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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第二章 彼らは孤高の生徒会長とヒロインその1、又は、斜陽の令嬢と主人公その1、でした。

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補遺編 上

一万字オーバーです。

元治君が黒く……。

 


 




 【気付いた六歳】



 俺が何時から優菜ゆうなを、狂わんばかりに愛しているのか、そのことは自分でも明確にはわからない、ただ気付いた瞬間の記憶はある、あれは俺と優菜が六歳の時、優菜が小学生になって初めて迎えたバレンタインデーだった。



 幼稚園には通っていなかった俺は育休中の母と幼い弟妹と共にほぼ家で過ごしており、唯一の同年代の遊び相手である優菜を日々心待ちにしていた。だからか常より遅く家に来た優菜に責める様な言葉を投げてしまった、


「優菜! どうした? 何時もならば三十分は前に家に遊びに来ていたでは無いか! 何か家であったのか?」


 まだ子供だった俺だが優菜の実母に色々な問題があった事には気付いていた、それ故に優菜が我が家に毎日のように遊びに来ている事も知っていた、そしてそれ故に俺は優菜の母有子(ありこ)さんに感謝している……まあ、なんだかんだ言って彼女は子供達を愛し、そして子供達も母を許容しているからこう言えるのだが……、


「ふふ、元治もとはる君? 今日は二月十四日、バレンタインデーですよ? もちろん元治君達のチョコレートを作っていて遅くなったのです」


 その言葉を聞いた瞬間、胸に湧いた歓喜が気付きの最初だった、


「そっ、そうか、そうだな、今日はバレンタインデーだったな……あー、優菜? 優菜は学園のクラスメイトに義理チョコを配ったりしたのか?」


 何故かは自覚していなかったが、俺はこの時どうしてもこの事が聞きたかった、


「ほえ? 何故に? クラスメイトに義理はありませんわ? 桜花院おうかいんの家族と桂瀬かつらせの家族と桐生きりゅうの家族に渡すだけですわ」


 その言葉に感じた優越感と当然だという納得が俺が自覚したその瞬間だった、


「ふふ、では元治君受け取ってくださいませ」


「あっ、ああ、ありがとう……」


 未だにそうだが俺はこういう時にとっさに気の利いた言葉が出て来ない……岸元きしもと三兄弟の様に流れる様に出るのもどうかと思うが……、


「ふふ、お母様にも、それからこれはお父様に渡してくださいな」


「ああ、ありがとうゆーなちゃん、ふふ、創介そうすけめ、仕事中毒が過ぎるから可愛らしい女の子から直接チョコをもらえないのだ、ふふ、ざまあみろ」


 優菜が母に二つの包みを渡す、……何故か家の両親は婚約が決まる前から優菜に母と父と呼ばせていた……刷り込みを企んでいたのだろう……うむ、素晴らしいアシストだ、そして母よその言葉は翌年以降の自分にも聞かせるべきだ、


「うふふふ、もちろん元樹もとき君にも! 元樹君のはわんちゃんの絵を描いたのですよ~」


「わんちゃん!! ユーナちゃんありがとうございます、だいすき!」


 当然、弟の元樹にも優菜はチョコレートを渡す……どうやら元樹のチョコレートは特別らしい……俺は初めて可愛い弟に苛立ちを覚えた……ん? 元樹どうした? 固まって……ん? もしや、この時の俺が向けた視線のせいで元樹は甘味嫌いになったり……うむ、気のせいだな。



 【決意した六歳】



 俺はほとんど面識の無かったが桜花院の兄弟はとても懐いていたらしい二軒隣の奥方の他界、そしてその後の桜花院有子の愚行そして出立、俺は優菜をどう慰め、支えるべきか悩み、行動に移れないでいた、が、


「ああ、良く来たな、優菜」


 優菜は普通の顔で我が家に何時もの様にやって来た、そして、


「お邪魔しますね元治君……元治君……子供達だけになったなら連絡下さるよう言っているではないですか」


 と、常通りのお説教をして来た……ちなみにこの頃には母は七年近く続いた産休と育休を終え、ほぼ趣味に近い仕事、ウエディングプランナーに復帰していた。桐生の当主である母がコンツェルンとは関わりの無い仕事をしているのは無理矢理桐生に取り込まれた父の、桐生で働く際の最低条件だったらしい、


「だが……優菜の家は色々とあって大変だったのだろ?」


 正直、赤子の妹と聞き分けが良いとは言えわんぱく盛りの弟の面倒を俺一人でみるのは大変だったのだが、俺は多分落ち込んでいるはずの優菜を気遣い虚勢を張った、が、


「色々ありましたが私もさとりも問題はありません」


 優菜は懐いていた隣家の奥方と、それなりに愛情のあった母との別れに一切悲しんでいる様子も見せず笑って見せた、


 だが俺にはわかった、優菜が本当は大声を上げ泣き叫びたいほど悲しんでいることを、そしてそのことに自分自身も気付いていないことを……俺は彼女を泣かせてやりたかった、だが優菜は多分泣けないだろう……彼女の感情の切り離しはほぼ完璧で、幼く優菜よりも色んな意味で経験不足な俺では彼女の本音を引き出せない、だから俺は彼女に合わせ常の様に、


「ふむ? ならば共に過ごそう、最新話を観るのを優菜が来るまで我慢していたのだ」


 と、尊大に言い放ち笑って見せた、強くなろう、そう決意しながら。



 【計略を使い席を埋めた九歳】



 桜花院梨絵(りえ)さんに婚約の話が来たと聞いた時、俺が思ったのは優菜の事だった。つまり彼女にもそういう話が来るかも知れないという恐怖、それが脳裏に渦巻いた。だが両親や優菜達兄妹が桜花院は当人の望まぬ婚約は決して受けないスタンスであると語った時、俺は安堵し、けれど同時に残念に思った、そしてその事に愕然とした……桐生の財産と権力で彼女を手に入れられたら良い、そう心の奥底で考えていた事に気付いたからだ。


 俺は気付いてしまった汚らわしい本音を嫌悪し、けれど優菜の側を離れる事は出来ず、鬱屈した思いを胸に日々を過ごした、そして迎えたあの日、桜花院が崖っぷちに立たされた事を聞いた瞬間、俺は自分がレッド(熱血ヒーロー)では無く計略を巡らしヒロインを手中に収め様と企む、薄汚い悪役なのだと、そう自覚した。


 ああ、俺は何時か断罪されるかも知れない、けれど目の前のチャンスを見過ごす事は出来なかった。俺は両親に願った、桜花院の借金を肩代わりすることを、そしてそれと引き換えの優菜との婚約を。


 母は歓喜した、息子が自らと同じ道を歩む事を、父は絶望した、息子が妻と同じ道を歩む事を、そして二人は忠告した、たしかに席を手に入れる事は出来る、だがその心を得る事はマイナスからのスタートになる事を。


 その言葉を聞き、それでも俺はその席を望んだ……たとえ仮初でも彼女を独占出来るならばと、そして婚約は成った、桜花院の意向に添ったそれはとても脆いものだったが……。



 【伝えなかった九歳】



 俺が欲望のまま結んだ婚約──当然ながら優菜は頷いていない──大人達は俺の口から彼女にこの婚約の意味とそれを望んだ俺の願いを伝える様命じていた、


 だが、彼女が俺の部屋にきて婚約解消を前提として話し始めた瞬間、俺はその事を伝えない事を選んだ、そして彼女を責めた、罪人は俺だというのに……、


「……つまり優菜は俺との婚約が嫌なのか?」


「えっ、いえ、むしろ元治君は不満は無いのですか? ……借金を肩代わりした上に血統以外さしたる取り柄の無い私を押し付けられて……桐生のおじ様とおば様は父を兄か父の様に慕って下さっていますから縁付きになれるこの婚約に乗り気でしょうが……元治君にも素敵な女の子を選ぶ権利がおありでしょう?」


 優菜はキョトンと目を見張ると、焦ったように俺に問う……当然だ、彼女にとっては俺も自分と同じ被害者なのだから……本当は俺が企み、行動し、彼女を縛っているのに……、 


「元治君ならばどんな女性でも選べますわ、私の事はお気になさらず……借金も将来必ずお返ししますので……」


 そしてこう続けた……俺がどんな女でも選べる? 優菜以外の女を? ありえん! 俺が望み、乞い、求めるのは優菜だけだ!! ……それともまさか、


「……優菜は別の男と結婚したいのか? だから俺に他の女を……」


 ならばなおさらこの婚約を解消する訳には行かない、……たとえ優菜に軽蔑されたとしても、俺は優菜を奪われては生きて行けないのだから、


「……はぁ……婚約は続ける、破棄する理由が無い、借金の事もある、そうしていた方が互いの為だ……もし、俺に結婚を考える女が出来たら破棄する……優菜が借金を返済した時も破棄する……それとも優菜には好きな男がいるのか?」


 もしいると、そう彼女が頷いたら……ああ、だが彼女が接する男など学園の児童しかいない……圓城寺えんじょうじの縁者ならば厄介だが……それ以外ならばいかようにも処置出来る、


「いえ、そういった相手はいませんが……」


 ……ああ、良かった、相手の男はどうとでも出来たが……だが彼女の、優菜の心は……だから、


「ならば、良かろう……互いに虫よけにもなるしな」


 そう、俺は手に入れている、彼女に近づく害虫を駆除する権利を、これで堂々と学園を清らかに保てる、


「……ああ! 元治君はモテ過ぎて困ってらっしゃるものね」


 ん? ……ああ、そういえば俺にもつまらん女共が寄って来ていたな……一睨みで直ぐに消えうせる連中だから気にしてなかったが……そうか優菜はそれなりに俺を気にしてくれているのか……、


 俺は優菜に気にされていた事に歓喜し、けれどヤキモチは妬いてくれなかった事にひっそりと落ち込む、すると何も知らない彼女は、


「ふふ、元治君が素敵な方と出会うまで、私には過分ですが婚約者の席に居させてもらいますね? ふふふ、これからよろしくお願いしますね? 婚約者様?」


 と、言った。


 真実は伝えず、勘違いは訂正しない、そんな俺に対し優菜は笑顔で接する……すまない、だが、


 婚約者様……どうしよう、頬が緩むのを止められん、


「……ああ、うん、よろしくな」


 俺は内心の喜びを隠し、そっけなく応じた。


 俺はこの選択を後悔しない、だが思いを伝えなかった事で優菜の心を不安にさせ続けた事は……、


 皆に責められるまでも無い、一生悔やむ事になる俺の最大の失策だ。



 【敗北を知った十二歳】



 俺は初めて敗北した。



 中等部に上がり直ぐに行われた学力テスト、その結果を玄関ホールに貼られた順位表で朝、常通り共に登校した優菜と確認し、俺はとても驚いた、自分の名の上に他者の名が、それも二つもあったからだ、


 岸元栄次(えいじ)、岸元光三朗(こうざぶろう)、確か彼らは優菜の隣家に越して来た、そう、あの無駄に顔の良い三兄弟の似ていない双子だ……奴らは欧米育ちだかなんだか知らないが優菜に会う度に口説き文句じみた挨拶をして……ああ、なんだ、思い出したら腹が立って来た、


「あっ! 栄ちゃん! みてみて! 俺二位! 凄くない!?」


 賑やかな声に背後を振り返ると腹立ちの原因、岸元の似てない双子が登校していた、腹立ちのまま睨みつける、


「あっ! 優菜先輩! おはようございまーす! 見てください! 俺二位ですよー、さあ、褒めてください!」


「……俺は一位なんで光君の倍褒めてください」


 睨む俺を無視し、隣の優菜を目敏く見付け、双子が賛辞をねだる……やっぱりこいつら気に食わん!!


「……ええ、ふふ、おめでとうございます栄次君、光三朗君……ふふ、栄次君が学力特待生でとても賢い事は知っていましたが……ふふ、光三朗君もお勉強出来たのですね?」


 ねだられた優菜は俺だけがわかるぐらい僅かに、口元を引き攣らせながら二人を褒める……ふむ? どうやら優菜はこの双子が少し苦手らしい、


「えー、ひどい優菜先輩! まあたしかに、俺の二位は栄ちゃんが作ってくれたテストにきっと出る問題集をやりまくったからなんですけどね」


「……いや、ちゃんとそれを理解し覚えた光君も凄く頑張ったよ……なので優菜先輩、俺達をもっと褒めてください」


 双子はとても仲が良い、これは似てない故か? そして優菜の素晴らしさに気付き、気に食わん事に懐いている、


「まあ、ふふ、栄次君は弟思いで先読みの才がある素晴らしい男の子ですね。ふふ、そして、光三朗君はお兄さんを信頼し努力を怠らない頑張りやさんです」


 ……うむ、それにしても優菜は人を褒めるのが上手いな……これは俺達兄弟が優秀と呼ばれている所以の一つだな、優菜に褒められたくて努力したと言っても過言では無いからな……他の連中に発揮されるのは不愉快だが。ムッ、なんだ双子、キラキラした目で優菜を見て、気持ちはわかるが優菜は俺の婚約者だからな!


 それでも正直学力テストでの敗北はそこまで堪えなかった、周囲の憤りと、失望と、嘲りと、憐憫の視線と声はうっとうしかったが……まあ、優菜にそのいずれかを向けられたら地の底まで落ち込んでいただろうが、


 だが、その日一日を使い行われた体力テストでも双子に負けた時には少々堪えた……つーか、テニス特待生の光三朗はともかくひょろひょろしてる栄次が総合一位って……うむ、まあ良い、優菜に願われない限り俺は別段学園生活に一位であることを求めんからな。



 とは言え、優菜が俺の敗北をどう思ったかは気になったので彼女の部屋に顔を出すことにした、優菜は体力テストなどで体を動かした後は自室にこもることを知っているからだ、


 ん? どうした優菜? そんな心配そうな顔をして……えっ? 大丈夫か? ……うむ、なんだその、そう言われれば大丈夫では無いな……慰めてほしい、な……ええと、その、膝枕? とかで……えっ? 本当にしてくれるのか? ……うむ、では、お言葉に甘えて……、


 …………どうしよう、柔らかい、温かい、良い匂い……うう、ヤバい、理性が弱体化している。……駄目だ!! これ以上を望んだら、過激に危険なあの人や、おっとりと危険なあの人に、底知れず危険なあの人と、貞淑に危険なあの人が完全に敵に回る!! この状況も見られたらヤバいぐらいなのに……うむ、頭が冷めた、


「……元治君あの、大丈夫ですか? ええと、なにか口に入れるものでももってき」


「優菜はここに居てくれ……頼む……しばらくしたら回復するから……」


 俺が理性を応援していると優菜がこの状況を変えたいのか躊躇いがちに問い掛ける、いや、駄目だ! せめてもうしばらく堪能させてくれ!!


 そして俺は優菜に拒絶されないぎりぎりを狙い膝枕を堪能した、そしてそろそろ危険だな、と思ったところでここに来た目的を果たすことにした、


「優菜……優菜は敗北し、地に落ちた俺に……がっかりしたか?」


 ……む、少々大袈裟な言い方だったか? ……まあ、周囲の反応はこんな感じだが、


「うーん……私は元治君が元治君で、私の頼りになる婚約者さんで、元樹君と元佳もとかちゃんの優しいお兄さんなら別に何でも良いですね」


 うむ、やはり優菜はそう言うよな……正直もうちょっと俺に期待してほしいとも思うが……すると優菜は俺の問い掛けに自らの今日の成績を思い出したのか、


「……もしや、元治君は学力テストでは三位から十位を行ったり来たり……体力テストにいたっては常に最下位争いをしている私にご不満でも……」


 と、逆に俺に問う、ハッ!? いや!!


「! そんな事はありえん! 優菜がテストでするうっかりミスも、体力も運動神経も無いところも……どちらも俺は……か、可愛いと……思うぞ」


 うむ、何と言うか正直俺は優菜ならなんでも良いが、だが! 優菜の物知りで読書家故なのかたまにするうっかりミスはとても愛らしいし、体力や運動神経のなさは……うむ、堪らん、そしてその感情のまま優菜に熱弁をふるう……語尾を吃ってしまったが……、


 すると優菜は苦笑しつつも納得してくれた、そして、


「……私は現状に不満はありませんが……だけど元治君は敗北したままではお嫌でしょう? 元治君が敗北した事にはがっかりしませんが……それをなかった事にしたり、勝利への執念を無くした元治君にはがっかりするかも知れませんね……」


 と、俺を奮い立たせてくれた、


 ──ああ、その言葉だけで俺はどんな敵にも立ち向かえる。



 そして俺は努力した、し続けた、そして一年最後のテストで全教科満点を出した。


 岸元光三朗には勝った、だが……満点にプラスとかどういう事だ!?


 ……まあ、そんな感じで岸元栄次には勝てなかった訳だ……優菜が別にがっかりした様子も無いから良いか……。



 【何故か親友が出来た十三歳】



 体育祭の準備をしている高等部自治会室で、俺はこの学園の生徒会は本当に気に食わんと思った。


 まあ一言で言うと、


「優菜ちゃーん? 来賓向けのパンフ、誤字修正終わったー?」


 その年頃の少女にしては長身な優菜よりも高い身長と俺には無い男臭い色気を漂わせる某先輩や、


「優菜君、借り物競争のお題の風紀の確認、終了した……正直少し問題を感じたが……まあ、仕方がない」


 同じく長身で俺には無い決然たる雰囲気を持つ某先輩や、


「優菜先輩……この学園長の開会の挨拶なんですが……時間はどれくらいかかるのでしょうか?」


 目の上のたんこぶな眼鏡の某同級生や、


「優菜先輩ー、ホッチキスの芯の予備、どこにしまってありますかー?」


 テニス馬鹿な某同級生や、


「優菜様……お疲れでしょう? オレンジペコを入れました、どうかご休憩ください」


 絶妙なタイミングで極上の紅茶を出す某同級生や、


「ああ、桜花院さん、その書類は私が実行委員に届けますよ」


 と、後輩を余裕で気遣う某先輩や


「桜花院さん、いくら家が近いとは言えもう遅い、君はもう帰りな」


 と、紳士的に後輩を気遣う某先輩など、


 とにかく! 顔の良い男がゴロゴロと居すぎなのだ! ……まあ、高等部一年の先輩達は俺同様婚約者以外は目に入らない人達だから良いが……他の連中は……、


 ふん……まあ良い、優菜は別段男の顔の美醜にこだわらん性質だからな……美形を眺めるのはそれなりに好きらしいが……、


「ふふ、そうね、優菜さんはまだ中学生ですものね、ふふ、後は男の子達に任せてお帰りなさいな」


 と、艶やかに微笑む某先輩や、


「えぇ、そうですわぁ、でもぉ、お一人では危ないですねぇ、元治君、送ってくださいなぁ」


 独特の話し方の某先輩の方を眺める方が倍以上楽しそうだからな……、


 そして俺はその言葉に甘えた優菜を送り、そしてすぐさま学園に戻った、だが、なんというか白黒コンビの後輩男子の扱いは……うむ、まあ、お二方共とても有能だしな……。



 そして迎えた体育祭当日、常の様に桜花院家に来た俺は常の様に合い鍵で玄関を開け、声も掛けず食堂まで向かう……うむ、桜花院と桐生の信頼関係は厚いな、


 食堂に入り桜花院の皆さんと桂瀬の方々に挨拶した俺は優菜の荷物を持ちその腕を取る、予想通り彼女のやる気は既に皆無だ、だから俺は、


「案ずるな優菜……俺がお前を助けるから……」


 と、伝える、すると彼女は、


「……はい、よろしくお願いします……」


 と、弱々しい笑みを見せてくれる、……この頃には優菜も自分の弱さを人に晒す様になっていた、そしてそれを俺に一番見せてくれているのは……、


 多分気のせいでは無いだろう。



 体育祭は生徒会や実行委員の念入りな準備の賜物か恙無く進んでいた。特に優菜にとっては最高の結果だったのだろう……50m走のブービーと玉入れの一位は……うむ、たしかに優菜が体育祭で転ばなかったのは初めて見たな、


「……良かったな……今日は転ばず、最下位も免れて」


 午前の競技が終わり、連絡もかね生徒会の面々と実行委員達とで摂っている昼食の席で俺は優菜を称える……彼女にとっては素晴らしい結果なのだ、


「はい、元治君! 久しぶりに怪我無く完走出来ました! 午後はもう出ませんので、生徒会のお仕事や皆さんの応援を頑張りますね!」


 優菜は常の長姉に叩き込まれたお嬢様スマイルでは無く、彼女本来の少し抜けた笑顔で答えた……うむ、堪らん……だが、こんな人の多いところで……それに……、


「……応援は俺だけで良いのに……」


 ……うっ、思わず心の声が、


「元治君? 今なんて?」


 ……ああ、良かった、優菜には聞こえなかったらしい……周囲のニヤニヤ笑いを見ると他の連中には聞こえたらしいが……まあ、良い、


「……いや……なんでも無い……卵焼き食べるか? 元佳が作ったんだ」


 俺は優菜が落ち込んでいた場合の最終兵器、可愛い妹の手作り卵焼きを優菜に勧める……俺同様、いやそれ以上に元佳を溺愛している優菜は、


「はい! もちろん! 元佳ちゃんの手作り~!」


 と、案の定歓喜し、それ以外の事を気にする事を止めた……うむ、作戦通り。



 そして午後、可愛い妹の卵焼きをごまかしの手段にした事の罰が当たったのか、俺は窮地に陥った……それも優菜を巻き込んで。


 簡単に言えば俺は優菜にがっかりされ無い様、岸元栄次に挑み続けていた。


 まあ、テストでは共に常に満点の為勝ち負けは付けられず、主に体育の授業などの実技科目で競っているのだが……、


 まず体育は少し俺の負け越し、ちなみに一番は光三朗……まあ当然か……そして音楽では全敗、ううむ、これはまあ仕方がない、けれど美術、これは俺の方が評価は高い、フフ、弟妹が小さかった頃、優菜と覚と共に一杯描いたからな! ……まあそのメンバーでは俺が一番下手なのだが……それよりも月史つきひとのあれは……うむ、あれが画伯と呼ばれる才能か……ちなみに家庭科は……ええと、まあ二人して家庭科室を出禁になったとだけ言おう……そして月史……お前は料理の盛り付けの美的センスを何故美術では……、


 と、まあそんな感じで俺達は競っているのだが……、つまり明確な勝ち負けがほとんど付かない訳だ、その為今日の体育祭ではなんとか勝ちたいのだが……、今のところ二勝二敗でこれから行う借り物競争と最終競技、組対抗リレーで勝敗は決まる……うむ、双方実力以外に左右される競技だな……ちなみに体育祭の組分けは体力テストの結果を元にしたクラスとは関係ないものだ、これはスポーツ特待生をばらけさせる為の手段。そもそも城生院は学力別にクラス分けされ、その上授業ごとに習熟度に合わせた教室に行く、そんなシステムだ、クラスごとにすると格差が凄い。


 そして気合いを入れ臨んだ借り物競争、俺は隣の栄次に勝つ為スタートダッシュを決めた……まあ栄次も見事なスタートだった、そして同時にお題が入った箱に手を入れそれを開き確認する……はっ!? 俺にこれをやれと……、


 俺がお題に固まっているとお題を確認した栄次が中等部三年の待機場所に向かって行った、くっ、お前の方が運も良いのか……って!? 優菜の元へ!? 俺は思わず走った、走って優菜の元に行った、そしてその手を思わず引き駆け出した、


「……ちょ、ちょっと……待って……下さい……ちなみにお題はなんだったの……ですか? ……変なのだったら困ります……」


 正気に返ったのは優菜に息も絶え絶えに止められた時だった、そしてすまない気持ちで一杯になりながら請われるままお題の紙を渡す、それを読んだ優菜は……、


「……無理ですよ……」


 そう顔を引き攣らせながら言った、うむ、本当にすまない、


「……ああ、無理だろうな……」


 俺が引いた紙それには『お姫様抱っこをしてくれる人』そう書かれていた……いや、本当に、すまない、


「……無理です、不可能です、他を当たるべき……」


 そう優菜は言う、うむ、そうすべきだな……あいつがゴールしてからな、だが優菜は俺が動かないのをどうとったのか、


「……元治君が栄次君を妨害したと思われますね……」


 と、真面目な顔で言った、……いや、その……、


「……いや、妨害のつもりでは無く……」


 優菜が栄次に手を取られるのが耐えられなかっただけで……、


「ああ、はい、わかってます、私が困ると思って助けてくれたんですよね」


 いや! お前は何もわかってない!


「……いや、そうでも」


「桐生、どんなお題で優菜先輩を困らせてるんだ」


 思わず本心を言おうとした時、後ろから月史を連れ栄次がやって来た……優菜と月史の共通点って……そして優菜が持ったままだったお題の紙を取り上げる、


「……くくっ、そう、これは優菜先輩が照れるね……じゃあ、先に行くから」


 フン! 笑いたくば笑えそれよりもこのチャンスに優菜に告白を……、


「えっ!?」


 俺は決意した、が、彼女は返されたお題の紙を見て驚きの声を上げる、そして、


「元治君……これ……」


 と、俺にもそれを渡す……なっ!? ……あの男何を企んで……って、優菜?


「……行きましょう、元治君」


 …………うむ、まあ仕方がない、


「……ああ」



 俺達は手を取り合いゴールした……どうやら最下位は免れたらしい……そして最後の出場者がゴールしたところでお題の確認を始める、うむ、こういうルールなのだ、


「えー、まずは一番手でゴールした岸元栄次さん……お題は……『お姫様抱っこをしてくれる人』……ええと、六崎むざき月史君……ですか……ではどうぞ!」


 岸元栄次はお題の紙を取り替えて返した……本当何を企んで……まあ、それは今のところ良いことにしよう、それよりも、


「えー、では四番手でゴールした桐生元治様……お連れになったのは婚約者の桜花院優菜様……途中揉めていた様ですが……そのお題はっ!! オー!! 『学園一の美人』!! なるほど! これは惚気ですか!? いえ!! 事実ですねっ!! もちろんオッケーです!」


 このお題で優菜の元に向かうのは当然だ、だが……次善の選択が月史とは……まあたしかに最善だが……。



 色々あった体育祭が終わり片付けの監督をしている俺達生徒会、その途中俺は優菜を連れ栄次のところに向かう……うむ、奴も懐いている優菜の前では余り鬼畜な要求はしまい、


「……………………」


 さあ、どうでる? 俺は警戒しながら栄次を睨みつける、すると何を思ったのか優菜が、


「栄次君、先程は助かりました、ありがとうございます」


 と、礼を言う、……うむ、さすが優菜礼節を重んじる女……ん? 俺も礼を言えと? まあ、たしかに助かったしな、


「……助かった……礼を言う」


 まあ、これで済むとは思わんが……ん? 優菜? 何故帰ろうと、話はこれからだぞ?


「くくっ、別に、良いですよ……俺もあっちのお題の方が、くくっ、盛り上がるし、くくっ、変な目で見られず……済みましたから、くくっ」


 栄次は笑いながら応じる……まあたしかに男を学園一の美人とは……うむ、納得はされるが角が立つな……、


「あー、でも、栄次君始めに私の方に来ましたよね? 大丈夫でしたか?」


 ああ、たしかに……まあ、こいつなら適当にごまかすだろうが、


「ああ、大丈夫です、見つからなかった緑郎ろくろう先輩と柊耶しゅうや先輩の居場所を聞きに行ったって事にしたんで……実際いませんでしたし」


 なるほど、あの二人と知り合いの優菜に聞きに行ったと……まあ、納得される理由だな、


「ああ、確か二人は次の種目の準備でいなかったですものね……」


 ああ、たしか騎馬リレーだったか? 長身男子が小柄な男子を肩車して走るという誰得競技……うむ、元々生徒の要望だったが……主にあの二人への嫌がらせでみんな選んだんだよな……そしてその流れにノリノリで持ち込んだのは……、 


「……お前……結構ノリの良い性格だよな……なんでそんな地味な格好をしてるんだ? ……似合わないぞ……」


 こいつだったんだよな……うむ、本当にその腹黒さにはその気弱そうな地味な格好は似合わん、


「……くくっ、あー、そう? 似合わない? くくっ、そうだね……うん、検討するよ……くくっ、桐生はくくっ、わかりやすくて良い奴だな……くくっ」


 栄次は少し驚いた後笑いながら答える……わかりやすい、か……フン! ほっとけ! 婚約者を溺愛してなにが悪い! 後良い奴だと? つまり都合の良い人間と扱うと? ……調子に乗るなよ? そう俺は警戒していたのだが……、


「ふふ、元治君は優しいんです、やっと理解者が見つかりました」


 どうやら優菜はその言葉にほだされたらしい……うむ、優菜は余り人の裏を読まない女だからな……ほんと凄く可愛い! ん? 栄次、お前も毒気を抜かれているな……ふむ、今日はこれで終わりにするか……優菜も疲れている様だしな……。



 そしてそのまま別れ帰宅した俺達、翌日の振替休日は家で共にゴロゴロとアニメや漫画を見て過ごした……うむ、なんだ、優菜……もう少し危機感をだな……いや、まあ良いか……、


 そして翌日、登校した俺達は……、


「おはようございます優菜先輩、朝から美人に会えるなんて幸運な日ですね……ああ、元治もおはよう」


 朝日を浴びて輝く金髪にきちんと櫛を入れ後ろにながし、スマートなデザインのメタルフレーム眼鏡をかけ、腰の位置の高い、スタイルの良さが制服姿でもわかる男に挨拶された…………何だこの美形は!?


「ふふ、おはようございます栄次君」


 ハッ!? 栄次!? ちょっと待て!? 何故わかる優菜!? それに、もし栄次だとしたら……、


「……おまっ!? どうしたその髪!? 染めたのか!?」


「くくっ、いや……戻したんだよ……お前に体育祭の後貰ったアドバイスを検討してな……くくっ、で地味に装うのを止めたんだ」


 ……ああ、うむ、このカンに障る笑い方はたしかに岸元栄次だ……というか、俺はアドバイスしたつもりは無いのだが……、


「んー? 戻しただけで無く切りましたか?」


「ええ、少し毛先に色素沈着があって……って、あれ? 優菜先輩は俺が染めてる事気付いてました?」


 動揺している俺をしり目に優菜は世間話をする……いや、なんだこいつの微妙な髪の長さに気付くとか……うむ、優菜の観察眼は凄いな……別に栄次が好きとかそう言う訳では無い! ……はずだ、そして優菜は栄次に、 


「ふふ、まだ私の方が身長が高いですからね? つむじの当たりを見て気付きました」


 と、本来の髪色を知っていた事情を話す……ふむ、なるほど……そういえば優菜の身長は170の大台に乗ったな……いや! 直ぐに追い抜くからな! ……両親を見ると180台は厳しそうだが……。



 そして、その後も色々ありすぎて流してしまったが、


「……何時の間にか名前呼びに変更してたんだが……あの野郎……」


 ……まあ、なんだかんだと仲良くなってしまったが……うむ、やはり男同士の友情の基本は女の趣味が合わない事だな。


 ちなみに栄次の好みの外見は優菜のような色素の薄い切れ長の目と薄めの唇の涼やか美人では無く、黒髪黒瞳の険のある大きな目にプックリと紅い唇の凄みのある美女らしい……ときめく部位も違ったしな……うむ、早く栄次が好みの美女に会えるよう祈ろう……正直こいつを敵に回すのは疲れるからな……。






 


 


 

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