表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第一章 彼らは冷酷副会長と黒幕令嬢、又は、鳥籃の幸福の姫君と凶悪過ぎた当て馬、でした。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/121

俺、岸元栄次、小学生に口説かれました。

中編一万字前後です。

 

 

 

 【呼び出しを受けました、拒否権はどこでしょう?】



 放課後、四時半に理事長室に行けと、残暑というよりまだ夏だろ、と国民全員がツッコミを入れている九月某日、俺は朝のHR後副担任にそう命令された、拒否権は無いらしい、


「大丈夫かエージ、お前何やらかした? はっ、まさかこの前言ってた学園のマザーコンピュータへのハッキングを実行したんじゃ?!」


 昼食後教室で、ニヤニヤ笑いながら妄言を吐く親友(仮)を裏拳で黙らせながら、俺はスマホで学園の地図を確認する、教室から十五分ほどで行けるな、だがこの場合のジャストタイムは何時だろう、ビジネスマナーの五分前到着か、お呼ばれマナーの五分後到着か、


「ツキトー、お前知ってる?」


 俺が無視しているので親友(仮)が窓にもたれながら文庫をめくる友人に矛先を向けた、……そういやこいつ理事長の家の者だったな、


「……契約の話、……それ以上はオレに言う権限が無い」


 六崎むざきは文庫から目を上げずそれだけを言った、どうやら予想通りらしい、いやそれよりも、


「この場合のジャストタイムは何時だ? 五分前か? それとも五分後か?」

                                       

 六崎はゆっくりと顔を上げ俺と目を合わす、


「……半ちょうどで良いはず、念のためメールする」


 そう言い携帯を取り出す六崎、俺は良い友人を持った、


「……気にするのそこ? まぁ……エージらしいと言うか」


 隣でため息をつく親友(仮)、だが、重要なのはそこだろう? 予想と対策は一応しとくが、……今日は後輩に頼まれたゲームのバグとりの期限なんだが……どれくらいの時間、拘束されるだろうか……。



 【呼び出しの理由より、目の前の謎が気になります】



 放課後俺は理事長室のある中央塔へ足を踏み入れた、……確か最上階だったよな、ん、ここのエレベーター、権限を持った人間以外一定階より上には行け無いんじゃ? と、思ってたらエレベーター内のリーダーに学生証をかざしたらボタンを押す前に動き出した、どうやら俺が来たら最上階に直行する様、設定済みらしい、おぉ合理的、


 ……ベルが鳴りドアが開く、廊下にはいくつもの扉があるがどうやら迷う必要は無いらしい、だってスーツの凄い美人が奥の扉の前で立ってるから、


岸元栄次きしもとえいじです、理事長室に来る様に言われ、来ました」


 ……おお、近くで見ても美人だな、でも性別がわからん、女性としては高い身長、男にしては長い髪、服装は黒のスーツに革靴、……謎だ、


「……岸元さんがいらっしゃいました」


 俺が謎に挑んでいる間に美人は扉をノックし微かに開け中の人物に声を掛けた、……声でも話し方でも判断出来ない、くっ、俺の負けだ、敗北感を感じながら俺は美人の開けた扉から室内に足を踏み入れた。



 【予想とは違う人物がいましたが、俺は目の前の理想に夢中です】



 ……予想外だ、背後で扉の閉まる音を聞きながら俺は自分の頭が自分で設定しているほどに良くないことを知った、


 ……俺はこの部屋に理事長である圓城寺司皇えんじょうじしおうもしくは彼の経営する会社の社員、または彼の顧問弁護士辺りが居ると勝手に予想を立て対策を練っていた、


 俺は予想していなかった、この部屋に小学生女子・・・・・が待っている事を、……うん、予想外、理事長のお嬢さんかな?


「圓城寺司皇の娘、圓城寺紗々蘭(えんじょうじささら)と申します、本日は突然お呼び立てして申し訳ございません、……もし、ご予定があるようならば、また後日席を設けますが」


 俺が惚けていると女子が丁寧に挨拶をしてくれる、うん、正解だった、まぁ、ほかの選択肢は可能性低すぎだが、おっといけない、


「岸元栄次です、本日はお招きいただき光栄です、この後の予定などありませんし、あったとしても貴女の様な美しい人と過ごせる幸福を捨てる様な真似は絶対にしませんよ」


 ……言っておく、一応言っておく、俺はロリコンでは無い、が、小学生でも美しい女性は美しいと褒める、色々と誤解される事もあるがそれでも美しいものを美しいと俺は言いたい!! 彼女、紗々蘭嬢は俺の発言に僅かに目を見張ると直ぐにクスクスと笑い出し身振りで着席を勧めてくれる、……上座に! その高級ソファーの上座に! 俺に座れと、……うん、座るよ? どうやら来客として迎えてくれている様だし、……うわー、何だこの座り心地の良さは、親友(仮)の家に入り浸ってなければパニック起こしてた、そういや親友(仮)はこの目の前で優雅な所作で紅茶を入れているお嬢様と同格の家の跡取り何だよなー、……どこで道を違えたんだ親友(仮)、


 俺が、氏より育ちの意味を実感していると紗々蘭嬢がお茶とお菓子を持って来てテーブルに並べてくれる、ふむ、はす向かいに座るのか、それも急所である左側を相手に向ける右側に、うわーこの子出来るなー、本当に小学生か? うちの初等部の制服を着てるから小学生は確定だが、理事長の家庭環境は父子家庭ってぐらいしか探ってなかったからな、親友(仮)の妹の元佳もとかちゃんと変わらないぐらいか? 元佳ちゃんは四年生だったな、って?!


「どうぞ、お口に合うとよろしいのですが」


 俺は紗々蘭嬢に勧められた菓子を見て喜びに身を震わせる、シュークリーム! 粉砂糖をうっすらと表面に纏ったそれは一時期流行ったナッツを塗したハードタイプではなく古式ゆかしいソフトタイプ、周囲に切れ目が無い事を鑑みるに底に穴を空けた充填式、もしや、いや、まさか、慌てそれをたしかめようとした俺は、はっと、思い止まり共に置かれたおしぼりで手を清め紗々蘭嬢に、


「いただきます」


 と、声を掛けそして食らいついた、


 ずっしりと重いそれを片手でつかみ口に運ぶ、サクッと音がしそうな歯ざわり、これはクリームが充填されてからあまり時間が経っていないからだろう、そしてクリーム、あぁこれだ、俺はこれをずっと望んでいた、濃厚でありながらさらりとした食感甘すぎず、くどすぎず、かといって物足りなさは無い、卵黄と牛乳、砂糖とバニラビーンズ、そして少量のバター、基本の材料を絶妙な配合と繊細な調理で仕上げた完璧なカスタードクリーム!!!!!


 ……生シューも良いと思うダブルクリームももちろん良い、クレームパティシエール? それもありだ、だが! だが俺は言いたい! 俺はカスタードオンリーが食べたいのだ! あと、できればシュー生地はソフトタイプが良い、欲を言えば充填式が良い、さらに言えば表面に粉砂糖を纏った可愛らしい姿が見たい、たとえ手が汚れ様と、たとえテーブルが汚れ様と、たとえ黒い服を着てる時であろうと! あの少し色濃くなった表面を純白の粉砂糖で隠す姿は堪らなく可憐で愛おしいと俺は思う、


 ……俺は無言で食った、むさぼり食った、脳も心も感動でいっぱいだ、そして食べ終わった、名残惜しく皿とその上に置かれたレースペーパーを見る、目線を上げると紗々蘭嬢が居た、……うん、いるよね、そりゃいるよね、……楽しそうにクスクス笑ってるね、……怒ってなくてよかったね……うん、


 手を拭き紅茶を口に運びながら俺は尋ねる、


「……それで、お呼び下さった理由とは何でしょうか?」


 いまさら余裕ぶってカッコつけても無駄だろうけど、……俺は正直このシュークリームに出会えただけでもう良いやと思っているけど、……うん、帰り際に店を聞こう、……家で雇っている料理人だったらどうしよう? 圓城寺家では使用人は先祖代々仕えてる人しか雇わないんだよな、……社員になったら手にいれられるかな?



 【予想とは違う契約を提示されました】



 紗々蘭嬢はクスクス笑いながらソファーの足元に置かれたバッグから数枚の書類が挟んであるクリアファイルを取り出した、


「はい、それでは、これから岸元さんにはいくつかの契約を提示させていただきます、……まずこちらの書類をご覧下さい」


 紗々蘭嬢から端をクリップで留めた三枚の書類を手渡される、……城生院の特待生向け特殊プランの案内か、……圓城寺系列企業での実地研修プランにラインが引かれているな、……ふむ、二枚目に細かな内容が書かれている、……給料も出るのか、それも基本給にそれプラス実績による出来高も、しかも将来圓城寺に入社した場合実績によってはいきなり役付きスタートも有り得ると、これは……、


「かなり、好条件なお話ですが、……何故私に?」


 俺は自分が無能では無いことを知ってる、だが、俺の能力は汎用性の高さが売りで、特質した点は無い、つまり総合職向きなのだ、だから俺でなければいけない仕事は無い、俺がやった方がより良くなる事は多々あるが俺がやらなくても大抵の事はどうにかなる、


 ……俺はこのプランは元来、画期的なアイデアを出す発明家タイプや一つの事を徹底的に研究する研究職タイプ、他に並ぶ者無い技術を持った技術者を囲い込む為に作られたシステムだとわかった、つまり俺の様な汎用性の高い人間に提示される事はおかしい、だから、


「……何故、私に」


 俺が目と声に力を入れて再び尋ねると紗々蘭嬢はクスクス笑いながら新たな書類を差し出す、


「まあ、その理由は後ほど、とりあえずこの書類をご覧になりながらお受けいただくか御判断なさって?」


 ……お楽しみは後で、か、……ええとこれは経営学の講義リストか、都内を中心に様々な大学で行われる講義が日時と講師の簡単なプロフィール付きで並んでいるね、


「………………」


 俺は無言で紗々蘭嬢を見る、彼女は微笑みながら紅茶を飲んでいる、


「……圓城寺は私を御社の経営陣に育てたいと、そう判断してもよろしいですね?」


 いや、そう判断させたいんだろう、この書類は、……どうやら俺は予想以上に圓城寺家の信頼を得ている様だ。



 【お楽しみは予想以上の驚きと共に明かされました】



 紗々蘭嬢は何も答えず、クスクス笑いながらクリアファイルに残っていた書類を差し出す、俺はため息をつきつつそれを受け取り読む、


「…………………………」


 紗々蘭嬢を見る、周囲を見渡す、誰もいない、何も言われ無い、どうやら冗談では無い、


「……婚約ですか」


 最後の書類には紗々蘭嬢と俺の婚約に関するいくつかの契約が書かれていた、


「ええ、婚約です」


 紗々蘭嬢はクスクス笑いながら答える、……うん、だから彼女がここにいるのか、先の二つの契約ならば別人、……つまり俺が予想していた人物達が提示していたはずだ、つまり、この最後の契約があっての先の二つということだ、


「…………ええと、女性に年齢を聞くのは失礼だと思いますが貴女はお幾つで?」


 とりあえず聞こう、時間を稼ごう、


「わたくしは現在九歳、今年十歳になります、ちなみに学年は小学四年生ですね」


 おお、本当に元佳ちゃんと同い年だった、……友達だったりするのかな、うん、


「……もう一度聞きます、何故、私に」


 うん、まだ答えてもらって無いしね、そこが一番の疑問だよ、何故俺・・・なのか、


「……うーん、岸元さんはご自分を少し低く見積もっていますよね、……貴方はIQ174の天才、全国模試では全教科満点、十以上の言語をネイティブ以上に操り学内のプログラミング大会とハッキング大会では二位、……たしかその腕を買われて学園に入学した生徒は三人ですよね? つまり本職二人に勝ったということですね、その上体育のテストではスポーツ特待生を押さえて綜合一位を中等部一年時からずっと続けているとか」


 うーん、たしかに人から聞くと俺かなりチートだな、いや、転生者じゃないよ? 神様からギフトとかもらって無いし、……まぁ、もらっているのかも知れないけど、ファンタジーな存在とは多分縁が無い、


「あと、周囲の方々も貴方の価値の一つですね、お父様は世界的天才ヴァイオリニスト、お母様は海外で極東の黒薔薇と称される美人ピアニスト、お兄様は世界最高のファッションショーでランウェイを歩いた一流モデル、双子の弟さんも我が校の特待生ですよね? スポーツ特待生で今年一年生ながら高校総体で個人優勝を果たしたテニスプレイヤー、プロ転向後は直ぐに世界ランキング百位以内に駆け上がるだろうと言われていらっしゃるとか、ご友人も多い様ですね、特に桐生きりゅうの嫡男とは無二の親友ですとか」


 うん、俺の家族もチートな人達何です、それと無二の親友、……まぁたしかに桐生の嫡男とは互いの家に入り浸るほど仲良しです、


「これらの実績、人望も理由の一部ですが、貴方がわたくしの婚約者候補に選ばれたのは以前提供いただいた遺伝子情報が最大の理由でしょう」


 ……遺伝子情報、あー、そういや弟と共に数枚におよぶ契約書を交わして採取されたな、俺はIQと遺伝子の、弟は運動能力と遺伝子の、それぞれの相関関係を調べるとか、……あー、契約内容にあちら側が持つ優秀な人間との遺伝的相性診断とかもあったな、希望して相手の同意があればお見合い出来るとか、……あー、なるほど、お嬢様の婿選びにも使うって事を言外に含んだって事か、うん、……これはお見合いじゃないのか? 俺は同意して無いけど、一応彼女に聞いてみた、


「あぁ、お見合いの定義は婚姻を望む男女が仲介者を立てておこなうものですから、お見合いでは無いですね」


 へー、お見合いってそういう定義なのか、確かにこれは違うな、仲介者はいない少なくとも俺は婚姻を望んで無い、……ええと、契約違反には当たらない?


「訴えられれば、こちらの過失が認められそうですが、まぁ、グレーゾーンかと」


 うん、なるほど、つまり俺は学園内外で能力を発揮、彼女側はその事を踏まえ遺伝子を採取、どれが本来の目的かは知らないがお嬢様の婿選びに使用、どうやら俺と彼女は遺伝子的に相性抜群、うん、なるほど、それで、


「君の意思はどの辺にあるのかな?」



 【そして俺は小学四年生に婚約を申し込まれる】



 圓城寺家の理由はわかった、だが俺は彼女の理由がわからない、今日ここまで話していてわかる、彼女はとても賢い、そんな彼女が家の命令だけで婚約をする訳が無い、だから、


「何故、俺に?」


「……俺なのですね、岸元さんの普段の一人称は、……ではもちゃんと貴方と話します」


 紗々蘭嬢はクスクス笑いを消し俺に向き直る、


「一言で言うと、私、岸元さんの顔が好きなのです」


「…………………………は?」


「顔が好みなのです、ついでに言うなら声も今日聞いて好みだなぁと」


 ……うん、なるほど顔か、たしかに俺は美形の部類に入る、だがそれだけで結婚相手を決めるのはどうだろうか、


「……顔、だけで?」


「顔と声です、まぁ、もちろんそれだけではありませんが、でも……そうですねとりあえず私の事情を聞いて下さいますか?」


 そして紗々蘭嬢は、自分の──圓城寺紗々蘭の事情を語りはじめる、


「まず簡単に言うと、岸元さんは手元に来た釣書から選んだのですよ」


 そう彼女は話しはじめる、


「実は私の結婚相手はそう重要では無いらしいのです、圓城寺は国内ではトップの家ですし、その上私も優秀なので、あと、私の従者達も優秀なので、……夫は出来れば遺伝的相性の良い相手、けれど最低限、孕ませる能力さえあればそれすらも無くて良い、それぐらい私の婚姻は重要では無いのです」


 それはつまり子種を持つ男であれば良いという事か、……それは逆に、


「馬鹿にされていると思ってしまうのですよ、……私を思っての事だとはわかるのですけど」


 愛情故、けれど彼女の誇りは傷ついた、


「だから私、優秀な相手を選んでやる! と思って、優秀な学生や社員の釣書を送ってくれるよう父の秘書に頼んだのです」


 でも、と彼女は続ける、


「……いっぱいいるのですよ、優秀な方は、毎月十名ほどの釣書が届くのです」


 どうやら秘書はツテを使い外部の優秀な人材の釣書と遺伝子情報も手に入れている様だ、と彼女は笑う、


「……最初は全員の釣書を隅から隅まで読んで判断していたのですが、……正直面倒臭くなりまして、」


 ……まぁ、毎月十人か、まぁ、面倒だな、


「それで結局、釣書の写真だけをまず見る様にして」


 ……うん?


「それでビビッと来る人を選ぼうと思って」


 ……ああ、うん、


「それで岸元さんの写真を見て、あっ、この人良いなと」


 ……うん、


「つまり、顔が好みで選んだということになるのです」


 あー、うん、なるほど優秀で遺伝的相性の良い相手の釣書の中で顔が好みだったと、そういうことか、


「あっ、もちろん岸元さんの釣書はちゃんと隅から隅まで読みましたよ? その上でこの席を設けたのですから」


 紗々蘭嬢は念を押す、まぁ、それは読んでもらわないと、


「……ええと、ちなみに俺は何人目?」


 うん、他に聞く事あるよね、俺、


「ええと、お会いしたのは岸元さんが初めてです、もらった釣書で言うなら、……ええ、学園に入学してからですから、はい、約四百人目ですね」


 おお、小学校入学時からはじめたのか、つまり幼稚園児が釣書を求めたと、……秘書よく言われるまま用意したな、プラスアルファも加えて、……そして幼稚園児に婿は誰でも良いと伝えたのか圓城寺家の人……、


「……うん、わかった、で、他にどんな候補がいたんだ」


 ……うん、他に聞く事あるさ、でも聞きたい、約四百人か、凄い興味ある、


「うーん、色々ですねー、優秀な社員、どこぞの御曹司、芸能人、天才と呼ばれる研究者、音楽家、芸術家、学生、スポーツ選手、あっ、弟さんの釣書も来てましたよ」


「あー、弟も遺伝子情報提供してたしな、二卵性でも双子だし、当然相性は良いよな」


 テニス馬鹿だけど、見た目も性格も頭も悪く無い、むしろ良い、


「顔にピン、と来なかったので直ぐにシュレッダーにかけましたが」


 ……あっちの方が万人受けする顔なんだが、……どれだけ俺の顔が好みなんだ? というかシュレッダー……まぁ、個人情報保護は大事だな、……紗々蘭嬢の所に既に流出しているが、


「やー、顔の好みは年をとってもそう変わらないっていうじゃないですか? ……まぁ、声や仕草が不快だったら、当たり障りの無い契約を提示していましたが」


 そう言い彼女は足元のバッグから別のクリアファイルを取り出す、


「あー、この部屋に入った時から俺を見定めていたんだ、……じゃあ、あのシュークリームも……」


「はい、食事時に幻滅する事も多いと聞きますから」


 ……夢中でむさぼり食らう姿は幻滅するところじゃないのか、


「一般的にも、おいしそうに食べる人は好感度が高い様ですよ?」


 クスクス笑いながら紗々蘭嬢は答える、……いや、


「おいしいものをおいしそうに食べるのは、極々普通のことだろ?」


 あのシュークリームは絶品だ、つまりあれを食べた全員がおいしそうに食べる、ゆえに食事姿の確認には向かない、とは言え、つまり、


「……俺は合格したのか」


 だから、あの三つの契約書が提示されたのだ、


「はい、それで岸元さんは? 貴方から見た私は婚約者候補としてどうですか?」


 俺から見た圓城寺紗々蘭か、……しかし、じっくり見ると凄まじい美貌だな、


 ……そう圓城寺紗々蘭は凄まじい美少女なのだ、それは、普段は小学生など興味が無い普通の成人男性すら魅了し犯罪に走らせかねないほどに、緑の黒髪は滝の様に流れソファーにこぼれ落ちている、眉下で切り揃えられた前髪の下の釣り目気味の瞳は異常の一歩手前の大きさ、高いが高すぎない鼻、ふっくらと厚いが厚すぎない唇は紅を塗らずとも紅い、それらのパーツが完璧な配置でついた小さいけれど小さすぎない顔、……さっき立っている所を見たがスタイルも凄く良かったよなー、もちろん小学生のスタイルの良さの範疇で、……彼女の言葉では無いけどうん、顔は多分俺好み、もちろん十年後を想像してだけど、ちなみに声は現状でもかなり好み、囁く様な、けれど良く通る澄んだ声……うん、どストライク、


「君の言葉じゃ無いが顔と声は好みだよ」


 ……もっと言えば中身はさらに好みだ、賢く、他者を気遣え、真面目で、人生を楽く過ごす術を知っている、今日ここまで話しただけでもわかる……彼女はいい女だ……小学生だけどね! 六歳年下だけどね!


「それは何よりですね、でも小学生がネックということですか」


「まぁ、そうだね、君と婚約した場合、俺は確実に変態と呼ばれ犯罪者かと思われ、もしかしたら友人や家族の信頼を失うかもしれない」


 まぁ、家族に関してはそれ程心配していないが、友人は……うん、本当に親しい友人は心配いらないかな、失うのは自称友人くらいか、うん、……悪評はいまさらだし……あれ? ……デメリット少なく無いか?


「それでも私は貴方が欲しいのです」


 紗々蘭嬢と目が合う、


「釣書が来た後、私も独自に調査をしました、貴方は面白い事が好きで退屈が嫌い、生クリームは少し苦手でカスタードクリームが好き、オンラインゲームが好き、でもそこで他者と馴れ合うのは嫌い。人に囲まれる事が多いけれどそこで一言も発しない事もある、人助けをしても助けた相手の今後には興味が無い」


 ……うん、俺基本、ひとでなしだよね? それでも気に入ってくれたのか、……変わった趣味だな、


「そして決められた枠組みとルールの中でどれだけ面白おかしく過ごすのかを追求する事が何よりも好き」


 良く見ているな、確かに俺は享楽主義のひとでなしだ、だけどルールは破るものでは無くその範囲内での抜け道を探すのが楽しいと思っている、ゲームでもバグを使った無敵プレイや、不正改造でのチートプレイは興味が無い、むしろ嫌悪感すら抱く、


「だから私は、貴方に最高の枠組みとルールを用意出来る事をお約束します」


「最高の枠組みとルール?」


 ええ、と彼女は極上の笑みを浮かべる、


「舞台は圓城寺グループ、ライバルは圓城寺グループ全社員と父、そして私、ルールは一つ、圓城寺に害を与え無い事、得られるものは地位と名誉と莫大な財産、そして私、と言った所でしょうか?」


 国内、いや海外を含めてもトップランクの大企業圓城寺グループを舞台に、プレイヤーは全社員と総帥とその娘、そして俺、ルールは圓城寺を富ませつつ、その中でどれだけ上に行けるか、報酬は大抵の男が求めるものその全て──地位と名誉と莫大な財産、そして極上の美女、


 ──ゲームで言うなら帝国成り上がりプレイか……俺は普段、ゲームでは小国下剋上プレイを好んでいる、だが、目の前の少女がライバルで報酬ボーナスなら、それは……、


 ──最高に愉快で刺激的な日々だ、賭けるのは人生だけ、得られるのは退屈の無い人生、ああ、


「最高の口説き文句だよ、紗々蘭さん」



 【何時か彼女に恋をする】



 そして俺は圓城寺紗々蘭との婚約に同意した、とは言えその事を彼女が父に電話したところ、彼女の父の希望により正式な婚約とその発表は半年後ということになったらしい、


「これから半年間定期的にお会いして、今日の様にお話しながら互いを知っていく様にしろということです」


 まぁ、一人娘の婚約だ、念には念を入れたいんだろう、


「君と話すのは楽しいから嬉しいけど」


 いきなり、上流階級の仲間入りは正直面倒臭いし、準備期間は欲しい、


「では、明後日、父とお伺いします」


 当然な事で、未成年の俺と彼女の婚約(仮)は当人同士の口約束ですむものではない、俺の圓城寺グループ企業での実地研修も含め両親が在宅中の明後日、俺の家で両家の親と弁護士と共に書面を交わす予定になった、


「ああ、帰ったら親に書類を見せて話しておくよ」


 俺は立ち上がり、預かった書類入りクリアファイルを掲げる、


「では、これが互いに良い契約となりますよう」


 紗々蘭嬢も立ち上がり俺に右手を差し出す、


「ああ、そうだね」


 俺はそう言いながら彼女の前にひざまずき差し出された手を掴みそして唇を落とす、ニヤリと笑いながら彼女を見上げると、彼女は微かに驚きを見せた後クスクスと笑い出す、


 その顔を見上げながら俺は──何時か彼女と恋に落ちるそんな未来を確信したのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ