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神がつくりし世界で  作者: 小日向 史煌
第1章 運命の歯車
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  朝目が覚めると、まずカーテンを開けて今日の天気を確かめる。


「うん、今日もいいお天気ね。太陽さん、暖かい光をありがとう!作物達にたくさん光を浴びせてあげてね!」


  今日も太陽に感謝を伝える。これが毎朝の習慣になっている。リリアンが伝えて着替えようと部屋の奥に行くと、太陽の暖かな光がキラッと輝きを増したよう。

  部屋から出ると父のロンと母のアイリーン、ザックと皆が揃っていた。テーブルの上には、自分達で作った野菜が入ったスープに卵、少し固めのパンが並んでいる。


「おはよう。」

「「「おはよう。」」」


  朝の挨拶を済ませると、それぞれの席に着き目を閉じる。


「自然の恵みに感謝して、いただきます。」

「「「いただきます。」」」


  これが毎日の決まった流れである。毎日天気が良いわけではないので、天気が良い日はこのまま農作業へ取り掛かり、雨の日は家で内職をする。週に1回は父とザックが町まで野菜や内職で作った物を売りに行き、必要なものを買ってくる。今日もこれから皆で畑まで行く予定だ。


「新しく植えた野菜も良い具合に大きくなったし、今日は収穫できそうだな。」

「そうね、病気にかからなくてよかったわね。」

「隣の畑では幾つか病気にかかったらしいよ?」

「そうなの?お父さん、少し分けてあげたら?結構な量を収穫できそうだし。」

「そうだな、後で持っていくか。」


  この村では何でも助け合いが必要だ。それぞれ得意な物が違うし、お金もないから分け合いは大切である。私達の家は食物が良く育つため、売りに行けないものは村で分けている。その代わり、動物の肉や魚、衣類などと交換してもらっている。


  夕方まで農作業をして、隣のおじさんのところにザックと共に野菜を持っていく。おじさんといっても父よりも若い38歳なのだが、子供のころから知っているためそう呼んでいる。村の自警団に入っていて、体格も熊のように大きいので、すぐに見つける事が出来た。


「おじさーん!」

「おっ、ザック!なんかリリーにあったか?」

「ちょっと!なんで私に何かあったかなの?」


  台車の後ろを押していた私に気づかなかったのだろう。後ろから身を乗り出して文句を言ってやった。


「あ、いやー悪い。」

「しょうがないよね、心配かけることたくさんしてたんだから。」

「そ、それは小さい頃でしょう!」


  ザックは振り返り私の目をじっと見てくる。なんだか居たたまれなくなって目を反らしてしまった。その様子を見ておじさんは苦笑いしている。


  確かに小さい頃はよく迷惑をかけていた。元気が有り余っていた私は、1人で近くの森に頻繁に出かけていた。別に大きな動物がいるような森の奥までは行っていないし平気だと、まだ幼いながら危険だよと注意してくるザックに言いながら。それでも擦り傷などをつくって帰ってくる私に怒るのは、親よりもザックだった。親は「本当にリリーは元気ね」と笑っているため、ザックはおじさんに注意してくれとよくお願いしていた。


  ある日、いつものように森に行った私は、村側の森にはいないような大きな鹿に出会ってしまった。そういえば、おじさんが繁殖時期の興奮している鹿が村近くまで来ていることもあるから気をつけろと言っていたな、とか現実逃避をしていた私に鹿は近づいてくる。

  目を相手から離さないように少しずつ距離を離そうとしていると、ふっと足下の感覚がなくなった瞬間、崖下の川へと落下した。


  その後の記憶は曖昧だった。落下して川へ打ち付けられた衝撃で意識を失った私は、おじさんが懸命に私を呼んでいた声で起きたのだ。その後のことは思い出したくもない。その場でおじさんに説教され、帰れば両親に泣きつかれ、ザックにおじさんの倍は叱られた。

  おじさんによると、私が遭遇した鹿は村まで下りてきて暴れたため、村人達に仕留められた。それを見たザックは私が森に行ったことを思い出し、おじさん達が探しに来てくれたらしい。流れの速い川から助かったことも奇跡だし、太陽の光が強かったため、服が乾き体温の低下を免れたんだそうだ。おじさんは「運が強いな」と苦笑いしていた。それからザックが煩くなったのは言うまでもない。


  小さい頃のことを思い出していた私は、おじさんの声で現実に引き戻された。


「それで、2人はどうしたんだ?」

「あぁ、野菜を持ってきたんだよ!おじさんの所は病気で結構やられたでしょ?」

「それは助かる、ありがとう。お前達の畑は他のところと比べて本当に病気知らずだし、成長も早いよな!なんか肥料でも変えたか?」

「いいえ、変えてないわ。私達も不思議なくらいだもの。」

「羨ましいかぎりだ。本当に助かったよ、ありがとな!」

「どういたしまして!それじゃあね、おじさん。」




  おじさんに野菜を渡して家に帰る途中、台車を引くザックが急に止まった。


「姉さんあの人…村の人じゃないよね?」


  ザックの見つめる先には、夕日が負けてしまいそうなほどの長い紅色の髪を風になびかせて立っている人物がいた。背が高く男性の格好をしているから男性なのだろうかと思ったが、線の細さから男装した女性だと思う。


「そうね……綺麗な人。」


 と、つい呟いてしまった私に、ザックはただ頷くだけだった。これが初めて彼女に出会った日のこと。


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