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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第4章 忍び寄る影
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第1王子ウィリアム視点です

 


 ティアが牢へと向かう少し前の第1王子執務室。


 ノック音とともに入ってきたのは、第1王子直下騎士団隊長レオナルド・ヴェルモート。私がまだ幼い頃からの付き合いである彼は、いつもよりも険しい顔で入室してきた。いつもよりと言っても、常に表情が険しい彼の変化は親しいものしかわからないだろう。



「レオ、私が行く。」

「貴方が行く必要はありません。」

「レオナルド。」



 呼び方を変えると、小さく息を吐いて肩の力を抜きレオナルドがこちらを見る。



「心配するな、大丈夫だ。」

「貴方の大丈夫は信用なりません。」

「ははは、そう言うな。」



 本当に幼い頃から年下のくせに世話焼きである。常に無表情か不機嫌な顔でいる彼だが、実際は優しく心配性である。ヴェルモート侯爵家は自衛団を持つエレントル王国の国境の要である。レオナルドの父である現当主のソロン、長男スパルクスは剣の使い手として大変有名である。その2人から剣術を学んできたレオナルドも今では国内でも有名な使い手となったが、幼い頃は兄達に勝てない劣等感の塊のような少年であった。そして、そんな2人から逃げるように騎士団に入ってきたのである。

 そして同じ頃、当時の騎士団団長に剣術を習っていた私はレオナルドと出会うこととなる。



 幼い頃の私は、今よりも捻くれた少年だった。


 今から21年前、エレントル王国に待望の第一子が誕生した。王妃に似た艶やかな黒髪に美しい顔立ちの男児であった。国民は祝福の宴を上げ、それはそれは盛り上がっていた。しかし、王宮内は違った。誕生した王子は漆黒の瞳を持っていたのである。国王と王妃は気にする事なく愛情を注ぎ育てたが、周りの者は受け入れる者と受け入れられない者に分かれた。闇魔術は人の心を操ることができる。それは変えられない事実であった。恐れを抱く者がいても仕方がないことだろう。実際、闇魔術を使える者は光魔術と並んで貴重な存在であるが、歴史上では闇魔術を使い事件を起こす者も多くいた。それは育つ環境などの影響が強いと思われるが、周りの者にとってはそのような事は理由にならない。

 疎まれていると幼い頃から感じていた私は、勉学や剣術、魔術と磨きをかけ、常に笑顔でいる誰が見ても完璧な王子となった。少しでも私に恐れを抱かれないよう努力を重ねたが、完璧な王子を恐れる者は後をたたなかった。


 拍車をかけたのは、5歳下に産まれた第2王子のカール・エレントルの存在だった。父親に似た美しい金髪に露草色の瞳の美少年は器量がとても大きく、火、水、風、土と4つの魔術を使うことができた。そんな彼が次期国王に相応しいというものが出てきたのである。多くの貴族がその派閥に入ったため、国王は今だに王太子をはっきりと述べていない。



 そんな環境で育った私は、レオナルドに初めて会った時も笑顔を貼りつけていた。そんな私にレオナルドは言ったのだ。今思えば、彼も相当捻くれていたのだろう。



「無理に笑って疲れないのか?」



 王族への不敬にあたるであろう発言に、私は驚き、久しぶりに心から笑った。初対面の少年に日々鍛え上げてきた笑顔を否定され、無理をしていると指摘されてしまったのだ。彼には私がどれほど滑稽に見えているのだろうか。今までの努力がなんだか馬鹿らしく思えてしまった。



「笑っていた方が穏便に済むじゃないか。」

「俺はそんな笑顔を向けられた方が腹が立つけどな。」



 酷い言いようである。でも、こんなストレートに言ってくる相手に出会ったことがなかった。王族である私にこんな発言をするやつがおかしいのだが、気が楽になったのがわかった。あぁ、私は日々肩に力を入れて生きていたんだな、と生まれてから初めて気がついた。



「私は黒の瞳を持つ、この意味がわかるか?」

「わかるが、それがなんだ。俺がそんなに弱く見えるのか?」



 何故か今までで1番不機嫌そうな表情になった。自分を弱いなんて思っていないという自信なのか、自分に言い聞かせているのか。それでも、拒絶されないことに安堵を感じ、彼に好意を抱いた出来事だった。それから、父上に頼んでレオナルドと剣術や魔術を一緒に習えるようにしてもらい、共に過ごす内に信頼関係を築いてこれたと思っている。周りに気を張っていてもレオナルドがフォローをしてくれて、ストレスも減った。

 闇魔術も良い事、悪い事どちらも知らなければ危険だと思い、しっかり学んだ。それにより周りの警戒は強くなったが、使わないことでなんとか穏便に済ませている。だからこそ、闇魔術を使うことにはレオナルドのほうが敏感なのだ。



「さぁ行こうか。」

「無理だけはするなよ。」

「わかってる。」



 最後にかけられた言葉は部下ではなく、友としての言葉だった。




 ****



 そして牢へ向かう。心配な表情をするティアを牢から出す。そういえば、彼女もこの瞳を見てもそらすことをしなかった珍しい存在だった。紅色の美しい長い髪に見透かすような鋭い金色の瞳、女性の色気を醸し出しながらも凛とした美しい顔の彼女は、武術にも長けている。私達と何か一線を引いた態度だが、知性溢れる有能な女性だ。そんな彼女を見送り、拘束者に向き直る。



「では、教えて貰おうか。」



 警戒して固まっている相手の瞳を見つめ、古代語の呪文を述べていく。器量が多いほど無唱で発動できる魔術は増えるが、基本的に闇魔術は無唱は存在しない。それほど複雑だからである。術が効いてきたのか相手の体がフラフラしだした。



「さぁ、答えて貰おう。お前はどこからあの荷物を運んできた。」

「…フィッツランド伯爵、の屋敷から。」



 フィッツランド伯爵家、やはり第2王子推薦派だったか。結局、私も原因の1つになってしまうのだな。どんなに国民のことを想おうと、闇魔術を使えるだけで国を傾ける理由になってしまうのか。本当に虚しい世の中だ。しかし、王族に生まれてしまった以上、この責任から逃れる訳にはいかない。弱くなりそうな気持ちを必死で持ち上げ、相手を射抜くように見つめ直す。



「どこに運ぶつもりだった。」

「…シュザート国の、訓練所。」



 シュザート国、エレントル王国の西にそびえるヒメラーヌ山脈の反対にある民主主義の国。色々な者が流れ着く国でもある。そんな国に訓練所などあっただろうか。



「訓練所とは何処だ。」

「…山。」

「何のために武器を集める。」

「…戦うため。」

「お前の上には誰がいるのだ。」

「…将軍。」

「将軍だと?それは誰だ。」

「……」



 これ以上は無駄か。大体、闇魔術が使える私に捕まる可能性のある仕事をする者に、詳しく情報を教える訳がない。しかし、これぐらい分かれば後はなんとかなるだろう。相手の術を解くと、糸が切れたかのように倒れこむ。少しすれば目を覚ますだろう。私の背後で黙っていたレオナルドの方へと振り返る。



「レオ、後は頼んだ。悪いが私は…」

「わかった。お前は休め。」



 そんな声がかけられたと同時に、私は意識は遠のいていった。




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