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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第6章 世界の歪みとの衝突
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リリアン視点です


「あなたは…いったい?」



 黒魔法を浄化し、魔力まで操れる精霊などいるはずがないのに、現実、目の前にいるのだ。ましてや、私と契約している訳ではないのに、確かに繋がりを感じる。これが私の力を使っているという事なのだろうか。そんなことを考えながら、その精霊を見上げる。しかし、次の言葉に驚きで言葉を失うこととなった。



『我は精霊王。この世界を作りし者だ。』



 精霊王…世界を作った人?どういうこと?話が壮大すぎてついていけない。それでも、隣にいるヴェルモートさんが王族にするように膝をつき、こうべを垂れる。とっさに私も両膝を付き、胸の前で手を組む。



「神様…ということですか?」

『ははは、そうだな。人間には神やら生命の父と言われているようだな。』



 なんてことだろう。私達の前にいるのが神様…というか、私を媒介にしているって凄いことよね。驚きでポカンと間抜けな顔をしているだろう私を見て、精霊王が微笑みかけてくる。私達の元を作った人、精霊王の力が私達の中に流れている、だから懐かしく感じたのか。



「恐れながらお尋ねいたします。これほどまでの力をお持ちの精霊王様が、何故今、私達をお助けくださったのでしょうか。」



 ヴェルモートさんが尋ねる。たしかにそうだ。ましてや、550年前から黒魔法が渦巻いていたのなら、もっと早く助けてくれたら、このような被害がなかったかもしれない。いや、それは勝手すぎるか。



『我がこの世界を作ったのは気紛れだった。たくさんの生命を作り、全てが我の子供のようなものだった。我の力で作ったからこそ、全てに精霊が宿っているのだ。』



 なるほど、この世界は神ではなく精霊王が作り出した世界。気紛れというのはなんとも精霊らしい理由だが、もしかしたら精霊王が気紛れだから、精霊達が気紛れなのかもしれない。



『たくさんの生命の中でも、人間の進化は抜きん出ていた。言葉を交わす姿に愛着も湧いた。だから、発展するようにと人間に我の加護を与えた。それが器となり、魔力となったのだ。』



 ハイドさんが以前言っていた大きな存在とは、精霊王の事だったのか。700年振りに人間と話したと言っていたから、伝わることがなかったのだろう。



『それにより人間は劇的な進化を遂げた。もともと高かった知力を活かし、生活にも魔力を使うようになったのだ。その時は我も嬉しかった。そして、友であるリシウスと出会ったのだ。』

「リシウスとは…エレントル王国を建国したリシウス様ですか。」



 ヴェルモートさんの驚いた顔を初めて見たかもしれない。って、気にするところが違った!まさか賢王リシウス様が精霊王と友だなんて。



『そうだ、リシウスは我が見えた。あやつは精霊に大変愛されていたのだ。我も人間と初めて話したくらいだ。あやつは争いの絶えなかった人間をまとめ、争いをなくしたいと語った。その夢のために手助けをしたのだ。あやつは民にも愛され、素晴らしい国を作り上げた。

 あやつは死ぬ前に我に願った。人間を見守り助けて欲しいと。我は唯一の友の願いを聞き入れた。しかし、我はこの世界そのものと言ってもよい。そんな我が直接手を下すことはできなかった。リシウスのように我を受け入れられる器を持つ人間も現れなかったのだ。』



 そう話す精霊王は悲しそうな顔をした。それは友の約束を果たせないことへの悲しみだった。きっと、精霊王自身もこの時を待っていたのかもしれない。



『国が豊かになればなるほど歪みができた。カルルスが負の感情に堕ち、黒魔法を生み出した時、初めて我は魔力を与えたことを後悔した。魔力を全て奪う事も考えたが、魔力に依存している生活を送る人間には、もはやできないと判断したのだ。何もできないまま550年が経った時、リリアン、そなたを見つけたのだ。』

「私?」



 突然私に話が振られ、戸惑ってしまう。



『そなたは気付いていないが、大変精霊に愛されておる。だから、そなたの力を借りることで我は地へと降り立つことができた。友の約束を果たすことができたのだ、感謝するぞ。』

「い、いえ!私こそ、私達人間を救っていただきありがとうございます。」



 精一杯頭を深く下げる。こんな事では足りないけれど、少しでも気持ちが伝わればいいと思う。



『今回、黒魔法は消した。しかし、負の感情がなくなることがない以上、再びどこかで発生するだろう。それがいつかはわからぬ。その時に我が現れることができるかもわからぬ。憎しみや悲しみ、怒りを受け止めるのは難しい。しかし、逃げれば堕ちる。向き合う勇気を持たねばな。その事を肝に命じるのだ。我は友の約束を守り、ずっと見守っているぞ。』



 そう言うと精霊王の姿が薄れていく。精霊王の言葉を胸に刻む。またこのような戦いが起こるかもしれない。そう思うと恐ろしいが、向き合わなければ今回550年かかったものが、もっと早くなるかもしれない。精霊王が見守ると言ってくれた以上は、呆れられないように生きていかなくては。



『ではな、リリアン』

「はい、ありがとうございました!」



 そして精霊王の姿が消え、繋がりを感じなくなった。これでこの戦は終わったのだ。世界が救われたことに、やっと実感が湧いてきた。ホッとしている私の顔をヴェルモートさんが覗き込んだ。



「きゃ!ヴェ、ヴェルモートさん!?」

「大丈夫か?」

「え?」



 いつもと同じの眉間に皺をつくった美しい顔が見える。いつの間にかトールが光を灯してくれていたようだ。銀色の髪がキラキラ煌めく。というか、なんだかいつも心配されているような気がする。



「大丈夫ですよ。え…そんな酷いですか?」



 慌てて顔を手で覆い隠すと、小さく吹き出す音が聞こえた。なぜかヴェルモートさんのつぼに入ったらしく、笑い声を押し殺そうとして失敗しているようだ。



「もう、ヴェルモートさん!」

「くっくっ…悪い。酷いというか、顔色があまりよくない気がしてな。」



 顔色が悪い?あれ、そういえば、ちょっとフラフラするかもしれない。



「精霊王ほどの力の媒介になったんだから、仕方ないかもしれないわね。」

「そうなん…だ…」

「おい!しっかりしーーー」



 ディーナの声に答えて上を向いた途端、意識が遠のいていく。ヴェルモートさんの叫び声が聞こえてくるが、途中でなにも聞こえなくなった。そして、そのまま私は意識を失ったのだった。

洞窟の中には、拘束された青年と意識を失ったリリアンを抱くヴェルモート、そして心配そうな精霊達のみ。その中にヴェルモートの声だけが響いた。



「お前がこの戦の1番の功労者だな。お前のお陰で戦は終わっただろう。ありがとう、リリアン。世界を救ってくれて。」



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