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リリアン視点に戻ります。
今日でティアが騎士団に入団してから2週間ほど経った。手紙がよく届き、規律などを学んでいるとか、やたらと話しかけてくるやつがいるだとか、銀髪隊長が腹立つだとか愚痴が多いような気もするが元気そうで何よりである。ただ、5日前に少し王都を離れると書いてあった。もしかしたら黒魔法を使う者がまた現れたのではないかと心配である。
本来なら今日はティアの休日なので、少し寮へ行ってみようか。いなければいないでいいし、いるなら少しでも元気か確認したい。よし、昼過ぎにティアの好きなお菓子を持って行ってみよう。
ダンさんに特別に作ってもらったお菓子を持って、王宮の入り口から離れた所にある、騎士や王宮魔術師などが使う入り口にやって来た。入り口には門番がいて、簡単に寮にもたどり着けそうにない。失敗した…まさか入り口で立ち往生とは。どうしようかウロウロしていると、1人の門番が声をかけてきた。
「お嬢さん、どうしたのですか?」
「え、あ、あの…騎士団の寮に住んでいるものに会いたいのですが。」
「ほほ〜、恋人ですか?」
なんだか先ほどより怖い顔になった気がするんだけど、なぜだろう。
「いえ、家族なんですけど。」
「あぁご家族ですか。」
次は急に和やかな顔になった。…忙しい人だな。
「では証明書をご提示ください。」
「証明書?」
「はい、ご家族に渡されてると思うんですけど…あれ、持ってない?」
「…はい。まだ入団してから会ってなくて。」
「困ったなぁ、俺たちの権限じゃ入れられないし…」
門番の人達が話し合っているのをただ眺めていると、背後から低い声が降ってきた。
「どうした。なにかあったのか。」
「こ、これはヴェルモート様!お疲れ様です!」
慌てて礼をとる彼らの見ている方へ視線を向ける。
「…銀髪隊長?」
そこには、あの男の色気を惜しげも無く醸し出す男性がいた。私の小さな呟きが聞こえてしまったのか、茜色の鋭い瞳が私を睨む。しまったと思ったが後の祭りだ。焦る私をよそに、門番が事の次第を丁寧に伝えると再び茜色の瞳に睨まれた。そんなに睨まなくてもいいと思うんだけど。
「誰に会いに来たのだ。」
突然話しかけられて驚いてしまった。固まっているとため息をつかれた。本当に私この人好きじゃない!
「あなたの部下であろうティアにです。」
少しふて腐れながら答える。大人気ない?そんなの知ったことかーー!
すると、私をまじまじと見つめた後「あぁ、猪の…」と呟いた。その覚え方酷くないでしょうか。どうせ猪を触ろうとした女ですよ。これはティアに会えず帰宅コースだと思ったら、銀髪隊長は門番に何かを告げて私の方へ振り向いた。
「付いて来なさい。」
「へ?」
そう言うと、振り返りもせず歩き出した。困惑して門番を見ると、頷きながら付いていけ、とサインを送ってきた。なんかわからないが、ティアに会えるのかもしれない。これは付いていかなくては、と急いで後を追う。
門の中は綺麗に舗装された中央の道の両端を、綺麗な庭が飾り、右には大きな王宮が見える。その反対側には王宮よりは小さいが芸術品のような立派な建物が何棟かある。きっと騎士などの本部なのだろう。その建物を横目に奥へと黙って進んでいく。途中すれ違う人達は、銀髪隊長に礼をとり、後ろから少し離れて付いていく私を不思議そうに見る。侍女など睨みつけてくる。私、敵じゃないですから!と叫びたい。凄い怖い。ティアはきっと平気なんだろうな、とへんに感心してしまった。
周りをキョロキョロ見ていると急に何かにぶつかった。
「痛っ。」
目の前の男がいきなり止まったようだ。顔を抑えながら距離をとると、少し先から私を呼ぶ声が聞こえた。どんどん近づいてくる。銀髪隊長をかわすように覗くと、そこには走ってくるティアがいた。嬉しさと安心感で急いでティアのもとまで走って抱きついた。
「ティア!」
「驚いた、どうしてリリアンがここに?」
「今日休日だって聞いたから、心配で会いに来たの。」
「そう。私も会いたかったよ!」
銀髪隊長のことも忘れ、恋人同士のような会話をする。すると背後で、そんな顔もするのか、という声が聞こえて2人共現実に戻った。
「隊長が連れてきてくださったのですか。」
「そうだ。」
「それはありがとうございました。」
「家族証明書くらい渡しておきなさい。」
「はい、申し訳ありません。」
恐ろしいくらいの真顔で話す2人に、この仲は直るのかと心配になってしまった。いや、私も銀髪隊長嫌いだけどね!
「それでは失礼します。」
早々に切り上げて去ろうとするティアに付いて行こうとした時、私達側から男の人の声がした。
「いたいた、レオナルド!」
「レオナルド?」
駆け寄ってきたのは、濃い紫の目に眼鏡をかけ、深い蒼色の長い髪を後ろで軽く結った男性だった。その男の向かう先には銀髪隊長が…レオナルドって銀髪隊長のことだったのか。
「どうした、ハイド。」
「どうしたじゃないよ、僕との約束忘れて…ん?」
私の横を過ぎた瞬間、急に止まり振り返ってきた。何だろうと思っていると、私の目の前までやってくる。あれ、知り合いだったかな。
「君、もしかして精霊使い?」
「…はい?」
精霊使いとはなんだ。いきなりこの人何言ってるの。私とティア、奥では銀髪隊長まで一緒に首を傾げた。




