五話
「タティア様が旅立たれるのは明日、しかし我ら騎士も城の兵も誰も同行することを許可されていないのです。許可されているのは冒険者・・・それもたった一人だけを・・・」
「明日?それに冒険者一人って・・・俺一人で一国の姫を護衛しろと?」
「実はアリシエル様にお会いする前にある人に会ってきたのです。《紅蓮》と呼ばれるあのお方に」
「・・・かあさん?」
「はい、《紅蓮》殿にタティア様の護衛を依頼したところ断られ、その代りとは言ってはなんですがと《紅蓮》殿があなたを推薦致しましたのです」
《紅蓮》
俺の母であるティア・アリシエルの異名
幾万の魔物をその魔法で燃やし尽くす様はまさに紅蓮
正確には紅蓮の魔女と呼ばれてるらしい
年齢28歳
俺を産んだとき18歳
「まさか紅蓮の魔女と名高いティア様が結婚なされて、しかもお子様までいらっしゃたとは・・・」
「それで母さんは俺にこの依頼を・・・タティア様の護衛を受けろと?」
「はい。もしダルクスが渋った場合私の名前を出してね。多分断らないから・・・とおっしゃっていましたが」
「くっ・・・先手を打たれたか・・・はぁ・・・それで俺は何をすればいいんですか?ラーシス国に連れて行くだけなら転移でもなんでも方法があるんじゃ?」
「アリシエル様に依頼することは三つ、一つはタティア様を生きてラーシス国にお連れすること、時間の制限はございません」
「いつ連れて行ってもいいってことか・・・?」
「二つ目は魔物との戦闘。タティア様はこれから魔王討伐に向かわれる身、魔物に会うたびに怯えられては仕方ありません。どうにかタティア様に魔物との戦い方をご教授いただきたい」
「魔物との戦い方ね」
「最後は野宿。タティア様はアルパシブ帝国第三王女。王宮から出たことのないお方です。しかし魔王討伐となればそうはいきません。もし野宿をする際にタティア様が勇者様方にご迷惑をかければアルパシブ帝国の恥となります」
「護衛と戦闘と野宿ね・・・わかりました」
「それともう一つだけ」
ミリスさんは少し声を低くして
「もしかしたら旅の途中、何者かに襲撃されるかもしれません。その時はなんとしてもタティア様を・・・」
「あぁ、わかりました」
タティア様が魔王討伐に行っては都合が悪い連中が襲ってくると言いたいらしい
ったく、これだから貴族や王族は
「では明日の朝、アリシエル様のお泊りになっている宿屋にお迎えに参りますので」
「わかりました」
そういえば馬車がほとんど動いてないんだけど何しに用意したのかな?
あ、ミリスさんが来るためか・・・
俺は馬車をおりて宿屋に戻る
宿はギルドの前に建っているから近い
「おばちゃん、鍵貰える?」
「あいよ」
宿屋に戻った俺はフロントに向かい、宿屋の女将であるハルさんに預けていた鍵を受け取る
「それとしばらく遠出するかもしれないんでお金を先に払っときますね」
「なんだい?仕事かい?」
ハル・アスタール
ギルドで働いているロアさんの母親で青い髪を短く切りそろえた綺麗な人
年齢40歳
見た目20歳
「ならいいよ、ダルが帰ってくるまであの部屋は誰も入れないようにしといてあげるさ、もちろんその間の金は要らないさ」
「ありがとうございます」
冒険者を始めたころからお世話になっており、結構仲良くなっている
鍵を受け取った俺は明日の為に準備を進める
てか明日って早すぎない?
剣に着替え
それに道具袋
あれ?別にそんな準備することなくね?
とか思いつつ俺はベットで眠りにつく
次に日の朝
まだ日が昇り切る前に目を覚ます
「はぁ・・・」
とりあえず準備を済ました俺は一階に下りる
俺の部屋は二階の一番奥だ
「ハルさん」
「あら、随分と早いわね」
「えぇ、それで食事を貰いたいんですけど、無理なら果物だけでも」
「旦那に作らせるからちょいと待ちな」
ハルさんの旦那さん
アラン・アスタール
緑色の髪で料理が上手
俺が地球の料理をいくつか教えたらこっちの世界の材料で再現する程料理好き
「すいません、何から何まで」
「何言ってんだい、子供が遠慮するんじゃないよ」
ハルさんイケメン過ぎんぜ
「それでどこに行くんだい?」
「どこに・・・あぁ、ラーシス国ってとこです」
「ラーシス国?なんでまたそんな遠くの国に」
「ちょっと護衛の依頼をうけましてね」
「へぇ]
ハルさんとそんな会話をしている間にアランさんが食事を運んでくれる
「ダルクス、しっかり食えよ、おかわりもあっからよ」
「はい」
アランさんが作ってくれたのはウサギのような魔物のシチューにパン
それと鹿に似た魔物の肉だ