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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第三章 攻略対象者な彼と攻略対象者やモブな彼女のお話。

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彼らは物静かな会計と悪役執行部員、又は、ボクっ娘執行部員と熱血漢な当て馬、でした。~カウンセリング編~

シリアスです。


 

 


 【わたくしが怖いこと、わたくし達が望む未来】



 これは紗々蘭(ささら)が契約を結ぶ少し前のお話でございます。


「難しく考えないでちょっとした世間話だと思って話しましょう?」


 わたくしや紗々蘭同じ、少し険のある顔立ちですのにどこまでも柔らかで慈しみに溢れた笑みで梅子うめこちゃんはわたくしに告げました。


 本日は職務も学業も休みの日曜日。此処は邸内でも最奥にあるかつては香奈子かなこママ、現在は紗々蘭の温室。わたくしは梅子ちゃんとショートブレッドと少し蜂蜜を入れた温かいミルクティーののった小さな円卓に着いて、彼女にカウンセリングを受けています。


 わたくしは刃物恐怖症で、動物恐怖症です。前者は十年近く、後者は生れつきの、これまで如何なる治療も効果がありません根深いものでございます。……ですが、


今璃いまりさんの辛いのを少しでも和らげられれば、私はそう願っているの。ふふ、ちょっとしたお茶会だと思って少し付き合ってね?」


 梅子ちゃんはとても穏やかな声で少しでも緩和されれば良いと、続けます。……同じ空間にいるだけで心が安らぐ、彼女こそ本物の癒し系でございますね。


「……うん、よろしくお願いします。……ええと、それでどんなことを話せば良いかな?」


「うーん、とりあえずそうね……ふふ、好きな食べ物や好きな季節、好きな場所について話しましょうか? ふふ、今日は今璃さんがリラックス出来るようにこの場所とこのお菓子と紅茶にしたのだけど……ふふ、どんなところが好きなのかしら?」


 それからわたくしは梅子ちゃんに『温室は香奈子ママと紗々蘭が感じられるから好き』や、『ショートブレッドはサクサクとした食感と粉の味が好き』や、『蜂蜜入りのミルクティーは昔から落ち込んでいる時に気がつくと入れてもらっていたから好き』などの、好きな季節、好きな色、好きな香り、好きな作曲家、等の色々な『好き』を語りました。


 彼女の穏やかな笑みと声に促され、わたくしは誰にも語ったことの無い『サンダルウッドの香りが好き』や、『シューマンが好き』と、言ったことまで話してしまい、後々少し恥ずかしく思うのですが……まあ、先のことは置いときまして、そんな風にわたくしの様々な好きを聞き、わたくしがリラックスしたのを確認した梅子ちゃんは穏やかな表情でわたくしの、


「……では次は嫌いなこと、不快なこと、怖いことを話してみましょうか?」


 弱さを語るよう促しました。……嫌い、不快、怖い、それらは全て、


「……ボクは、ボクは紗々蘭が、紗々蘭が……『人』として扱われ無いのが嫌だ」


 この一言で語れます。梅子ちゃんは様々な感情で身を震わせるわたくしをそっと抱き寄せ続きを促します。


「あの子を聖女や女神のように崇め立てる連中が嫌い、あの子を人形のように感情が無い存在だと思っている連中が不快、あの子を、あの子が……ボクは……ボクは、紗々蘭が愛していない連中に──汚されるかも知れないのが怖い」


 紗々蘭は完璧でございます。けれどあの子にも怠惰な面や偏執的な面、臆病な普通の少女の面や恋する乙女の面があります。そんな彼女を無私の聖人として崇め、勝手に失望する連中がいます。


 紗々蘭は感情を表に出しません。あの子は外では慈愛に溢れた微笑みを常に顔に張り付けて過ごし、怒りで声を荒げることも、悲しみに声を震わせることもございません。けれどあの子はその笑みの下に熱量は低いとしても色鮮やかな喜怒哀楽を隠しております。それに気付きもせずに表面だけで彼女を人形だと軽視する連中がいます。


 ですが、それらは別に良いのです。崇める連中は内心を隠し利用を、軽視する連中にはその愚かさに嘲笑を、紗々蘭を理解しない存在などどうでも良いと、そうすれば良いのです。けれど、けれど最後の……わたくしの何よりの恐怖。起こるかも知れない最悪の結末(バッドエンド)


「……ボクは紗々蘭が愛を免罪符にして愛玩物として扱われたり、子を産む道具として扱われるかも知れない未来が怖い。……あの子の綺麗な心が壊されるかも知れないことが怖い。あの子が……あの子が今も、自らを殺してくれる存在を必要としている現状が堪らなく嫌で不快で怖いんだ!!」


 紗々蘭はコウノトリを信じているような年齢で自らの宿命を知りました。そんな彼女はきっかり三十分だけ泣いて直ぐに対策を講じました。その対策とは『死に神』──自らのデッドエンドフラグと約定を結ぶことでした。


 紗々蘭は彼に言いました。


「あなたが囚われた私を殺してくれるなら。ほのかにあなたを愛させましょう」


 と、ママを狂わんばかりに愛する『死に神』は、その最愛たる紗々蘭を憎み、妬み、恨み、殺意を抱き、けれど紗々蘭の命とママの命は(イコール)である故に殺せ無いでいました。そんな彼にとって紗々蘭の提案は思うところはあるにせよ渡りに舟であり、紗々蘭は責め苦からの速やかな解放と言う名の保険を手に入れ、か細い命綱一本で壊れるのを免れました。……けれど、


「……ボクは紗々蘭に心の底から笑ってほしい、感情を制限せず、好きなところに行き、暗闇に怯えること無く眠ってほしい」


 それでも紗々蘭は『箱庭』でしか生きられ無いのです。恐怖を抑える為に感情を制限し続けているのです。夜に安眠出来ずうたた寝ばかりを繰り返すのです。


「……ええ、私もそう願っています。…………ふふ、兄様達を信じましょう。そして私達はせめてもの安らぎを」


 梅子ちゃんとわたくしの目には光るものがあります。わたくし達はずっと願っているのです。……彼女の母を守れなかったあの日から、紗々蘭の幸せが『七席』全ての『命題』なのですから。



 【俺の恐怖と貪欲の肯定】



 梅子さんのカウンセリングを受けた。この前紗々蘭が言っていた対策の一つらしい。何故か俺の少し前に今璃も受け、終えた後には二人して目を真っ赤にしていた。理由を聞いたら、顔を見合わせ、


「「……ひ・み・つ!」」


 と、笑って答えてくれなかったが、効果はあったようで今璃の肩の力が少し抜けた感じだ。……よかった。


 そして受けたカウンセリング。俺はフラッシュバックによる不眠症の解消を目指すべきなのだが、


「……今まで受けた如何なる治療も効果がなかったんです」


 カウンセリング、投薬、催眠療法等の西洋医学も、漢方や鍼灸等の東洋医学も効果がなかった。


「んー、多分(ひとし)君はいわゆる精神防壁が厚いのね。だからそう言った医術を信じられず効果が出ないの。プラシーボ効果の逆ね」


 我が家のダイニングテーブルにつき、今璃に入れておいて貰ったコーヒー入りのマグを両手で包みながら梅子さんは笑う。……なるほど、


「……ならば梅子さんは最適ですね。俺はその系統の顔立ちに安心感を覚えますので」


 彼女も含め、紗々蘭、今璃、お父さん、ご当主、全員俺にとっては絶対の味方だ。


「ふふ、そうね。視覚は重要だものね。……んー、でもどうしましょうね。多分一般的な治療、PTSDの原因を話す、では足りないと思うの、だって史君あの事件は既にかみ砕いているでしょ?」


 ……確かに、


「……はい、なのに悪夢を見続け、不眠に陥る。……何故でしょう?」


「んー、とりあえず、……史君は絵が好きなのね? 何と無く絵画療法でもしましょうか」


「……はい」


 ……何と無く。



 そして何枚か絵を描いた。自由に描いたり、お題をもらい描いたり、……ですが、


「……そんなに笑わなくても……」


 梅子さんは俺の絵を見る度に吹き出している。……確かに俺は芸術的才能が無いが、……酷く無いか?


「ご、ごめんなさい、いや、凄く個性的で……ふふ、良いと思うわ」


「……そうですか」


「ふふ、うん、わかったわ、史君の絵の問題点は完璧を求め過ぎるところね。……少しのはみ出しもバランスの崩れも許せなくって、こんがらがっている……このままでも良いけれど」


 ………そう、なのか、なるほど、初めて絵に対して納得出来る指摘を受けた。


「ふふ、そうね、少し肩の力を抜いて。自分の不完全さを許せると良いわね。……ふふ、では今日はここまでにしましょう。史君、原因はわかっているようだし」


 ……ああ、やはりわかられていましたか。


「…………すみません、わかっていてもなかなか認められなくて」


 ……直視したく無いから。


「ふふ、良いのよ。…………んー、私達のような事情を知っている人間には話しづらいなら全く事情を知らない人に……そう『例えばの話』として話して見れば? 話すことで感情が整理出来るかも知れないわ」


「………………はい」



 そう、結局俺は理解しながらも認めたく無いのだ。……あの、悪夢を、


 ──動かなくなる少年、赤に染まる女の子、奪われる『主』。


 けれどその前があり、


 ──少年は身を呈してチャンスをくれた。多分どちらか一人は助けられる。だが、俺は最愛の女の子も唯一の主も見捨てられず、


 ──どちらも失う。



「……どうしても選びたく無い二者択一、どちらを選ぶべき?」


 カウンセリングの翌日、教室移動の最中に俺はポロリと問うてしまった。……多分梅子さんの言葉が心に残っていたのだろう。


「? どんな二択?」


 百合恵ゆりえ様がキョトンと聞く。……選択肢は、


「……凄く大切なものと、失ったら生きていけないもの」


 愛する伴侶と愛する主人、


「……選べ無いだろ、それ」


 ……ああ、明石あかいしそうなんだ、けれど、


「……でも選ばなきゃどちらも失う」


 あの、悪夢のように。だが、そんな俺の悲観を嘲笑う声がした。


「はっ、何言ってる。どちらも必要ならばどちらも選べば良い」


 元治もとはるは当然のように言った。どちらも選べ、と。


「そもそも二者択一って言うのがおかしい。何時だって選択肢は提示されている以外にあって、ただそれを見つけられるか諦めるかの違いだろう?」


 ……第三のもしかしたら第四の選択肢が?


「……諦め無ければ見つかるのか?」


「見つから無いなら作れば良いだけだ」


 !! ああ……そう、か、作るのか、


「……元治ってたまに賢者だよな」


「ふん、生きてさえいればなんとでもなる。……死だけが終わりだ」


「……何故、高校生でそこまで達観しているのかが不思議ね」


「だね、波瀾の無い人生っぽいのに」


「……お前達、桐生きりゅうに厳しく無いか?」


 賑やかな級友達の声を聞きながら俺は考える。


 ──悪夢をハッピーエンドに変える選択肢を。


 ちなみに移動した教室にはまだ教師が来て居らず俺達は空き時間を雑談で潰した訳だが……そこで得た情報が夜に、紗々蘭の悩み解消に役立った……有意義な数十分だった。




 

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