6、あれ? 何かスライドされて来たぞ?
私と覚による桐生家健全化計画は進んでいるのかいないのか実感は無いがとりあえず悪くはなっていない……はず、そんな日々を過ごす私達だが私が初等部の高学年に進んだ頃婚約の話が桜花院に持ち込まれた──私にでは無く下の姉、梨絵姉上に、だ、
「高校三年生で結婚の話とか、名家っぽいな~」
覚が呆れた様に言う、ちなみに我が家は高校三年生の一卵性の双子の姉達、一つ下の高校二年生の覚、末っ子で小学五年生の私の四人兄弟だ、
「んー? でも父上もお姉様も断る気なんでしょ?」
相手が姉上の好きな人ならば別に反対しないだろうが……、
「面識の無い一回りも上の起業家とか、血統目当てが見え見えだからね~」
家は公家の血を引く超名門である……ここ三代ほど商才の無い当主が続いているので金銭面はそれ程では無いが……って!? まさか!?
「そんな話が来るって事は!? もしや、我が家に莫大な借金でもあるのか!?」
「……いやいや、大丈夫でしょ~? 桂瀬の人達に黙って大金を動かすとか、あの、優柔不断な父上には無理だよ~」
……ああ、まあ、そうか、創立者の一人の子孫として城生院のほぼお飾り学園長をしている父上はいわゆる『いい人』だからな……少々悪趣味ではあるが……あっ、桂瀬と言うのは我が家に古くから仕えてくれている家で、私付きのお手伝いさんのミナモさんは桂瀬の本家の長女だ。商才の無い当主に代わり我が家の財産の管理をし、家が支援する芸術家達のマネージメント会社を経営している。……実は我が家よりお金持ちなのは公然の秘密だ、
「うむ、ならば、お姉様と桂瀬の伊織さんとの結婚話に乗っかろうと言う腹か……」
そうなのだ! 姉上には婚約話が来たが、お姉様──長女の朋子様は桂瀬の伊織さん、ミナモさんの年子の兄でお姉様の執事の彼との結婚を勝ち取ったのだ……その方法はほぼ犯罪だったらしい……、
「そうじゃな~い? でもま、どうせ断るんだし~」
「ああ、気にする必要の無い事だな」
父上もお姉様も、もちろん桂瀬の方達も断る気だ、私達はその話は既に終わった事だと判断した……そしてそれが早計だった事に気付いた時には既に我が家は崖っぷちにいた。
「ごめんね、梨絵さん……僕がもっとしっかりしていれば……」
父上は泣き出しそうな顔で姉上に謝る、
「……いえ、我が家がついて居ながらにこんな事になって……」
伊織さんは手をきつくきつく握り締めながら言う、手袋が無ければその手から血が滴っていただろう、
「……あの俗物がこれほどの奸計を用いるとは……わたくしの判断が間違っていたのよ……あなたは逃げなさい梨絵、責任はわたくしが取るわ」
お姉様は毅然とした表情で姉上を逃がそうとする、
「平気、朋子ちゃんは伊織君とそのまま結婚して、桜花院を守るのにはそれが一番」
姉上は柔らかな表情で応じる……この姉が我が家で一番芯が強く頑固なのを家族みんなしっている。
……例の起業家はいつの間にか我が家の先代が作っていた借金の借用書を手に入れていた、当然利子は膨れ上がっていた……もちろん時効は成立している……だが、我が家が桜花院である事がその事を言えなくさせている……、
「……既にもう家は没落しているから……とはいかないんだよね……」
覚がため息を吐きながら言う……我が家は既に没落している、だがそんな桜花院にも守る人達がいる、『桜花院』というブランドが無ければ力の無い私達は彼らを守れ無い、だから……、
「私がお嫁に行けば、借用書はその場で破棄してくれるって約束……だから行くよ、私は大抵の事は平気だから」
姉上がきっぱりと言い切る……私達は止める言葉を持たない。
……現状を説明しよう、まずお姉様の結婚は秒読みだ、そして姉上の婚約話は消えた、そして私は元治君と婚約した……何故に!?
「ウウッ、姉上の結婚が無くなったのは良かったが、何故に私と元治君の婚約が決まるのだ!?」
「……そりゃ、桐生が借金をかわりに返してくれたからでしょ~」
うむ、そうなのだ、我が家の膨れ上がっていた借金を桐生が返してくれたのだ、
「まあ、結婚話が消えたのは、圓城寺が梨絵ちゃんの人工知能の研究の才能を捨てさせるのは惜しいって公言したのも大きいけどね~」
そうなのだ、姉上は人工知能の研究にいわゆる天性の才を持っているらしい、そして圓城寺は桐生と対をなす様にソフトウェアの分野で国内最大手である。世界二位のシェアを持つOSを初めとするコンピュータープログラムに医療機器等の研究所、後何故か作物から一貫製造の食品会社、衣服用繊維の開発などなど、その事業は広範囲に及ぶ……そしてその殆どで国内外でトップランクなのだ……その商才を少し父に分けてほしいよ……。
「圓城寺はお礼がわりに梨絵ちゃんに圓城寺で研究してほしい……桐生はお礼がわりにねーちゃんに嫁に来てほしい、我が家は跡取りの俺と芸術家を見る目がある朋子さんが残るから良い……三方良しでみんなハッピーって事で良いんじゃない?」
いや、ちょっとまて、
「桐生は桜花院大好きだから良いかも知れんが、そこに元治君の意思は!? 私の意思は!? というかこれが世界の強制力か!?」
「いやいや、あの他称カミサマの話じゃ、ここはゲームの世界じゃなくこの世界を元にゲームが生まれたって事らしいじゃん?」
ううむ、あのよくわからん空間での話『セカイを生み出す私の様な存在、そして世界を感じる力を持つ存在』……この後半の人物達は結構いる様だ、私は前世読んだ漫画の世界を舞台とした切り口の違う漫画を、今世の人生で数多く読んでいるからな、
「……そこも微妙にわからんが……何故同じ世界同じ時間のそれを見た私達がそこで生きているのか、がな……」
まあ、考えても世界のありようなど人でしか無い私にはわからんが……、
「……はあ、とりあえず元治君と相談せねば……」
ちゃんと二人で協力し、この当人達の意思を蔑ろにした婚約を破棄させねばな!
「……つまり優菜は俺との婚約が嫌なのか?」
……ええと、何故に私は元治君に詰め寄られているのだ?
「えっ、いえ、むしろ元治君は不満は無いのですか? ……借金を肩代わりした上に血統以外さしたる取り柄の無い私を押し付けられて……桐生のおじ様とおば様は父を兄か父の様に慕って下さっていますから縁付きになれるこの婚約に乗り気でしょうが……元治君にも素敵な女の子を選ぶ権利がおありでしょう?」
うん、私はどちらかと言えば美少女だが、覚とそっくりな兄妹とよく言われる様な可愛いらしさの足りない凛々しい容姿だ、身長も既に150cmを超えまだまだ伸びている……両親や兄姉を見れば確実に170は超えるだろう──ゲームでは174cmという設定だった──つまりあまり男子受けはしないだろうなと言うのが私の感想、そして元治君は乙女ゲームのメインヒーローを張れる超美男子、なので……、
「元治君ならばどんな女性でも選べますわ、私の事はお気になさらず……借金も将来必ずお返ししますので……」
ちなみに返す当てはある。父から聞いた総額は私と弟が前世得た印税よりも少なかった、ウケる作品はどちらの世界も共通している様だし……まあ、確実に今世でも億は売れるだろう、
「……優菜は別の男と結婚したいのか? だから俺に他の女を……」
えっ? 元治君?
「……はぁ……婚約は続ける、破棄する理由が無い、借金の事もある、そうしていた方が互いの為だ……もし、俺に結婚を考える女が出来たら破棄する……優菜が借金を返済した時も破棄する……それとも優菜には好きな男がいるのか?」
いや、まあ、
「いえ、そういった相手はいませんが……」
「ならば、良かろう……互いに虫よけにもなるしな」
「……ああ! 元治君はモテ過ぎて困ってらっしゃるものね」
つまり来たるべく本命との出会いに備え何時でも破棄出来る私と婚約しておくと! うん、わかった!
「ふふ、元治君が素敵な方と出会うまで、私には過分ですが婚約者の席に居させてもらいますね? ふふふ、これからよろしくお願いしますね? 婚約者様?」
「……ああ、うん、よろしくな」
元治君はそっぽを向き応じる、男の子だなぁと思いつつ私は婚約を続ける事の利点を考える……確かに虫よけにはなるし借金を肩代わりした事を桐生の縁者に口出しされづらくなった……うん、さすが元治君は賢い。
そして私は家に帰り覚に話し合いの内容を伝える、
「……くくっ、そうか~虫よけね~、うん、そうだねぇ、とりあえず借金は返そうね~……出版はゲーム期間終了後の予定だったけど……早める?」
ん? いや、
「カミサマの口ぶりでは私達と同一世界からの転生者が居そうだしな……せっかく、ゲーム通りのキャラを演じているんだ……正体はばらしたくはない……元治君が大学卒業までには返せるだろう?」
それよりも……、
「なあ、弟よ? 何処にそんなに笑えるところがあったのだ?」
覚は話を聞いている最中から腹を抱え笑い続けている、
「クククク、内緒~、ねーちゃんにも何時かわかるかもね~」
まあその時は手遅れだろうけど……、微妙に不吉な事を言い覚ははぐらかし黙秘する。
覚……おねーちゃんはお前をそんな風に育てた覚えは無いぞ……。
と、まあ、こんな感じで私はゲーム通り元治君の婚約者になったのだ……。
転生者達も知らないゲーム設定
実はゲームでは4話の時に結ばれた婚約。
ゲームでは司皇さんブチ切れ、止める人も居らず、桜花院さらに没落、桐生は助けたい、大義名分に婚約、と、言った感じで決まりましたが。
この世界では司皇さん呆れる、みんな宥める、桜花院反省、桐生ハラハラ、子供達は気にしない、と、言う感じでここまで来ました。
……転生者その1が無意識に折って、今だに気付いて無いフラグです。




