岸元家の衝撃
短め、三人称です。
岸元家次男、栄次君の突然の婚約(仮)発表があったのは、いつもより少し遅い夕食後、次男の土産のシュークリームをコーヒーと共に食べはじめた時でした、
「えっ? ハルが栄ちゃんが理事長に呼び出し受けたって言ってたけど、いきなり婚約って急過ぎ! いつの間にそんなお嬢様と知り合ったのさ、ってゆーか、このシュークリーム激ウマ!!」
まず、はじめに婚約発表の衝撃から立ち直ったのは三男の光三朗君です、共通の友人から双子の片割れが呼び出しを受けた事を聞いていたので、次兄からの発表を予測していたのです、内容は予想外だった様ですが、
「ううん? 今日はじめて会った」
栄次君は弟の疑問に答えます、彼の手にはシュークリーム、彼は今日二個目です、一口一口じっくりと堪能しています、
「ああ、一目惚れ? それとも栄ちゃんにはお兄ちゃんの知らない野心家の面があったって事? と言うよりも、何よりも! このシュークリーム激ヤバ!」
長男の一宏君は上の弟に自分の知らない情熱的な部分があったことに少し落ち込みました、
「ふふふ、一目惚れなら素敵ね? 玉の輿狙いも、それはそれで、楽しそうだけど、……あら、本当に美味しいわ、このシュークリーム、一個じゃ少し物足りないかも」
三兄弟の母、静留さんはとりあえず静観する模様です、ちょっぴりワクワクしているのは可愛い娘が出来るかも知れないからです、美形ぞろいでも男の子三人では色々つまらない事が多かったのです。
「とりあえず明後日、お会いして、その時に賛成するか反対するか決めるね、……それよりもこのシュークリームは何処の品かね? 今度の友人の演奏会に差し入れたいのだが」
一家の大黒柱イヴァンさんも静観の姿勢です、明後日の来訪時に相手と息子を見極めるつもりです。
「残念ながら非売品ってうん? 電話か」
コーヒーを飲みながら余韻に浸っていた栄次君は、部屋着のポケットからのシンプルなメロディに答え、スマートフォンを取り出します、表示されている名前は今まで電話をかけてきた事の無い友人でした、少し不思議に思いながら家族に断り電話に出ます、
「六崎? どうした? 電話なんて珍しい、何かあったか?」
窓を開けウッドデッキに出ながら、栄次君は問い掛けます。ですが、電話から聞こえて来たのは、出会ったばかりの少女のものでした、
「いえ、私です、紗々蘭です、連絡先を交換しそびれたので月史の携帯を借りました、……今、お時間大丈夫ですか?」
そういえば彼女と連絡先交換をしていなかった、と、栄次君は自分のうっかりっぷりを呪いました。けれど、時刻は現在午後八時半……携帯を借りれるということはどういう事でしょう、栄次君は何と無くムッとして尋ねます、
「ああ、はい、月史は私付きの従者なので……敷地内に住んでいますし、直ぐ呼び出せるのですよ」
栄次君は友人と婚約者(仮)の関係を知りました、趣味嗜好が筒抜けのはずです、
「とりあえずわかった、それで? 電話の理由は? 深刻な用なら家電にかけるよね?」
栄次君は友人と話し合う事を決意しつつ、用件を聞くことにしました、
「岸元さんは栗、お好きですか?」
婚約者(仮)さんは突拍子も無い事を聞きます、
「うん、好きだよ、ちょうど旬だしね」
栄次君は素直に答えます、そもそも彼は食べられ無いものはありません、
「では、小豆と言うより和菓子全般は大丈夫ですか?」
婚約者(仮)さんはどうやら手土産を何にするか悩んでいる様です、
「小豆は常に缶詰が棚にダースであるぐらい、家族全員が好きだよ、和菓子ももちろん愛してる」
栄次君はシュークリームを特別に愛していますが、それ以外の甘味も洋の東西を問わず愛しています、
「…………では、明後日の手土産はきっと喜んでいただけそうです、期待していて下さいね……それでは明後日、またお会いできるのを楽しみにしています……おやすみなさい」
どうやら手土産が決まった様です、婚約者候補さんは明後日の再会を心待ちにしている事を伝え、そして、就寝の挨拶をします、
「うん、明後日、俺も楽しみだよ……おやすみなさい」
栄次君も婚約者(仮)さんに思いを返し、就寝の挨拶をして、微笑みながら通話を終え、屋内に戻ります。
ダイニングに戻った栄次君は、次男がこれまで浮かべた事の無い甘い笑みを浮かべている事に驚き、どういう事なのかと、質問攻めにしようとしている家族に向かい、意味深な笑みを浮かべて胸を張り、宣言します。
「明後日の今頃、家族全員、彼女にメロメロになっている姿が俺には見えたよ」
──その後、栄次君は家族にどんなに聞かれても、婚約について、一切語りませんでした、
──彼の宣言が事実になる、その時まで。
衝撃度、婚約<シュークリーム、岸元家は全員が甘党。




