ……実は私影響されやすい人間なのかしら?



 【友人について】



 私にはほとんど友人がいない。紗々蘭がいるし別に必要性を感じなかった、ってのも理由の一つだけどそれ以上に、


「も、元佳様!? すみません! すぐどきます!」


 恐れられているっていうのが大きいのよね……。


 原因はわかっているわ。成り上がりだと侮られないようにと、身につけた、必要以上に自信満々な言動と、素直さが欠片しかない性格、そして実家の財力と私の能力。


 ……まあ、後半二つは私以上の紗々蘭がそれほど恐れられていないことを考えると前半が原因の大部分でしょうね。


 ちなみに人タラシな次兄も友人は一人、紗々蘭の従姉妹で従者の今璃いまりだけ……こうなると長兄は、って思うわよね?


 答えは結構多い、よ。


 同級生男子を中心に自治会関係や家業関係、趣味仲間まで多種多様の同性の友人を持っているのよ。で、そんな大兄様が一番親しい方達、それがはす向かいに数年前に越していらした岸元きしもとさん家の似ていない双子、栄次えいじ君と光三朗こうざぶろう君なの。


 一家が越して来た当初は美形兄弟に姉様を取られるんじゃ、って警戒──特に姉様のツボらしい黒髪バージョン栄次君に──していた大兄様だけど、兄弟の好みが姉様と一切被らないことと姉様が兄弟よりもそのお母様である静留しずる様に懐いたことに安心したのか、栄次君が金髪に戻したあたりから一気に仲良くなって行き、週の半分はどちらかの家で遊ぶくらいになったんだけど……、


「元佳ちゃん、おまんじゅう食べる?」


「おかきもあるよ?」


「はい、お茶、熱いから気をつけて?」


 何故かセットで私も遊ぶことに……いや理由はわかっているわ。何たって男三兄弟の家だもの近所に女児がいたら可愛がるわよね。しかも保護者つきなら互いに安心して可愛がれるでしょうし、


「うふふ、元佳ちゃん、それでこの曲の解釈なんだけど……」


 私も、プロ演奏家のアドバイスを受けられるし、過保護過ぎない兄が三人増えてなかなかに楽しいわ。


 で、そんな風に狭いコミュニティー内だけで生きている私に新たな出会いがあったのは去年の春。


 私以上に狭い世界にいる親友からの紹介だったわ。


 四月の終わり頃に引き合わされた年上の少女は……なんて言うかもったいない子だったわ。真新しい紺色のブレザーはあまりにかっちりと着すぎて野暮ったいし、二つ分けの長く真っ黒な三つ編みは似合ってはいるけど、さすがに前髪も飾りピンもリボンもなく、黒いゴムだけっていうのはシンプル過ぎ、何より眼鏡が……大きめの銀縁とかほんと似合わない。


 性格その他は紗々蘭が是非にと言うだけあって国内トップの企業の令嬢達といるのに自然体で堂々としてて、何より物腰が素晴らしく優雅で凛としてるの。これは幼少期から習っているという日舞や合気道、そして居合いでの姿勢が染み付いてるのね。だからこそほんともったいないのよ身なりが!


 知り合って一月は我慢したわ。まだ友人じゃなかったし、


 その後四ヶ月は口頭での注意に留めたわ。友人になったとは言えあまり干渉するのもおかしいと思って、


 でも五ヶ月目。夏休み明けにキレたわ。だって一切の改善が見られなかったんですもの。だから姉様と一緒に変身させた訳だけど、


「……うわー、わたし本当に美人だったんですねー」


 ……どうやら彼女──鴇田子鞠ときたこまりは自分の容姿がたいしたことないと思い込んでいたらしいわ。で、その原因が、


「家族や周りの大人達には可愛い可愛い言われてましたけど年が近い幼なじみ達からは地味だの普通だのと言われてたんで」


 とのこと、それでも子鞠が卑屈にならなかったのは、


「まあ、わたしは大好きな大好きな幼なじみに可愛い綺麗って言われて一番大切にされてたんで気にしていませんでしたが」


 らしいわ。


 後々聞いたところ暴言を吐いてた幼なじみ達とはその大好きな一人の愛情を取り合う関係で、子鞠に完敗していた故の負け犬の遠ぼえだったそう。ちなみにその大好きな一人──春日井柊耶かすがいしゅうやさんは姉様の友人だそうで、姉様は、


「なんで紹介して下さらなかったの!?」


 と、プリプリ怒っていらしたわ。そしてそれに対する柊耶さんの返答は、


「……優菜君に紹介したらもれなく君の婚約者や兄上とも会うことになるだろう」


 だそう。


 ……まあ恋する女の子に顔の良い男は近付けたくないでしょうね。



 【将来について】



 紆余曲折あって私の将来は紗々蘭の右腕になったわ。


 どんな風に曲がったり折れたかと言うと、


「将来は海外移住かしら?」


 この発言は去年の秋、子鞠が描き上げた『明月夜の海』五部作──二つは学園祭にもう一つをコンクールに出すそう──を鑑賞しながらのアフタヌーンティーで、子鞠の、これを足掛かりに食べられる画家になります! 宣言を聞き思わず拍手をしたところ、


「そういえば元佳ちゃんは将来何になるの?」


 と、聞かれたことへの返答。理由は、


「国内じゃ桐生の名前が面倒ですもの」


 腫れ物扱いはゴメンだもの。


「へーっ、家業の手伝いはしないんだー」


 それは一番無いわ。


「家業じゃ兄達の過干渉と、周囲のお節介でまともな仕事は出来ないでしょうし。逆に大きいプロジェクトを任されて成功させて、跡目争いを再燃させるのも困るもの」


 実際、兄達や再従兄弟達よりも私を跡取りに、って意見は主に祖父の側近を中心に根強く残っているの。私と次兄は早々に脱落を宣言したのにもかかわらず、ね。理由は、


「モカたんは桐生の先代、第二位企業まで押し上げたカリスマ経営者にそっくりらしいですからね」


 キラキラと目を輝かせて絵を見ている紗々蘭が言った通り。どうやら私の偉そうなところが側近達の琴線に触れるらしいわ。けれど、


「……祖父様にそっくりとか嫌なのだけど」


 現在の祖父は単なる嫁馬鹿、正直尊敬は出来ないわ。


「あはは、それプラスお嬢の親友ってこともセールスポイントっすねー」


 子鞠の絵画に対抗してか、デカフェのエスプレッソを使い、見事なラテアート──表情の違ううさぎを四羽──を入れてくれた今璃が補足をするわ。


「あー、なるほど……じゃあ名前を変えて、っていうのはどうなの?」


 物語じゃ良くあるわよね。……けど、


「……容姿からのセクハラ、性格からのパワハラ、戦ってたら保護者登場、ね。きっと」


 私には不可能だわ。だから、


「海外で個人で働くのが一番かと思って」


 ハラスメントトラブルは私が私である限り何処であっても避けられないでしょうし個人ね。


「国内で個人じゃダメなの?」


「家の七光りで成功とか嫌だもの」


「んー、じゃあ海外かー……寂しいなー」


 子鞠は私の選択に納得したわ。けれど、


「……個人じゃダメだろう」


 紗々蘭は納得していないよう。ダメ?


「……何、私が一人ではダメだと?」


 あんたじゃあるまいし。


「じゃなくてモカたんは個人でも成功するが、一番の特質、人の振り分けの妙は個人では生かされない」


 ………………な、


「あー、確かに元佳様の得手は集団行動での指揮者ですもんねー」


 ………………え、


「だよね……うん、個人じゃもったいない」


 ………………も、


「もう!? ほ、褒めたって何も出ないんだからね!? 褒め殺し!? 褒め殺しなの!?」


「と、言うよりはスカウト」


 ……ス、スカウト? ってまさか!?


「さて、モカたん。……大企業でトップの腹心として思うがままに采配を振る気は無いかな?」


 紗々蘭は無表情にニヤニヤと笑っている。


 ………………、


「……悔しいことに断る理由が見つからないわ」


 その後、私が頷いたことで話は進み、親達にまで行った訳だけど、


「おー、確かに元佳が将来働くなら圓城寺が適切だな」


「ああ、司皇と紗々蘭さんが有象無象から守ってくれるし、あそこは能力主義だから元佳も張り合いがあるだろうね」


 両親は諸手を挙げて私の選択を後押ししてくれたわ。


 なので私の将来は圓城寺グループの女帝の腹心に決定した訳。

 

 ……それほど紆余曲折はなかったわね。



 【理想について】



「理想の男? 好みのタイプ? そうね…………私の隣に立っても見劣りしない容姿と、私とスムーズに会話できる知性と、私に恥をかかせないレベルの立ち居振る舞いと、私が自慢できるだけの特技を少なくとも半ダース、それが最低条件。で、私の為だけに生きて老衰で死ぬ男」


 これは春休みに行った野点の席での私の発言。何様? 贅沢? いいえ、単に最低条件を並べただけよ。


「わー、理想高っ! 元佳様以外ならアウトですよー、……っていうか存在します?」


 その証拠に質問者である今璃も納得してるもの。そして存在ねぇ。


「は、この私が所有するのよ? 最低でその程度じゃ無ければ誰も納得しないわ」


 妥協するくらいならいなくても別に構わないもの。


「そうか? その程度じゃご家族は納得しないだろ」


 すると紗々蘭が最低条件過ぎると指摘……う、


「…………そうね、……私の家族は厄介なほど過保護だから」


 能力面と人格については大兄様が、容姿に関しては姉様が、そして小兄様とミナモさんはどんな完璧超人を連れて行っても反対……うん、一番重要なのは打たれ強さね。


「ふふ、ではまず私に紹介してくれ、面談して問題無かったらモカたんと一緒に囲って後見する」


 ……第一関門がここに……まあ認めさえすれば最強の味方だけど、


「……ふん、そこまで言うなら守らせてあげるわ」


 私が選んだのなら反対はしないでしょうし、


「任せてくれ、…………きっと私以外では無理だしな」


 ……むしろ、


「あんたがいなかったら駆け落ちしてたかもね」


 向かう先は祖父様のところだけど。


 ちなみに同席者は私の他は三人、紗々蘭、今璃、子鞠の黒髪トリオ、だから私が、


「……私の理想を教えてあげたんだからあなた達のも教えなさいよ」


 と、ねだっても、


「んー、ボクは物心つく前に選んだからなー」


「右に同じー」


 と、三歳上の幼なじみと婚約中の二人は言うし、


「私は……とりあえず生命力が強い方かな?」


 紗々蘭は情緒の無い返答……ねぇ、


「私以外語れない話題を出さないでよ! 今璃!」


 盛り上がらないじゃない!


「えー、だってスッゴく興味深いし役立つ情報だしー」


 ……役立つ?


「……小兄様に使う気?」


「いやいや、単純に元佳様の幸せの為にしか使いませんよー、例えば元佳様に一目惚れした男の子に使うとか」


「ああ、そこで諦めるかの試金石か」


「確かに……ねぇ元佳ちゃん? もう少し具体的に……ほら、好みの男の子なら鍛えるのわたしも協力するから。最低条件だけだったし」


 ……う、確かに、子鞠とその許嫁の家なら心身ともに鍛えてくれるでしょうけど、


「……いやよ。私だけ話すとか……恥ずかしいもの」


 逃げ切れないとわかっていても一応逃げたわ。そして捕まり洗いざらいはかされたわ。そして当然、


「なるほどなるほど、一番重要なのは顔かー、綺麗系よりカッコイイ系で笑顔は可愛い感じ……はっ! それ柊耶ちゃんじゃ!?」


「……あそこまで凛々しいのはちょっと」


「へーっ、元佳様は気配り上手な人が良いんすねー……はっ! それ史ちゃんじゃ!?」


「……今璃のらない」


「……カッコイイ系……気配り上手……賢くて運動神経抜群でモカたんを溺愛……はっ! それ私だ! つまりモカたんの好みのタイプは私!?」


「……あんたが男体化したなら嫁になってあげるわよ」


 ……遊ばれたわ。



 【私について】



 私は物語のお姫様のような容姿をしている。


 私は物語の意地悪なお嬢様のような言動をしている。


 私は物語のような恋を望んでいる。


 ずっとずっと、生まれた時から。



 私にはずっと愛に対しての飢餓感があるわ。


 家族と友人達から惜しみ無く与えられているのにもかかわらずね。


 それが何故かは、母が父に向ける視線、長兄が姉様に向ける視線を見ていたら気付いたわ。


 ──私もあんな狂おしいほどの執着を向けられたいって。


 私は世界と私を天秤にかけ、迷わず私を選ぶ人が欲しいんだわ。と。



 そんな存在に出会ったのは私が十歳になった一週間後のこと、


 風の強い日の夕暮れだったわ。





  

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