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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第4章 忍び寄る影
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ティア視点です

 


 私は今、王宮内にある第1王子の執務室にいる。いくら王子直下の騎士とは言え、隊長職でもない私が執務室を訪れることなど普通はありえない。それも何故かウィリアム様と2人きりという最悪な状態である。そのウィリアム様は優雅に紅茶を飲んでいる。



「ティアも紅茶飲むかい?」

「いえ、私は遠慮させていただきます。」

「そう?」



 普通は21歳にもなる男が首を傾げる姿なんて寒気がする他ないのだが、彼の整った甘い顔でされると許される気がしてしまう。というか早くこの状況をなんとかしたい。何してるのよ、あいつわ。



「それにしても、レオが遅刻とは珍しいな。どこで油を売ってるのかな。」

「…私には分かり兼ねます。」

「ははは、そうだよね。」



 すると来訪者の報せが届き、ヴェルモート隊長がやってきた。



「遅れてしまい申し訳ありません。」

「いや、それはいいよ。ティアと楽しい時間を過ごしたから、ね?」

「はあ…」



 ね?と言われても困るし、楽しくなどなかった。遅れてきたヴェルモート隊長を見ても、慌ててきた様子もない。ため息を吐きそうになるのを必死で止める。本当に振り回されてばかりな気がする。



「でも、珍しいじゃないか。なにかあったのか?」

「いえ、ちょっと人助けしていただけです。」

「人助け?レオが?…それじゃあ今日はこんなに天気がいいから乗馬でもしようと思ったが無理かな。」

「…それはどういう意味だ。」



 またウィリアム様のヴェルモート隊長いじりが始まりそうだ。早く終わらせたいのに冗談じゃない。わざとらしく大きく咳払いをする。



「申し訳ありませんが、始めてもよろしいでしょうか。」



 私の言葉で2人の顔が引き締まった。仕事モードの2人である。



「すまなかったね。では、ティア報告をしてくれ。」

「はっ。昨日の夜、自警団の者が怪しい荷馬車を止めたところ、荷物の確認をする前に荷馬車を警護する者から攻撃を受けたもようです。かなり腕がたつ者だったらしく、負傷者多数。また逃げられてしまったとのことでしたが、荷物を見た者によると、剣などの武器だったそうです。」

「武器だと?しかし、そのような報告は上がってきていない。」



 険しい顔の2人が、こちらを見て続きを促す。



「はい。私もたまたま直接聞いただけですが、報告になかったもので、気になり調べました。調べによると、報告はすぐに上げているが、何者かに握りつぶされたようです。」

「握りつぶされた?ということは、上の人間が絡んでいるのか。」

「そう考えるのが妥当だと考えます。」



 ずっと黙り込んでいるウィリアム様を見ると、何かを考えているようだ。そしておもむろに机の引き出しから1通の手紙を出した。



「ズワーダ王国からも武器の流出が報告されている。これは我が国だけの問題ではなさそうだな。まずは、流出先の特定と国に住み着く鼠を見つけなくてわな。」

「「はっ。」」



 その後、打ち合わせをし、執務室を後にする。黙々と歩いていく隊長についていく。しかし、面倒なことが起きた。国の誰かが、恐らく貴族の誰かだろうが。自分の利益の為に国を危険にさらすなどあってはいけないことだ。その武器で最初に傷つけられるのは平民だというのに。

 黒魔法の調査もあまり進んでいない。何度か襲われた町に行ったが、最近は人より魔毒にやられた獣が多い。どのように獣が黒魔法を使えるようになるのかさえ解明されていないのだ。どこもかしこも行き詰まっている。今回のことが黒魔法に繋がっていれば早いのだけど…って不謹慎なことを考えてしまった。少し私は焦っているのかもしれない。お父様のことを見つけ出すと決め、そのために騎士にまでなったというのに、まだ何も手がかりがないから。しかし、先程の王子の手紙の件で、ズワーダ王国も関わっているかもしれないのなら慎重にいかなくてわ。



 そんなことを考えているうちに、騎士団の本部まで来た。目の前を歩くヴェルモート隊長が振り向く。



「では、任せたぞ。」

「はっ。」



 騎士の礼をとりながら、隊長を見送る。あの人は発言は酷いが、部下は信頼してくれる。それが部下にとっては嬉しいことであり、隊長に憧れる一つの要因なのだと思うが、そんな隊長を全く信用できない自分にたまに嫌気がさす。自警団は助け合いのような関係だったが、ここは違う。己の判断で動けと指示される…つまり信頼関係なのだ。信頼に信頼で返すことができない。それは罪悪感を生み、心を閉ざすきっかけとなる。貴族や王族と関わらないと考えていた時とは状況が違うのだから、少しは変わらなければと思うのだが、まだ私は前を向けてはいないのだろう。






 私は訓練場に向かい目当ての者を探し出す。今は自主練時間なので、ここにいるはずなのだが。すると奥で凄まじい音が聞こえた。音のする方へと向かうと、小さな人集りができている。私がその中に進んで行くと、目当ての2人がいた。



「ケインさん、ネロさん!ちょっとよろしいですか。」



 私の声で模擬戦が終わる。振り返ったのは、汗を流していても爽やかな青年で、常ににこやかなバルディ男爵家次男のケイン・バルディと筋肉が鍛え上げられた巨漢の男で、武器屋の三男でもあるネロだ。2人は第1王子直下の騎士で、腕も折り紙付きである。



「ティアちゃん、どうしたんだい?」

「仕事か?」

「はい。」



 汗を拭きながらやって来た2人は正反対の表情でやってくる。正反対の2人だが、これでも仲が良いのだから不思議だ。人集りの中では話せないので、そのまま歩き出す。



「遠出の準備をお願いします。後ほど詳細はお話しします。」

「わかったよー。」

「了解した。」



 その後、合流した3人は馬に乗り、目的地まで走る。目的地は荷馬車を発見した場所だ。私達の任務は、昨夜の馬車の行き先を調べることである。



「結構、跡が残っているね。それ程荷物が重かったんだろうね。」

「この沈み具合、100本はあるだろうな。」

「ここからは舗装があまりされていませんし、後が追えそうです。行けるところまで行きましょう。」



 あれから半日が経っているが、重い荷馬車と騎士の馬の速度を考えれば朝方には追いつくかもしれない。自警団の報告では、警護の者もかなり負傷しているようだし、人数は4人だ。補充されていれば無闇に戦闘には持ち込めないが、そのままなら捕まえる事もできるかもしれない。

 そんな思いを抱きながら、馬を休めつつも走り続ける。鍛えられた騎士なら半日走り続けてもへばることなどない。


 そして太陽が登り始めた朝方、例の荷馬車を発見した。風魔術が使えるケインが騎士団へと報告を出す。これで応援が来るはずである。それまでは相手に気づかれないように慎重に後をつける。相手は警護を補充されてはいなかった。隠れている者を探したが、それもいない。依頼者が追ってをかけられるのを恐れて補充しなかったのか。だが、好都合である。これなら捕獲することもできるかもしれない。


 太陽が真上に登る頃、昼の休憩の為か道の端で荷馬車が止まった。私達も離れたところでその様子を伺う。すると、反対の道から、作物を積んだ馬車がやって来た。この道は決して広くない。また、武器を積む荷馬車は重い物を引くために馬が4頭もいた。



「あれはまずくないか。馬がぶつかってしまう。」



 2人も同じことを思ったようだ。なんせ、相手は警護とは名ばかりの自警団に攻撃するような荒くれ者ばかりである。農民なんてひとたまりもない。案の定、馬同士が嘶いた。警護の者が剣を抜く。これはもう見ていられない。頷きあい、3人は駆け出した。




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