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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第二章 彼らは孤高の生徒会長とヒロインその1、又は、斜陽の令嬢と主人公その1、でした。

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7、三兄弟と転生者の足跡。

 




 ゲームの開始スタートが間近に迫った十三歳の誕生日直前、隣家に攻略対象者達が引っ越して来ました。


 ……とりあえず言いたい、ご両親も超美形ーっ! ……ふう、越して来られたのは、ずっと空き家になっていた旧四季邸の冬、ちなみに春に我が桜花院おうかいん家、夏に我が家への援助の意味合いで桐生きりゅう家、秋に思い出深い家を他者に渡したくはないと桂瀬かつらせ家……そして人手に渡ってしまった冬邸……まあ初めに買った一家は裏のお屋敷の方々に認められず住む事も無く売却しようとしたそうな……ずっと買い手がつかなかったらしいが……そりゃ買っても住めんじゃ売れないだろう……。


 だが一年ほど前かな? 我が家とも付き合いのある西の御隠居がぽーんとキャッシュで買ったのだ……金持ちって凄い……で、その方が住むのかと思っていたら、この御隠居、修繕工事を済ますと直ぐに売ってしまう……その買い手が今ご家族で挨拶に来られた演奏家夫婦のイヴァン様と静留しずる様と攻略対象三兄弟(・・・・・・・)『良心』一宏かずひろさん『冷酷眼鏡』栄次えいじ君『無邪気な凶器』光三朗こうざぶろう君の岸元きしもと家だ。


 ……正直栄次、光三朗の似てない双子とは関わりたく無い……私に被虐の才は無いのだ……、


「──ええ、それで下の子達はいただいたお話通り特待生として中等部に通わせます……宏さんは今年一年大検の勉強をしながら日本での生活に慣れていこうと……ええ、城生院の音楽史の教授はとても素晴らしい方ですから……ふふ、私共の経験が学生達の糧となるならば喜んで……ああ、わかりましたお向かいの二軒は休日の朝ならば確実にご挨拶出来るのですね? ……裏のお屋敷は家令殿に挨拶すれば良いと……色々とありがとうございます……ええ、これからよろしくお願いします……では失礼します」


 そんな事を私が思いつつニコニコと見つめてると、家のポヤポヤしている父と岸元さん家の映画俳優の様な格好良い父──ものすっごく日本語が上手い──が挨拶を交わし終えた。


 ……ええと、簡潔にまとめると、下の子達、双子はその才能を生かす為一般入学じゃなく特待生として入学させる、ただし寄付金は弾む、長男は今年は学校には通わずいろんな事を学び来年音楽科で音楽史を専攻予定、父は一般公開される講義をご夫婦に依頼、快く引き受けてもらう、平日は八時には出かけている向かいの桐生と桂瀬には休日の朝訪ねろと、裏のお宅は主人親子にはまず会えないので家令さんに挨拶すれば良い……うん、なるほど、で、感想、


「……父上、凄い隣人が出来ましたわね……」


「ああ! そうなんだよ! 優菜ゆうなさん! 西の御隠居がご夫婦のパトロンをなさっていてね、ご子息達に日本で最高の教育を受けさせたいとの発言に我が校を推薦下さって……ふふふ、でも冬邸をすすめたのは僕なんだよ? 欧州の方にはその当時の西洋建築の第一人者が建てた四季邸は喜ばれると思ったんだ~、朋子ともこさんにも父上にしては良くやったって褒められたし」


 父上は世界的演奏家を招致した事を褒めてもらいたい様だ……、


「うん、父上偉い」


「ああ、父上凄いね~」


「はい、父上は立派ですよ~」


 私達兄弟は棒読みで父を褒める……我が家の父はとてもいい人で可愛いらしい方なのだ。




 数分後、私はさとりの部屋にいる、


「……で? 弟よ、気付いているな?」


「うん、良心こと一宏君の専攻でしょ~?」


 そう、作品の良心、唯一の紳士、お兄ちゃん大好き、とプレイヤー達に言われていた攻略対象者岸元一宏さんはゲームではロシア文学史を専攻していた……そんな彼の設定はこうだ、


 岸元一宏は楽器の演奏に天性の才を持つ子供だった、どんな楽器でも抜群のセンスで初見で弾き熟し音楽神に愛された美少年と評判になっていたらしい……だが彼は事故に合い腕の腱に損傷を負った……そして日常生活には不自由はしないが楽器を弾き熟す事は出来無くなった……そんな過去を感じさせ無い穏やかな彼に弱音を吐かせ新たな音楽との付き合い方を共に探す……そういったルートなんだよね、


「……でも、音楽史を専攻予定って事は既に過去と向き合い克服したって事だよね~……」


「…………弟よ、あの家族に転生者がいると思うか?」


「………………んー? 違う、かな? 多分外部からの働きかけの気がするー……確証は無いけどね~」


「いや、私も同意見だ……岸元家は転生者にはハイスペック過ぎる……記憶チートがあったら逆にああはなれまい」


 ……私達を鑑みるとよくわかる……記憶チートは新たな知識や技術を学ぶ足かせになりやすい……大人よりも子供の方が学習能力が高いって事だ……同人乙女ゲームに手を出す人間が天才演奏家やテニスプレイヤー……IQ174の天才児の可能性は……、


「まず無いな……」


「まっ、一宏君が幸せそうだしいいんじゃな~い」


 うむ、それもそうだな。




 そして迎えた攻略対象者四人の中等部入学式、私は桜花院の娘(創立者の子孫)としての義務で入っている中等部生徒会の仕事、入学者達の胸への生花付け──こういうところが我が校の金持ちっぷりだ──をしている、まあまあの美少女だって事で男子生徒担当になった私は攻略対象者四人の様子をこっそりと確認する……うん、ゲーム設定と著しい差異は私達が関わりまくった元治もとはる君以外に見えない……と、いうより、


「お兄ちゃんは設定から外れているのに栄次君は設定通り髪を黒く染めているのだな……」


 口の中だけでこっそり呟く……攻略対象三兄弟の真ん中、冷酷眼鏡、本当に堕ちてますか? 赤い方にR指定、などと呼ばれる男、岸元栄次はチェコ人の父親譲りの輝かしい金髪を黒く染めわざとボサボサにし、顔立ちに似合わない黒縁眼鏡をかけ、わざとサイズの大きい制服を着るという悪目立ちしまくった格好を中等部一、二年の頃はしている──まあ個人的にはこっちの方がストライクっす──被虐の才も自傷癖も無い私はなるべく関わりたく無いが……、


 ……だが、彼の登場は我等兄妹の桐生家健全化計画の真価が問われる……彼が元治君にトラウマを植付ける『革命キングスフォール』を起こすからだ……前世も思ったがこのルビ痛いよな……。




 ……ええと、以前話したが元治君は中一での初めての敗北で消せないトラウマを負う、その相手が岸元栄次、彼に学力テストと体力テストで完敗するのが元治君がこじらせるきっかけなのだが……、


「……元治君あの、大丈夫ですか? ええと、なにか口に入れるものでももってき」


「優菜はここに居てくれ……頼む……しばらくしたら回復するから……」


 ここは私の自室、今私はソファーに腰掛け……元治君を膝枕している……何故に!? ……ああ、いや、原因はわかっている……今日行われた体力テストと張り出された学力テストの結果だ……元治君はゲームと同じく岸元栄次に敗北した……そして岸元光三朗にも敗北した……何故に!? ……うん、ゲームではずっと二番手っていう設定だった……三番まで落ちた描写はなかった……というより光三朗君は勉強は得意じゃない設定だった……何故に!? 


 無邪気な凶器、残酷な程無邪気で真っすぐ、脳筋強い、などと呼ばれた男、岸元光三朗は天才テニスプレイヤーだ、少しチャラそうな容姿ながらその性格は真っすぐで爽やか、頭脳労働は双子の片割れに任せ余り考え無いタイプ──成績も悪かった──それ故に他意は無いとはいえ、こちらのコンプレックスをえぐる様な言葉ナイフを繰り出し……うん、悪い子じゃない、でも現実には付き合いたく無いと思っていた……そんな彼が学年二位……何故に……、


「優菜……優菜は敗北し、地に落ちた俺に……がっかりしたか?」


 え? いや、そもそも単なる学校でのテストで大袈裟だなぁ、と……特に外野が、


「うーん……私は元治君が元治君で、私の頼りになる婚約者さんで、元樹もとき君と元佳もとかちゃんの優しいお兄さんなら別に何でも良いですね」


 ……そもそも学校の成績で人に対する態度が変わるか? 第一私自身は……、


「……もしや、元治君は学力テストでは三位から十位を行ったり来たり……体力テストにいたっては常に最下位争いをしている私にご不満でも……」


「! そんな事はありえん! 優菜がテストでするうっかりミスも、体力も運動神経も無いところも……どちらも俺は……か、可愛いと……思うぞ」


 ……うん、やっぱり元治君は優しい……体力と運動神経は前世から引き続き無いんだよ……学力は知識チートの弊害だ……何故に本能寺の犯人が光秀じゃなく秀吉なんだ!! ……うっかり異世界転生した事実を忘れちゃうんだよ……、


「……私は現状に不満はありませんが……だけど元治君は敗北したままではお嫌でしょう?」


  ならば落ち込んでいる暇は無いのでは? そう元治君に私は伝える……というより、


「元治君が敗北した事にはがっかりしませんが……それをなかった事にしたり、勝利への執念を無くした元治君にはがっかりするかも知れませんね……」


 私の頼りになる婚約者さんは一度や二度の敗北でこじらせたりしないと信じているのだ。




 そして、再び立ち上がった元治君は岸元兄弟に挑み続け、ついに一年生最後の学力テストで光三朗君に勝利した……栄次君には勝てなかったが……満点にプラスとかどういうチートだよ!? ……まあ、元治君がこじらせる事は無かったしそれはそれで良いが……、


「……何故にあの時膝枕だったんだ……」


 私は婚約者から受けた多分セクハラについて悶々と悩むのであった。





 

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