補遺編 中
後半に虐待、暴力についての台詞があります、
ご注意下さい。
【過去を知った十五歳】
明後日は三月十六日、その日優菜は十六歳になる。
そう、彼女は一足先に婚姻可能な年齢になる……なのに俺はまだ優菜に思いを伝えられていない。
「優菜ちゃんや、お歳暮的な義理チョコサンキュウ、これ、口に合うかはわからんが、厨房に頼んで作ってもらったクッキーな」
「優菜君俺はキャンディーを買ってきた」
「優菜様俺からはフィナンシェです」
「「優菜先輩、俺達からはマシュマロです」」
そして不愉快なことに優菜の周りには無駄に顔の良い男がうろついている……優菜も彼らとそれなりに仲が良い、
「……優菜……優菜は義理チョコを配るようになったのだな……」
「ふふ、私の交遊関係も少し広がりましたから、ふふ、生徒会のメンバーだけですけれど」
まあ、そうだ、初等部の時には家族だけだったのに比べるとかなりの進歩だ……優菜に親しい人間が増えること自体は問題無いが……何故に男ばかりなんだ……それも顔の良い、
「……遅くなってごめんなさいね、あら? もう、後輩ちゃん達は優菜さんにお返しをしているの? ふふ、じゃあ私とレオンからも……紅茶と蜂蜜の詰め合わせよ」
「うふふ、わたくしとぉ梓ちゃんからはぁバスソルトですわぁ」
「まあ! ありがとうございます、安曇様、早水先輩、麗羅様、木嶋先輩、ふふ、どうしましょう? 私だけこんなに貰って、うふふ、とても豪華ですね」
……まあ美貌の先輩方もいるのだが……当然のように先輩方に渡したチョコの方が豪華だったし……ちなみに生徒会には女生徒は少なく、白黒コンビは義理チョコは配らない主義、なので優菜が一人だけお返しを貰っているのだが……、
「………らこんなに貰うとか……ううん? これくらいの仲の良さなら平気か?」
そんな当たり前のことに優菜は不安を覚えているらしい……。
「優菜、お前は俺に何を隠している?」
優菜の誕生日、俺は彼女好みのフロアスタンドを贈ることにし、嵩張るそれを直接彼女の部屋まで届けた、予想通り彼女はとても喜んでくれたが、彼女が他の生徒会の連中から貰ったプレゼントを困ったように見ているのを見て、どうにも疑念が抑え切れなくなった、そして聞いたのだ……何を隠しているのか、何をそんなに恐れているのか、と、逃げられないよう彼女を両腕で囲んで、
「……何をと言われますと、それは年頃の娘としては色々と元治君には言っていない事はありますが……」
優菜はどこか怯えたように返事をする……優菜? そんなに色々考えを巡らすほど言っていない事がたくさんあるのか? ……いや、今はあの面々の事だ、
「……春日井柊耶、四倉緑郎、六崎月史、岸元栄次、岸元光三朗……この面々の何がそんなに気になっている」
俺が5人の名を出すと優菜は目に見えて動揺した、が、それを一瞬で消し、
「……ふふ、何がと言われればそれは生徒会の仲間ですし……皆さんとは友人の様な関係ですもの……気になるのは当然でしょう?」
と、おっとりと答えた……優菜……他の連中ならばそれでごまかせるだろうが、生まれた時からの付き合いの俺に通用する訳が無いだろう?
「……優菜、それならば木嶋先輩や早水先輩には俺が気になった妙な視線を送っていない事をどう説明する?」
ああ、その二人には一切の邪気の無い純粋な美を愛でる視線を……それも婚約者と語り合っている時に特に送っている、だが名前を出した五人には、どこか怯えるような、祈るような、なんとも言えない視線を送っている、だから、
「……どう説明と言われましても……ああ、お二人には婚約者がいらっしゃいますので余り不躾な視線を送っては失礼だと判断したのでしょう」
そんな取ってつけたような言い訳はもういらないんだよ!
「……優菜……」
俺は優菜にさらに顔を近付ける、彼女が男との接触を苦手としている事を知りながら、それを利用し怯えさせて真実を得ようと、
「それはつまり独り身の美形ばかり見ているとそう言っている事に気付いているのか?」
……まあ、少しの嫉妬と語ってくれない苛立ち、そして俺を他の連中のように適当にごまかせると思っている愚かさへの怒りもあって少し抑えがきかなかったが……、
「えっ!? いえ、あの、それよりも顔が近すぎませんか?」
……ああ、怯えつつも、結局俺が自分を傷つけないことを理解しているのか? ……だが、
「つまり優菜は俺と別れる算段をしているのか?」
すまないが今日はお前を逃がすつもりはない、
「あの? 元治君? それはどういう……」
「優菜は俺を捨てるのか? ……ならばいっそこのまま既成事実を作って……」
知っている、優菜が俺を見捨てない事は、だが、俺は知りたい、お前の不安も痛みも……その為ならばお前に嫌われても……いや、嫌われるのは困るな、と、いうよりも……これどこまで脅せばいいんだ?
「元治君ストーップ」
俺が引くに引けずに困っていると背後から制止の声がかかった、振り向くと頼りになる幼なじみがいた、
「覚ぃ」
優菜が助かったいうように俺の拘束を外し兄に抱き着く……うむ、俺も助かった、って!?
「覚ぃ」
ゆゆゆ優菜!? 泣いて……ああ!? すまない覚! だからそんなに睨まんでくれ! 実際には何もする予定はなかったから! 俺は必死に優菜に気付かれないように身振りで説明をする。
あっ、視線の温度が少し上がった、
「あー、はいはい、びっくりしたんだね~、でも大丈夫だよ~、俺の目の黒いうちはねーちゃんの事は守るからね~」
覚は優菜の背中をよしよしと撫でながら、見せかけだけの怒りを込めて俺を睨む……うむ、どうやら逆鱗には触れなかったようだ、ん? それより今……、
「で? 見当違いの嫉妬で俺の大事なねーちゃんを泣かせたそこの君? 何か言い残す事がある?」
……うむ、やはり気のせいでは無いな……、
「いや、あの、その、ええと……ねーちゃん?」
覚は普段妹をゆーちゃんと呼んでいる、一度なら言い間違えか、聞き間違いだと思ったが……、
「さささ覚ぃ?」
……いや、優菜……その反応はわかりやす過ぎだろう……、
「そ、ゆーちゃんは今は妹だけど前はねーちゃんだったの……信じる? ……なら、君が気になっている事の答えを教えるけど?」
覚……面白がってるな……まあ、教えてもらえるなら別に構わんが……。
俺達三人は色々説明しやすいから、と言われ覚の部屋に移った、
「んじゃ、元治君とりあえずまずこれを読んで」
部屋に入るといきなりタブレット端末を渡された……うむ、読めばいいのか? ……ええと、私は乙女ゲームの世界に転生した? ふむ? これは流行っていると聞く悪役令嬢転生もののウェブ小説か? ……ああ、意外と面白いな。そんな風に俺が結構夢中になりながら小説を読んでいると、
「ちょっと、待つのだ弟よ! 何をいきなり元治君にばらしている! そもそもどこから聞いていた!?」
「えー? どこからって? うーんと、元治君がメイン攻略対象者の名前を羅列し始めた頃から?」
「……ほぼ始めからではないか……」
と、桜花院兄妹は声を抑えることも無く言い争う……あー、優菜、お前は隠し事には向いていない、そして覚、それはつまりずっと観察していたってことか? ……道理でタイミングが良すぎると思ったよ……、
「うんうん、ねーちゃんの部屋の前を通ったらなにやら不穏な言葉が聞こえたからね~、立ち聞きしたよ~……ていうか元治君、ドアを半開きにするとか君は紳士なの? それとも狼なの? どっちかに決めようよ~」
ん? いや、あれは単なる脅しだったからな……まあ、やり過ぎたが……うむ、その、
「……いや、紳士的に話を聞くつもりだったのだが……その、頭に血が上って……すまない優菜……」
まあ、なんだ、信じてもらっていないのかと思ったらつい……、うむ、本当にすまない、
「いえ、その……びっくりしました……けれど、ええと、未遂ですし……」
いや、そんな風にあっさり流れるのもちょっと……ああ、うむ、話を戻そう、
「……ああ、その、本当にすまない……ええと、それで覚……攻略対象者、か、つまりこの小説の様にお前達がなんだ、乙女ゲームの世界に転生した、と?」
読みながら聞いた会話の内容から推察するとそうなるのだが……、
「うーん? まあ、ビミョーに違うんだけど、そう認識してもらった方が説明しやすいね~」
「ええ、そう認識していただく方が楽ですね……私達もとりあえずそういうことにしていますし……」
? ふむ、微妙には違うのか……ああ良い、二人が認識する真実を語ってくれるならば、な、
「……うむ、良くわからんがそういうことだと認識する……で? つまり俺と覚も攻略対象者って事か? ならば優菜は悪役令嬢?」
うむ、生徒会の面々が攻略対象者なのだ、俺と覚もそうだろう、そしてそう考えれば当然俺の婚約者の優菜は……、
「……いえ、元治君がメイン攻略対象者、覚はサブ攻略対象者、そこまでは合っていますが……私はヒロインです」
ん?
「…………………………はあっ?」
いや!? おかしいだろ!? ……ああ、そうか、ゲームでは俺達は婚約してな……、
「ちなみにゲームでも二人は婚約していたよ~」
い? ……へ? いやいや、
「……ええと、ちょっとまて、婚約者がいるのに他の男を攻略する? その上実の兄も攻略対象者? ……なんだそのインモラルなゲームは!?」
何その、ゲーム内の桐生元治、かわいそ過ぎる、それに覚も攻略対象……ええと、実は血の繋がらない……いや、そっくり過ぎる、
「ああ、いえ、覚は優菜では攻略出来ません」
「俺は他二人用の攻略対象者だからね~」
は? 他二人? ……ええとつまりゲームの桜花院優菜も桐生元治も共に不貞な人間だと? ……ああ、うむ、
「……とりあえず、そのふざけたゲームについて聞こうか……」
そして覚が無駄に凝った映像を流し──とても美麗なイラストがついてた、覚は前世漫画家だったそうだ──語った内容は……俺達生徒会のメンバーと風紀の柊耶先輩、そしてメンバーの兄弟と学園の2トップが攻略対象者だというおかしな内容だった、
……うむ、生徒会と兄弟はまあわかる、だが理事長と学園長は……いや、理事長はまだ二十代だし……だが学園長は……いや、そもそも教育者として学生と、とか……うむ、インモラルだ……ん? いや、
「……で? あー、ヒロインが優菜の他に二人? 彼女達はええと、学園の生徒なんだよな?」
できれば否定してほしいが……、
「うん、その2ちゃんが四月に高等部に入学して来るよ~、既に確認済み、俺の受け持つクラスの生徒で元治君ともクラスメイトだよ~」
…………、
「で、その3ちゃんはその翌年に高等部に入学する事にゲームではなってるんだけど……」
……二人とも優菜より年下……うむ、その世界の城生院学園は終わりだな……それで、ええと、ゲームではなっている?
「……だけど?」
ふむ、既に来ないように手を打ってるとか?
「……これは確証の無い情報として聞いてね? ……多分圓城寺に俺達以外の転生者、それも大人がいると思う」
……は? そんなにこの世界には前世の記憶持ちがいるのか?
「で、その3ちゃんは『七席』の外で暮らす家系の子でお姫様に仕える為に来るって予定なんだけど……」
「……転生者がその子を来させ無い可能性があるということか……」
……ん? 覚の口ぶりでは余りその転生者を警戒して無いな……ふむ、少なくとも敵では無いと考えているのか……だが、もしそんなに記憶持ちがいるとするなら……、
「まあ、その3ちゃんは良いとして、なんで俺が元治君にこの事を話したかといえば……」
「……その2がいわゆる転生ヒロインって奴だった場合に備えてか……」
そう、覚は警戒しているのか……うむ、三分の一が記憶持ちなのだ、警戒するのは当然か、
「そっ……うん、まあ、簡単に言うと、俺とねーちゃんはゲームキャラに成りきって学園生活を送っている訳……それはゲーム内のバッドエンドを未然に防ぐ目的と俺達が転生者だって事を隠す為にって理由なんだけど……」
ああ、優菜が学園ではお嬢様の仮面をえらくしっかりと着けてると思ったら、そういう理由もあったのか、
「やー、どう考えても肉食系転生ヒロインだった場合の最大の獲物は元治君じゃん? でもその元治君が完全に攻略対象者っぽくない行動をとってる訳だ、あっ、これ絶対元治君もしくはその周囲の人間が転生者だって思われる、って俺的には考えた訳~」
ええと、最大の獲物……まあ、我が家が一番金を持ってるしな……そして攻略対象者っぽくない? ふむ? つまりゲームとは俺の人格がかなり違うのか……まあ、その世界の優菜が俺の優菜では無いのだ、当然か、
「と、いう訳で、元治君には『残念なツンデレ男』『死に王』『ツンデレ男は生きづらい』なゲームキャラ桐生元治を演じてもらいま~す」
………………ん?
「…………はあっ!?」
ツンデレ男!? 死に王!? ちょっと待て!? なんだそのゲームの桐生元治は!? というより、なんで学園生活で死ぬんだ!? それも複数っぽい!?
「大丈夫ですよ元治君! 私が桜花院優菜である限り元治君に死亡フラグなんて立ちませんから!」
ああ、うむ、ありがとう優菜……ん? ええと、つまりヒロインその1でうっかりなプレイをしたら俺は死ぬのか……うむ……まあ、優菜は俺を危険にさらしたりはしないしそれは安心だが……、
「……いや、二番目もあれだが……一と三番目は……それを演じろと……」
そもそもツンデレってどういう言動なんだ? えらく情緒不安定な奴の印象があるが……、
「ええと……頑張ってください」
「アハハ、ガンバレー」
……ええと、どう頑張るんだ?
その後優菜と覚にゲームでの桐生元治の言動を聞いたのだが……ううむ、そのキャラを演じた場合、転生者はともかく今までの知り合いにかなり怪しまれるだろ、公式設定は孤高の生徒会長か……よし、話さん事にしよう。
そして帰ろうとした俺は覚に呼び止められた、
「元治君、ちょっとお説教な~、あっ、ねーちゃんはもう行っていいよ~」
「……ええ、わかりました……余り元治君を責めないで下さいね」
そして優菜は出て行き俺は覚と二人っきりになった、
「じゃ、まずお説教ね~、元治君……ゆーちゃんは脅しよりも泣き落としの方が効果あるよ~」
「……それはお説教では無くアドバイスだろう」
ありがたく受け取るが、
「ん~? 元治君は俺がお説教しても堪えないでしょ~? それよりもこの先とその前の話だよ~」
「? この先はわかるが、その前?」
「そっ、ゆーちゃんと俺の前世の話」
聞きたいでしょ~? 覚は軽い口調で、けれどとても真剣な眼差しで俺を見る、
ああ、試されてるな……、だが、
「つまり俺がこの先優菜と歩むのに必要な知識なのだろう? ……ああ、聞かせてほしい」
覚は俺の返答に満足したように頷き、そして語り出した、彼らが兄妹では無く姉弟だった時の話を。
──俺とねーちゃんは種違いの兄弟だったんだよね~、
覚はそう始めた、
「俺達を産んだ人ってさ、男に寄生するしか能の無い女でね~、で、その為の道具を、美貌とか若さとか体しか持って無い女なんだ。……けれどそれは結構簡単に衰えてね~、はは、すっげー不摂生な生活してたから……だけど、あれはそれ以外の生き方が出来なかった。……そんで代わりにそれを持ってるねーちゃんを使うことにしたんだ……十一歳の自分の娘を」
覚は冷え切った笑みを浮かべ続ける、
「はは、鬼畜でしょ~? で、そんな女に近づく男も鬼畜でさ~、俺があれに買い出しに追い出され、三人になったアパート、あれが金を貰い出て行った部屋で、当然の権利だとねーちゃんを組み敷いた」
俺は手足から全身が冷えて行くのを感じた、
「まあ、俺はあいつらの企みに気付いてたからね~、はは、あれが出て行ったのを確認してアパートに入ったんだ~、で、ねーちゃんを組み敷く男の腰をビール瓶で思いっ切りぶったたいた。はは、で、振り向いた奴の露出した局部もぶったたいた、で、ねーちゃんを連れて学校の保健室に行った訳、……ねーちゃん服はまだ着てたけど殴られたり腕をきつく掴まれたりしてたからさ……」
此処ではない世界、優菜ではない優菜、決して変えられない過去、
「で、保険の先生の通報で男は逮捕、あれも失踪、で、俺達は晴れて親無し子になった訳だ」
俺は声も出せずにいた、だがそれは正解だろう、どんな言葉も彼らの過去に対しふさわしくない、
「はは、そんな顔しないでよ、これから俺達の幸せライフが六年続くんだから」
六年、覚は期限を言った、
「ふふ、親無しになった俺とねーちゃんだけど当然小学生二人じゃ生きていけないじゃん? で、あれの親類に引き取られることになったんだけど……まあ、鼻つまみ者の子供とかみんな引き取りたくないよね? ……でも居たんだ、そんなババを喜んで引くお人よしが」
お人よしな彼──養父との生活はとても楽しかった、そう覚は言う、……とてもとても幸せそうな顔で、
「まあ、でも、言った通り幸せライフは六年で終わった訳だ……お父さんの死によって」
脳卒中だったそうだ。何の前触れも無く姉弟は父を失った、そしてそんな彼らに親類達は擦り寄った……かつて拒絶した彼らに、
「はは、お父さんはさ~、真面目な勤め人だったからね~、持ち家とか将来の為の貯金とか保険金とか……まあ結構な金額だった訳よ、で、みんな欲しがった訳だ、それを相続した俺達姉弟というおまけに我慢して」
だが、高校生になっていた姉弟は亡き父の友人でもある弁護士と共に彼らを排除した、……その後の人生からも、
「で、俺達はお父さんの家でお父さんの残したお金でちゃんと高校を卒業したの、で、俺は大学に進学、でもねーちゃんはさ~、まあ、俺とお父さん以外の男と普通に会話出来ない程度には男性恐怖症になっちゃってた訳よ~」
中高は近くの女子校に俺が送り迎えすることでなんとかなったんだけど、そう覚は言う、……俺は先程の行動を思い出し自分をくびり殺したくなった、
「はは、で、ねーちゃんはヒキニートになったのです。……だけどねーちゃん真面目だからね~、親の遺産を食いつぶすだけの自分ってのが許せなかったらしくて、なんとか探し出した女性しかいない洋菓子店でバイトを始めたんだけど……」
ねーちゃん清楚系美女だったから、
「……常連に懸想させてストーカーされて、警察沙汰にまでなりました」
……うむ、優菜……良くここまで男性恐怖症を克服出来たな……そして覚はずっとそんな彼女を守ってたんだな、ああ、兄妹の絆がどうしてここまで強いのかがわかった、
「で、ねーちゃんは家で家事、俺が外で働く、ってことにして、しばらくはそんな感じの生活をしてたんだけど……」
優菜は自分に出来ることを探し続けた、そして、
「ある日ねーちゃんが漫画を見せてきた訳、で、それがもう、ちょー面白くって~!! まあ、絵はヘタウマレベルで内容とは合ってなかったけどね。で、ねーちゃん雑誌の新人賞に応募するって言って……それで俺は思った、あっ、これ絶対受かる。……まあ、絵をなんとかしたらの話だけど」
そして覚は思い出したそうだ、自分が絵画コンクールの常連だったことを、高校時代ちょくちょく漫研の手伝いをしてたことを、そしてそこで作家の心を折りまくったことを。
そして覚は姉の原作を元に漫画を仕上げた、その作品は少年漫画業界で4位争いをしている雑誌の新人賞を獲得し、即連載になった、
「ちなみにこれがその作品『A,sコンフリクト』な」
できれば忌憚の無い感想を、そう言って覚はバインダーを数冊手渡してきた、……うむ、なんと言うか……、
「……それは、楽しみ、……だ、な」
ずっしりと期待やらが重いが、
そして覚は語った、彼ら姉弟が記憶持ちの理由を、今俺が手渡された作品は未完だったそうだ、彼らが原稿を仕上げたその夜に彼らと原稿は共に灰になったらしい、
「……俺達は完結させたかった、だから記憶を甦りやすくしてもらった……で、甦ったんだ、……ここが俺達姉弟が死の直前までやっていたゲームの世界だっていうことに気付いた時に」
彼らがゲーム中、最も心を砕いた少女、黒幕令嬢圓城寺紗々蘭の母の葬儀で。




