後日談☆
昨日書いたばかりの話がこんなにたくさんの人々に読んでもらっていたとは……感激です!!
王城の執務室。皇帝アリスタンドロスが側近達と共にいつものように執務をしていた。
ドドドドド――!!!
足音、いや地響きが鳴る。それはだんだんとこの執務室へと近づいてきていた。
バァンッ!!
彼の目の前の扉が大きな音をたてて開いた。
「オイィ、くぉんのバカイザァァァーッッ!!」
そこにいるのは、先日改めて彼の正妃となったアレクサンドリア・アーベル・セイロアーナ。元セイロア国第三王女だ。彼女は今猛烈にキレていた。
また始まった。側近達は真っ先にそう思った。正妃の目が血走っていることに気付き、彼らは怯える。
「てんめぇ、私の天使達を何処へやった!?」
そんな側近達に気付かず、そう怒鳴りながら、アレクサンドリアはアリスタンドロスの執務用の机を力強く叩いた。振動で書類の山が崩れ、そのいくつかがヒラヒラと床に落ちる。
「なんのことだ?」
当のアリスタンドロスは気にせず、ゆったりとした態度で迎える。何処か愉しげに。
「しらばっくれてんじゃねぇっ! さっき離宮に行ったら完全に封鎖されてて、天使達の居場所を聞きゃあ、もういねーっつわれたぞ!! どーいうことか説明しやがれ!!」
彼女は机についていた両手を離し、左手を腰にあて、右手で彼を指差した。
「言わねば分からんか?」
彼は両手を組み、その上に顎を乗せ、笑顔で彼女を見る。余裕ある笑みに彼女は苛立った。その証拠にこめかみに青筋が浮かんでいる。だが、かろうじて冷静になった。
「分からねーな」
彼女も笑顔で返した。
「ならば、教えてやろう。必要ないからだ」
「必要ないだと?」
彼は頷き、椅子から立ち上がって彼女の方へと歩く。アレクサンドリアは後ずさり、身構えた。
「なんで必要ねーんだ!? つか、テメーが必要じゃなくても私が必要なんだ!!」
「だからこそだ。お前は暇さえあれば、あの離宮へ行くだろう?」
「愛する天使達が待ってるんだ、当たりめーだろーが!!」
「そうさせないために閉鎖した。お前が構うのは余だけで充分だ」
「っざっけんな!! 天使達を返せ、この変態!!」
「同性に求愛するお前にだけは言われたくないな」
「うるせーっ!!」
彼女がアリスタンドロスに掴みかかった途端、扉の方から声が響いた。
「アレックス!! こんなところで何をしているのです!?」
「ゲッ!」
恐る恐る振り返ると、そこには侍女のクリステルが仁王立ちしていた。
「ク、クリス……」
「全く! 朝早くから何処へ行ったのかと探してみれば、陛下の執務の邪魔をしているなんて! 何を馬鹿なことを!!」
「だ、だってこいつが……」
「言い訳無用!! それと陛下をこいつ呼ばわりしない!! さぁ、戻りますよ!」
流石のアレクサンドリアもたじたじである。彼女は全てのことにおいて女性に甘い。文句を言われても決して言い返せない質なのだ。
クリステルはアレクサンドリアの襟首を掴むと、彼女を引きずるように執務室を出て行った。
「嫌だぁ、私は天使達に会うんだぁー!!」
「まだそんなことを抜かしますか!! あの方々はもう離宮にはおりません! 諦めなさい!!」
「ノオオォォォー!!」
アレクサンドリアの叫びが木霊した。
数分後、一人の男が入って来た。クリステルの恋人ドミニクである。彼は開口一番にこう言った。
「幸せそうですね、陛下」
その言葉にアリスタンドロスは大声で笑った。
「そうだな。だが、まだ幸せとは言い難い。なんせ、あやつの心をまだ手に入れてはおらんからな」
そう言いつつ彼は愉しげな笑みを浮かべる。それに対し、ドミニクは皮肉な笑みを浮かべた。
「そうですか」
アリスタンドロスは眉を寄せた。
「何故お前がそのような顔をする? 愛する女の身も心も既に手に入れているはずだが?」
「そうですね。でも、私は今彼女から絶交されているのです」
「絶交?」
「えぇ、あのことで彼女を三年も騙し続けてきましたから」
愛する者を手に入れるためとはいえ、信頼されていたにもかかわらず、彼女を情報源し、裏切ったのだ。当然の報いかとドミニクは苦笑した。
「なるほど。それはすまなかったな」
「いえ。ただ、ここしばらくは顔を見せてもくれなかったので、我慢の限界だとでも言っておきましょうか」
彼はそれだけを言うと踵を返し、出て行った。
アリスタンドロスは彼を見送ると、再び執務に集中した。
忘れ去られたように傍に立つ側近達。呆然としていた彼らは気を取り直すと、同じように執務に戻った。
うーん……。大丈夫なのか、コレ。