岸元家の激震。
三人称です。
九月某日、曜日は土曜、顧問弁護士の松本さん──三十六歳独身、性別は女性、静留さんの友人でもあります──も、ふくめた家族での昼食を終え、もう一度部屋の片付けや、お茶とお茶漬けの確認などをしながら、ソワソワと次男の心を掴んだ天からの贈り物の様な女性──岸元家では栄次君の恋愛に、既に諦めムードが漂っていました──を、リビングに勢揃いし、今か遅しと待ちわびていました。
「……そんなにばたばたしてたら、せっかく掃除したのに埃が立っちゃうよ?」
栄次君が落ち着きの無い家族に呆れた様に声をかけます、ちなみに栄次君は家でも学校でも掃除は免除されています……理由は推して知るべし、です。
家事能力マイナスの息子の言葉に、母たる静留さんはムッとしながら弁解をします。
「だって、楽しみなんだもの! 我が家に初めて娘が出来るのよ!? どんな美少女かしら、とか、仲良くなれるかしら、とか、今日の手土産はどんな品かしら、とか! そりゃ、落ち着か無いわよ!」
長男の一宏君も続けます。
「そうだよ! 俺に初めて妹が出来るんだよ!? お兄ちゃんとか呼ばれるかも知れ無いんだよ!? 今日の手土産もふくめ気になるに決まってるじゃないか!」
末っ子の光三朗君も同意します。
「何たって、あの、理事長の娘さんだよ! 絶対すんごい美少女じゃん! その上、あの3人が心酔する主だし! 当然手土産もこみで期待は高まるよ!」
父、イヴァンさんもしみじみと呟きます。
「……娘、か……お酌とかしてくれたり、バレンタインに手作りチョコをくれたり、美味しい手土産を持って来てくれたり……夢は膨らむなぁ……」
「全員、最後がおかしいから!? 確かに俺も手土産楽しみだけど!?」
栄次君が堪らずツッコミますが、当人も本音を隠し切れません……岸元家の皆さんは一昨日のシュークリームが忘れられないのです。
「……栄次君、……高校生にもなって食べ物に釣られるのは良く無いと思うわ……」
松本さんが次男の発言にツッコミます……確かにそう取られても仕方ない台詞です。
「いえ、釣られたのは食べ物だけでは……」
決まり悪そうに栄次君が弁解を試みますが、
──ピンポーン、と、いうインターホンの音でそれは遮られました、けれど、
「……じゃあ、俺が出迎えるから、みんなここで待ってて」
と、言い残し、栄次君は、とても嬉しそうな顔でいそいそと玄関に向かいます。
「「「「「…………………………」」」」」
無言でそれを見送った、リビングに残された面々は、
「……あの顔を見たら、とてもじゃないけれど、反対出来ないね……」
そう安心した様に囁くイヴァンさんの言葉に、微笑みながら頷くのでした。
──そして対面した次男の婚約者(仮)さんと会った面々は……。
まずその美貌に驚き、次にその幼さに驚き、そして古い友人──香奈子さんの娘であった事に驚き、
ついで、圓城寺家の顧問弁護士の二条さん──35歳独身、性別は男性──が松本さんの法科大時代の後輩だった事にも驚きます。
様々な驚愕が冷めやらぬなか、お持たせの栗の渋皮煮とおはぎ──手土産はこの二つでした、ちなみにおはぎは粒あん、きな粉、黒ごまの三種類です──を口にし、その極上の味に驚きました。
──そして、婚約者(仮)さんに対する、次男の甘い視線と声に、この日最大の驚きを覚えたのです。
「「「「…………でも小学生って……」」」」
……岸元家の皆さんに、次男の性嗜好に対する、疑惑が生まれた瞬間でもあります。
松本さんは法科大時代から、年上の同級生と交際していて、松本さんが先に司法試験に受かり、結局彼は受からなかった事が原因でギクシャクし、二十九歳で綺麗じゃない別れかたをしました。
彼女は恋愛は懲り懲りだと公言していますが……。
圓城寺家の執着心──使用人も含む──とスペックを考えると……。
まあ、逃げ切れ無いでしょうね……。
圓城寺家(使用人も含む)は愛が重い仕様です。




