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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第2章 王都へ
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「ここが王都!…すごい。」


 1か月の旅を終え、たどり着いた王都は今まで訪れた街とは比べ物にならないほど栄えていた。石造りの街並みは歴史を感じさせる。商店の前では声を張り上げ客を呼びこみ、子供は広場で走り回り、華やかな格好をした男女が傘をさして楽しそうに歩いている。豪華な馬車が走り、川では小さな舟に揺られて景色を楽しんでいる者もいる。見てまわりたい衝動にかられ、うずうずしていると、ティアがニヤリと笑いかけた。


「そうね、賑わいがすごいわ。でも、目的は忘れちゃだめよ。」

「わ、わかってるよ。」

「ふふ、王都で走り回られたら、さすがの私も探し出すのに一苦労だもの。」

「…申し訳ないです。」


 苦笑いの私の顔を見て、更に笑いだしてしまったティアを睨みつけてやる。そこまで笑わなくてもいいだろう、確かに街に着けば色んな所を見に行って逸れてしまったけれど。話題を戻さなくては。


「さ、さぁ!ザックのところに行こう!笑ってる場合じゃないわよ、ティア。」

「そうね!まずは…魔法省に行ってみましょうか?」

「魔法省?」

「魔術師全般の管轄をしているところよ。きっとわかるはずだわ。」


 そう言うと近くのクレープ屋さんに行って、クレープを買いながら何か店員と話して帰ってきた。ちなみに、初めて街でクレープを食べた時の感動と言ったら、表現できないほどであった。


「はい、どうぞ。」

「ありがとう!」

「ついでに魔法省の場所も聞いてきたわ。」

「…さすがでごさいます。」


 旅をしていて思ったが、本当にティアはなんでもできる。剣は勿論だが、裁縫に料理、話術まで長けている。どこで習ったのかと思うが、なんとなく聞けないでいた。

 誘惑に負けないようにして魔法省へ向けて歩いて行く。途中、何度か場所を聞きながらたどり着いた場所には、とてつもなく大きな建物があった。さすがは本拠地という感じである。見上げて圧倒されている私を置いて、何でもないことのようにティアは進んでいった。…やはりティアは只者ではなさそうだ。建物に入ってすぐ、受付があり2人の男女が座っていた。受付まで向かいティアが話しかける。


「失礼ですが、こちらに3か月程前から所属しているであろう少年を探しております。」

「……3か月前ですか?」


 いきなりティアに話しかけられた男性は、顔を上げた瞬間1度固まり、なんとか言葉を紡ぎだした。なんとなく気持ちがわかるよ…うん、ティアは美人だからね。そんな相手に警戒心を解かせるかのようにティアが微笑む。これもティアの交渉術の1つなのだと旅をしてから気付いた。


「はい、名前はザックと言います。茶髪に青目の15歳の少年なんですけれど…ご存知ありませんか?」

「ザック……あっ!そういえば」

「貴方方はどちら様ですか?」


 男性が思い出したという様な素振りをした途端、隣の女性がその発言に被せてきた。その厳しい視線に身体がビクッと反応してしまった。しかし、ティアは気にする素振りも見せない。


「親族です。」

「親族ねぇ……証明書はありますか?」


 女性は私達を上から下まで見ながら言ってきた。証明書など小さな村で産まれた私達にあるはずもない。そういうものは大きな町や王都くらいにしか浸透していないだろう。


「証明書は…ありません。けど!私はザックの正真正銘の姉です!」


 カウンターに身を乗り出して訴える私に向けられたのは疑いの目であった。


「申し訳ありませんが、証明できるものがなければ個人の事についてお答えできません。」


 と女性に言い切られてしまった。困ってティアを見るが、ティアも首を振る。私達は諦めて魔法省を出た。見た目が似ていれば少しは望みもあったのかもしれないが、私は誰にでも姉弟かと尋ねられるほどザックとは似てないし、ティアは美形という点では近いが髪も瞳も色が違いすぎる。頼みの綱である魔法省を当てに出来ないとなると…どうしたものか。2人で唸っていると、いきなり「よし!」とティアが叫びだした。


「な、なに!?」

「こうなったら魔術学校に直接行きましょう!」

「魔術学校?」

「魔術師としての知識や技術を学ぶところよ。きっといるはずだわ!そして…忍び込む。」


 急に小声になったと思ったら物騒なことを言い出した。


「忍び込むって…どうやって?」


 魔術師を教育する機関なら、尚更忍び込むなんて難易度が高いのではないかと思う。それでも言うのだから何か策があるのかと思いきや…


「うーん、行ってから考える。正直、魔術についてもあんまりわからないし。それしかないし!」


 といつものティアとは思えない行き当たりばったりな発言が帰ってきた。とは言え、他に何かいい案があるわけでもないので、私はその案に乗り、また人に聞きながら魔術学校に向かったのであった。





 魔術学校は貴族の屋敷が並んだ先にあった。どこまでも塀が続いていて、敷地がとても広そうだ。


「なんか意外と人の気配もないし、いけそうな気がしない?」

「そうね…逆に不気味だけど。」


 私達はどこかいい忍び込みスポットはないかと塀の周りを歩いている。正直どこでもいけそうなのだ。堀もないし、塀もティアより少し高い程度、普通の女の子より動きまわってきた私からすれば登れぬ高さではない。ただあまりにも簡単すぎて不安なのである。これじゃあ侵入者が続出してしまうではないか。


「やっぱり不気味だよね。魔術学校っていうくらいだし、結界でも張ってそうじゃない?」

「それが1番ありえそうよね。」

「…じゃあ試しに塀に登ってみる?なんか警報やら警備している騎士がきたら、中が気になってって無知な女の子を演じればいけないかな?」

「…よし、やってみましょうか。私がやるわ。」


 言っている私でも馬鹿な提案だとは思っているけれど、それをティアにやらせるなんて以ての外だ。


「私の提案なんだから、私がやるわ!」

「いえ、私がやる。もし何かあった時にリリアンがザックに会えなくなるのは困るし。」

「でも!」

「大丈夫。それに、背が塀に近い私の方が覗いちゃいましたって言い訳が通りやすそうでしょ?普通の男性はリリアンみたいにお転婆な女の子がいて、塀によじ登れるなんて思わないだろうし。」


 心配をかけないように笑っているのがわかってしまう。そんなこと危険な賭けをする時には何の言い訳にもならないのに。ティアの言葉に負け、押し黙っていると塀の反対側、つまり敷地の中から可愛らしい女性の声が聞こえた。


「お話し中のところ申し訳ありませんが、この塀を越えた瞬間に結界が発動いたしますわ。ですから、塀を乗り越えることはお勧めいたしません。」


 その声に驚いてティアと顔を合わせる。かけられた言葉からして、結構前から聞かれていたことになる。まさか、侵入する前にバレるとは思わなかった。




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