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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第一章 彼らは冷酷副会長と黒幕令嬢、又は、鳥籃の幸福の姫君と凶悪過ぎた当て馬、でした。

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その声で呼ばれるそれは……。

栄次君一人称です。

 





 今日は普段通りの時間に始まった夕食を家族全員でとり終えた俺は、片付けを手伝いもせず──と、言うより台所には近づけない、理由は多分ご想像の通りです──自室に戻った訳だ、


 ……ふー、今日も好奇に満ちた視線を浴びる、消化に悪い夕食だった、


 がりがりとメンタルを削られた俺は、半ば崩れ落ちる様にソファーに腰を下ろして、


「……まあ、あの視線も明日には消えるか……」


 と、一人ごちた、……まあ、別の──生暖かいそれに変わるだけかも知れ無いが……、


「……何かゲームでもやるか……」


 無心になれる名作落ちものパズルでもやるか……、そう考え、俺はテレビ──ほとんどゲーム用モニターとかしてる──の電源を入れ様とソファーから立ち上がろうとした俺は、シンプルなチャイムの音でメールが届いた事を知った、


「……あー、無登録のアドレスか、……えーと……」


 !?


「……紗々蘭(ささら)さんから!?」


 ……ああ、そうだった、昨夜の事がどうにも微妙な気分で、六崎むざきに連絡先を書いたメモを渡したんだった、……そうか無事渡ったか……、


「……ああ、プロフィールが添付させてるのか……」


 プロフィールには電話番号とパソコンのアドレス、それに……、


「……おお、誕生日も入ってる」


 十二月十五日か……、良し、慌てる事無くじっくり準備出来る、


 ──六崎に聞くとか、何と無く嫌だったしな……、


 俺はそのプロフィールを元に紗々蘭さん専用のグループと着信音を設定する……、いや、まあ、婚約者(仮)ってそう言うもんだろ? ……まだ、(仮)付きだが、


「…………これは、かけて良いものなのか?」


 ……番号入りのプロフィールが来たんだ、それはそう言う事だろう、……うん、


「……あっちが、別の用を始める前にかけるか……」


 ……うん、理由はメールが届いた事を伝える為、って、微妙なものがあるし、……そして俺はそのまま発信ボタンを押した、


 ………………うん、なかなか出ないね……、もう、別の用を始めちゃったか? 


 そんな風にヤキモキしていたが、


「……もしもし」


 と、紗々蘭さんの澄んだ声がスピーカーから響いた、……昨日も思ったがやっぱり思う、……電話越しだと、この声やばいっ!


「……ああ、紗々蘭さん? メール届いたよ、わざわざありがとう、今大丈夫だよね?」


 ……うん、本当ね? 姿見ながらだと、ああ、小学生だなぁ、って、まあ、それほど気にはなら無いけど……姿が無いと……声だけだと……、


「……はい、大丈夫です、無事届いた様で安心しました」


 凄い破壊力何だよっ! いろいろくるんだよっ! …………スー、ハー、スー、ハー、相手は小学生相手は小学生相手は小学生、……よしっ!


「……ええと、その……」


 ああ、そうだよね、もう、用件終わったもんね、無言じゃ不安になるよね、


「ああ、ごめんね? つい嬉しくなって電話しちゃったんだ……君の声が聞きたくて……」


 おっと、つい本音が、


「……岸元さんは、相変わらずですね……」


 クスクス笑われた……うん、冗談と、とってくれたのか、良かった、かな? でも、それはそれで……それに……、


「……おや? 本気にしてくれ無いのか? まあ、良い、それよりも、それ、変えないかい?」


 ……うん、壁を感じるし、


「……それって、あのなんでしょうか? ええと、岸元さん?」


 ……紗々蘭さんはわからないらしい、と、言うより、あまり気になら無いのだろう……俺の呼び名なんて……、


「うん、それ、岸元さん、……紗々蘭さん、明日君は五人の『岸元さん』に会うんだよ?」


 よしっ、大義名分はバッチリ、さあ、呼んでくれたまえ、


「……ええと、いきなり、名前呼びは、どう何、で、しょう……」


 …………え、


「……俺はもう君の事を名前で呼んでいるけど……もしかして不快だったか?」


 ……不快だったのか? 思わず名前を呼ぶのを躊躇したぞ? もしかして、ずっと我慢していた?


「いっ、いえっ、そんな事はありませんからっ、むしろ嬉しい、……です」


 えーと、本当に? ……そう言えば、俺が名前で呼びはじめたのは婚約を申し込まれて、決断は如何に! って時の頷く直前だったよな、……断られ無い為、言い出せ無かったり……、などと、つらつらと後ろ向きな思考をしていた俺を救ったのは……、


「……岸元さんに名前を呼ばれる、のは、嬉しい、です……

 ……これからも、そのまま、紗々蘭、と呼んでください……」


 と言う、紗々蘭さんの言葉だった、……ああ、うん? そう、だよ、ね、紗々蘭、さん、俺の声が好み、って言ってた、し、ね、


 ……どうしよう、凄く嬉しい、


 ……でもね?


「……同じだよ? 俺も君に名前で呼んでもらったら、絶対に嬉しいし、凄く幸せな気分になると思うから……」


 だから呼んで、君の、その声で、


 俺は、待った、多分一時間でも待てると思う、そして彼女は、


「……え、栄次、さん……」


 と、微かに震えるか細い声で、俺の名前を、呼んでくれた。




 ──その後、どんな風に電話を切ったのか、俺は気がついたら、風呂に浸かっていて、ほぼ無意識で頭と体を洗っていた事に気がついた、……ああ、もう、


「……電話は危険だ……」


 俺はこの後、いろいろと落ち着く為にいつもよりも長風呂をし、のぼせた頭を冷やす為、飲み物を取りに行ったダイニングで、家族に捕まり質問攻めにされ、なんとか最低限の情報を与える事で逃げ延び、そしてグッタリとベッドに倒れ込んだ、


 やっと人心地ついた俺は、万感の思いを込め、もう一度呟く、


「……電話は危険だ……」


 彼女が小学生だと、忘れそうになる……けれど、




 ──初めて呼ばれた、俺の、俺だけを指す名前……、


 


 ──それはとても甘く、心を揺らす『音』だった……。









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