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この学園には攻略対象者はいません。  作者:
第一章 彼らは冷酷副会長と黒幕令嬢、又は、鳥籃の幸福の姫君と凶悪過ぎた当て馬、でした。

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かつて、薄闇の中で叫んだ彼は……。

紗々蘭さん1人称です。

 





「ねえ、紗々蘭(ささら)ちゃん? 「かつて、私自身が安らげる『夜』に出会えた様に、寄る辺なき子供達が『運命』に出会うまでの糧となるよう祈りにかえて」この台詞を──このとんでもない惚気をCDに入れる事になったは実はえいちゃんの言葉がきっかけなのよ?」


 ──ふふ、ビックリしたでしょ? そう、麗しのかんばせに悪戯っぽい笑みを浮かべながら母様はおっしゃいました。




 私と栄次さんの婚約(仮)はつい先程無事にまとまりました。弁護士の先生方は仕事を終えお帰りになり、父と栄次さんは男同士の話があるとかで席を外し、そしてその他の岸元家の男性陣はじゃあこっちも女の子同士の話(ガールズトーク)をする、と、母様 ──そう指定された── 岸元静留きしもとしずる様に追い出され、岸元家の落ち着いた雰囲気のリビングで、母様と二人、母様と父様 ──こちらも指定されました──、イヴァン様も参加したCD……ママの歌声が収められた唯一の商品を聞き始めました。そして一曲目の途中でそう告げられたのです。


 ちなみにその『とんでもない惚気』はCDの一曲目のイントロ部分に入っています。……うん、確かに父や『家族』達から聞くママの性格を鑑みるに自分の意思でCD──不特定多数が聞く物──にこんな台詞入れる訳が無いよね……。


「……今まで、疑問にも思わずに、聞いていました……」


 うん、ちょっと反省。でも、どういうきっかけでこの台詞を入れる事になったのかな? つまりママが栄次さんの前で惚気たって事だよね?


「ですが、私が聞いていた母のイメージでは、惚気を口にする様な人とは思え無いのですが……」


「ええ、そうね、香奈子かなこは恥ずかしがり屋だから、惚気なんて口にしないし、そもそも、恋人がいることすら、あの、クリスマスイヴの日まで、知らなかったもの」


 ──三年近い付き合いだったのにね。そう、呆れた様におっしゃてから、静留母様は語ってくれました。ママとの出会いから、共に過ごしたクリスマスイヴの夜までを。




 岸元家は一応カトリック、と言う人達です。父様が言うには彼の実家は熱心な教徒で、その事が原因で現在は没交渉になったそうです。でもカトリックは辞めたく無い、と会派を変えた所、その会派にはママが育った教会も所属していて……と言う感じで、一家が通う、プラハの小さな教会でママと一家は出会ったそうです。


「もう、ものすごく熱心に祈っている東洋人。しかも私達夫婦の母校の書類を持ってるんだもん、即、声をかけたわ」


 そして、ママが日本人でお二人の母校の音楽院に留学したばかりで知り合いがほとんどいない事、不安になって教会に来た事、近くのアパートで一人暮らしをしている事、を聞きだし、話し合い、意気投合し、一家のアパートに招待する事になり、そのアパートがママの暮らすアパートだった事に運命を感じ、おかずのやり取りや、わんぱくな七歳と二歳の双子の三人の男の子達の子守などと交流を深めていったそうです。


「ホント助かったのよ、今まで雇っていたシッター達はイヴァンや子供達に色目使うし、いい子過ぎるひろさんや聡過ぎる栄ちゃん、元気過ぎるこう君、それぞれに寄り添って、その上で平等に接してくれたんだもん」


 あの子達がグレずに済んだのはきっと香奈子のおかげね? パチンとウインクをしながら、母様はおっしゃいました。


 ……うん、流石ママ、あの、唯我独尊な父と恋愛し、マイペース過ぎる深子みこや真面目過ぎるほのか、残念な一玻かずはと友情を築いただけの事はある……と言うよりそれに比べたら……と言う事なのかも知れないけれど……。


 と、まあ、そんな感じでママはプラハで留学期間を過ごし、日本に帰る時には一家と涙の別れをするほどに親交を深めたそうです。


 そんな、日本とチェコで暮らす彼女達が再会したのは、今リビングに流れているCDのレコーディングの時、十一年前の晩秋だったそうです。


「……その時の香奈子ってば、こっちが再会の喜びに浸れ無いほど弱ってるし、不安気だし、歌も全然で、もう、ホント心配になって、音楽院に通ってる日本からの友達の家に泊まってる、って聞いて、無理矢理そのお友達と一緒に家に連れ帰って事情を聞き出そうとしたんだけど、何も言わず私は大丈夫の一点張りで……」


 ずっとヤキモキしてたのよ? そして、ママのスランプで予定外に延びたレコーディングは年末まで続き、気晴らしになればとクリスマスイヴのディナーにママを友人と共に招待したそうです。


「前菜の時には暗い顔だったのが、途中でかかってきた電話に出たとたんにパーッと明るくなって、もう、全身から幸せオーラが出てて、当然、質問責めにしたわ」


 そして、電話の相手がママの将来を誓い合った恋人──つまり父──だと知ったらしい、


「でも、心配になった訳、電話一つであんなに明るくなるって事は暗かった原因もその恋人って事になるじゃない? どんな男なんだ、って、過保護な姉の様に聞いたら……」


 『夜の様な人』そうおずおずとママは語ったと言う。


「側にいると安らげて、それでいて刺激的で、誰よりも安心できる人──そう香奈子は恋人を評したの……で、相手は香奈子の事をどう例えるの? って聞いたら……」


 真っ赤になって黙秘したそうです。が、


「一緒にいた香奈子の友人──今は私達の友人でもあるんだけど、その子が教えてくれたの」


 香奈子の彼は香奈子の事を『俺の太陽』って呼んでいて、周りが辟易するほど溺愛していますよ~、と。


「あの時の香奈子ってば顔を真っ赤にして涙目になりながら暴露を止め様として」


 ──最高に可愛かったわ、母様はケラケラ笑いながら思い出を語ります、……うん、確かにママは可愛かったでしょう、そして、父は昔から愛情表現が過剰だったのか……、今の被害者は私なんだよな……、


「で、その惚気を聞いてた栄ちゃんが香奈子に聞いたの──うまく歌え無くなるほど辛い思いをしたのにそれでも出会えて良かったと言えるのか? って、……あの子、あの時にはもう周囲と異なっていて、ちょっとやさぐれてたのよ」


 ……やさぐれ四歳児、凄くシュールだけど栄次さんなら納得出来る。


「ふふ、でも香奈子は子供のそんな癇癪に真摯にこう答えたの『確かに彼と出会わなければ本当に傷付く事も心から泣く事も無かったと思う、けれど本当に喜ぶ事も心から笑う事も無かった、彼と出会った事で私は今の私になって私の歌を歌える──だから私は彼と出会って良かった』って、そしたらあの子、こう言ったの──うらやましい、って」


 僕も世界を、自分を変える存在に出会いたい、そう栄次さんは言ったそうです。


「そんな栄ちゃんを慰める為かしら、香奈子が言ったの『かつて寄る辺なき子供だった私が『夜』に出会えた様に栄次君も絶対に出会えるわ──薄闇を照らす光明『暁の姫』にって、それが運命だから絶対に会えるって、もう預言者の様に繰り返して……その言葉を聞いてる内に栄ちゃんは明るくなるし、他の子達はうらやましがるし」


 そんなお二人にもママは「大丈夫、宏さんには『運命の音』の乙女が、光君には運命的な出会いをする『ヒロイン』がそれぞれ現れるから安心してっ」、と、太鼓判を押したそうです、


「そんな子供達を見てて思ったの……みんな『運命』の出会いを夢見てるって、それであの冒頭の台詞を言わせてその通りに歌ってもらったの、そしたらこれまでが嘘みたいな最高の出来になって……それでそのままCDに入れたって訳」


 悪戯が成功した子供みたいな顔で母様は笑いながらママとの思い出を語り終えました。ですが、


 だからね? と、母様は目を輝かせながら続けます、


「紗々蘭ちゃんが香奈子の娘だ、って聞いた時、鳥肌が立つぐらい驚いたの──だって」


 ──『夜』と『太陽』が出会って生まれるのは『暁』じゃない?


「本当に香奈子は預言者だったのかもね?」


 母様の言葉を聞き、それを理解した瞬間、私の普段は怠惰な顔の血管が張り切って仕事をし……まあ、つまり、私の顔が真っ赤になった訳です。


「いえ、あにょ、え、栄次さんはその、私に運命を感じたりは……」 


 そして、普段はとても勤勉な舌に裏切られ噛んだり吃ったりした訳ですよ、この圓城寺紗々蘭が!


「ふふ、紗々蘭ちゃんは以前の栄ちゃんを知らないから」


 ──母親の目から見たら、別人かと思うほど変わってるのよ? そう母様は断言してくれます。…………ああ、もし、もしもそれが事実だとしたら、


「……そうだとしたら、嬉、しい、です」


 さらに熱くなった顔を手と髪で隠しながら、私はそっと呟きます。そこに、


「母さん、女の子同士の話って何をはな……って、どうしたの紗々蘭さん!? 母さん!! 紗々蘭さんに何言ったの!?」


 と、父との話が終わったらしい栄次さんが追い出された家族と、家の父と共にやって来た様です……いまだに熱い顔を上げられず、確認は出来無いのですが……、


「何って香奈子と栄ちゃんの昔の話よ? ……栄ちゃんの初恋はきっと香奈子だったって言う」


「何、変な事を吹き込んでるの!?」


「それを言うなら宏さんと光君の初恋も香奈子さんではないか?」


「「飛び火した!?」」


「……とりあえず小僧共……少し話し合おうか……」


「うわっ、理事長心狭っ! 年齢一桁の子供の淡い憧れぐらい見逃しましょうよ!?」


「却下だ、俺が香奈子を嫁にすると決めたのは六歳の時だぞ? 二歳だろうが百歳だろうが香奈子に惚れる奴は全員敵だ」


「「「六歳!? それでもやっぱり心狭っ!!」」」


 賑やかな『家族達』の声を聞いてるうちに顔の熱はおさまって、変わりに押さえられ無い笑いが出てきた。


 私は顔を上げクスクス笑いながら父に言う、


「良いじゃない、ママはずっとパパだけを見ているパパのものだし、……栄次さんは私のに、なった、の、だし、兄様と光君もまだ会ってはいない可愛い女の子のものなのだから」


 だって、ね?


「私がさっきまで母様に聞いていた話は、簡単にまとめると、ママがパパの事が大好きって言っていた、って話だったのよ?」


 ──そして栄次さんが『暁』を待っていたと言う話……母様が言う様に私がそうなら良い……けれど、




 ──もし違ったとしても……本物の『暁』さんが現れたとしても……、






 ──私はきっと栄次さんを離さない、……どんな手段を用いても。




 ……まあ、私も父の娘だ、って事ですね……。

 



 

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