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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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57/121

彼は大学の幽霊、でした。

お久しぶりです。


今回のお話は、

ゲームでは隠れキャラより会えなかった明君と、

存在だけ語られていた梨絵さんです。


……全編Rです。


 

 















 ──俺には天敵がいる。


 それは、今俺の太ももを枕に、すやすやと寝ている生き物だ。


 糊の効いた白衣だけを纏った、折れそうなほど華奢な肢体を持つ女──桜花院梨絵おうかいんりえに、


 ──俺はずっと翻弄させている。 



 【十四年前──凄くて、おかしな、人】



 彼女について覚えてる一番古い記憶は五歳の時。きっと弟達は知らないだろうがその頃の彼女は万能だった。


 文武両道、才色兼備、立てば芍薬って言葉を地で行き、誰もが誉めそやす美少女だった。


 だが、彼女はしばらくして変わった。


 万能では無く、特化型の天才に。


 ……未だに何が彼女をそうしたのかがわからない。



 【お兄ちゃん(司皇)へのおねだり(の困惑)



「お兄ちゃん! あー君ちょうだい!」


「アホか、あかりは次代の家令に決定済みだ」


「えー!?」


「……そんなに明が欲しいならお前が家に来い」


「…………! わかった! じゃあ研究者だね!」


「……はあ?(これはわかって無いな)」



 【十二年前──天敵】



 ──桜花院梨絵は俺の天敵。


 その真理に気付いたのは初等部に入学した頃。


 六年生の彼女に休み時間の度に愛でられる日々でのことだった。


 六年教室と一年教室は同じ階なので出来たのだろうと思う。


 で、授業中以外ほとんどの時間を彼女の相手で潰した俺は、当然友人など作れず……未だに友人ゼロである。


 ……まあ、それは良い、いや良くは無いが置いておく、で、そんな日々の最大の弊害は……、


さとり様! 梨絵様のせいで俺の初等部デビューが失敗したんですけど!」


「………………初等部デビュー?」


「この厄介事しか生まない顔を隠して平穏に過ごす予定だったのに!」


 せっかく髪と眼鏡で顔を隠そうとしてたのに、あいつが毎度毎度外して鑑賞するから!


「………………ああ、なるほど……ええと、ごめんね? 出来るだけ回収するから」


 いや、五年教室は一番遠いしな……あっ、


「いえ、それはもう良いです……でも覚様に俺のクラスに来てもらうのは良いですね……お願い出来ます?」


 そしたら顔しか取り柄の無い俺よりも覚様に夢中になるだろ!


「ん? ……まあ良いけど~?」


 そして覚様は信奉者を確実に増やしていった。


 ……一定数、下の者を愛でたいと言う連中が残ったが……正直桜花院以外なら、テキトーにあしらって良いから……。


 会う度に敬礼する存在にした。



 【父上()のお説教(は唆す)



「梨絵さん、一年生の教室に入り浸っているそうですね?」


「うん、あー君に会いに」


「実は司皇しおう君に叱られ、と、言われまして……」


「うん」


「駄目ですよ、梨絵さん」


「ごめんなさい」


「……ちゃんと大義名分を用意しましょうね」


「うん! 父上!」



 【十年前──どうやら変態らしい】



 ──あいつは変態だ。


 天敵が中等部に進み俺は一時の平穏を手に入れた。


 けれど、長くは続かなかった。


 原因は中学生になった天敵が穏やかな美少女風に見える為モテること、……で、そのことに奴はストレスを感じている。


「……中学生男子気持ち悪い……高校生男子怖い」


 と、どうやら天敵は微妙に潔癖で男嫌いらしく、ゴツゴツとし始めた周囲の男子に嫌悪感を抱いているようだ。……で、


「……あの、梨絵様……それはお気の毒ですが……服を脱がそうとするのは止めて下さい」


「え? でもこれからお風呂でしょ?」


「……俺は一人で入ります」


 天敵を引きはがし、俺は鍵のかかる浴室に逃げ込んだ。


 そう、つまり天敵は第二次性徴後の男でのストレスを一桁年齢の俺で癒そうとしているのだ。



 ようやく湯舟で落ち着いた俺は天井を見上げ、ため息混じりにごちる。


「……一緒に風呂とか寝るとか……頭おかしいだろ、あいつ」


 と、……すると、


「えー? ひどいよ、あー君!」


 返事が返って来た。


「!?」


 慌てて目線を下げると、一糸まとわぬ美少女がいた。さらに慌てて背を向け、聞く。


「か、鍵! どうしたんですか!?」


「ん、ああいう鍵ってコツさえ知ってれば開けられる」


 と、答える、どこまでも悪びれ無い天敵を、


「開けるな! 馬鹿!」


 と、怒鳴りつけたが……彼女は頓着せずシャワーで掛け湯をすると湯舟に入り込み……、


「うふふ、あー君は本当にどこもかしこも綺麗……」


 背後から抱き着き、俺を愛でる。


 ……翌朝、逆上せた俺は全裸のまま自室のベッドにいて……、


 当然のように梨絵に抱き抱えられていた。


 ……ご当主様に頼み込み、自室と風呂場の鍵を付け替えたことは言うまでも無い。



 【お姉ちゃん(香奈子)への告白(との恋ばな)



「お姉ちゃん……あのね……私……実は……あー君に恋してるの」


「え、知ってるよ?」


「!? そ、そうなの? ……つい最近のことなのに」


「えっ!? 最近自覚したの!?」


「え? 最近恋したんだよ?」


「え、じゃあ今まで司皇にずっと明ちゃんちょうだいって言ってたのは?」


「ん? 執事として欲しかった」


「………………え、あ、そ、う?(いや! 絶対恋する乙女だった!)」



 【六年前──大嫌いな女】



「あー君、私の純潔を貰って」


 中一の夏、俺は天敵にそう命じられた。


 彼女が意に添わない結婚をしなければいけなくなったからだそう。……そんな悲劇のヒロインは、


「好きでも、綺麗でも無い人に初めてを捧げたくない」


 の、だとか。なので、この女が知りうる限り、一番『綺麗』な俺に、白羽の矢を立てたのだろう。


 そんな女に、俺は怒りと諦めを覚えた。


 ──ああ、この人は考えもしないんだろう、その後の俺の未来など。と、


 残酷な命令にそれでも俺は頷いた。


 決行は結婚式の前日らしい。




 ……結論から言う。決行は無くなった。結婚そのものが無くなったからだ。


 彼女の結婚は原因であった借金を、桐生きりゅうが肩代わりしたことで消えた。……まあ、妹にスライドしたんだが……あの二人は普通に相思相愛だし別に良い。……で、良くないのは、


「色々準備したし……決行する?」


 と、聞いて来た馬鹿女だ!


 もちろん俺は、


「……する訳無いでしょう。犯罪です」


 と、出来うる限りの冷たい目で断った。


 ……はらわたは煮え繰り返ってたけどな!



 【(朋子)への苦言(の失言)



「………………とも、無理矢理結婚、おめでとう」


「無理矢理じゃない!」


「……本当に同意?」


「……と、とうじぇんじゃない!」


「…………片方の我慢の上で成り立つ関係は、何時か破綻するよ?」


「大丈夫だもん! 伊織いおり、わたくしのこと愛してるもん!」


「………………本当に?」


「だ、だって……毎晩目一杯可愛がってくれ……って!? ……き、聞かなかったことに!」


「………………うん………………よかったね」


「………………ありがとう(恥ずかしい!)」



 【二年前──手のかかる女】



 高二の秋。何故か、俺は、天敵と──婚約した。


 大学生になった天敵は圓城寺えんじょうじに研究員として迎えられた。人工知能の研究に才と熱意があるからだと言う。


 で、どういう訳か俺が世話係に任命された。……ご当主様の命令で。


 主命なので従い、粛々と天敵の面倒を見ていると、


 ……俺が馬鹿女に惚れているということになっていた。



「……なんでだよ!」


 不本意な噂にキレた俺にご当主様は呆れた表情で言った。


「……甘やかしすぎだからだろう」


「……はあ? どこが?」


「食事補助、歩行補助、研究補助、終いには風呂にも入れているとか」


「……全部、あの女には必要なんだけど!」


 ほっとけば食わない寝ない帰らない馬鹿にはそこまで必要なんだよ! それに風呂はあいつが三日風呂に入ってなかった時、一回だけ!


 そう俺が熱弁をふるったのにご当主様はスルーし、


「……で、婚約、申し込んどいたから」


 と、とんでもないことを言った。


「……………………はあ?」


「一応あれでも良家の姫だからな……男に風呂に入れられたなんて噂が流れたら……責任取るしか無いだろう」


「え? ご当主様が?」


「アホか! 俺の妻は香奈子かなこだけだ! お、ま、え、に、決まっているだろう!」


 …………………………!?


「はああ!?」


 ……で、どういう訳か桜花院も認め婚約がなった訳だ。



 ………………はあー。 



 【(優菜)への依頼(プロデュース)



優菜ゆうな! 私を綺麗なお姉さんにして!」


「え? 姉上は現状で充分綺麗なお姉さんですが」


「そうじゃなくて、えっとね、あー君の叔母様に会うの!」


「……ああ、なるほど……ふふ、素敵なお嫁さんっぽい格好と髪型の用意ですね……では、覚にも協力を……ちなみに何日ですか?」


「ん、今晩」


「………………今すぐお風呂へ! ああ、もう! 衣装は手持ちのからですね! 私とお姉様のも漁らないと!」


「……ん?」


「いいから姉上はお風呂に! ちゃんと髪も洗って!」




「で、反応はいかがでした?」


「………………ええと、叔母様達印象云々の前に桜花院ってことにびっくりしてた、で、親子三人和装だった……で、あー君従姉妹ちゃんを褒めちぎってた」


「……あの、姉上は褒めてはもらえなかったのですか?」


「…………優菜と覚の技術を褒めていた」


「………………少し明さんとお話した方が良いですね……」


「……別に平気、だもん」


「…………姉上(あの男たたきのめす!)」



 【現在──婚約者(天敵)】



 ──今年に入ってから梨絵の様子がおかしい。


 いや、大体おかしい女だが、最近は違った感じにおかしいのだ。


 一言で言うと、


「最近梨絵様に自立心が芽生えたようなのですが……」


 だ。なので俺は世話係仲間の優菜様に相談することにした……の、だが、


「え? 姉上に? ……私には今まで通りですが……」


 どうやら俺限定らしい。


 理解に苦しんでいたが、あいつも成長したんだろうと、放置していた。……俺も大学進学とかあったしな。


 けれど、それが間違いだったことを知ったのは、


 ──卒業式の夕方だった。



 俺を、本社内の専用研究室に呼び付けた梨絵は無表情でこう切り出した。


「私、お仕事楽しいの、きっかけはともかく、今はこの研究を一生の仕事にしたいと思ってる、あー君が私のお願い聞かなくてもちゃんと働く」


 と。で、俺の感想は、


 …………は? 何を今更、だ。そんなことは疾うの昔に知っている。だ。


「でね、私、一人で平気だから、ちゃんと生きていけるから」


 嘘つけ。研究に夢中になれば飯を忘れて、風呂も忘れる。朝も一人じゃ起きれず、未だに妹に起こしてもらい、服すら用意してもらっているくせに、


「それでね、片方の我慢の上で成り立つ関係は、何時か破綻する。そう私は思ってて……」


 俺の冷たい視線にもめげず、女はだからと、続ける、


「あー君を縛りつける、の止める、あー君、は、もう、私、の、婚約者、じゃ、なくて良いん、だ、世話係、じゃ、無く、て、良い、んだ、自由、になって良い、ん、だ」


 と、震える声で、泣きそうな笑顔で、


 ……………………、


 は? なんだそれは!?


 俺は激昂し、


「ふざけるな! あんたは何時もそうだ。勝手に自己完結して勝手に諦めて、つまり俺の意思なんてどうでもいいんだろ! 触れろと命じるが愛は乞わず、欲しいと願うが恋情は求め無い! あんたにとって俺は綺麗で便利な人形なんだろ!? ならそう扱え!」


 と、怒鳴りつけ。ずっと心に秘めていた鬱屈を全てぶつけた。そして、


「…………命令なら主命に反さ無い限り従いますので」


 と、通告をし、背を向け立ち去ろうとした。が、


「……なんなんですか、梨絵様」


 腰元に抱き着かれ、止められた。


「……す、き、好きだから、私はあー君が……六崎月明むざきつきあきらが好き。だ、だから……嫌わ、ないで……」


「………………」


 制服のシャツが生温い液体に犯されていく。


「あー君すき、好きなの……好きじゃ足りないくらい好きなの。ずっとずっと好きなの……だから……もうあー君が私を嫌いでもいいから……いっしょにいてぇ、すてないでぇ……」


 俺は折れそうなほど細い腕を外し婚約者である女──破棄など今更認めるか──に向き直る。床にへたり込んでる女の顔は涙と鼻水でベチョベチョになっている。


 ──あー、ったくもう…………。


 俺は軽すぎる女を抱き上げ、仮眠にも使えるソファに横たえ、覆いかぶさる。キョトンと俺を見上げる女には色気も邪気も無く……俺は理解した。


 ──こいつは臆病で馬鹿なガキで……一切成長なんてしていない。と、


「……あんたはわかって無い」


 ティッシュで顔を拭き、鼻をかんでやりながら俺は馬鹿にもわかるように伝え直してやることにした。


「……俺はあんたが俺をどうしたいのか聞いたんだ。嫌うとか捨てる話はしてない」


 むしろあんたが俺を捨てる話だったぞ? 


「……で、どうしたい」


 問うと女は嗚咽混じりに答えた。


「……いっしょ、いたい」


 と、……だが、


「……ただ一緒にいるだけで良いのか?」


 お前はそんなに無欲か?


「……ふ、ふれあいたい、ことばをかわしたい……すきになってほしい、あいされたい!」


「……で?」


「けっこんしたい、あーくんとのこどもも、ほしい! あーくんにひつようとされたい!」


 へー、さすがオヒメサマ、強欲だ。


「……どんな風に?」


「わたしがいないとないちゃうくらい?」


 ………………はあー、


 俺は最後の最後でヘタレた馬鹿の指を噛んだ。


「い、いたい」


「黙れ、甘噛みだ……つまらん嘘は、つくな」


 睨みつけ促すと、ようやく、


「……私がいなければ生きていけないくらい、が、良いです……」


 馬鹿は小声で我が儘なほど純粋な欲望を口に出した。


 …………ふーん?


「……で? あんたは俺に何を返す?」


「……私、だけ、他、あげられない」


 ………………は? つまりこのやせっぽっちで無駄に賢い生き物だけ?


 ………………は、はは………………最高だ!


「いいぜ、あんたが俺の為だけにこの先全てを使うなら…………」


 ──お望み通り、あんたが死んだら壊れてやる。


 そう耳元で囁き首筋を舐めてやったら、


 女は甘やかな息を吐いた。



 その後、馬鹿を色々ヤって寝かしつけた俺は、太ももの上のサラサラとした髪を梳きながらこれからの予定を考える。


「とりあえず、学生結婚は嫌だから大学卒業だな。それから一応美人なこいつに、余計な虫が付かないように……」


 左手を持ち上げ、うっすらと歯型がついた薬指をなぞり、


「この指に外れ無い枷を嵌めるか……」


 もう一度、今度は強く、噛み跡を残す。そして余りの喜悦に笑い声を漏らす。


「あんたが俺を縛ってるんじゃねぇ、俺があんたを支配してるんだ」


 手の届かない女(高嶺の花)を、手中に収めた幸運に。



 【()への相談(の受難)



「あー君が最後までしてくれ無い」


「……ええと、俺にどうしろと?」


「どうすればしてくれると思う?」


「大事にされてるんでしょ? 別に良いじゃん」


「大事によりも無茶苦茶にされたい」


「……姉の性癖とか知りたくなかった……」


「で、どうすれば良い?」


「……女友達とかに聞いてよ……」


「ん? 私の友達、梅子うめこ紗々蘭(ささら)元佳もとかだけ」


「…………ああ、うん、聞かないで」


「で、どうすれば良い?」


「……色仕掛けじゃ駄目なの?」


「ん、お願いすればいっぱい気持ち良くしてくれるんだけど、あー君は脱がないし乱れない」


「…………姉のそういう話、ほんと聞きたくない……」


「で、どうすれば良い?」


「……両思いだよね?」


「…………………………多分?」


「………………………………多分、か(明君ってツンデレ?)」



 【初恋】



 彼女と初めて会った日。一番に言われた言葉は、


「君、黄金比だね」


 だった。


「黄金比?」


「そ、つまり神様が手を加えた奇跡」


「奇跡?」


「……本当に綺麗だ」


「綺麗? 僕が?」


「ああ、ずっと手元で眺めていたい……」


「……う、ううう」


「な、何故泣く!? 褒めたのに!?」


「……おい! 馬鹿二号! チビを泣かすな!」


「えっ!? 私が悪い!?」


「当たり前だ!」


 とても、とても綺麗な女の子がご当主様に叱られている。俺は止めなければならないのに口からは嗚咽しか漏れなかった。けれど、あの時俺は、こう言いたかった。


 ──僕は嬉しくて泣いてるんだ。と、


 誰もが目をそらすこの容姿を褒められたことに。






 その後、彼女と俺の身分差が、絶望的に広かったことにマジ泣きしたのは──墓に持って行く秘密だ。



































 ──大学の幽霊ルート消滅しました。





















 ──他のルートに進みますか?


   YES NO

      ▲
















 【補遺 六崎月明(私の主)



 私専用の研究室で、穏やかな笑顔でチャイを入れている長めの黒髪の青年──六崎月明に見とれながら私は思う、


 ──この美しい生き物を手中に収められるなんて、なんて幸運なんだろう! と、


 だって、初めて会った時から私を魅了し続ける彼は、私の多分相思相愛な婚約者なのだから!


 思わずニヤニヤとしていたら、チャイをテーブルに置いた彼に不意に口の自由を奪われた。……そして五分後、


「……何をニヤニヤとしているんですか、梨絵様、不愉快ですよ?」


 息も絶え絶えな私と違い。何時も通りに綺麗で色っぽく、けれど、穏やかな笑顔のまま彼は言う、


「あ、あー君、は、不愉快だと、きす、する、の?」


「まさか、単なる気まぐれです」


「……気まぐれで、きす?」


「……あなた限定の気まぐれです」


 そう言って今度は優しい触れるだけのキスをした彼はミニキッチンに戻る。どうやらお茶菓子もあるらしい。


「……………………!!」


 私は無言で悶えながら思う、


 ──年度末の私は実に馬鹿だった。と。






 ──彼を解放しよう。


 私は彼が高校を卒業するタイミングでの婚約破棄を決意した。


 ……ずっと思っていた。何時か彼に捨てられる。と、


 だって、思いは常に一方通行で、ただ、私が情けを与えられるだけの関係だから。


 ……けれどその前に私の心に限界が訪れた。


 ──怯え続ける日々には耐えられない、と。


 ……今思えば彼のいない日々はそれ以上に耐え難いものなのに……本当にあの時の私は脳が煮えていた。


 そして切り出し、怒鳴られ、許された。


 ──彼が私の所有者になってくれることを。


 十年以上ずっと拒絶されていた私は、理由はわからずとも喜んでその僥倖にしがみついた。


 ……だが、不満と不安がある。


「……あー君、あー君は私に欲情しないの?」


 ……彼が最後までしてくれないことだ。


「………………しない女との結婚を選ぶほど、俺はおかしく無い」


 声に不安を込め、聞くと、彼は目をそらし、そう答えてくれた。


 !? ……つ、つまりある程度は私が好きってことだよね!?


「じゃ、しよう! いっぱいしよう! 大丈夫! 私ピル飲んでるから!」


 嬉しくなった私は彼に抱き着き、ねだった……が、


「………………なんで、そんなもの飲んでる?」


 低く、唸るように聞かれた。…………えっと、


「せ、生理不順で……」


「……そ」


 彼はニッコリと極上の笑みを浮かべ、私を抱き上げ宣告した。


「あんたの体重が8kg増え、健康的に肉がついたら考えてやる……しばらくそれまでも無しだ」


 と。


 私が命令通りの体重になったのは、結婚式の当日だった。


 私の全てを暴き、手に入れた彼は……、


「愛してやるよ、梨絵、これまでもこれからも、ずっと」


 生涯で唯一度の愛の告白をしてくれた。






 


 

お読みいただきありがとうございます。


このカップルのお話はこれだけです。


……梨絵さん暴走するので……。


で、次はラストのヒロインです。

春から春までですので多分長くなります。かね?


……これから書きます。


あっ、新連載しています。


……気分転換に書いてます。


では、気長にお待ちいただけたら幸いです。


 

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