九話
天才
いや、天才というよりは化け物と呼んだ方が適切なほどタティア様は天才だった
なんせおじいちゃんが数年をかけて編み出した魔法を一度見ただけで理解し覚えたのだから
俺でさえ二日もかかったのに・・・
「まぁいいです。教える手間が省けました」
タティア様は鱗の見えなくなった腕を嬉しそうに愛おしそうにずっと見つめている
喜んでもらえてなりよりだ
四日目
またもタティア様は俺の隣で眠っている
少しは慣れてくれたのだろうか?
「タティア様、もうじきアトラス国に着きますよ」
俺はタティア様の体を揺さぶって起こす
「・・・・ん・・・・ぁ・・・お・・・はよう・・・」
「えぇ、おはようございます」
なんと朝の挨拶を交わす程の中に進展したようで
タティア様は俺に笑いかける
「アトラス国で三日ほど滞在し、その後はラーシス国まで一直線ですので」
「・・・・・」
そういえば昨日の夜からずっと誰かが俺たちの後をついてきている
ゆっくりと動いているとはいえ馬車に追いつけるほどのスピードで追いかけてくる
「まぁまだ少し遠いから気にすることでもないか」
「・・・ん?」
「いえ、タティア様が気にすることではないですよ」
アトラス帝国
現国王がわずか14歳の少年だとか
「アトラス国はあまりいい噂の聞かない国ですので、一人で行動することを避けてくださいね?攫われて奴隷にされると困るので」
奴隷
この世界にはそう呼ばれる物が存在する
奴隷は人ではなく物
それがこの世界での常識だ
奴隷はどこかで攫われてきたもの、家族に売られた者、自分で自分を売った者など様々だ
まぁ地球でもそんなのあったらしいけど
「分かりました?決して俺から離れないように」
タティア様は首を縦に振る
わかってくれたのだろうか?
五日目
アトラス国に入国し、この国で一番高級な宿屋に泊る
宿の名前はなんだっけな?
まぁいいや
とりあえずこの宿は高いだけあってセキュリティーも万全だ
部屋に張ってある結界も人には破れないだろう
「タティア様?俺はこれからタティア様の装備をそろえてきますが一緒に来ます?」
こくんと頷くタティア様
まぁ可愛らしい
「では行きましょうか」
今回の旅の資金としてアルパシブから渡された額は、一般的な4人家族が5年くらい余裕で暮らせるほどの額
あまりにも多すぎる
「武器屋は・・・お、ありましたね」
タティア様の手を握り、武器屋を探すこと数分
武具屋と書かれた看板を見つける
「タティア様は剣か槍か弓のどれが一番得意ですか?」
「・・・・・けん・・・・」
「剣ですか。もしかしてなんかの流派とか習ってますか?」
「・・・・・ゆりあ・・・に・・・おしえて・・・もらった・・・」
「ユリア?あぁ騎士団長ですか。参ったな・・・あの人なんかの流派に入ってんのかな?」
もしそうなら俺が剣を教えることができない
だって俺の剣、我流だし
っていうか流派って呼べるものでもないし
「まぁいいですか、ではタティア様の体に合った剣を買いましょうか」
俺は姫様の体より小さい、腰くらいの長さの剣を買う
「一応弓とかも買いますか?持っていて損はないので」
頷くタティア様
「弦の一番軽いやつ・・・これか?」
俺が選んだのは子供でも放てることができそうな弓
まぁ初心者にはこれで十分だ
「では、剣を買いましたし今日はこれで帰りますか」
突然、タティア様が俺のローブの裾を引っ張る
「どうしま――」
タティアが店の奥を指さしながら俺の服を引っ張り、その方向をみようとした瞬間
ガシャン!!大きな音と共にと武具の置いてある棚に俺の体が吹き飛ばされる
「きゃぁぁぁ!!」
タティア様の悲鳴が聞こえ
「んぐ…んー!んー!」
タティア様のぐぐもった声が聞こえ、俺の上に倒れた棚を持ち上げてみると
「いって・・・」
この店の中にタティア様の姿はなかった
「あれ・・・・?」
どうやら攫われてしまったらしい