1、彼らを攻略していた世界
弟が最後の一ページにホワイトを入れ終えた、十年間続けてきた私達の連載が無事完結を迎えたのだ……、一枚一枚じっくりと確認した原稿を弟が封筒に入れた瞬間、私達は喜びを爆発させ、飛び上がりながら抱き合った、そしてそのままのテンションで酒盛りに突入したのである。
「うわーん、弟よー、お前の力があってこそ、私の脳内にだけ存在していた世界が、形となり、人々に受け入れられたのだ、……おねーちゃんは……おねーちゃんは……お前のおねーちゃんに生まれて本当に……本当に……」
「ねーちゃんそれはお互い様だ、俺はねーちゃんみたいに世界を生み出す事は出来無いし、ねーちゃんの原作以上に俺が描きたいと思う脚本は無かった、そう言う事」
弟は感無量で泣き崩れる私にタオルを差し出し新しい缶ビールを出して来てくれた……、本当に出来た弟だ、社会不適合者の私はお前がいなかったら、一週間でのたれ死ぬぞ、
ひとしきり泣き、ティッシュで鼻をかみ、差し出されたタオルで顔を拭いた私は、
「よしっ、ゲームをしよう」
と、弟に声をかけたのだ。
やるのは『First Lady Complex』通称ファレコン、現代日本風の世界のいわゆるお金持ち学校を舞台とした学園物乙女ゲームである。
色んな意味で有名な、同人ゲームサークルが作ったこの作品は、色んな意味で規格外である。まずヒロインが三人もいる、当然ヒロインごとに起こるイベントの内容やスチルも違い……パソコンがとても重くなった。
次に、この作品はパラメータを上げる事で攻略の糸口にするゲームなのだが……とにかくムズイ、学力を伸ばすにはクイズ、運動を上げるには反射神経が要求されるミニゲーム、音楽を上げるにはリズムゲームを、と、とにかくムズイのだ、ちなみに私は音痴の上運痴なのでそうそうに諦め弟を巻き込んだ。
……まあ、弟もこの作品の個性的なキャラクター達と美麗なスチルの数々に結構はまり、二人でそれぞれのヒロインでの全キャラクター攻略、逆ハールート解放まで至ったのだ、……長かった、特に遭遇出来無い攻略対象の彼とか、ハイスペック過ぎて本当に攻略進んでるのか? と聞きたくなる彼とかあのお方とか……、
「担当さんから原稿完成するまで逆ハールートに行くな、って厳命されてたもんなー、見とらんけどネットが結構荒れたらしいしなー、どんな結末になるんだろうなー」
担当さんは、今の少年漫画誌に移るまで少女漫画界におり、少女が喜ぶ胸キュンキャラを探るべくはじめた乙ゲーにどはまりした男、先に逆ハールートをクリアした彼が言うにはうっかりクリアされて落ち込まれては堪らん、との事だ、
「ヒロインが全員に降られるのか? それともヒロインが男達に分割されるとか……まあ、なんでも来いっ!」
……クリアは本当に難しかった、何度もロードを繰り返しミニゲームを弟、それ以外を私と分業しながらルートを進めた、……不幸になったのはヒロインでは無かった、
「なんでっ! なんでっ! ビッチなクソヒロインが幸せになってっ! 純粋無垢な『城生院さん』が不幸にならなきゃいけないのよぉ」
私は再び泣き崩れた、逆ハールートに進む最初の選択肢から悪夢は始まった、
逆ハールートはヒロインその2だけが進めるルートだ、その1は血の繋がった家族が攻略対象にいる為、そして、その3はゲーム期間が短くそもそも複数人攻略は出来無い仕様なのだ、だからその2がビッチヒロインとして頑張るのだ! ……軽く可愛そうに思うのは私だけか?
まず初めに、プロローグとしてメインどころの攻略対象者達との出会いイベントがある、そして特待生として学園に通いはじめた彼女が学園側からある端末を受けとる所から本編はスタートする。
その端末には『城生院さん』という攻略対象者等の情報を教えてくれる、AIとおもわれるお助けキャラが入っており、そこで、逆ハールートに入るか、入ら無いのかを決めるのが『城生院さん』にはじめにする質問である。選択肢は通常、
1「ピアニストになる夢を叶える為には、どんな努力が必要なの?」
2「素敵な人と出会っちゃった、どうすればお近付きになれるかな?」
の二つ、1を選べば音楽が上がりやすくなり、2を選べばいわゆる女子力関係が上がりやすくなる、でも逆ハールート解放後は、
3「この学園って素敵な人がいっぱいね、皆さんと仲良くなりたいわ、どうすれば良い?」
が追加される、ここで、何言ってんだ馬鹿女! と3以外を選べば良かった、……ああ、結果論だよっ!
そして、3を選びルートを進めると、可愛い後輩がイジメの首謀者、メインヒーローの妹が悪役令嬢として立ちはだかり、……といった、ヒロインピンチ、ヒーロー助ける、恋が生まれる、の三拍子を繰り返し、逆ハーをどんどん築いていく。そして後輩と悪役令嬢との和解イベントを起こすと、
そこでようやく、二人を操っていた黒幕令嬢が登場する。
そこからはノンストップでエンディングにつき進む──二人を救う為黒幕令嬢と対峙するヒロイン、ピンチになった彼女を救う為集結する攻略対象者達、……そして黒幕令嬢は学園から追いだされる……父や婚約者、従者達もふくめた攻略対象者達に、
ここまでやってて、あれぇ? と、私も弟も思った、……いやだって、そこまでヒロイン酷い目にはあってないし……、操られてた二人も、暴力とかで強制された訳じゃないし……、うーん、と思いながら話を進めると、
「これ、が、あなた、の、のぞみ、なんです、ね? まんぞく、しました、か?」
と、謎の一言を残し、黒幕令嬢は鮮やかに退場する。そこにヒロインを囲んだ攻略対象者達のお花畑なスチルが映し出され、ヒロインが『城生院さん』に、
「夢が叶ったの! 本当に皆さんと仲良くなれたわ! ありがとう! あなたのおかげよ!」
と、メッセージを送るシーンが流れ──そして、スタッフロールが流れ始める、そしてそれが終わると……、
──走る車の中、白い小さな手が端末を操りヒロインからのメッセージの返事を打つ、
「あなたがしあわせになって、うれしい、ゆめがかなったなら、もう、わたしはひつようない、ね、いままでありがとう、さようなら」
打ち終わり送信を終え、端末の電源を落とすと、彼女は窓の外をみる、すると車はトンネルに入り、窓に彼女の顔が映し出される……黒幕令嬢圓城寺紗々蘭が、……そこでエンドマークが表示される。
私と弟は必死で別ルートを探した、けれどギャラリーにはコンプリートおめでとうの文字、ネットを漂い得た情報は、
圓城寺紗々蘭は攻略出来ない仕様です。
と、いう制作側の公式声明だった、
「……う、ううう、う、酷過ぎる、城生院さんは……紗々蘭ちゃんは、ヒロインの望みを叶える為に行動しただけなのに~」
私は泣いた、泣きながら酒を飲んだ、弟は黙った、黙って酒を飲んだ、
「決めた! 私、次回作は紗々蘭ちゃんをモチーフにしたヒロインが、甘甘に愛される話にする!」
私が決意を叫ぶと弟も深く深く何度も頷いた、そして私達はあーでもない、こーでもない、と、次回作について語りあいそしてそのまま眠ってしまったらしい、
そして、目覚めなかったそうだ。




