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かりんと竜  作者: ぐらんこ。
始まりの章
2/9

竜が笑ったよ

「竜が笑ったよ!」

帰ってくるなり、かりんの第一声がそれだった。満面の笑みを浮かべて。僕はというとカレーをとろ火で温めつつ、お玉でぐるぐるとかき回していたところだった。もう少し、遅い帰宅になるものだと思っていたが、少し予想が外れたみたいだ。火力を少し強くしてカレーに対流を促しながら、一応、顔は振り向けて気の無い返答をする。「ふ~ん、そう」

温まったカレーを食べながら、かりんが話す内容はこんなものだった。もちろん、こんなにまとまった話が、かりんの口から理路整然と語られた訳ではない。話があちこちに飛んでいくのをある程度は受け入れながら、時々口を挟んで軌道修正しつつ、気長に聞き出した結果。時間にしてカレー一食分。デザートは含まない。僕らの食事時間は長いほう。おしゃべりをしながらだとなおのこと。


結局あれ―――あれというのはかりんが竜を拾ったといってダンボールをうちに持って帰ってきて、僕がそれを元の場所に戻すように促したら、納得せずにさっちゃんのところに竜を預けにいったこと―――から、一応は捨てられていた場所も見に行ったようだった。でも、やっぱりその場に戻す気は起こらずに、さっちゃんの家に行ったらしい。ひょっとしたら、初めからさっちゃんに預けるだけの段取りが出来ていたのかも知れない。かりんの中で、ではなくさっちゃんのほうでだろうけど。


それから、さっちゃんのところで、竜の今後について少し話をしたらしい。さっちゃんというのは本当に変わった人間で、本人の言葉を借りるなら『年齢性別不詳』『マッドサイエンティスト』『実はこの次元の人間ではない』『他人の記憶に干渉できる』等々、全て自称が付くのだけど、かたくなにミステリアスな人間像を掲げて、それに見合うとまではいかないまでもある程度の謎めいた生活を送っている。僕は、ある時期を境に昔のさっちゃんが今のさっちゃんに劇的に変化したのを知っているくらいの長い付き合いなので、それほど謎多き人間だとは思ってなかったりする。年齢も性別も知っているし、マッドサイエンティストと呼べるほどの活動をしていないだろうなってこともうすうす感じている。ひょっとしたらマッドサイエンティストの卵かもしれないって思うことはあるにせよ。でも、そんな話をさっちゃんにしても無駄なのだ。そんな話をしたからこそ『記憶干渉能力』なんて新たな属性が追加されたりしてややこしくなるんだから。


話を元に戻さないと。僕の話があっちこっちいってしまうとかりんの長話どころではなくなってしまうから。まとめてしまうとほんとに簡単な話になる。

うちで竜を育てることを、反対されたかりんは竜の入ったダンボールを持ってさっちゃんのところに行きました。

そして、さっちゃんに竜を預かってくれるよう頼みました。

さっちゃんは快くそれを受け入れました。

そして、あらかじめ竜を拾った話を聞いてかりんが竜を預けにくるのを予期していたさっちゃんは竜の食事を用意して、小屋まで作りかけて待っててくれました。

小屋はまだ出来てなかったので、しばらくはダンボールで育てることにして、まずはご飯をあげました。

やっぱりお腹が空いていたみたいで、竜は夢中でそれを食べてから、うとうとと眠りに落ちました。

眠りに落ちる前に竜は、少し笑ったみたいでした。

以上、それだけ。あとは、かりんもお腹が減っていたので信頼するさっちゃんに竜を預けて帰ってきたと、そしてその話をしながらカレーを食べて今に至る。


「ねぇねぇ、竜って何食べたと思う?」かりんが可笑しそうに訊ねてくる。

即答できそうにない質問だ。そもそも僕は竜を見てないわけだし、その存在を信じてなどいない。食器を片付けながら、少し考えた。かりんも無邪気な天然少女ではあるが、それほど馬鹿ではないし、どちらかというと成績は良いほうで、ある程度の常識は持っているはずだ。それに今まで全くのでたらめや嘘を僕に話したことはない。多少の妄想や思い込みが暴走することはあったとしても。ということは竜は存在しているということになりそう。ただし、それが本物の竜であるかどうかは別の話。ここら辺がこの話の落ち着け所だろう。要は、竜っぽい何がしかの爬虫類的な生物が捨てられていて、それを拾い、不幸にもそこに―――何故だかはわからないけど―――さっちゃんが絡んで来て、かりんに変な入れ知恵をしたってのが、事の真相ではないだろうか?と僕は考えた。

それだけ考えるのにしばらく時間が掛かってしまったようで、カレー皿もスプーンもコップも全部洗い終わっていた。最後にふきんでシンクの水滴をぬぐいながら、かりんの問いかけを思い出す。何を食べたのか?どちらかというとさっちゃんが何を用意していたのか?という疑問として考えたほうが、的確な答えがでるのかも知れない。




食器を片付け終えた僕は、かりんが座り続けるダイニングテーブルの対面、つまり僕の椅子に腰を落ち着ける。食後に珈琲を飲む習慣などないので、ダイニングテーブルは、綺麗さっぱり片付いた状態。飲食のためではなく、話をするためのもの、肘を付くぐらいが今ある最大の存在意義となっている。だからといって、あんまり長い話をしようとは思っていない。でも、すぐに答えがでるとも思えない。とりあえずで座った。これだけの時間じっと待っていたかりんの気持ちに応える最低限の礼儀でもある。

「さっちゃんはなんで竜の食べるものがわかったのかな?」即答も、熟考しての名回答もできなかった僕は、仕方なくかりんの話に付き合ってもう少し、聞きそびれたエピソードについて、訊ねることにした。これがかりんの会話のテクニックなのだ。無意識のなせるわざであるとは思うけれど、僕にとっては効果覿面極まりない。いつもずるずると、どうでもよい(と後から考えたら思えてしまう)会話を続けてしまう。


でも、僕の質問に対するかりんの答えは結局さっちゃんがどういった根拠をもって、竜の食べるものを用意したのかでも、竜が何を食べたかでもなく新たな難問の提示だった。

「ねぇ、竜ってどうやって笑うと思う?」


いっそ、さっちゃんの家に行って竜(と呼んでいるもの)を見せてもらおうかと一瞬だけ思ったが、すぐにそんな想いは振り払った。そんなことするくらいなら、このままここで長々と話を続けて『キャウオン』だろうが『キュガウ』だろうが竜の笑い声をかりんの口から聞くほうが何倍もましだから。竜が無口に微笑むのでもなければ。

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