番外編☆〜アレックス登場の巻〜(前)
お久しぶりです。
勢いで書きました。
文章が意味不明なところがあれば、いつでもお教え下さいませ。
いや、もうマジで。
このお話はアレックス達がファイファーに来た頃のお話です。
……退屈だ。
退屈だ。
退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈だ退屈ーー
「喧しいぃぃっ!!」
「ぶっ!!」
バシィィンと音がなる。後頭部を見事に叩かれ、前のめりに倒れかける。強打された後頭部を抑え、涙目で叩いた本人を睨みつけた。
「ちょ、クリス酷くね!? マジ酷くね!? つーか、よく考えてる事分かったな! エスパーかお前」
「口に出てたんです。小声でしたので、まるで呪いの呪文のようでしたわ! 心の中での言葉だったのなら口に出さないで下さい。鳥肌が立ちます」
「そこまで言っちゃう!? 流石にそれは傷つくわ!」
セイロア王国第三王女にして、ファイファーの側室アレクサンドリア・アーベル・セイロアーナ。通称アレックスは退屈していた。ベッドに寝転がり、枕を抱き締める。しかし、お付きの侍女のクリステル、通称クリスにより枕を取り上げられてしまい、淑女らしさの欠片の無い態度を取った事を窘められてしまった。
安静にするにもやることがないためアレックスは暇で暇で仕方が無かった。
先日、なんとか初夜を薬で回避し、風邪か何かと思った医者(おいおい、気付けよ。お前それでも医者なのか?)から安静にせよと申された。
別にそれはいい、思惑は成功したのだから。それはいいのだが……
「暇なんだよぉぉっ!!」
まず、外に出ないのでやる事がない。図書室で本は読めない、庭に出られない、何よりも……
「天使達に会えないぃぃ……」
滝のような大量の涙を流し、枕に顔を埋める。そして八つ当たりで何度も枕をベットのシーツに叩きつけた。
「お待ちなさい、アレックス。ここはセイロアの後宮ではありませんからね? 敵意持たれてますからね?」
「好意を持たれても敵意持たれる覚えはねーけど?」
幾つものクエスチョンマークを頭に浮かべ、クリスを見るアレックス。そんな呑気なアレックスにクリスは盛大に溜め息を吐いた。
「アレックス、貴方は今側室です。そして、貴方以外にも側室はたくさんいらっしゃります。彼女達にとって、貴方は敵なのです」
「へぇー、そーなんだー」
「まぁ、貴方の場合は巡るより巡られる側でしたから。こういう事には疎いのでしょうけど」
「うん。全然分かんない」
アレックスはモテる。それも女性に。アレックスは王女として生まれたはずなのだが、自国では王子と呼ばれていた。文武両道、容姿端麗、完全無欠のアレックス。欠点は女性なのに女好きなところのみ。婚約者や恋人持ちの女性のハートを射抜く事は多々あった。それ故、彼女は男性からは疎まれている。
仕方無いじゃん。それに、私(いろんな意味で)恰好いいですし?
プラチナブロンドの髪に、ヒヤシンスブルーの瞳。中世的で整った顔立ち。男性並みの身長の高さ(脅威の百八十。実はめちゃめちゃ背が高かったアレックス。ちなみにファイファーの皇帝は百九十五らしい)。
婦人服を着れば女性に、紳士服着れば男性になるアレックス。次いでに言うと、彼女は自国では紳士服を着用していた。もはや女性とは認識されておらず、王族や貴族含む国民の全てが彼女を完全に王子だと認識していた。当のアレックスも全く気にしてはいなかった。
一番困ったのは縁談だ。やって来る縁談は皆女性ばかり。男性からの縁談は皆無だった。だからこそ、ファイファーの皇帝から縁談が渡された時は父王や王子や宰相、女性陣を除く全ての男性が喜んだ。やっと自国の王女が独身で無くなると(というより、これで恋人もしくは妻を奪われなくて済むと)。
反対に王妃や王女やその他の女性陣は皆悲しんだ。その縁談にアレックス及び女性陣は抗議したものの、王命とされ、呆気なく散った。そうして今ここに側室としてアレックスはいるのだ。
「なぁ、クリス」
「はい?」
「木と……」
「いけません」
パッと閃いた、退屈しのぎの提案。残念ながらそれはクリスにぴしゃりと素気無く却下されてしまった。
「なぁんでぇ!? いいじゃん、別にぃ! すっげー暇なんだけど!? せめて鍛錬くらいさせてくれよぉ!!」
アレックスは武力に長けていた。幼い頃は不安定な立場だったので、よく王城の騎士達に頼んでは鍛錬をつけさせてもらったものだ。そうでもしなければ、生き残れなかったからだ。
クリスはアレックスの半生を思い出す。
今現在のセイロアの後宮はアレックスの存在により、皆仲が良いが、かつては女同士の醜い嫉妬が渦巻いていた。相手を殺そうと贈り物に毒を仕込んだり、暗殺者を送り込んだりなど様々だった。
アレックスの母親もその一人で、名をロクサーヌという。 公爵家の令嬢で、セイロアの側室。男兄弟が多い中、末っ子でたった一人の娘だったらしい。甘やかされて育ったために、酷く我儘で傲慢だった。当然、他の側室達から目の敵にされていた。
それでも彼女は一度王の寵愛を得た。しかし、王は女好き。一人の女には一度しか興味を示さない。
案の定、王は他の女の元へと行ってしまったが、ロクサーヌは腹に子を身籠った。
ロクサーヌは腹の子が王子である事を望んだ。権力の為に。生まれた赤子は王の容貌を完璧に受け継いでいた。美しいプラチナブロンドの髪にヒヤシンスブルーの瞳。だが、惜しくも生まれた赤子は女だった。赤子はアレクサンドリアと名付けられ、セイロアの第三王女となった。
ロクサーヌは絶望した。王子でなければ意味が無い。王子でなければ王妃にはなれない。
当時の王にはまだ王妃も王子もおらず、いたのはアレクサンドリアの姉にあたる第一王女と第二王女。
王の寵愛を失い、増してや王子を生む事の出来なかったロクサーヌは他の側室達から嘲笑された。数々の侮蔑や嘲りにロクサーヌのプライドはボロボロになり、それが元で彼女は心労で病に倒れ、亡くなった。
一方、アレクサンドリアは乳母に育てられていた。ロクサーヌの元で育てるには危険とされ、乳母が代わりに育てていた。後ろ盾があるとはいえ、母親を失ったアレクサンドリアの立場はあまりにも危なかった。
アレクサンドリアは幼いながらにも、誰よりも賢かった。女である事が惜しいと思う程に。王の生き写しと言っていい程の美貌。このまま王子が生まれなければ、王位を継承するのはアレクサンドリアかと思われた。
だが、それを恐れた側室達が、アレクサンドリアの暗殺を企てる。毒殺も勿論、暗殺者を送り込んだりもした。
このままでは危ないと思った乳母は王にアレクサンドリアに自分の夫の屋敷で保護する事を懇願した。
王に懇願した、この乳母の名はジェニファー。実はクリスの母親でもあった。
ジェニファーのおかげでアレクサンドリアは後に生涯の侍女となるクリスに出会えたのだった。それと、ジェニファーの夫は騎士団長で、名をジョナス。彼はアレクサンドリアにいつ何処で狙われても対処出来るよう、武術を教えた。
アレクサンドリアはここでも才能に恵まれていた。僅かな短期間で数多の武術をものにしてしまったのだ。ジョナスは彼女を鍛錬場へと連れて行き、騎士達と共に鍛え上げた。
ジョナスは騎士達共々アレクサンドリアを男として育てた。証拠に、騎士達は誰も彼女をアレクサンドリアとは呼ばずにアレックスと呼んだ。女らしさが微塵も感じられない、猛者達の暮らしぶりに感化され、アレックスは男らしく育った。見た目だけで無く、中身までも。アレックスは猛者として育った。
やがて、第一王子が誕生する頃にはアレックスは完全に男と化し、女性にモテる美形の騎士、その中世的な顔立ちから美しく凛々しい『白百合の騎士』と呼ばれる程となった。
性格は完全に父親譲りで女好き。一応身体は女であると認めているために、流石に性的な行為に及んだ事はなかった。ただ、あまりの美しさに国の女は皆アレックスに惹かれ、後宮の女達も例外にはならなかった。
初めて王の女達と会ったのは十四の時。第一王子を生んだ王妃と面会。王妃は色ボケな王とは違い、紳士的なアレックスに惹かれてしまった。その周りにいた侍女達もだ。
次に、同じ王族の兄弟達。姉達も妹達も皆惚れた。だが、王子達は違った。それはそうだ。共にいた許嫁の女の子達のハートまで取られてしまったのだから。彼らは完全に不貞腐れていた。
その次に後宮の側室達。お茶会に呼ばれ、騎士の服を着て出席したアレックス。
王とは違い、女性に対し常に礼儀を重んじるその姿に惚れたようだった。更に飽きたらすぐに捨てる王とは違い、女性を心から大事にするので、気が付けば皆王よりアレックスを優先してしまうようになっていた。王との行為の最中に王を呼ばず、まさかのアレックスの名を叫ぶようになったとか。いくら顔が似ているとはいえ、王のプライドが傷つけられた事は確かだった。
最近はそれを理由にアレックスに辛く当たっていた。アレックスからすれば、迷惑極まりない。アレックス曰く、そんなに気に食わねーなら態度改めろよとは思ったそうだが、父親とて相手は一国の王。言いたくても言えない。
十七になる頃には王城に務める女性、そして男性達の妻を虜にしていた。夫に見向きなど全くしなくなったらしい。
流石の女好きの王も、これにはかなり激怒した。
そんな時にやって来たのがファイファーの皇帝からの側室としての縁談。アレックスに拒否権を与えず、彼女を無理矢理側室としてファイファーに後宮入りさせた。今頃さぞかし喜んでいるだろう。(男性陣にとっての)厄介者が消えたのだから。
「いいよなぁ? 体が鈍ってんだよ、振りたいんだよ、剣を!!」
物思いをやめ、パッとアレックスを見る。
「クリスだって鈍ってんだろ!?」
鍛錬場に行ったのは、アレックスだけではない。クリスも同様に行かされた。
が、ジョナス達は何故かクリスだけは女の子扱いした。アレックスには他の騎士同様の扱いをしていたというのに。それはきっとクリスがジョナスの娘だからだろう。クリスだけは女の子でいてほしかったのかもしれない。
「確かにこの部屋は広いですが、お手合わせ出来る程広くはありませんよ」
「えー? じゃあ、振るだけ!」
「マジ、頼むよ!」と両手を胸の前で握り、上目遣いでこちら見つめてくる。クリスは深く溜め息を吐き、渋々承諾した。
「分かりました。ですが、この部屋は高級品で溢れていますので、せめてそれらを片付けてからにしましょう」
「もうやった」
「早っ!!」
気が付けば、いつの間にか部屋中に飾られていたはずの高級な品々が消えていた。あんなにたくさんあったのに、何処へやられてしまったのか。尋ねてみれば、全部居間に置いて来たという。
ファイファーの後宮の側室の部屋は四室あり、一つは居間、寝室、浴室、そして侍女の寝室がある。寝室に飾られてあった高級品は居間よりは少ないだろうが、かなり量があったはずだ。よく短時間で片付けられたものだ。そんなにも剣を振りたかったらしい。
「よぉーし! まずは軽く千回は振ろうかな」
「何処が軽いんですか、それ」
今更だが、外に聞こえたりするのではないだろうか。いや、聞こえるな、確実に。
許可するんじゃなかったと、クリスは今更ながらに後悔した。
あれ?何故に、アレックスの出生が?ま、いいか。
ってか、アレックス、お前はまるで聖人だな。
次はファイファーの側室達との初対面ですね!
一体どうやって側室達を陥落させるんでしょうか?