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見かけた女性

たまたま街で見かけた女性は、とても綺麗な人だった。

時折市政調査を兼ねて街へ行くのだが、この日は見かけた女性の姿が目から離れなかった。

確認しなくてはいけないことがいくつもあるのに、あの女性が気になって仕事が手につかない。


小さな頃に亡くなった母親は、ほとんどベッドの上で過ごし、遊んだ記憶はほとんどなく、彼女の顔の印象は最近大きな肖像画になりつつある。

綺麗なブロンドの髪と、青い瞳。

あとは透き通った声と、白い手肌。

あとは優しい笑顔。

母親の印象はこのくらいだ。

昔、抱きしめて欲しいとせがんだ母親の腕の力はとても弱く、幼きながらにとてもショックを受けたことを覚えている。

母親はその数ヶ月後に亡くなった。


そして今、その当時の母の面影をそっくり残した女性が、少し先の時計店へと入っていった。

思わず追いかけようとして、隣にいた家臣に「あの店は狭いのでやめなさい」と止められ、店の近くで待機していた。

やっと出てきたと思ったら、使用人と思われる男性と親しげに話しており、なかなか話しかけられるタイミングがない。

彼女の格好は貴族とは言い難かったが、所作が美しく、平民とはとても思えなかった。

ここで強引に話しかけに行っても良いのだが、いかんせん女性経験がとても多いわけではない私が、半ば一目惚れのような女性に対して紳士な対応ができるか定かではなかった。

今なお焦りすぎて独占欲や執着心のようなものが生まれてきている気がしている。

誰にも渡したくない、と、この短時間で話してもいない女性に嫉妬など笑わせる。

会話の内容は聞こえないが、彼女が微笑むと周りの空気が温まるようだった。

使用人の男性があたりを見回す素振りを見せると、私と家臣は顔を背けた。

チラリともう一度見ると、使用人が彼女へ何かを耳打ち、彼女の返答に驚いたようだった。

すると遠くから馬車がガラガラとやってきて、彼女たちへ横付けすると、使用人はどこかへ、彼女はそのまま馬車に乗せ、その馬車もまたどこかへ行ってしまった。

「行ってしまいましたね。」

残念そうに言う家臣の横で、私は遠くへと走り去る馬車を見えなくなるまで見つめていた。

「彼女と話をしてみたかったな...。」


翌朝、食堂で食事をとっていると、父が突然咳払いをした。

「ブライト。気になる女性がいると聞いたのだが。」

突然話しかけられた内容に、思わず咽せる。

「げほげほ...失礼、父上、どこでそんな話を。」

「いや、昨日ジャニスから聞いたのだ。」

部屋の隅に立つ、昨日供をしてくれたジャニスを睨むが、彼はどこ吹く風だ。

「女性には興味はないと思っていたのだがな。」

「いえ、そんなことは...。」

「どこの令嬢だ?茶会に来てもらおう。」

「いえ、それがわからないのです。」

そう答えると、父の手が止まった。

「ふむ、わからぬか...何か手掛かりはないのか?」

「顔なら。」

父は大きくため息をつくと、大きく口を開けて、むしゃむしゃと咀嚼した。

「それだけでは足りん。他には?ご友人はいなかったのかね?」

私は昨日のことを思い出し、彼女が最後に乗り込んだ馬車の家紋を思い出した。

「ダーディス家。ダーディス家の令嬢と一緒でした。」

「よし、あの地区一帯の貴族を招待し、舞踏会を開くのだ。」

「え、ちょっと、父上。」

ガタリと立ち上がり、父を止めようとするが、その発言を聞くや否や、ジャニスが何かを書き留めると、部屋から出ていってしまった。

「父上...そこの地区の令嬢と決まったわけではないのですよ。」

「いいではないか。ようやく息子から恋愛の話を聞けたのだ。このくらいさせろ。」

ふふふ、と笑う父の顔は、いつもの厳かな王の様子とは違い、息子の成長を喜ぶ父親の顔そのものであった。


そしてその日のうちに、その地区一帯に住む貴族に舞踏会への招待状が送られた。

『王国主催舞踏会。ブライト第一殿下ご参加予定。妙齢で未婚の女性は広く参加せよ。』

王子の登場です


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