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私の前に現れたのは、青い艶やかな長い髪を持つ美しい女性と深い緑色のカールのかかった髪をした可愛らしい女の子、金色に近い髪のキリッとした顔つきの男の子だった。
それを見たハイドさんが驚いた顔をする。
「契約もしていないのに、すでに3体も精霊がいたとは…凄いなぁ。」
「凄いことなんですか?」
何故そこまで驚くのかわからない私は、ハイドさんの漏れた声に聞き返す。
「さっきも言ったけれど、精霊は人を気にいることが少ない上に、愛情が強い分、嫉妬心もとても強いんだよ。だから、多くても2〜3体かな。」
「なら、別に凄いことじゃ…」
「いや、僕だって1度に契約したわけじゃない。何年かかけて3体と契約にいたったんだ。これでも、3体の精霊がいる僕は珍しい方に入るんだよ。」
なんとなく凄いのかなと思うのだけど、実感がわかない。というか、どこで気に入られたのか不思議だ。まずは、ずっと黙っている精霊に話しかけてみようか。
「えっと…私はリリアンです。えっと…」
「ふふふ、知っているわよ。ずっと側にいたんですもの。私は水の上位精霊ディーナよ。よろしくね。」
そう言って微笑みかけてくれたのは、青い髪をもつ女性の精霊だった。因みにみんな手のひらサイズで、とんがった耳をしている。なのでサイズというより、雰囲気で年齢を感じとっている。次に、深緑の髪をした女の子がディーナという精霊の腕を掴みながら、おどおどと話しかけてきた。
「私はカリシアと言いますぅ。植物の上位精霊ですぅ。よ、よろしくお願いしますぅ。」
「おいおい、しっかりしろよ。俺は光の上位精霊のトールだ!よろしくな!」
カリシアという精霊の肩をポンと軽く叩いてから、私にニカッと眩しい笑顔を向けたのが金髪の男の子のトール。みんな可愛くて舞い上がってしまう。
「こちらこそよろしくね!」
「それにしても、みんな上位精霊なんですね。それも素晴らしいのに、精霊同士がこんなに仲が良いのも珍しい。」
私の背後に回ったハイドが正面から精霊を眺めて呟く。色々と気になることを言っているので質問しようとしたら、する前にディーナがハイドさんに答えた。
「確かに、精霊同士はそこまで関わりを持ち合わないから、そこの精霊使いさんが驚くのも理解できるわね。まぁ、私達は長いことリリアンを共に見守ってきたから、仲間意識は少しあるかしらね。」
「長いこと?私気づいたことなかったけど。」
そんな疑問に答えてくれたのはトールだった。
「そりゃあね!契約はリリアンが望んだらにしようと決めていたから。俺達は契約してもしなくても側にいたいって思ったんだし。」
「なぜ?私なにかしたかな?」
次にカリシアが頬を染めながら答えてくれた。
「みんなそれぞれリリアンを気に入ったからですぅ。私は、毎日私達植物に話しかけてくれるリリアンが大好きでしたぁ。朝から夕方まで、ずっと話しかけながらお世話をしてくれるからお手伝いがしたくって…植物の成長を早めたり病気に強くしたですぅ。」
「もしかして、私達の畑だけやけに成長が早くて、周りの畑の病気に感染しなかったのは…カリシアが助けてくれたからだったの!?」
「はいですぅ。」
まさかの事実である。村人には肥料やら育て方が違うのかと聞かれていたが、私達の力じゃなかったなんて。それでもカリシアは私の為にやってくれていたのだし喜んでおこう。
「私は気まぐれだったわね。突然幼いリリアンが私の守る川に落ちてきたんだもの。その時助けてあげなきゃと思ったの。まぁ滅多にあの川に近づく人がいないのに、頻繁に遊びに来ていたリリアンに興味が湧いたのよ。」
「うわーあの崖から滑り落ちて川に落ちた時、助けてくれたのディーナだったんだ!助かったのは奇跡だって、村のみんなに言われてたのよ。」
「ふふふ、普通はあの流れの速い川なら死んでいたわね。」
笑顔で恐ろしいことを言われて、急に寒気がした。そんな私の前に手を上げながら飛んできたのはトールだ。
「はいはい!俺は打ち上げられたリリアンを乾かすために、太陽の光をうんと浴びせたんだぞ!だから体冷えなかっただろ?俺、毎朝祈りを捧げてくれるリリアンが可愛いって思ってたんだー!役に立てて、すごい嬉しかったんだぞ。」
「そうだったの!本当にみんなに助けられてたのねー。みんなありがとう!」
私の言葉に満足したように笑顔を向けてくれる。私は幼い頃から見守られ、助けられていたのね。心がほっこり温かくなる。すると、ドアの側にいたはずの2人が私の近くまでやってきた。ティアがカリシアに問いかける。
「もしかして、魔法省の寮でのことも?」
「そうですぅ。見ていられなくてぇ。」
「そうだったんだ!本当にあれは助かったわ!」
私とティアが精霊達と笑い合っていると、後ろから低く身体に響く声が話しかけてきた。…存在を忘れていました。
「魔法省とは…なにをしたんだ?」
「え?」
「何かやったのか。」
眉間に皺を寄せた銀髪隊長が問い詰めようと間合いをつめてくる。迫力が半端ではないんですけど!どうしようか、言う必要なんてないよね。怖いけど、怖すぎるけど!恐ろしさで上手く思考が回っていない。
「い、いえ、そんな銀髪隊長に報告する内容ではありません!」
「……」
切羽詰まった私は、騎士がするような敬礼をし、背筋を伸ばしながら叫ぶ。その後、一層眉間の皺を濃くした銀髪隊長が無言で睨みつけてくる。そして気付いた。私とんでもない暴言を叫んだ!横ではティアが必死に顔を手で覆い、笑いをこらえていた。最初に笑い出したのはハイドさんだった。
「ぷっ、あははははは!銀髪隊長か。それはいいあだ名だな。」
「おい、ハイド。」
「ストレートだけど、僕気に入ったよ!さすが精霊に好かれる子だね。僕もそれ使おうかな。」
「おい、いい加減にしろ。」
「え、なに?ふふ、銀髪隊長?」
言った途端すぐに走りだし部屋を出て行こうとするハイドさんを、素早く捕獲しにいく銀髪隊長。運動能力は騎士と精霊使いでは大差だろう、呆気なくハイドさんは捕まった。そして、得体の知れない技をかけだす。これじゃあ、そこらへんの子供と変わらなくはないだろうか。違うのは無表情の顔だけか。ハイドさんに技をかけながら、こちらを銀髪隊長が振り返った。まさか次は私とか?と怯えていると、ため息をつかれた。
「私は銀髪隊長なんてあだ名をつけられたことはない。レオナルド・ヴェルモートだ。2度とそのあだ名で呼ぶな。わかったな。」
「…はい。」
真面目な顔だが、態勢が気になってしまう。この銀髪隊長…ではなかった、ヴェルモートさんは外と内で態度が違いすぎないか。ハイドさんは仲が良いみたいだし、ティアは素を知っていたみたいだから、このような態度なのか。あれ、私は身内認定されたのかな?まぁ、前よりは印象がマイナスから少し上がったかな。すると上から声がかけられた。
「それじゃあリリアン、私達は姿を消すわね。いつでも呼んでちょうだい。」
「あっ、ありがとう!改めてよろしくね!」
そう言うとみんな頷きながら、スッと姿を消した。その後に残るのはキラキラと輝く小さな光の粒だった。
「また家族が増えたわね。」
ティアが微笑みながら小声で言う。
「そうだね。また賑やかになるといいな。」
私はそう笑い返した。こうして私は精霊使いとして新たな道を踏み出すことになった。
ここでハイドさんとリリアンの精霊の紹介をさせてください!
◎ハイド
年齢:20歳
見た目:濃い紫の瞳に眼鏡をかけ、蒼く長い髪を軽く後ろで結っている。顔はとびきり美男子ではないが、知性のある落ち着いた雰囲気があり、大人の男性というかんじ
精霊:火の上位精霊サロン(女)
光の上位精霊シャイン(女)
土の上位精霊ノルム(男)
補足:平民出身だが、仕事でレオナルドと一緒になることがあり、勝手に仲良くなった。見た目は落ち着いているが、実際は冗談を言ったり、レオナルドをからかったりする。(レオナルドがからかいやすいのもある)
◎リリアンの精霊
水の上位精霊ディーナ
優しく姉御肌。上位精霊のため川の守り神として見守っていたが、王都へ旅立つリリアンについていくために、その任を違う者に頼んだ。
植物の上位精霊カリシア
おっちょこちょいな性格で、下位精霊達から心配される存在。ディーナと仲が良いが、最初はディーナが心配していたから。
また、下位精霊は、花には花の精霊や草には草の精霊と細かく分かれるが、それをまとめるのが上位精霊のカリシアの仕事。
光の上位精霊トール
とても元気に溢れた男の子。太陽の守り神だが、太陽に語りかけるリリアンを可愛いと思い見守るようになる。
太陽はどこでも見られるので基本的には太陽にいるが、太陽には複数の守り神がいるので、たまに職務放棄して遊びに来ていた。




