8、それは棒ですか? いいえ折れたフラグです。
四月中旬『革命』──やはり痛い──の余韻で中等部校舎、怕痒樹館が揺れている頃、新入生五人の中等部生徒会就任式が生徒会室で行われていた、ちなみにここでメイン攻略対象者六人が揃う事になる、
「ふふ、初等部と変わらないかと思っていたらはじめましての方が三人もいらっしゃるのね、私が中等部生徒会代表の白里安曇です、 はじめまして栄次様、光三朗様、明石様、それとお久しぶりね、元治君、月史様」
代表──我が校では中高生徒会合同で自治を行う事が多く中等部生徒会長はこう名乗る──の安曇様がまず挨拶する、安曇様は様々なホテルや旅館を経営する会社の社長令嬢だ、
「補佐を勤めます、木嶋梓です、わからない事があったら私に聞いて下さいね」
補佐──役割は副会長と同じ──の木嶋先輩が続いて挨拶する、彼は安曇様の従兄弟で華道の家元の三男だ、一重美少年は学園じゃレアだ、
「はじめまして、桜花院優菜と申します、私も補佐をつとめさせていただいています」
そして私も挨拶する……創立者の子孫だからね……役付きなんだよ……、
「はじめましてぇ、わたくしはぁ、中等部風紀委員代表の黒須麗羅ですのぉ」
続いて挨拶なさったのは中等部風紀委員会の代表の麗羅様──我が校は生徒会の専横を防ぐべく大事な会議等は風紀委員の監視の下行われる──彼女の家は大手カフェチェーンを経営、木嶋先輩の婚約者でもある、
「風紀委員会代表補佐の早水玲苑です、よろしくお願いします」
風紀の代表補佐、早水先輩が簡潔に挨拶、彼は麗羅様の従兄弟、彫りの深い美少年だ、ちなみにお2人は共通の祖母にロシア美女をもつクォーターだ、そして彼は安曇様の婚約者、この4家のご両親はとても仲が良いらしい、補足すると安曇様と麗羅様は初等部からの持ち上がり、木嶋先輩と早水先輩は中等部からの外部受験者だ、
「俺は平執行部員の四倉緑郎でーす、まあよろしく」
軽い口調で挨拶するのは中等部生徒会執行部員の四倉緑郎、同級生攻略対象者の片割れだ、彼の設定は女好きのチャラ男、陽気にセクハラ、気分次第で好みが違う、墜としたら振り回される、こんな風に呼ばれる男……なのに何故に学年トップ!? ……そして何故か私の数少ない友人……、
「俺は風紀委員の春日井柊耶だ、執行部員だろうが校則違反者は厳しく取り締まって行く」
重々しく挨拶するのは風紀委員の春日井柊耶……同級生攻略対象者のもう一人、彼の設定は生真面目な風紀委員だが……ヤンデレ要員、校則よりも法を守れ、墜としたら囚われる、等と呼ばれていた……うん、信頼関係は築けないタイプだ……まあ、何故か友人になってしまったが……、
「桐生元治です、お久しぶりです、安曇様、麗羅様、緑郎先輩、柊耶先輩、はじめまして木嶋先輩、早水先輩……これからよろしくお願いします」
何時もと違って神妙に先輩達に挨拶する元治君……年長者は敬うべし、と言い聞かしていたからな! ……私に対する態度は変わらんが……、
「六崎月史です、よろしくお願いします」
簡潔過ぎるほど簡潔に月史君が挨拶する……彼は基本無口で中性的で草食系な外見だけど……プレイヤーからは、物静かな騎士、墜としたら狼でした、ピンクの方にR指定、と呼ばれる……うん、後半おかしいね……攻略したらものすごい肉食なんだ……姉弟でものすごく気まずくなったよ……、
「プログラミングで特待生に選ばれた、明石英俊です……えっと、よろしくお願いします」
今年度入学の特待生の一人、明石君がおどおどと挨拶する……うん、気持ちはわかる……顔面偏差値がおかしいもんな……この空間……、
「学力特待生で入学しました岸元栄次です、先輩方、よろしくご指導ください」
同じく特待生の栄次君がぼそぼそと挨拶する……彼は当初こういうキャラを演じている……、
「テニス特待生で入学しました岸元光三朗です! 似ていないけど栄ちゃんの双子の弟です! 部活が忙しい時は出れませんけどよろしくお願いします!」
同じく特待生の光三朗君がはきはきと挨拶する、ちなみに彼ら特待生は部活が忙しいスポーツ特待生以外はほぼ強制参加だ……テニス部の彼はゲームでは兄の付き添いだったが現実では学年二位だった学力テストの結果でのスカウト……やはり設定からずれてる……、
実は本来ここでゲームでの私桜花院優菜が岸元家の双子と、六崎月史と出会うイベントだったのだが……、
「優菜先輩も生徒会にいるって聞いて安心しました~」
と、光三朗君に言われるくらいには隣人としての付き合いが双子とはあります、
「……優菜様には兄が親しくしていただいてますし……」
と、月史君には気を使われる程度には親しい……裏のお宅に出禁になるまでは結構遊んでたしね……、
そして彼の兄、サブ攻略対象者の一人六崎月明さん、二歳上の彼はゲームでは、え? 今のモブじゃなかったの……、遭遇出来無い攻略対象、美し過ぎる幽霊、と言われる様に──最後は違うか……──会うのが難しかったが……。
就任式を恙無く終え生徒会では様々な活動──主に初等部の運動会と学芸会の手伝い──を始めた頃の休日、自宅のリビングで、
「おはようございます、優菜様、お邪魔しております、梨絵様をお迎えに上がりました」
「はい、おはようございます、明さん、先程、姉上の着替えを用意しましたので、もうしばらくしたら下りてくると思います」
と、毎週土曜の朝九時に挨拶する様な関係です。
彼が圓城寺に研究者として迎えられた姉上の研究所への送り迎えを担当しているからなんだが……、
「! おはようございます梨絵様、朝食はしっかりと摂られましたか? 今日は少し朝が冷え込みましたが体調は? ああ、少しおぐしが乱れていますね……」
このかいがいしさは……愛……だよね……、うん、優菜ルートが最も会えなかった理由って……そういう事だったのか……って感じなのだよ……うん、彼のルート消えてるよね……、
……これは、誰が折ったんだ……。
「……そう言えば~、元佳ちゃんは黒幕令嬢とどうなったかな~?」
梅雨入り前のある日、覚が思い出した様に言った……そう言えば……、
「……入学当初は、顔を真っ赤にして怒ってたけど……最近元佳ちゃん少女向けの児童文学を読んだり、新しく始めた習い事の練習したりで一緒に遊んでくれて無いからな……」
ゲームでは桐生家の長女であり、黒幕令嬢に操られていた悪役令嬢桐生元佳はいわば長兄と同じトラウマを負う、
彼女はとても優秀だ、一を聞けば十を知る、そんな言葉を体言する様な少女である、そんな彼女に敗北を与える存在、長兄元治に対する岸元栄次が、圓城寺紗々蘭、圓城寺家の跡取り娘で、このゲームで最も優れた存在。ゲームでの圓城寺紗々蘭は無感情で無表情で無垢な、酷く透明で自我に乏しい少女、自愛の無い応答者だった……だけど……、
「黒幕令嬢ってば、元佳ちゃんの文句を聞いてると、普通に感情のある女の子って感じなんだよね~」
何時もニヤニヤ笑ってるとか、事ある事に側に寄るとか、妙に褒めて来るとか、せっかく綺麗な顔をしているのに一切頓着している様子が無いのがいらいらするとか……、
「そして元佳ちゃんが大好きっぽいよな」
まあ考えていても答えは出ない、
「とりあえず私は元佳ちゃんと戯れてくるよ!」
彼女は私を姉の様に慕ってくれてるからな!
私が訪ねると元佳ちゃんは最近始めた習い事──チェロの練習をしていた、
「ふふ、熱心ですね、ですが休憩にしませんか? たまにはお姉ちゃんとも遊んで欲しいわ?」
私はニッコリ笑い元佳ちゃんをお茶に誘う、元佳ちゃんも笑って了承してくれた。
2人で入れたティーフロートを元佳ちゃんの部屋で飲みながらそういえば、と私は少し前からの疑問を元佳ちゃんにぶつける、
「そういえば元佳ちゃん、ずっとヴァイオリンを習ってましたよね? どうしてチェロに変えたのですか?」
元佳ちゃんは色々な習い事に挑戦していた、その中でもお気に入りだったのがヴァイオリン……前世に引き続き音痴でもある私としてはとてもうらやましい腕前だった……元治君が言うには突然『飽きた』の一言で辞めたらしいが……、
「……音楽の授業でヴァイオリンを弾く機会があって……その時にあの子もヴァイオリンをやっていて……一緒に弾いてそれで……」
──お兄様達には絶対に内緒よ? そう、元佳ちゃんは念を入れてから言った、
「……それで私ね、彼女のヴァイオリンの音色がすごく好きになったの……歌う様に伸びやかで透明で清らかな響きが……だからその音色をもっと輝かせたい、支えたい、そう思ったの……それでチェロを始めたの……やってみたら私チェロの方が好きだし、とてもしっくりくるの」
でも、と彼女は続ける、
「……でも、そう正直にお兄様達に言ったら、元佳が遠慮することは無いって言いそうで……私はただ私の弾くヴァイオリンよりもあの子が弾くヴァイオリンの方が好き、ってだけのことなのに……」
──本当に困った人達、そう元佳ちゃんは可愛いらしい容姿に似つかわしく無い疲労と諦めを滲ませ呟いた、
……うん……桐生兄弟の妹命っぷりは病的だからね……ここはゲームと変わらないからね……変えられないよね……私も元佳ちゃん愛、だからね!
元佳ちゃんは可愛い過ぎるので仕方ない、そう私は心の中で頷きながらも元佳ちゃんに最重要な点を確認する、
「……元佳ちゃん、圓城寺のお嬢さんとお友達になったの?」
「!? なってません!! …………まだ、なれないわ……あの子はそうなりたいって言ってるけど…………だって、今、仲良くなったら、私があの子に負けて下についた様に見えるもの! ……だから……だから私もっと努力するの!! 誰の目にも私達が対等の関係で、互いを高め合う存在として側にいるんだって、そうじゃなきゃ私達親友になれないわ!!」
元佳ちゃんは顔を真っ赤に染め握り拳を振りながら熱く語る、それはつまり……、
「元佳ちゃんは紗々蘭様と『腹心の友』になりたいのね?」
彼女が今はまっている物語を引用し、からかう様に尋ねると……、
元佳ちゃんは怒った様な恥ずかしそうな、けれどとても嬉しそうな表情で小さく頷いた。
ちなみにこの時私の心の内は……、
元佳ちゃん可愛エーッ! ツンデレ美少女最強っ! 寄り添い合う美少女達見てーっ! ……ん? ……あれ? 悪役令嬢フラグ折れてね? むしろ黒幕令嬢フラグもポッキリいってるよね? やっぱり圓城寺に転生者が!? と、萌えと安堵と困惑で凄まじい混沌状態になっていたのである。
「覚ーぃ!! まずは私の自慢を聞いてくれっ!!」
私が元佳ちゃんと別れた後、すぐさま元弟の部屋に駆け込んだのは言うまでもない。




