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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第2章 王都へ
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新たな章へ突入します。サブタイトルをつけるのがすごく苦手なので、数字になってしまっているんですけど…どうやって内容に合うタイトルを考えればいいのでしょうか。かっこいいタイトル憧れるなー!(笑)

 

  エレントル王国は4つの国から成り立つユーレン大陸の東に位置する大国である。歴史が長く、精霊に愛された国と言われている。

  その北にあるのは、ユーレン大陸2番目の大きさを誇るズワーダ王国。ズワーダ王国は武に優れた剣士が多く、有名な武将を多く輩出している。昔は領土をめぐり、何度も戦を繰り広げていたが、3代前の国王が友好条約を結び、今では留学などを行う程、仲の良い関係を保っている。

  エレントル王国の南には、300年程まえにエレントル王国から独立したという歴史を持つ、パトル公国がある。技術者が多く、布や装飾品から武器、魔石まで質のよい品を幅広く製造している。

  そして、エレントル王国とパトル公国の西にはヒメラーヌ山脈が連なり、その先にはシュザート国という民主主義国家がある。王国での罪から逃れる為に、移住する者もいると噂はあるが、実際のことはわからない。



  私達がいたアース村はヒメラーヌ山脈に近い、王都から西に位置している。馬車でも王都までは1か月はかかる道のりだろう。そんな道のりを女2人で馬車や徒歩で進んでいる。


「ティアは王都に行ったことがある?」

「いや、行ったことはないかな。話はよく聞いていたけれど。」

「話って?」

「とても賑わいのある街らしい。パトル公国から多くの品物を手に入れられる立地に、海の向こうのダイヤン王国との貿易も盛んというから、さぞ栄えてるいるんじゃないかな?」

「へー、アース村とは雲泥の差ね。」


  ふっと村のことを思い出す。周りを森で囲まれ、畑ばかりの村、学校もなく、商人もやってこない。そんな生活で生きてきた私は、王都でやっていけるだろうか。


「なんか不安になってきたわ。」


  出発する前のやる気と自信はどこにいったのか。どんどん項垂れていくリリアンの頭上から笑い声が聞こえてくる。


「あははは、大丈夫だよ!すぐに慣れる。それに私もいるでしょう?」

「う、うん…そうよね。」


  必死に笑顔を貼りつけるリリアンが可笑しくて、ティアは笑いが止まらなかった。それはリリアンがふて腐れるまで続いた。しかし、ティアは本当に心配などしていない。なんと言っても、あの好奇心旺盛なリリアンである。珍しい光景を見て、すぐに飛び出していかないかという心配しかないくらいだ。そんなことを考えていると、「よし!」とリリアンが手を握りしめ、顔をティアに勢い良く向けてきた。


「そうよ!ティアがいれば百人力よね!心配なんかないわ!そうよ、大丈夫!…ね?」

「えぇ、もちろん!」


  この前向きなリリアンに救われるとティアは思う。だからこそ、大切な妹と弟のような存在2人は守ってみせると、微笑みながら思うのだった。


  そしてリリアンの言っていたことは、あながち間違いではなかった。町や村などまでたどり着けず野宿をする際、盗賊やら動物などによく遭遇したが、ティアは1人で意図も簡単に片ずけてしまう。無駄な命はとらないと、致命傷を与えて拘束し、自警団に渡したり、食材として頂いたり。それは力の差があってこそ出来ることで、改めてティアの強さを実感するリリアンであった。


  また、ティアの心配も当たることになった。王都ほどではないにしろ、大きな街にたどり着いた2人は、即刻逸れることになる。それは、ティアの心配通りにリリアンが興味のあるものに飛びついていき見失ってしまったからだ。

  心配して探し回ったティアが見たものは、広場で行われていた旅芸人の前で目を輝かせているリリアンの姿だった。なんとなく、ザックが今までしていた苦労が垣間見え、溜め息をつくしかないティアだった。




 そんなことを繰り返しながらも順調に旅を続けていたある日、2人を襲ってきたのは大きな猪だった。その猪は、牛ほどの巨漢に大きな牙という、今まで見たこともない姿をしていた。


「こ、これは猪なの?」

「そうだとは思うけど、大きさが尋常じゃない。リリアン少し下がって、周りに注意して。仲間がいるかもしれないから。」

「わかった。」


  ティアは突進してくる猪を寸前でかわし、下から切り上げる。しかし、浅い傷がつく程度で相当皮膚が堅いことが伺えた。唸りながら涎を垂らす猪は、何度もティアに襲いかかる。攻撃は喰らわないものの、皮膚が硬く、なかなか致命傷を与えることができない。


「くっ、しぶといわね。一気に殺すしかないか。」


  そう呟いてティアは猪が走り出す前に駆け出した。そして、今まで何度も攻撃を加えていたところへ全体重をかけて振り下ろす。すると、剣を抜いた途端に猪がゆっくり倒れていった。倒れた猪にティアが歩み寄る。


「…ティア?」

「やっぱり、この猪は魔毒にやられている。」

「魔毒に?でも、動物もかかるものなの?魔毒は負の感情により作られるものなんじゃ…」


  猪を見ると、シューと煙を上げて体が縮み、よく見る猪のサイズに戻っていた。


「よくわからないけれど、異常なことは確かね。この先に町があったはず、行ってみましょう。」




  1キロほど進んだ先の町で見たものは、以前アース村で見た光景のようだった。門は壊れ、人の死体が辺りに広がり、家屋は壊れている。アース村よりも被害が小さく見えるのは、町の大きさと派遣騎士がいる町だったからだろう。あの時の光景が思い出されて、咄嗟に目を逸らしてしまった。無意識にティアの手をつかむ。ティアもそっと握り返し、手を引いて歩き始めた。

  町の中では怪我人の手当てや亡くなっている人にしがみついて泣いている人、震える子供を抱きしめている人、事後処理に追われている人と様々な人がいた。


「いちを落ち着いてはいるみたいね。何体か猪の亡骸があるし、あの猪が町を襲ったのかしら。」

「そんな…どうしてこんなことに。」


 ティアは辺りの状況を確認するように見回している。 私は側で倒れ死んでいる猪に触れようと身を屈めた。すると、


「なにをしている!」


 大きな怒鳴り声と共に、猪に触れようとした手を思い切り捕まれ持ち上げられた。


「いたっ!」

「何をしようとしていた。」


  その怒りの混じる声のする方へ振り向くと、真っ黒な騎士の格好をした男の姿が目に入る。背が高いのか顔が見えず、少しずつ見上げようとして固まってしまった。

  そこには太陽の光をも反射させるような銀髪に茜色の瞳を不機嫌そうに歪め、それでも失われない美貌を持った男がいたのである。母や弟、ティアと美形に囲まれ生きてきたリリアンでも固まってしまう程の、男の色気を放つ相手に反応ができずにいると、後ろから私の腕を掴む男の手をティアが掴み返していた。


「痛がっているではありませんか。離していただけますか。」

「なに?」


  私を置いて、二人は睨みあいを始めてしまった。美形が睨みあっているととても怖い。私は慌てて間に入る。


「も、申し訳ありません。猪が気になったものですから、触れようとしたのです。あ、あの手を離して頂けませんか。」


 騎士の男は溜め息を吐きながら、私の手を離す。ティアもそれに合わせて手を離すが、睨みつけるのは忘れない。あれ、ティアってこういうタイプだったかな、と疑問に思ってしまった。


「お前達は馬鹿なのか。」

「…はい?」


  何故か初対面の人に馬鹿呼ばわりされた。驚いてとぼけた顔になっているだろう。


「先ほどまで暴れていた生き物に触ろうなど、馬鹿しかしないだろう。」


  うん、馬鹿にされているのね。なんか凄く腹が立つんですけど。美形だからって、何を言っても許されると思うなよ!注意するのだって、もう少し言い方があるでしょ。言い返そうと身を乗り出そうとして、ティアに手で止められた。


「申し訳ありません。私達も先ほど襲われましたので危険なのは分かっております。しかし、死んでいるので大丈夫ではないのですか?」

「死んでいても調査が終わっていない。危険な目にあわれたら、こちらが困るんでな。」

「調査…それは魔毒によるものかどうかですか?」

「何を知っている?」


  ティアが魔毒について発言した途端、騎士の表情が険しくなった。


「いえ、何か知っている訳ではありませんが、魔毒に犯されていたものを見たことがありましたので。」

「そうか。しかし、下手な詮索は止めておけ。いつか死ぬぞ。」


  そう言った男の下へ1人の騎士が駆けつけてきた。


「ヴェルモート隊長!町長との面会ができるようになりました。」

「わかった、今行く。」


  そのまま私達に背を向け、歩いて去っていった。



「なんか腹立つね、ティア。」

「ほんとね。でも、あの騎士の服の色…確か第1王子直下の騎士じゃなかったかしら。」

「げ…なんか面倒くさそうな人と絡んじゃったね。ごめんね。」

「いいのよ、リリアン。……王子直々に動いてるとわかっただけ良い収穫だわ。」

「ん?なんか言った?」

「いいえ、なにも。さぁ、宿があるかしら?探しましょうか。」


  そう言って歩き出すティアについて行く。王都まではあと1週間程で着くだろう。これから何が待っているのか、今はなにもわからない。



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