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舞踏会の開催

「ブライト、件の女性は見つかったか?」

「...いいえ。」

私は食事を一口運ぶと、父から目を逸らし、そう返した。

以前見かけた女性に再び会おうと、何度か地区や場所を変えて舞踏会を開催したが、彼女らしい人には結局会うことができなかった。

彼女の情報を一番持っていそうなダーディス家の令嬢に友人の話を聞いてみたが、「とても愛らしく、詩の上手な素敵な親友がいる。」とだけ言われ、それ以上の情報ははぐらかされてしまい教えてはくれなかった。

「ふうむ、これだけ招待しても見つからんということは、外れの地区に住む貴族か、平民なのかもしれないな。」

「平民、ですか...。」

王家と平民。

婚約が成立したら、まるで絵本の中のおとぎ話のような展開だ。

だが、もし婚約となれば、城内の別派閥からの反発はほぼ確実である。

また周辺各国からの、私やこの国に対する評価の低下も十分にあり得るだろう。

それに加え、王妃の仕事は多岐に渡る。

貴族女性ならまだしも、教養のない平民に1から勉強をしてもらい、知識として身につけてもらうまでにどれほどの時間がかかるのか、想像に難くない。

「平民だったら...王家のためにあの女性のことは諦めます。」

「そうか。」

少し残念そうではある父だが、なかば当然といった様子も若干見てとれた。

この国は女性の人権がとても低い。

隣国に比べて就ける職種は少なく、「勉学」と呼べる教養を得る機会が用意されていない。

そしてそれをこの国の人間は、誰も問題だと思っていなかった。

母は隣国からこの国へ嫁いだ人だったので、この国の女性の中の誰よりもいろいろなことを知っていた。

音楽や詩歌はもちろん、子どもながらに疑問に思いがちな色々なことも、たいてい母に聞けば(少し日数がかかることもあったが)答えてくれた。

今になって思えばとても頭のいい人だったのだと思う。

私が王になった時には、母のような女性を増やせるような政策を実施したいと思っていた。

そのためには、この国のトップである王妃は、他の女性の誰よりも知識や教養がある人でないといけない。

「あの女性に教養が十分あって、かつ私の考えに賛同してくれる方だったら奇跡でしょうね。」

私が小さくぼやくと、父がため息をついた。

「まあ、お前の考えはわからなくもないがな。」

「おや、『お前の言うことなぞ理解できん!』と妹のメイリーを追い出したのは父上では?」

「げほんげほん。もう何年も前の話ではないか...。それに追い出したのではなく、メイリーが希望したから留学へ行かせたのだ。」

「はあ、父上、彼女に思っていることがあれば、早く伝えた方がいいですよ。」

「んぐ、わかったわかった。わしからも手紙を出すよ...。」

父はぶつぶつと言いながら使用人を手招きすると、何かを伝えてから退室させた。

「そういえばあの女性のことだったな。こう何度も小規模な舞踏会を続けていると、そろそろ婚約申し込みの歯止めが効かん。」

私は思わず手を止めて、父の方を見る。

「申し込みを止めていてくれたのですか?」

「権力を欲す貴族たちが痺れを切らし始めていてな。会議の前後は婚約に話で持ちきりだ。」

「ご迷惑を...。」

「構わん。つついたのは私だからな。でも次で最後だぞ、そろそろわしのへそくりも底が尽きそうだ。」

「舞踏会をへそくりで開催していたのですか?」

「そんなわけないだろ、冗談だ。」

ははは、と父が笑い、残りの食事を一口で食べ切ると、よし、と立ち上がった。

「時期は半年後。国中全ての妙齢で未婚の女性を招いてくれ。これは命令だ。あとは、そうだな、メイリーも呼び、ついでに隣国の友人も一緒に来てもらいなさい。」

そう言うと、いつもの大股で部屋を出ていった。

バタン、と扉が閉まると、後ろに控えていたジャニスが近くへ寄ってきた。

「これは、私が企画運営をしろ、ということでしょうか?」

「確かに今、父の側近はいなかったからな、よろしく頼む。」

「おお、なんという大役を...。」

「ジャニスの力量を買っているんだよ。」

およよ、とまるで舞台女優かのように涙ぐむ素振りを見せる彼を見て笑った。

私が呑気に笑っている様子を見ると、彼はハア、とため息をつき、頭を掻いた。

「もちろん殿下も手伝ってくれますよね。」

私が少し驚き彼の顔を見ると、当たり前にエスコートをする紳士かのように手を差し出していた。

「はは、そう私に言えるのはお前だけだよ。」

私も最後の一口を食べ終えると、彼の手は取らず、彼の肩を大きく叩いた。


その数時間後、お城の掲示板に貼り出された舞踏会のお知らせは、翌日全ての新聞のトップを飾り、その1週間後には妙齢の全ての未婚の女性へ舞踏会の招待状が届いた。

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