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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第5章 それぞれの想い
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「ティア、君に大切な話があるんだ。私についてきてくれないか。」



 にこやかに話していたウィリアム様が急に真剣な表情に変わり、ティアを真っ直ぐに見つめる。



「…わかりました。じゃあまた、リリアン。」

「う、うん。」



 すごい話の内容が気になるんだけど。そんな私を置いてウィリアム様とティア、側近のフィルディン様が訓練所から出て行った。残されたのはハイドさんとヴェルモートさんだ。何となく先ほどの事を思うと気まずい。それでも、酷い事を言ったのだから謝らなければ。



「あ、あの…さっきは生意気なことを言って申し訳ありませんでした。」



 2人に向き合いしっかりと頭を下げる。



「謝らないで。僕達こそ黙っていてごめんね。ウィリアム様達も疑っていたんじゃなくて、どんな事情があるのか知った上で守りたいと思ったからだって信じて欲しい。ね、レオ。」

「…あぁ。」



 2人に頷き返しながら、ヴェルモートさんの様子を伺う。なんだかヴェルモートさんの機嫌が良くない気がして、やはり疑ったことに対して怒っているのかなぁ、と不安になる。すると、ハイドさんが苦笑い気味にヴェルモートさんに近づき呟いた。



「リリアンを不安にさせたら許さないよ。わかったね?」

「わかっている。」



 何を言っているのか聞き取れなくて、どうしようかと思っているとハイドさんが振り返り、僕は用事があるからこれで、と訓練所を出て行った。不機嫌そうなヴェルモートさんと2人にされてしまった。様子を伺うように目線を上げると目が合う、逸らすのも如何なものか…話しかけてくれるわけでもないし、何か話した方がいいのかな。あっ、そう言えば、訓練所に来ないようにウィリアム様達を止めていてくれてたんだっけ、お礼言っとかなきゃ!



「あ、ウィリアム様達が訓練所に来るのを止めて下さったって、ありがとうございました。約束守ろうとしてくれたんですね。」

「結果的には止められなかったんだ、礼を言われることではない。」



 なぜか目を逸らされてしまった。戦に出たいと言って訓練所を貸してもらうようになってから数週間しか経っていないが、前よりは距離が近づいたと思う。ハイドさんもたまにヴェルモートさんが訓練所を覗きに来ていると言っていた、私は集中していて気づいたことはないんだけど。でも、そう言われたのが嬉しくて、いつ見られても変なところを見られないように頑張ってきた。頑張る理由が不純とか言わないで…理由の一部よ、一部!でも、いくら距離が近づいたと言っても、何故ヴェルモートさんが不機嫌なのかはわからない。どうしたら機嫌が良くなるかと考えていると、突然ヴェルモートさんが長く息を吐き出した。



「すまない、気を使わせた。」

「え?あっ、いえ。」

「それと、勝手に調べてしまって申し訳ない。ロベルトがティアに似た人をズワーダ王国で見たことがあるというのが始まりだったんだ。」



 ヴェルモートさんが言うには、亡くなったはずの令嬢にそっくりなティアが気になり、ズワーダ王国に調べに行ったのだそうだ。そこで、知り合いにドレーン伯爵家に起こったことを聞かされ、ティアと同一人物であるのではと思ったそうだ。そしてウィリアム様はティアが新しい人生を生きているのなら、そのままでいいとしていたようだが、今回の件でズワーダ王国と共に戦う事が決まったので、エレントル王国騎士としていられるようにズワーダ王国第1王子ギルバート様に協力を頼んだそうだ。



「そうだったんですか。でも、ティアのことを信頼してくれたのならいいんです。ティアのことよろしくお願いします。」

「あぁ。ただ、調べる過程で君達家族に起こったことも知ってしまった。本当に申し訳ない。」

「…そうですか。」



 別に知られて悪いことではないけれど、ふっとあの時の出来事を思い出した。母のことも父のことも忘れた事はない。ましてやあの盗賊の事を忘れたこともない。今も夢に現れる度に憎しみや悲しみが湧いてくる。今回の戦の相手はその盗賊にも関係するだろうとティアが言っていた。敵討ちなどとは言わないけれど、私のような目に会う人がもう現れないようにと思う気持ちはある。その気持ちに憎しみがあるかはわからないけれど、それを理由にして戦おうなどとは思っていない。



「大丈夫です。私、敵討ちで戦いに行くつもりはないですから。前にヴェルモートさんの言っていたことを忘れたつもりはありません。」



 ヴェルモートさんに笑いかける。すると、再び息を吐き近づいてくると、私の頭に大きな温かい手をそっと乗せた。その仕草に心臓が早くなる。驚きと緊張、嬉しさがぐちゃぐちゃに混ざり合う。な、なに!どうしたっていうの!?あ、頭に手がー!



「そんなことは心配していない。ただ、知られたくない過去を勝手に知ってしまったことを謝りたかっただけだ。お前が命の大切さを知ってる上で、戦に出ると言ったあの日、俺は頼もしくさえ思えたぞ。」



 その言葉に涙が込み上げる。あぁ、私のことを心配してくれただけでなく、認めてくれた。それが凄く嬉しい。そして好きだって気持ちが溢れそうになるのを必死に抑え込む。こんなに優しくしてくれると勘違いしそうになってしまう。そんな私の胸の内の葛藤に気づかずにヴェルモートさんは平然と爆弾を落としてくる。



「俺はお前の泣いてる顔ばかり見ている気がするんだが。」



 覗き込まれ宝石のように美しい茜色の瞳に自分が映っているのが見える。というか、近いです!近すぎます!!だんだん顔が熱を帯びるのがわかり、頭がくらくらする。



「す、す、すいません…」

「お前は笑っている方がいいと思うぞ。」



 そう言って去っていく。その後ろではただ固まったままのリリアンの姿があった。頭にあった重みがなくなったことに寂しさなど感じる暇もない。ただ、いつも不機嫌な顔に堅苦しい言葉で仕事をしているヴェルモートさんしか知らない者が見れば、別人ではと思うに違いないだろう。それ程に珍しく、破壊力抜群であった。

 数秒後…突然リリアンが地面にへたり込む。



「反則でしょ…私にどうなれっていうのよ。」



 ゆっくりと自分の頭に触れてみる。



「どうしよう…頭洗えないわ。」



 困ったような嬉しいような、歪んだ笑顔のリリアンを目撃した者はいなかった。




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