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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼らは物静かな会計と悪役執行部員、又は、ボクっ娘執行部員と熱血漢な当て馬、でした。~お姫様の犬と狐。後編~

このカップルの最終話です。


多少R、です。

 


 【猟犬には噛み癖がありました】



 ──そろそろ寝ないといけませんね……。


 金曜日の深夜、わたくしはラップトップのディスプレイの隅の時計が0で埋めつくされ土曜日になってしまったのを確認し、切りが良いところでやめることを決意いたしました。


 現在わたくしが行っているのは共に開発中のモバイル用OSとその専用機に関するプロジェクトの報告書の作成でございます。


 桐生きりゅうと共同開発中のこれは実は紗々蘭(ささら)が裏責任者を任されており、その進捗を表の責任者に伝えるものを作成しております。休日前とはいえこんな時間まで作業をしておりますのは、ここしばらく先週末に開催された学園祭の準備でばたばたしておりました故でございます。


 ──十二月も忙しいですし早く終わらせたいのでございますが……。


 新たに入ったバイトのお方の汎用力で急速に開発が進み少々報告量が多いので……喜ばしいことでございます。


 ──残りは明日に回しましょう。


 わたくしはラップトップを閉じ、PC用眼鏡を外し伸びをしようとしたところで──椅子ごと抱きしめられました。


「んー、どうしたのー、ひとしちゃん」


 彼の腕を外し彼のものである椅子を回しわたくしは愛しい恋人に向き直ります。冬に入ったと言うのにTシャツとスウェットパンツだけの寒々しい格好の彼は、少しボーッとしたご様子でございます。


 わたくしが首を傾げ彼を見ているとおもむろに顔を寄せ、厚手のシャツパジャマの上にロングカーディガンを纏った露出のないわたくしの、数少ない見えている部位である首に──噛みつきました。


「うひゃあ!? え、あの史ちゃん? え、何? 痛くは無いのですがあの、問題が……って、きゃっ!?」


 当初は甘噛み程度でしたが強まりました! ……ええと、もしかしたら跡に……って!?


「ひゃあ!? こ、今度は手首!?」


 止めようと肩を叩いていた右手を掴まれ今度は手首を噛まれました。首と同じくしばらくの甘噛みの後危険は感じ無い程度に強まります。満足したのか離された手首には見事な歯型が……こ、これは首にも!? そして彼は足元にひざまずいて……って!?


「あ、足首にもでございますか!? ひ、史ちゃんいい加減に……ひっ!?」


 彼の口内に収まりそうでしたわたくしの足首は解放されました。……彼が床に押し伏せられたからでございます。そしてそれを成したのは……、


「マ、ママ!?」


 わたくし達の母であり上司である女性でございます。……って!? あの! 史ちゃんの腕がきまって……それに抑えている膝が肋骨を……あの、少なくとも青痣に……、


「それは置いといて、今璃こっちに来なさい」


 あ、あき兄さんも……それに、


「うわっ、怪我では無いですけどバッチリ跡ついてます!」


 ゆずりも、でございますか……そして跡……首、でございますね……。


「……湿布でも貼っとくか」


 ……ええ、とりあえず隠したく存じ上げます。……すると犯人たる少年が呻き……、


「…………あれ? 何で俺母さんに……それに兄さんと楪………………え、いっちゃん首………………あ、俺がした?」


 と、おっしゃいました。……やはり寝ぼけて……そして覚えていないのでございますね……ふふふ。


「………………とりあえず今璃いまり、楪、別邸の空き部屋に……史、少し母と話しましょう」


 ……ええ、わかりましたわ。


「………………んー、お父さんへの連絡は?」


 ……ああ、父からも叱ってもらいませんと。


「…………私からします」


「わかった、じゃあ俺は二人を送って来る……上にもうちょっと着込もうか?」


「はい!」


 わたくしは史ちゃんの部屋のクローゼットに掛けてある通学用のコートを羽織りました。……多分近日中に私物の引き上げをすることとなりますでしょうね……主の命令で。



 その予想は外れずわたくしは十年以上続けていた彼との添い寝を辞める運びとなりました。……ですが予想以上に主の怒りは苛烈を極め……思わずわたくしと父は自らの怒りを忘れ彼の弁護に回り、甘すぎる!! との、お説教をされました。


 ……とても心がえぐられました。



 【飴と鞭(ぬいぐるみ)



 ……生まれて来てごめんなさい。


 思わずそう言いそうになるほどご主人様の叱責は苛烈で徹底的だった。……いや、悪いのは俺です。本当に申し訳ありません。


 そして今璃との接触制限を受けた。許可が出るまで触れるな、話すな、近寄るな、だ、そうだ。なので、


「今日からしばらくは今璃こっちの自治会室に来れないからなー」


 緑郎ろくろうが報告するように今璃は高等部に来れない。


「ええっ!? な、何故に!?」


「ヒャヒャヒャ、それは史が言わんとなー」


 今日は中高合同の風紀との定期連絡会議、数十の目が俺を見る……言いたくないが……、


「…………俺との接触が禁じられておりますので」


「……何したの?」


 顔を強張らせた百合恵ゆりえ様に問われます。


「……寝ぼけて」


「……何、したの?」


 問い詰められます。


「……噛みました」


「……怪我は?」


 それはありえないので、


「させていません」


「……場所は?」


「………………首と右手首」


 まだ跡は消えず現在の今璃は跡の上に湿布、そしてハイネックのインナーを制服の下に着ている。


「……サイテー」


「………………」


 同性達からは呆れと少しの同情を込めた視線だが…………優菜ゆうな様百合恵様の女性陣には冷た過ぎる視線を受けております。……本当に申し訳ありません。


「あー、その辺で……史姫さんに徹底的に躾られた後だから、しばらく死んだ目をしてたぐらいのダメージだから」


「ええ、見ていたら最後は同情しか抱け無いほどの容赦の無さでしたので」


 緑郎と楡晶にれあがこれ以上は、と、お二人を宥めてくれる。


「……それは……大丈夫か?」


「……大丈夫?」


 俺と似た立場の柊耶しゅうや先輩と光三朗こうざぶろうが口々に心配してくれる。……二人もご主人様の庇護心の強さは実感として知っているからな、


「……大丈夫……気をつけて」


 明日は我が身にならないように。


「っていうかそんなに同情してるならその時庇ってやれば良いんじゃ?」


 明石あかいしが冷たくないか? と、問い掛ける。……それは、


「………………庇ったんだ……今璃とそのお父さんが」


 そして、


「被害者とその父が庇ってどうする、ってお説教一時間」


 ……あの時完全に圓城寺えんじょうじ家のヒエラルヒーが決定した。


「………………我が身は可愛いので」


 ……最高権力者に逆らう愚挙は誰も犯さなかった。



 女性陣の視線も生温い温度に変わった頃、自治会室のドアが控え目にノックされた。今璃がいないので末席に座る磨見まみが先輩達に許可を取りドアを開ける。そこに居たのは……、


「あの、今璃さんに頼まれて……代理として参りました」


 兄や妹と同じ整った容姿の、だが垂れた目尻が優しげな印象の美少年──桐生元樹(もとき)君だった。…………いっちゃん、どんな風に脅したんだ?


「うむ、そうか、元樹は友人思いだからな」


 予想外に可愛い弟と会えた元治もとはるが自慢げに微笑む、敬愛する兄の笑顔に若干曇っていた元樹君の穏やかな笑顔も眩しいまでに輝く。そして、


「初めて会う者も多いよな、それは俺の弟の元樹だ。今璃さんとは親友でな、優秀で素直な奴で教えれば何でも出来るから色々任せて良い」


 と、紹介され、


「いえ、大したことは出来ませんが……桐生元樹です。ええと何時も兄様がお世話になっております。不肖の弟ですがしばらくよろしくお願いします」


 と、とても幸せそうに頭を下げた。…………実の兄に逃げ道を塞がれたが……良いのか?


 ちらりと見た顔は満面の笑顔……良いのか。



「んー、そういえば元樹君、で良いかな? ええと部活は平気なの?」


 百合恵様がおっとりと尋ねる。元樹君が部活に専念する為と生徒会入りを辞退したことは有名だからだ。


「はい、呼び捨てでも構いませんが……ええと、部活ですね? 部活は今弓道場がリフォーム中で……火曜と金曜には『外』の弓道場を借りられたのですが……ああ、ですので火金は申し訳ありませんがお手伝いすることが出来ません」


「ああ、構わない。今は暇だし合同イベントも無いから……っていうかこっちでの仕事多分無いぞ?」


 だからご主人様も今璃に自治会室に行くな。と、言えたのだ、 


「……そう、なのですか?」


 元樹君は聞いていなかったらしい。


「うむ、今日も問題なしと言い合った後でお茶を飲むぐらいしかしていないだろ?」


 元治が駄目を押す。


「……確かに、そうですね」


 元樹君は悟った。自分が親友に騙されたことを、そしてその目的は、


「くくっ、でも元樹君もせっかく手伝うことになったんだから……うん、良い仕事が」


 元樹君をなし崩し的に生徒会の予備メンバーに加えることだろうな。……そして今の台詞、今璃の真意に気付いて言ったな栄次えいじ


 …………頑張れ。



 ──寝付けない。


 俺はベッドに横たわり真っ暗な自室を既に暗闇に慣れた目で見渡す。長年悩まされてきた悪夢はもう見ない。と、言うより悪夢にならなくなった。


 元治から選択肢は作れると、言われてから俺はあの夢を見る度に全員が生き残る術を探し、そして見つけた。


 ──時間を稼げば助けが来る。という真実を。


 ……考えれば当たり前であのご当主やお父さんが娘の危機に駆け付けない訳がないのだ。だから不眠の原因は悪夢では無い。


「……寒い」


 隣に体温が無い。それが原因だ。


 一人寝を始めてしばらく後風邪を引きかけ、薄着で寝ているからだ。と、家族に呆れられた。なのできっちり着込み布団を被り暖房をつけた。けれど寒い。……これは精神的なものだ。


「……いっちゃんに会いたい」


 一向にやって来ない眠気に俺は、睡眠を諦め電気を点け恋人からの手紙を読み返すことにした。そう手紙・・だ。


 今璃禁止を命じた紗々蘭だがさすがに完全に接触を切るのは可哀相だと思ったのか手紙だけは許してくれた。何故手紙なのかは謎だ。……だが、


 ──いっちゃんの筆跡、女性らしく優美で繊細。──いっちゃんの香り、柑橘と清楚で甘く残る花の香り。


 文面もそうだがそれ以外にも彼女が感じられる。……だが、


「……いっちゃんに会いたい」


 あの滑らかな声で名前を呼んでほしい。包み込むような笑顔を向けてほしい。柔らかな黒髪を撫でたい。ほのかに甘いコーヒーを入れてほしい。……そして何より、


「……いっちゃんの体温がほしい」


 この世界に彼女がいることを全身で感じたい。



 接触制限が解除されたのは事件から十日が経った頃、とは言えもう一緒には寝れない。そして少し寝不足で迎えたクリスマス、俺はご主人様から、


「体調が悪そうだから……プレゼント」


 と、一抱えほどの包みを渡された。言い付け通り自室で開けたその中身は、


「…………黒い狐のぬいぐるみ?」


 …………代わりにこれを抱いて寝ろと? ……さすがに抵抗が……ん?


 触り心地の好い狐は首にチェーンの付いた子瓶をかけていた。蓋を開けてみると、


「……いっちゃんの香り」


 恋人の香水が入っていた。



 結果を言えば安眠は出来るようになった……羞恥と引き換えに。



 ……クリスマスプレゼントは飴に見せ掛けた鞭でした。



 【塔から降りたお姫様、約束の指の隣】



「遊園地って楽しいな」 


「ええ、そうですね……主君、動かないで、何時もより念入りにケアをしませんと……紫外線と海風は馬鹿にならないですからね」


「まだはしゃいでるのですか我が君……ふー、落ち着くハーブティーです」


 今日は四月最後の土曜日。紗々蘭は初めて市外に出掛けました。


 場所は海の側の遊園地、そこで紗々蘭は初めて海を見たのでございます。



 例のお方は想像以上に優秀で愛情深く、紗々蘭の『最悪の結末(バッドエンド)』を知ると自らの命を餌に大人達と共闘し、敵を屠って行ったそうでございます。そのことをわたくしと紗々蘭が知ったのはもう全てが終わった後のことでございました。──そして、


「遊園地に行こう」


 と、本日の朝、迎えに参りました、一見人の悪い笑みの彼に、嬉しい驚き(サプライズ)に固まった紗々蘭が泣き笑いで頷いた瞬間、わたくし共『家族』は、


 ──『命題』が果たされたことを知ったのでございます。


 屋敷の全住人と父が選別した社員とその家族だけで貸し切った遊園地。紗々蘭だけでは無く屋敷のほとんどが初体験でございまして様々な騒動はございましたが……、


「ふふ、そうだね紗々蘭、また行きたいね」


「ああ!」


 満面の笑みの主を見られただけでわたくしは至福でございます。



「今日はいい日でございましたね」


 寝る前のひと時、使用人寮の屋上で愛しい彼にわたくしは笑いかけます。


「……ああ、いい日だ」


 わたくしの髪を梳きながら珍しく微笑みながら彼も頷きます。──そして、


「……デート、しようか?」


 と、提案なさいました。わたくしは首を傾げ続きを促します。


「……紗々蘭もしてるんだ。俺達もしていいだろう?」


「……ふふ、美術館でございますか?」


 彼の好きな場所。


「……買い物にも付き合うよ」


 わたくしの好きな場所。……ああ、


「でしたら欲しい物がございます」


「………………?」


 わずかに目を見開き続きを促す彼に、わたくしは悪戯な笑みでねだります。


「わたくしと史ちゃんの……薬指を飾る輪を」


「…………婚約指輪はあげたよね?」


 ええ、とても素敵な、お祖母様が遺したルビーの指輪を、……ですが、


「ふふ、結婚指輪代わりが欲しいのでございます」


 貴方がわたくしのものであり、わたくしが貴方のものである証を、


「………………うん、じゃあいっちゃんに似合う華奢な金の指輪にしようか?」


 まあ、ふふ、その提案は嬉しいのですが、


「うーん、史ちゃんに似合うホワイトゴールドの太めの指輪が良いかと思っていたのでございますが……」


 わたくしよりも貴方が似合う品を、


「……いっちゃんに似合うのが良い」


 けれど愛しい彼は譲らない、と、手を握り、


「ふふ、わかりましたわ」


 わたくしは常通りに折れます。


「……じゃあ……一週間後、約束」


 左手の小指を絡め約束を、


「約束でございます」


 唇と唇を重ね違えぬようにと誓い合い、わたくし達は手をつなぎ部屋に戻ります。



 ──かつては同じ、今は違う、けれど将来はまた同じ場所に帰るわたくし達は。



































 ──物静かな会計ルート消滅しました。











 ──ボクっ娘執行部員ルート消滅しました。











 ──他のルートに進みますか?


   YES NO

      ▲






 


彼らは物静かな会計と悪役執行部員、又は、ボクっ娘執行部員と熱血漢な当て馬、でした。


または第一章補遺編、終了です。


終始一貫して矢印が互いだけを向き、擦れ違うことの無い二人なのでこうなりました。


次は美人過ぎるお兄さんの予定です。


では、またお読みいただけたら幸いです。



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