岸元さん家の家族会議(次男不在)
短め、三人称です。
九月某日、圓城寺父娘の来宅を明日に控えた岸元家では、夕食を終えたダイニングで入浴中の次男を除いた家族会議が行われています、議題は次男の婚約者(仮)のもてなしをどうするのか? です。
「…………唐突に重要な事に気付いたのだけれど……」
重々しく切り出すのは、三人の息子を持つとは思え無い、艶やかな黒髪とシミ一つ無い白い肌、真っ赤な唇を持つ年齢不詳の美女、魔女と呼ばれるピアニスト、岸元家の紅一点、母の静留さん四十三歳です。
「……うん、予想はつくけどどうぞ」
神妙な面持ちで母に発言の続きを促すのは、柔らかな金髪に穏やかな黒い瞳のスーパーモデル、現在はクイズ番組などでも活躍中の長男、一宏君二十歳です。
「……そもそも、婚約者(仮)ちゃんと理事長さんの性別しか、私達知らないじゃ無い!」
対策の立てようが無いわ! 静留さんは舌打ち混じりで吐き捨てます、静留さんは岸元さん家で一番口が悪かったりします。
「うーん、夕方、会議の流れでちょっと聞けそうになった時、栄ちゃんバッサリと邪魔して来たしねぇ」
僕には提供出来る情報はありません、と、報告するのは三兄弟の末っ子、天才テニスプレイヤーの光三朗君です、ちなみにその会議については『栄次君の常とは違う放課後』に書いてあります。
「……とりあえず、リビングに上がってもらえば良いのかな?」
ほぼ情報の無い状態でも、決められる事を決めちゃおうとするのは、一家の大黒柱イヴァン=エルンスト=岸元さん、チェコ人四十一歳、鬼才と呼ばれるヴァイオリニストです、ちなみにイヴァンさんは軽度の日本オタク、入浴後の現在は寝巻がわりの浴衣──本来の使いかたですが──姿でゆったり寛いでいます。
「……うーん、後はお茶とお茶漬けかな?」
いらっしゃるの二時頃らしいし、一宏君も決められそうな事を言います、が、
「それこそ、年齢、好み、体質、宗教的タブー等の、情報が不可欠な事じゃない!」
静留さんにピシャリと叱られます。
「「「「…………………………」」」」
決められたのが、迎える場所。出来る準備がリビングと玄関、廊下とトイレの掃除。会議は煮詰まりました、いえ、缶入りスープを薄めて温めた程度です、始まったばかりの会議は既に強制終了の危機にあります、そこに、
「うわ、なにこの重苦しい雰囲気、どうしたの?」
風呂上がりの炭酸水を取りに来た、この家の次男坊、渦中の人物の一人、栄次君がのこのこと──他の家族の感想です──やって来ました。
「「「「…………栄ちゃーん」」」」
家族に獲物の様に見られ、ギョッとし本能的に逃げ様とした栄次君ですが、直ぐさま捕まり、婚約者(仮)さんとそのお父上について根掘り葉掘り聞かれました、が、
「お茶は父さん秘蔵の高級煎茶、お茶漬けはあちらの方が甘味を用意してくれるらしいから、あられかなんか、婚約者(仮)さんについては会ってからのお楽しみ、理事長については二十代に見える美形としか、知らん、これ以上の情報提供は断固拒否する!」
と、やはり最低限しか語りませんでした。
まあ、
「お茶とお茶漬けの内容が決まっただけ良いか……」
イヴァンさんの呟きが家族の総意です。




