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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第1章 運命の歯車
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  ザックが連れて行かれ立ち尽くしている私に声をかけたのはティアだった。ティアに手を引かれ村長の家を後にし、父のもとへと行く途中、前を歩くティアが話し始めた。


「リリアン達はやっぱり器量は測ってなかったのね。」

「器量?」

「そう、小さい頃に器の大きさを測るの。それで大きいとわかれば、魔術師になるために学校に入る。どちらにしろ、魔力を制御できるように学校に通わなくてはいけないのだけど、王都にしか学校がないのよ。」

「ザックはその制御ができなくて、ああなってしまったってことね…でも今行かなくてはいけなかったの?あの状態で1人にしてよかったのかな。」

「正直、1人にしたくなかったわ。でも、襲われた際に何かが引き金になり魔力が暴走してしまったのなら、少しでも早く制御できるようにならないと危険なのも事実ね。」

「そっか…結局私はザックを救えなかったのかな。」

「リリアン…」



  守らなきゃと思ったばかりだったのに、どうしたらよかったのかわからない。お父さんは目覚めるだろうか。これからどうやって生きていこうか。先が見えない恐怖が襲ってくる。この町にはいられないのかもしれない。壊された家や畑、人の気配が少ない村…助け合う仲間がいなさすぎる。産まれてからずっと育ってきた村、周りにいた人、自由に生きていけたのは見守ってくれる人がいたから。


  ティアがいてくれてよかったと思う。隣を歩くティアを見れば、私を気遣う顔が見える。ティアがいなければ私はとっくに壊れてた。相手への憎しみだけに染まり、何故こんな目にと運命を呪い、母のそばでずっと嘆いていたのだろう。側にいる父や助けてあげるべきザックのことなどに気づかず、過去の幸せにしがみつき、前を見ることを拒んでいたかもしれない。もしかしたら魔毒にやられ、家族のことも忘れてしまったかもしれない。そう考えるだけで身体が震えてくる。とっさにティアの腕にしがみついた。


「…リリアン?」

「ティア…そばにいてくれてありがとう。」

「うん。」


  そう言ってティアは微笑んでくれた。それだけで救われた気がする。


  それから父が目覚めたのは2日後の事だった。起きた父はそばにいた私を見つけると、私の名前を呼んで涙を流した。久しぶりに聞いた父の声は、擦れていて、それでも生きている父を実感でき共に涙を流した。

  少し落ち着いた頃に母のことを話すと、「そうか」とそれだけ言って顔を伏せ、布団を強く握りしめる父の姿がいつもより小さくて、その手を握ることしかできなかった。


「リリー、ザックはどうしたんだい?」

「…ザックは王都へ連れて行かれたわ。」

「王都へ連れて行かれた?…やはりそうか。」

「お父さん知ってたの?ザックが魔術師になれること。」

「いや、ただあの時…ザックからすごい魔力を感じたからね。でも、そうか。生きていてくれるだけで、よかった。」

「…お父さん。」

「リリアン、辛い時にそばにいれなくてごめんね。ティア、本当にありがとう。」

「そんなことないわ、お父さん。ティアがいてくれたから。でも、ザックは1人で壊れかけてる。」

「そうか。」

「何があったのか、聞いても大丈夫?…ごめん、辛かったら思い出さなくていいわ。ごめんなさい。」


  首を振って、私の手を握りながら父が話してくれたのは、辛い現実だった。

  畑仕事をしていると、村の入り口から悲鳴や物が壊れる音が聞こえてきた。何事かと思い、母とザックを家に帰すため遠くで作業をしている2人を呼んでいると、奥から2人の黒ずくめの男達が来ていた。手には血のついた剣を持っていて、その異様さに急いで母とザックの元に走っていった。それでも盗賊の方がたどり着くのが早かった。

  その後のことは一瞬の出来事だったという。ザックに斬りつけようとした男とザックの間に母が入り、その剣先は母を捕らえてしまった。そのまま立ち尽くしていたザックのもとへ母は倒れ、もう一人が斬りつけようとする。たどり着いた父がその切っ先を農具で受け止めるが、受け止めきれなかった。そんな2人を見たザックが大きな叫び声と共に強力な魔力を解き放ち、男達は吹っ飛んだという。


  母を受け止めたザックは血まみれで放心していた。まだ息のある母を父は寝かせて処置をしようとするが、父の出血量も多く視界が霞んで行く。そんな父の手をとり微かな声で母が語りかける。


「…ロン……こんな、かたちで…ごめん、なさい…」

「なにを、言うんだい…ザックを守ってくれて……ありがとう。」

「たいせつな…わたし、たちの子…だもの。……3人を、お願いね……愛してるわ、ロン…」


  その言葉と共に母は息をひきとった。


「ああ、俺もだよ…アイリーン。ずっと君を……愛してる。」


  そのまま父も意識を失ってしまった。その後すぐ、私達が駆けつけたようだ。話し終えた父は私の頬に手を添えて顔を歪めながら微笑んだ。


「リリー、ザックのもとへ行ってあげてくれないかい?」

「だめよ、お父さんを置いてなんか行けない。」

「お父さんは大丈夫。お父さんには2人やティアがいるってわかってる。アイリーンの言葉が救ってくれる。」


  そう言うお父さんの顔は、いつもの優しい笑顔のお父さんで、魔毒になど負けないと頷いている。


「わかった。でも、怪我が治るまではいさせて。お父さんのことが心配で、王都になんか行けないわ。」


  微笑みかけると、父は泣くのを我慢するように小さく「ありがとう」と言った。





  それから2か月が経った、母は村の中で1番気に入っていた花畑の横に眠っている。私達は隣の町に移り、おじさんも一緒に4人で生活していた。お父さんも1人で身の回りのことができるようになり、おじさんがお父さんの面倒を見てくれると言ってくれたので、それに甘えて明日、王都へ出発する。


  今日は父とティアと母の御墓参りに馬車を借りて村まできた。人のいなくなった村は、もうあの頃の面影はない。なんとなく無言で村の中に入っていく私達を迎えたのは、何も変わらない花畑だった。

  お墓の前に着くと、ティアがお墓を綺麗にし、父と花を飾る。そして皆でお墓の前に座る。


「お母さん、私ザックのところに行ってくるね。見守っていてね。」

「おばさん、必ず2人を守るからね。」

「こらこらティア、2人を守ってくれるのは嬉しいけど、ティアも大切な家族なんだから、ちゃんと自分も大切にするんだよ。」

「おじさん…」

「そうよ!お母さん、もちろんティアのことも見守っていてね。」


  父と笑い合いティアを見ると、涙を浮かべている。ティアの手を握りしめると、そっと頷き返してくれた。これから未知の世界へ踏み出す。不安がないなんて嘘だけど、1人じゃないから大丈夫。ザックのもとへ必ずたどり着いてみせる。


「帰りが暗くなると困るから、そろそろ行きましょうか。」

「そうだね、お父さん行こう。」

「わかったよ。ちょっと先に行っててくれるかい?」

「…わかった。行ってるね。それじゃあ、いってきます、お母さん。」

「いってきます、おばさん。」



  2人を見送ったロンはお墓に振り返り、そっと刻まれた名前を撫でる。


「…アイリーン、あの子達は強くなったね。俺も負けていられない。でもね、君がいない毎日が寂しくて堪らない。あの子達が知ったら、行けなくなってしまうから。ここだけの秘密だよ。それでも、君は俺が憎しみや悲しみだけにならないように、あの子達を託すと言ったんだね。本当に君には叶わない。しっかりあの子達を見守り続けるから、君の元に行くときに、たくさん話せるようにしないとね。愛しているよ、アイリーン。いつまでもずっと。」




  そして私とティアは町を旅立った。父とおじさんに見送られて、ザックの待つ王都へと。



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